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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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厄災の日 ― 揺れる東京(前半)

第57話です。宜しくお願い致します。


 8月17日。


 その日が来た。


 フトゥーロが告げた、最初の厄災の日。


 東京を中心に巨大地震が起こる。


 あいつは、そう言った。


 最初に聞いた時は、正直半信半疑だった。


 いや、半信半疑なんてもんじゃない。


 突然現れた道化師みたいな存在に、数ヶ月後の未来を語られて、それを信じろという方が無理がある。


 だが――


 俺達は、その言葉を無視できなかった。


 もし嘘なら、それでいい。


 笑って終われる。


 でも、本当だったら。


 何も準備していなかったら。


 その時、後悔するのは俺だ。


 だから、やった。


 できることは、全部。


 地震の数日前から、俺は東京全土に対してスキルを使い続けていた。


「――自動配置」


 頭の中に東京全域の地図を広げる。


 テリトリー掌握で把握した建物、道路、施設、住宅街。


 その一つ一つに意識を流し込んでいく。


 昔、まだ村長スキルが周囲1キロしかなかった時。


俺は一軒一軒、手作業みたいに家を作り替えていた。


 壁紙。


 床材。


 家具の位置。


 棚の向き。


 スーパーのレジの場所。


 病院の動線。


 全部、自分で考えて、自分で配置していた。


 あれはあれで、街を作っている実感があった。


 だが、東京全土を相手に同じことをしていたら、間違いなく間に合わない。


 今は違う。


 都知事まで進化したことで、俺のテリトリー範囲は東京全土を覆っている。


 さらに、市長の時に解放された自動配置がある。

 想像したものを、まとめて形にできる。


「まずは耐震構造」


 俺は頭の中で建物の構造を組み替えた。


 古い家屋は、柱と壁の補強。


 マンションは、揺れを逃がす構造へ。


 病院や役所、学校、避難所、スーパー。


 人が集まる場所は特に念入りに。


 倒壊リスクの高い建物は、外装変更だけでなく、内装変更も使って内部の柱や梁の位置まで変える。


 棚は壁に固定。


 照明は落下しにくい形へ。


 ガラスは飛散しにくい材質へ。


 倒れそうな家具は、全て壁や床に固定。


 道も整える。


 避難経路になる道路は、ひび割れを直し、段差をなくし、広めに確保する。


 狭すぎる通路は拡張。


 危険な看板や古い電柱のようなものは撤去、または固定。


 とにかく、揺れても壊れにくく。


 壊れても、人が死なないように。


「……これで、どこまで耐えられる」


 何度も確認した。


 秘書にも確認させた。


「秘書、危険度の高い建物は?」


「現在確認できる範囲では、大規模倒壊リスクのある建築物は全て補強済みです」


「細かい落下物は?」


「看板、外壁材、ガラス、照明、家具。主要危険物は固定、または材質変更済みです」


「……よし」


 それでも、不安は消えなかった。 


 完璧なんてものはない。


 相手は自然災害だ。


 しかも、フトゥーロが“厄災”と呼ぶほどの地震。


 どれだけ準備しても、まだ足りない気がする。


 それでも、手は止めなかった。


 そして、当日。


 朝から、俺はテリトリー周知を使った。


「――テリトリー周知」


 意識が東京全域へ広がる。


 人の気配。


 街のざわめき。


 それら全てに、俺の声を重ねる。


『聞こえるか』


 頭の中に、自分の声が響く。


 そして、それがテリトリー内の全員へ届いていく。


『今日は、地震が起こる可能性がある』


『全員、ヘルメットを着用してくれ』


『倒れそうな棚、ガラス、看板、古い壁、そういったものには近づくな』


『不要な外出は控えろ』


『警察官と警備隊の指示に従ってくれ』


 一度、間を置く。


 全員が不安になるのは分かっている。


 だからこそ、最後に言う。


『俺達は準備してきた』


『できる限りのことは、全部やった』


『だから、落ち着いて行動してくれ』


『必ず守る』


 スキルを切る。


 少しだけ、息を吐く。


 今の言葉が、どれだけの人間に届いたのか。


 全員だ。


 この東京にいる、全員。


 それだけで、背負っているものの重さが改めてのしかかる。


「……言っちまったな」


 俺が呟くと、隣にいた浮田が苦笑した。


「今更だろ」


「まあな」


「お前が言わなきゃ、誰が言うんだよ」


 その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。


「……だな」


 街は、朝からいつもと違う空気に包まれていた。


 住民たちはヘルメットをかぶり、指定された場所で待機している。


 子供たちは不安そうに大人の手を握っている。


 美咲も、小さなヘルメットをかぶっていた。


「悠真お兄ちゃん……地震、来るの?」


 不安げに聞いてくる。


「来るかもしれない」


 嘘はつかなかった。


「でも、ちゃんと準備した」


「……ほんと?」


「あぁ」


 俺はしゃがんで、美咲の目線に合わせる。


「だから、美咲はママとパパと陸斗の言うこと聞いて、ちゃんと安全なところにいるんだぞ」


「うん……!」


 美咲は強く頷いた。


 陸斗はその横で、静かに周囲を見ていた。


 いつもの落ち着いた顔。


 だが、少しだけ表情が硬い。


「陸斗」


「はい」


「美咲を頼む」


「……勿論です」


「僕も、できることをやります」


「あぁ、頼りにしてる」


 その言葉に、陸斗はほんの少しだけ表情を緩めた。


 警察も動いていた。


 東部では楢沢翔平が、部下と共に避難所周辺を巡回している。


「焦るな! 走らなくていい! 順番に中へ入れ!」


 元柔道家らしい張りのある声が、人の流れを整える。


 西部では白沢華恋が、怯える住民に柔らかく声をかけていた。


「大丈夫よ。深呼吸して。怖い時ほど、美しく落ち着くの」


 言葉は少し独特だが、不思議と人を落ち着かせる力がある。


 北部では山田権蔵が、厳格な声で配置を確認していた。


「指示通りに動け。規律を守れば被害は減らせる」


 南部では川原具視が、頭に猫のチョコを乗せたまま住民を避難場所へ誘導していた。


「はいはい、慌てなくて大丈夫ですよ。チョコも落ち着いてますからねぇ」


 ……チョコが落ち着いているかどうかは知らないが、あの空気で安心する人間は多いらしい。


 そして、警察だけじゃない。


 俺の警備スキルで召喚した警備兵たちも各地に配置していた。


 さらに、派遣組。


 アル。


 ソックス。


 そして――もう一人。


 少しだけ時間を戻す。


 都知事になる前。


 市長にレベルアップした時、俺はステータスの中に見慣れない項目を見つけていた。




  派遣3人

 ・アル、ソックス、警備隊C



「……警備隊C?」


 誰だよ。


 そう思った俺は、試しに召喚してみることにした。


「警備、派遣」


 空間が揺れる。


 まず現れたのは、いつもの二人。


「ヒャッハァァ! 主人に呼ばれたァ!!」


「……声量を抑えろ」


 アルとソックス。


 もはや見慣れた騒がしさと、見慣れた低温差だ。


 だが、その横に――もう一人。


「オーホッホ!」


 高らかな笑い声が響いた。


 俺は固まった。


 そこに立っていたのは、金髪の女だった。


 いや、女というか――お嬢様だった。


 くるくるに巻かれたツインの縦ロール。


 大きなリボン。


 やたらと自信満々な表情。


 なのに、服装は完全に警備服。


 そのミスマッチが凄まじい。


しかも、手には魔法少女が持っていそうなステッキ。


「わたくしを召喚して頂き、感謝いたしますわ!」


「……」


 俺は数秒、何も言えなかった。


(また濃いのが来たな……)


 アルが新入りを見て、楽しそうに笑う。


「ヒャッハ! なんだお前、派手だなァ!」


「派手ではありませんわ。華やかと言いなさいな」


 ソックスは額に手を当てる。


「……うるさいのが増えましたね」


「まあ! 初対面の女性に向かって失礼ですわ!」


 この時点で、すでにキャラが濃すぎた。


「で……お前も警備隊なんだよな?」


「もちろんですわ!」


 女は胸を張る。


「わたくし、主人様を守るために参上しましたの!」


「主人様……」


 呼び方まで濃い。


 俺は少しだけ頭を抱えた。


 だが、アルとソックスにも名前を付けた以上、このまま“警備隊C”と呼ぶのも変だ。


 アルとソックスは、某警備会社をもじった名前だった。


 なら、同じ流れでいくか。


次は◯コムをもじって名前をつけるか。


「……じゃあ、お前はセイコだ」


「セイコ……」


 彼女は目を輝かせた。


「美しい響きですわ!」


「気に入ったなら良かったよ」


「ええ! わたくし、これよりセイコとして主人様にお仕えいたしますわ!」


 ステッキをくるりと回し、ポーズを取る。


 ……何か出そうな雰囲気だけはある。


 雰囲気だけは。


 実際には何も出なかった。


「……今のは何か意味が?」


 ソックスがぼそりと聞く。


「気分ですわ!」


「……そうですか」


 こいつもまた、面倒そうだ。


 ただ、不思議と嫌な感じはしなかった。


 濃い。


 とにかく濃い。


 でも、味方だ。


 多分。


 そして、現在。


 セイコはアルやソックスと共に、各地の巡回に出ていた。


「オッホッホ! 皆様、慌てずこちらへ進むのですわ!」


 ステッキを掲げながら、逃げ遅れた住民を誘導している。


 相変わらず魔法でも撃ちそうな見た目だが、今日は戦闘ではなく避難誘導だ。


「そこ! 棚の近くは危険ですわ! 離れなさいな!」


 妙に声が通る。


 しかも、口調は派手なのに指示は的確だ。


 アルは別の場所で瓦礫になりそうな危険物を撃ち落とし、ソックスは冷静に危険箇所を確認している。


「……右側の看板、固定が甘いです」


「了解だァ!」


 アルが銃を撃ち、落下しそうな看板を先に吹き飛ばす。


 それを見ながら、俺は通信のようにテリトリー掌握で全体を把握していた。


 警察。


 警備兵。


 召使い。


 住民。


 全てが動いている。


 この数ヶ月で作ってきた仕組みが、今、機能している。


「……頼むぞ」


 誰に言うでもなく、そう呟く。


 昼を過ぎても、何も起きなかった。


 不気味なくらい静かだった。


 空は晴れている。


 風も穏やか。


 いつも通りの東京。


 だが、俺の胸の奥だけはずっとざわついていた。


「秘書」


「はい」


「何か異常は?」


「現在、大規模な異常は確認できません」


「……そうか」


 逆に怖い。


 このまま何も起きないなら、それが一番だ。


 フトゥーロが嘘をついていた。


 それで終わるなら、それでいい。


 でも――


 そんな甘いことにはならない気がしていた。


 そして。


 夕方に近づいた頃だった。


「……悠真様」


 秘書の声が、頭の中に響いた。


 いつもより、ほんの少しだけ硬い気がした。


「地殻活動に異常を確認」


 心臓が、一瞬跳ねる。


「震源反応、急速に増大」


「発生まで、推定――」


 そこで、音が止まった。


 いや、秘書の声が止まったんじゃない。


 世界が、止まったように感じた。


 次の瞬間。


 ゴォォォォォォォォォ……。


 低い音が、地面の底から響いた。


「……来る」


 俺は呟いた。


 足元が、小さく震える。


 最初は、ほんのわずかだった。


 だが、その揺れは一瞬で大きくなる。


 建物が軋む。


 窓が震える。


 道路の街灯が揺れる。


 遠くで、悲鳴が上がる。


 そして――


 東京が、揺れた。


 地震が、始まった。


 俺は即座に叫ぶ。


「テリトリー掌握!」


 意識を東京全土へ広げる。


 膨大な情報が頭に流れ込む。


 建物の損傷。


 道路の歪み。


 住民の位置。


 避難所。


 警察官。


 警備兵。


 全てを把握する。


「……っ」


 情報量が多い。


 重い。


 だが、止まるわけにはいかない。


「テリトリー修復!」


 最初に反応したのは、東部の古いビルだった。


 外壁に亀裂。


 上層階の一部が崩れかけている。


 即座に修復。


 壁が戻る。


 柱が補強される。


 崩れかけた部分が巻き戻るように整う。


 次。


 西部の住宅街。


 ブロック塀が倒れかけている。


 修復。


 南部のスーパー。


 棚が外れかけている。


 固定。


 北部の避難所。


 天井材に亀裂。


 修復。


「まだだ……!」


 次から次へと、損傷箇所が浮かび上がる。


 だが、東京全域にはすでに最大級の耐震構造を施してある。


 建物は耐えている。


 揺れている。 


 軋んでいる。


 だが、倒れない。


(耐えろ……!)


 俺は歯を食いしばる。


(頼む……耐えてくれ……!)


 揺れは、さらに強くなった。




今回は前後編に別れています。

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