束の間の日常
第47話です。宜しくお願い致します。
さっきまでの地獄みたいな戦場が、嘘みたいに静かだった。
「……終わった、か」
思わず、そんな言葉が口から漏れる。
だが、誰もすぐには返事をしなかった。
全員が、同じことを考えていたんだと思う。
本当に終わったのか、と。
もう復活しないのか、と。
――ようやく。
「……あぁ」
凛堂が、小さく息を吐いた。
「今回は、な」
その言葉で、ようやく全員の肩の力が少し抜けた。
俺は、ゆっくりと凛堂の方へ歩み寄る。
「……今回は一緒に戦ってくれて助かったよ」
正直な気持ちだった。
あいつらがいなかったら、どうなっていたか分からない。
「感謝するよ……」
凛堂は、俺を見て――ニヤッと笑った。
「俺達の使命でもあるからな」
相変わらず、堂々とした言い方だ。
「こちらもお前達が居なかったら、厳しい戦いになっていただろうな!」
少しだけ、嬉しそうにすら見えた。
「何かあったら、また頼ってもらってもいいぞ!」
その言葉に、俺は小さく笑う。
「あぁ、そちらもな……」
完全に敵、ってわけでもない。
でも、仲間とも違う。
そんな不思議な距離感だった。
◇
「お前等最高に熱かったな!」
後ろから、柿原の大きな声が飛んできた。
振り向くと、満面の笑みでこっちを見ている。
「またな!」
まるで友達みたいな軽さで手を振る。
「……あぁ、またな」
思わずそう返していた。
凛堂が踵を返す。
「行くぞ」
その一言で、強襲隊の空気が一瞬で切り替わる。
整然とした動き。
無駄のない足取り。
まるで最初から決まっていたかのように、隊はその場を後にしていった。
やっぱり、あいつらは軍隊だな。
そう思いながら、その背中を見送る。
◇
「……さて」
今度は、門脇が軽く肩をすくめた。
「お前等も、どんどん色んな事が起こって災難だな……」
苦笑い。
本当に、心底そう思ってそうな顔だった。
「全くだ……」
俺も同じように返す。
笑うしかない。
「まぁ、私達も他人事ではないからな」
門脇は、少しだけ真面目な顔になる。
「こちらはこちらで、また話し合いをしておくよ」
あいつなりに、ちゃんと状況を考えているんだろう。
「では、一旦達者でな……」
「あぁ、色々助かったよ」
俺は軽く手を上げる。
「またな」
「お前等も意外と面白いやつ多いからなぁ〜」
犬飼が、のんびりした声で言う。
「また会う時が楽しみだなぁ〜」
あいつは、緊張感があるのかないのかよく分からない。
でも――嫌な感じはしない。
「……あぁ」
俺は少しだけ笑った。
門脇が背を向ける。
それに続いて、戦術隊も動き出す。
強襲隊とは違って、少しラフな雰囲気。
だが、それでもまとまりはしっかりしていた。
やがて――
全員の姿が見えなくなる。
残ったのは、俺達だけだ。
静寂。
さっきまでの喧騒が、嘘みたいだった。
◇
「……これから、大変そうですね」
陸斗が、ぽつりと呟いた。
いつも通り落ち着いた声。
でも、その奥にある現実は重い。
「私が居るから大丈夫よ♡」
即座に返したのは芹沢だ。
自信満々。
というか、無駄に余裕がある。
「……私も居るから大丈夫!」
未来が、間髪入れずに言い返す。
そして――
芹沢を睨む。
バチバチだな、おい。
「ふふ♡」
芹沢は余裕の笑みで受け流す。
……火種になりそうだなこれ。
「本当か分からないのに、本当にやるのか……?」
浮田が、少し低い声で言った。
現実的な疑問。
当然だ。
「……あぁ」
俺は頷く。
「後悔はしたくないからな」
それだけだ。
シンプルに、それだけ。
浮田は、少しだけ俺を見て――
小さく息を吐いた。
「お前が決めたんなら、俺達はついていくだけだ……」
その言葉に、他のみんなも頷く。
陸斗も。
未来も。
色谷も。
芹沢も。
チャン爺も。
全員が、何も言わずに。
「……ありがとう」
思わず、口に出ていた。
「俺の無茶に、また巻き込んでしまって……」
正直な気持ちだった。
でも――
「坊ちゃま」
チャン爺が、静かに一歩前に出る。
「坊ちゃまをサポートするのが、私達の仕事でございます」
落ち着いた声。
いつも通りの、揺るがない言葉。
「仰せのままに」
一葉。
「仰せのままに」
二葉。
「仰せのままに」
三葉。
無機質で、揃った声。
そこに感情はない。
だが――それが逆に、頼もしさを感じさせた。
「……すまない」
俺は、小さく笑う。
「お前達を頼らせて貰うよ」
誰も否定しなかった。
それだけで、十分だった。
「……帰るか」
俺がそう言うと、全員が頷いた。
戦場を後にする。
足取りは、少しだけ重い。
でも――
確実に前に進んでいた。
◇
拠点に戻ると、空気が一気に変わった。
「おかえり!」
美咲の声。
それだけで、なんか安心する。
「……ただいま」
思わず、そう返していた。
ルドルフと阿川も、すぐに集まってくる。
俺は、さっきまでのことを簡単に説明した。
ゲートのこと。
モンスターのこと。
そして――フトゥーロのこと。
「……そんなことが」
ルドルフが、静かに呟く。
「未来の話……か」
阿川は腕を組んで考え込む。
「信じるかどうかは別として……準備は必要だな」
やっぱり、同じ結論に辿り着く。
「あぁ」
俺は頷く。
「でも――今日はもういい」
全員を見る。
疲労が、はっきりと見えていた。
「今日は休む」
誰も反対しなかった。
それだけ、消耗している。
こうして――
俺達は、それぞれの時間を過ごすことになった。
◇
リビングのソファに腰を下ろした時、ようやく――全身の力が抜けた。
戦いが終わった実感が、遅れてやってくる。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
隣には、ルドルフ。
いつもの無表情に近い顔だが、ほんの少しだけ疲れが見えた。
「今日は……中々の戦いでしたね」
「あぁ、マジでな」
苦笑いが出る。
「……あれが、まだ序の口かもしれないってのがな」
俺がそう言うと、ルドルフは一瞬だけ目を細めた。
「だからこそ、準備が必要なのでしょう」
淡々とした言葉。
でも、重みがあった。
「……だな」
俺はリモコンを手に取る。
「まぁ、今は考えるのやめる」
電源を入れる。
テレビ画面が光る。
「アニメでも観るか」
「……良いと思います」
ルドルフが小さく頷く。
こうして、いつも通りの時間が始まる。
戦いなんて、なかったみたいに。
◇
一方その頃。
「ここでそれ切るの!?ちょっと待って!」
未来の声がリビングの反対側から響く。
「最適解です」
陸斗は冷静だ。
ボードゲームの盤面を見ながら、一切迷いがない。
「いやいや、それはズルいでしょ!」
未来が机に身を乗り出す。
「ルール内です」
淡々と返す陸斗。
完全に理詰めプレイだ。
「ねぇねぇ!これどうすればいいの!?」
横から美咲がカードを持って騒いでいる。
盤面はぐちゃぐちゃ。
完全に初心者だ。
「えっと……美咲ちゃんはそれ出した方がいいかも」
未来が少し優しくフォローする。
「これー?」
「はい、その方が良いかと」
チャン爺も静かに助言する。
「わかったー!」
美咲が勢いよくカードを出す。
――結果。
「……あっ」
盤面が一気に崩れる。
「ちょっと美咲!?」
「え!?ダメだった!?」
未来が頭を抱える。
美咲はキョトン顔。
「……」
一方で、一葉と二葉は無言で盤面を見ていた。
そして――
スッ、とカードを出す。
無駄がない。
感情もない。
ただ、最適な手。
「……え?」
未来が固まる。
「それ……強すぎない?」
返事はない。
ただ、淡々と次の行動に移る。
「……」
陸斗が、ほんの少しだけ目を細める。
「……最適です」
認めた。
完全に“機械的に強い”やつだこれ。
「……なんか悔しい!」
未来が机を叩く。
「でも楽しいね!」
美咲が満面の笑みで言う。
その一言で、空気が少し柔らいだ。
チャン爺が小さく微笑む。
――平和な時間だった。
◇
しばらくして――
未来は一人、部屋に戻っていた。
ベッドに腰を下ろし、本を開く。
ページをめくる音。
静かな空間。
(……さっきの戦い)
一瞬だけ、思い出す。
スケルトンキング。
何度も蘇る絶望。
それでも――
(……負けなかった)
小さく息を吐く。
そして、ページをめくる。
(……もっと強くならないと)
そう思いながらも――
今は、少しだけ。
静かな時間に身を委ねた。
◇
「はぁぁぁぁ……」
5階の大浴場。
湯気が立ち込める中、浮田が大きく息を吐いた。
「生き返るな、これ……」
「だなぁ」
阿川も肩まで湯に浸かりながら頷く。
「今日はマジでヤバかったみたいだな……」
「……あぁ」
浮田は天井を見上げる。
「患者が出た時、ちょっとヒヤッとしたわ」
「でも助けたんだろう?」
「まぁな」
軽く笑う。
「医者だからな」
その一言に、少しだけ重みがあった。
阿川はそれ以上何も言わなかった。
ただ――
「……なんとかなるか」
ぽつりと呟く。
「だな」
浮田も同意する。
深く考えすぎても仕方ない。
今は――湯に浸かるだけだ。
◇
3階、スポーツジム。
ダンッ――!!
重い音が響く。
色谷が、バーベルを持ち上げる。
汗が滴る。
呼吸が荒い。
それでも、止まらない。
「……今日は疲れたから軽めにしておくか。」
ボソッと呟く。
もう一度、バーベルを握る。
ダンッ!!
音が、静かなフロアに響いた。
◇
「はぁ〜♡最高〜♡」
別の部屋では、芹沢がベッドに横たわっていた。
「三葉ちゃん、そこもうちょっと強めでお願い♡」
「了解しました」
三葉は無表情で応じる。
手の動きは正確。
無駄がない。
「ん〜♡プロねぇ♡」
完全にリラックスモードの芹沢。
「悠ちんもこれ受けたら絶対ハマるわねぇ♡」
そんなことを言いながら、満足そうに目を閉じる。
三葉は何も答えない。
ただ、命令通りに施術を続けるだけだ。
そこに感情はない。
だが、その“完璧さ”が逆に心地よかった。
◇
それぞれが、それぞれの時間を過ごす。
戦いを忘れるように。
いや――
ほんの少しだけ、遠ざけるように。
テレビの光が、ぼんやりと部屋を照らす。
笑い声。
ページをめくる音。
湯の音。
鉄の音。
静かな息遣い。
全部が混ざって――
この場所は、確かに“日常”だった。
(……今だけは)
俺は、ソファに深く沈みながら思う。
(全部、忘れていい)
戦いも。
厄災も。
未来の話も。
全部。
今だけは。
だが――
分かっている。
これは、終わりじゃない。
むしろ――始まりだ。
(……やるしかねぇか)
目を閉じる。
ほんの少しだけ、休む。
次に動くために。
――嵐の前の、静かな夜だった。
日常回を描くとキャラクター増えたな……って思いますね。
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