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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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未来を知る道化師

第46話です。少し長くなりましたが、宜しくお願いします。

――パチ、パチ、パチ。


 軽い拍手の音が、戦場の静寂に妙に響いた。


 さっきまでスケルトンキングの群れと殺し合っていたとは思えないくらい、その音だけが場違いだった。


 俺たちは全員、反射的に振り向いていた。


 そこにいたのは――空中に浮かぶ、一人の男。


 スーツ姿。


 だがその顔には、まるでサーカスの道化師みたいなメイクが施されている。


 白く塗られた顔。


 不自然なほど吊り上がった口元。


 笑っている。


 なのに、そこから感じるものは“楽しさ”なんかじゃない。


 ぞわり、と背中に寒気が走った。


(……人じゃない)


 一目で分かる。


 見た目がどうこうじゃない。


 あの“在り方”そのものが、人間とは違う。


「いやぁ……素晴らしい」


 男が、にこにこと笑ったまま口を開く。


 声は軽い。


 軽いのに、妙に耳に残る。


「実に実に、素晴らしい戦いだった」


 その言葉に、誰もすぐには返せなかった。


 さっきの戦いで疲弊していたのもある。


 だが何より――


 目の前の存在が、得体が知れなさすぎた。


 凛堂ですら、眉をひそめて相手を睨んでいる。


 門脇も、犬飼も、戦術隊も強襲隊も、全員が警戒していた。


 当然だ。


 こんなやつ、見たこともない。


 なのに――こいつは。


 俺たちの戦いを“見物”していたみたいな顔をしている。


 その事実が、妙に腹立たしかった。


「……何者だ、お前」


 俺が低く言うと、男は少しだけ目を細めた。


 まるで、その問いを待っていたみたいに。


「うん、いい質問だ」


 そして、くるりと空中で回ってみせる。


 本当に、全部が芝居がかっている。


「私の名前は――」


 一瞬、間を置く。


「フトゥーロ、とでも呼んでくれ」


 “とでも”。


 本名かどうかも分からない言い回し。


フトゥーロは、ふわりと浮かんだまま空を見上げた。


 その視線の先には、まだ消えていないカウントダウン。


 72時間。


あの不気味な数字が、変わらず空中に浮かんでいる。


「あぁ、そうだ」


 フトゥーロが、思い出したように言う。


「これは今回は一旦消すとしよう」


「……は?」


 俺が眉をひそめた、その次の瞬間だった。


 パチン――と、指を鳴らす音。


 それだけ。


 ただ、それだけで。


 空に浮かんでいた72時間のカウントダウンが、ふっと掻き消えた。


「……っ!?」


 未来が目を見開く。


 陸斗も、珍しく驚きを隠せていなかった。


「消えた……?」


 浮田が思わず呟く。


凛堂すら、一瞬だけ動きを止めて空を見上げていた。


 当然だ。


 今まで何をしても消えなかったものが、たった指を鳴らしただけで消えたんだから。


 俺は、自然と一歩前へ出ていた。


 相手を睨みながら。


「……お前が、このゲートを出している存在か?」


 喉の奥が熱い。


 怒りと、警戒と、混乱が一緒くたになっていた。


「そして、お前は何者なんだ?」


 今、聞くべきことはそこだ。


 こいつが全部の元凶なのか。


 それとも、もっと別の何かなのか。


 フトゥーロは、にこりと笑ったままだった。


 だが、その目だけがわずかに細くなる。


「まぁ、まずこのゲートを出しているかどうかだが――」


 そこで少しだけ姿勢を正す。


 軽い調子のままなのに、言葉だけは妙に真っ直ぐだった。


「結果から言うと、私はこの世界でこのゲートを出して、この世界を荒らしているわけではない」


「……」


 俺は黙って聞く。


 嘘かもしれない。


 だが、今は遮るより先を聞いた方がいい。


 フトゥーロは続けた。


「だが、このカウントダウンを出して、ゲートからモンスターを出してけしかけていたのは、紛れもなく私だ」


 その一言で、空気が一気に張り詰めた。


 後ろで誰かが息を呑む。


 門脇が小さく眉を動かす。


 凛堂の目つきが、さらに鋭くなる。


 俺は、奥歯を噛んだ。


「……何でそんな事を!?」


 声が、思ったより強く出た。


「お前のせいで、こっちは怪我人も出たんだぞ!」


 あの戦いがなければ傷つかなかった奴らがいる。


 恐怖に震えなくて済んだ住民たちがいる。


 そう思ったら、怒りを抑えきれなかった。


 だが、フトゥーロは逃げなかった。


 笑いも崩さなかった。


 ただ、少しだけ困ったように肩をすくめる。


「それに関しては、すまなかったと思っている」


 意外だった。


 もっとふざけた態度を取るかと思っていた。


 だが、その謝罪が本心かどうかは別として――少なくとも軽く流しはしなかった。


 しかし、次の言葉でまた腹の底がざわついた。


「だが、私は紛れもなく君たちの味方だ」


「……は?」 


 思わず低い声が出る。


 味方?


 こんなことをしておいて?


 俺だけじゃない。


 後ろの連中も、明らかに空気が変わった。


凛堂なんて、今にも飛びかかりそうな顔をしている。


 だが、フトゥーロは構わず続ける。


「そして、君たちにはこの“試験”を、先に経験してほしかったんだ」


「試験……?」


 俺は眉をひそめる。


 何を言っているのか、すぐには理解できなかった。


「どういう事だ……?」


すると、フトゥーロは少しだけ真面目な顔になった。


 道化師みたいな見た目はそのままなのに、急に空気だけが変わる。


「まず、君たちに知って欲しい事がある」


 ゆっくりとした口調。


「それは――これから数ヶ月後に起こる、3つの厄災だ」


 その言葉に、俺は思わず息を止めた。 


「3つの厄災……?」


 嫌な響きだった。


 さっきまでの戦いが、ただの“前座”だったみたいに聞こえる。


 フトゥーロは頷いた。


「私は、この世界を守る義務がある」


 それは、今までの軽い口調とは少し違っていた。


 遊ぶような態度の奥に、妙に古いものを感じる。


「そして、その未来の世界では――」


 そこで一度、言葉を切る。


「3つの厄災が起こり、防ぐ事が出来ず、日本は崩壊するんだ」


 その一言で、場の空気が完全に止まった。


「……何だと?」


 最初に声を出したのは、たぶん俺だった。


 自分でも分かるくらい、低い声だった。


「日本が崩壊……?」


 言葉の意味は分かる。


 だが、理解が追いつかない。


 今だって、この国はめちゃくちゃだ。


 ゲートが開いて、モンスターが現れて、人が死んで、社会は壊れかけている。


 それでもまだ、“崩壊”と断言されると意味が違う。


「そんな事を、誰が信じるって言うんだ……?」 


 俺は吐き捨てるように言った。


「それに、お前が味方だとも思えない」


 当然だ。


 見たこともない存在が現れて、いきなり未来の話をして、日本が崩壊すると言い出す。


 しかも、さっきまで試験と称してモンスターをぶつけてきた相手だ。


 信じろという方が無理だ。


 だが、フトゥーロは怒らなかった。


 むしろ、少しだけ苦笑する。


「まぁ、なかなか信じて貰えないのは分かっている」

 それはそうだろう。


「だが、聞いてくれ」


 口調が静かになる。 


「3つの厄災は、必ず起こる」


 断言だった。


 迷いがない。


 その断定の仕方が、逆に気味が悪い。


「……聞くだけなら聞いてやる」


 俺は警戒を解かないまま言った。


 信じるかどうかは別だ。


 でも、情報として聞く価値はある。


 ここまで断言する以上、何かしらの根拠がある可能性は高い。


 フトゥーロは、小さく笑った。


「ありがとう」


 そう言って、今度は空を見上げる。


「厄災は3つ」


「地震、内部崩壊、そして――」


 こちらを見る。


「君たちに試験として課した、侵攻のカウントダウンだ」


 俺は自然と眉をひそめる。


 今の試験が、その3つのうちの一つだと言いたいのか。


 なら残りは。


「まず、1つ目の厄災だが」


 フトゥーロが言った。


「今から3ヶ月後――8月17日」


「この東京を中心に、地震が起こる」


 その瞬間、全員の表情が変わった。


 東京。


 今、俺たちがいる場所。


 そして、地震。


「地震……?」


 俺は思わず繰り返していた。


 だが、フトゥーロは静かに頷く。


「あぁ、そうだ」


 その声音には、妙な重さがあった。


「被害は東京を中心に大きく広がる。東京以外は比較的軽微だろう」


「だが、東京は違う」


 そう言って、地上を見下ろす。


 まるでこの街全体を見透かしているみたいに。

「今の東京はどうだ?」


「ゲートが開き、モンスターが絶えず現れ、建物は損傷し、今にも崩れそうな場所がいくつもある」


「その状態で地震が来たら――どうなるかくらい、君たちにも分かるだろう?」


 答えるまでもなかった。


 想像したくもない。


 だが、想像はできてしまう。


 ただでさえ不安定な建物。


 避難しきれていない住民。


 まだ安全圏が十分に整っていない街。


 そこに地震が来れば――


「東京は、ほぼ壊滅する」


 フトゥーロが言う。 


「さらに多くの死者が出る」


「……そんな……」


 誰かが後ろで小さく呟いた。


 未来か、美咲じゃない住民の誰かか、そこまでは分からなかった。


 俺はただ、拳を握る。


「だが」


 俺は顔を上げた。


「仮に本当に地震が起こるとしても……そんなの防げるわけがないだろ」


 地震そのものを止める?


 そんなこと、人間にできるわけがない。


 超人族だのスキルだのがあっても、自然災害の規模は別だ。


 だが、フトゥーロは首を横に振った。


「そうだな。君の言う通り、地震が起こるという事実そのものは防げない」


 そこは、あっさり認める。


「だが――東京を守る事は可能なはずだ」


「……どうやって?」


 俺が問うと、フトゥーロはまっすぐ俺を見た。


 その視線だけが、妙に鋭い。


「悠真君」


 名前を呼ばれる。


「君のスキルを使うんだ」


「職業選択の……村長スキルだよ」


 その瞬間、頭の中で何かが繋がった。


「あ……」


 思わず声が漏れる。


 村長スキル。


 テリトリーの拡張。


 今まで、俺は“街を作るための能力”として考えていた。


 でも――


「……成る程……」


 俺は、ゆっくりと呟く。


「つまり、東京自体を俺のテリトリーに出来たら……」


 頭の中に、イメージが一気に広がる。


「外装変更で耐震性の高い建物に周りを作り替えて、更に仮に壊れそうになっても、すぐに修復できる……って事か」


 フトゥーロが、静かに頷いた。


「その通りだ」


 その言葉に、俺はしばらく黙った。


 確かに理屈は分かる。


 分かるが――


 それは、あまりにも大きすぎる話だった。


「……だが」


 俺はゆっくりと首を振った。


「今の俺のレベルじゃ、東京全体なんて無理だ」


 はっきりと言い切る。


 これは強がりじゃない。


 事実だ。


「それに……」


 周囲を見渡す。


 崩れかけた建物。


 未だに完全とは言えない街。


 そして――ここにいる仲間たち。


「仮に出来るとしてもだ」


「東京全体をテリトリーにするなんて、そんなの許可されるわけないだろ」


 国家レベルの話だ。


 俺一人の判断でどうにかなるものじゃない。


 だが――


 フトゥーロは、そこで小さく笑った。


「まぁ、確かに今の君のレベルでは無理だろうな」

 あっさり認める。


 だが、すぐに続けた。


「だからこそ、私は“3ヶ月前”に来ているんだ」


「……?」


 違和感。


 今、何て言った?


「3ヶ月前……?」


 俺が聞き返すと、フトゥーロは肩をすくめる。


「言っただろう?私は未来を知っている、と」


「君たちが地震を迎える“未来”を知っているから、こうして今ここに来ている」


 時間の感覚がズレている。


 いや、ズレているどころじゃない。


(こいつ……)


 背筋に冷たいものが走る。


 だが、フトゥーロは構わず続ける。


「3ヶ月あれば、君ならそこまでレベルを上げられる」


 断言。


 根拠なんて何も示していないのに、妙に説得力があった。


「そして、君が危惧している“許可”の問題だが――」


 その言葉と同時に。


 空間が、わずかに歪む。


 次の瞬間。


 ひらり、と一枚の紙が空から落ちてきた。


 反射的に、俺はそれを掴む。


「……これは……?」


 広げる。


 そこに書かれていたのは――


 見慣れないはずなのに、直感で分かる“重さ”。


 そして。


 最後に書かれている名前。


「……内閣総理大臣……?」


 思わず声が漏れる。


 サイン。


 公印。


 どう見ても、冗談とは思えない。


「そんな……」


 信じられない。


「総理大臣が、こんな事を許可するのか……?」


 あり得ないだろ。


 普通に考えて。


 だが、フトゥーロはあっさりと言った。


「それは君が気にする事ではない」


 軽い口調。


 だが、その裏にあるものは分からない。


「これで、君が後は東京をテリトリーにするだけだ」


「……簡単に言ってくれるな」


 俺は苦笑するしかなかった。


 スケールが違いすぎる。


 街どころか、“都市”だ。


 しかも東京。


 日本の中心。


 だが――


 視線を、許可書から空へ戻す。


「それに、俺はまだお前を信じる事が出来ない」


 はっきりと言った。


 どれだけ理屈が通っていても。


 どれだけ現実味があっても。


 こいつは――


 俺たちにモンスターをぶつけてきた存在だ。


 その言葉に、フトゥーロは――笑った。


「ハハッ!当然だ」


 まるで、それを楽しんでいるかのように。


「今は私を信じる必要はない」


 軽く手を広げる。


「だが、君はこの事実を知った上で、本当に放っておけるか?」


「……」


 言葉が、出なかった。


 分かっている。


 言いたい事は。


「嘘だとしても、最悪を想定して準備は必要だろう?」


 その通りだ。


 頭では分かる。


「その上で、何も起こらなければ――」


 肩をすくめる。


「“あいつは嘘をついていた”で終わる話だ」


 簡単に言う。


 だが――


「もし本当だった場合は?」


 その問いは、口に出すまでもなかった。


「それに」


 フトゥーロが続ける。


「君が今やっている事」


「皆の日常を取り戻すという目的にも、繋がる話だ」


 その言葉に、俺は一瞬だけ目を閉じた。


 頭の中に浮かぶ。


 あのマンション。


 笑っている住民たち。


 教室で勉強する子供たち。


 コンビニで働く人たち。


 あの“日常”。


 取り戻しかけているもの。


「……」


 ゆっくりと、息を吐く。


「分かった……」


 短く、そう言った。


 未来が少しだけ驚いたようにこちらを見る。


「確かに」


 俺は続ける。


「準備をしなくて後悔するより、準備をして後悔した方がいい……か」


 苦笑が漏れる。


「だが」


 顔を上げる。


「お前の事は、もちろんまだ信じない」


 はっきりと、言い切る。


「それでいい」


 フトゥーロは満足そうに頷いた。


「それでこそ、君だ」


 その言い方が、また引っかかる。


 まるで、俺の事を“知っている”みたいな。


「じゃあ――残りの厄災はどうするんだ?」


 俺が聞くと、フトゥーロは人差し指を立てた。


「それは、この1つ目の厄災を無事に防いだ後に教えるとしよう」


「……は?」


 思わず眉をひそめる。


「全部教えろよ」


 当然だ。 


 対策を立てるなら、全部知るべきだ。


 だが、フトゥーロは首を横に振った。


「焦る必要はない」


 にやり、と笑う。


「順番があるんだよ」


 その言い方。


 やっぱりこいつは――


(ゲームでもしてるつもりか……?)


 だが、それ以上は何も言わなかった。


 今は情報があるだけマシだ。


全部を無理に引き出そうとしても、どうせ答えない。


フトゥーロは、満足そうに頷くと、軽く手を振った。


「では、そろそろ時間だから私はお暇しよう」


「……勝手なやつだな」


 俺が呟くと、フトゥーロは肩をすくめる。


「そういう存在だからね」


 そして。 


 ふわりと体が浮き上がる。 


「では、頑張ってくれ」


 最後に、笑う。


 あの、どこか不気味な笑み。


 次の瞬間。


 スゥ……と、空気に溶けるように――消えた。


 気配も、何もかも。


 最初からいなかったかのように。


 ただ――


 ほんの一瞬だけ、笑い声の余韻が残った。


 静寂。


 誰も、すぐには動かなかった。


「……何だったんだ、あれは」


 凛堂が低く呟く。


 その声には、苛立ちと、わずかな警戒が混ざっていた。


 門脇も、腕を組んだまま空を見ている。


「未来を知っている、か……」


 俺は、手に持っている紙を見下ろした。


 内閣総理大臣の許可書。


 現実感がない。


 だが――


 嘘だとも言い切れない。


 さっきのカウントダウンの消え方。 


 あの存在感。


 全部が、普通じゃなかった。


「悠真……」


 未来が、小さく声をかけてくる。


 俺は顔を上げた。


「……やるしかないな」


 それが、答えだった。


 信じるかどうかじゃない。


 やるか、やらないか。


「東京を守る」


 その言葉を、口にする。


 重い。


 だが、不思議と逃げたいとは思わなかった。


 むしろ――


(やってやる)


 そう思っている自分がいた。


 空を見上げる。


 もう、カウントダウンはない。


 だが――


 確実に、何かは始まっている。


 静かに。


 確実に。


 俺たちは――


 次の戦いに足を踏み入れていた。






次の章始まったって感じですね。

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