一時休戦と巨人の脅威
第40話です。宜しくお願いします。
それは、明らかに“別格”だった
地面が揺れる。
ドン。
ドン。
ドン。
一歩踏み出すたびに、舗装された道路が軋み、ひび割れていく。
「……なんだよ、あれ……」
誰かの声が震えていた。
無理もない。
目の前にいるのは、これまで俺たちが相手にしてきたモンスターとは明らかに違う存在だった。
巨体。
人間の何倍もある筋肉。
皮膚は岩のように分厚く、そしてその目は――完全に“捕食者”のそれ。
(……Cランクじゃない)
今まで確認されていたモンスターはCランクまで。
シャドウウルフですら、強敵だった。
だが、あれは違う。
(Bランク……)
しかも――
「……多すぎるだろ」
裂けた空間から、次々と出てくる。
一体じゃない。
五体、十体、それ以上。
止まる気配がない。
街の前に、まるで“壁”のように並び始める巨体。
その圧だけで、空気が重くなる。
呼吸すらしづらい。
(これは……まずい)
正直にそう思った。
これはもう、“戦闘”じゃない。
“災害”だ。
「チッ……」
隣で凛堂が舌打ちした。
だが、その目はもう俺たちには向いていない。
完全に、前方のジャイアントオーガに向いている。
「……おい」
低く言う。
「今は、これだな」
俺も視線を外さず答える。
「あぁ」
短く。
それだけで十分だった。
お互いに理解している。
今ここで争っている場合じゃない。
横で柿原が隣に立つ。
「隊長、どうします」
「決まってんだろ」
凛堂がニヤッと笑う。
「ぶっ潰す」
その一言。
だが、次の瞬間、俺に視線を向けた。
「勘違いすんなよ」
「今だけだ」
俺も返す。
「こっちも同じだ」
ほんの一瞬。
互いに視線がぶつかる。
信用なんて一切ない。
だが――
利害は一致している。
「未来、陸斗、チャン爺」
俺はすぐに声をかける。
「一時共闘だ。あれを先に倒す」
「……分かった!」
「はい!」
「承知」
短い返事。
全員、状況を理解している。
「アル、ソックス」
「ヒャッハァ!!任せて下さい!!」
「……了解です」
そして俺は、手を軽く上げる。
「警備隊、戦闘配置」
「「了解」」
八人の警備隊が一斉に前へ出る。
これで――
即席だが、“戦線”は整った。
その瞬間だった。
先頭のジャイアントオーガが、大きく腕を振り上げる。
そして――
地面に叩きつけた。
――轟音。
衝撃波。
地面が抉れ、石や破片が弾け飛ぶ。
「うおっ!?」
アルが思わず声を上げる。
ただの一撃。
それだけで、範囲攻撃レベルだ。
(パワーが桁違いだ……)
「来るぞ!」
誰かが叫ぶ。
次の瞬間、複数のオーガが一斉に動いた。
走る。
いや、“突進”だ。
その巨体で、一直線に。
「前列、受け止めろ!!」
俺が叫ぶ。
「「了解!!」」
警備隊が前に出る。
盾のように構える。
そして――激突。
ドンッ!!
重い衝撃音。
だが。
「ぐっ……!」
警備隊が、押される。
ズルズルと後退していく。
(止まらない……!?)
Cランク相手なら完全に止められていた。
だが、今回は違う。
力で押し切られている。
「未来!」
「分かってる!」
未来が即座に手をかざす。
「“動植物図鑑”」
影が地面から這い上がる。
シャドウウルフ。
だが以前より数が多い。
そして――強い。
「足、止める!」
狼たちが一斉に飛びかかる。
オーガの足に噛みつく。
絡みつくように抑える。
「グオオオオッ!!」
咆哮。
振り払おうとする。
だが、完全には動けない。
(よし……拘束は効く!)
「アル、火力で押せ!」
「任せて下さい!!」
アルが前へ。
機関銃を構え、乱射。
弾丸がオーガの身体に叩き込まれる。
だが――
「っ……硬ぇ!?」
弾がめり込むが、貫通しない。
筋肉と皮膚が分厚すぎる。
「ソックス!」
「……弱点を狙います」
ソックスが冷静に構える。
目、関節、首。
急所を狙い撃つ。
弾が食い込む。
確かに効いている。
だが。
(……それでも止まらない)
圧倒的な耐久。
そして――数。
「チャン爺、左カバー!」
「了解」
チャン爺が消える。
次の瞬間、オーガの背後。
斬る。
だが。
「……硬いですな」
浅い。
完全には切り裂けない。
(……削り合いになる)
そう思った瞬間。
別のオーガが、警備隊を掴んだ。
そのまま――
持ち上げる。
「っ――!」
「離脱!」
俺が叫ぶ。
だが遅い。
そのまま地面に叩きつけられる。
――轟音。
警備隊の一体が大きく損傷する。
(まずい……!)
さらにもう一体が押し込まれる。
壁が崩れる。
前線が割れかける。
「悠真!」
未来の声。
オーガがこちら側へ踏み込んでくる。
(このままだと、抜かれる――)
その時。
横から、凄まじい衝撃音が走った。
――横から、衝撃が走った。
ドゴォォンッ!!!
突っ込んできたジャイアントオーガの横顔に、凛堂の拳がめり込む。
巨体が吹き飛ぶ。
数メートル先の建物に叩きつけられ、壁ごと崩壊した。
「はっ……!」
凛堂がニヤリと笑う。
「やっぱこういうのは、ぶん殴るに限るなァ!!」
地面を蹴る。
再び加速。
その動きはさっきよりさらに速い。
「“日光浴”はな――」
拳を振りかぶる。
「浴びた分、全部力になるんだよッ!!」
ドンッ!!
オーガの腹部に拳が突き刺さる。
空気が爆ぜる。
巨体が宙に浮く。
そのまま叩きつけられる。
(……バカみたいな威力だ)
純粋な暴力。
だが、それが確実に効いている。
「おいガキ共!!止めてりゃ俺が潰す!!」
完全に前衛の破壊役だ。
(……使える)
「警備隊、凛堂のサポートに回れ!拘束優先!」
「「了解!!」」
警備隊が即座に動く。
オーガの足を抑え、腕に取りつき、動きを止める。
「いい判断だ!」
凛堂が笑いながら拳を叩き込む。
連携が成立していた。
「おらぁッ!!」
反対側では柿原が暴れていた。
火縄銃を連射。
炎をまとった弾丸がオーガの身体に突き刺さる。
「“聖火”はなぁ――」
次の弾を装填しながら笑う。
「一回つけりゃ、絶対消えねぇんだよ!!」
撃つ。
ドンッ!!
着弾と同時に炎が広がる。
オーガの腕が燃える。
皮膚の奥まで焼き続ける。
「グオオオオオッ!!」
咆哮。
だが炎は消えない。
むしろ広がる。
「そのまま焼け続けろ!!」
さらに火炎瓶を投げる。
爆発。
炎の海ができる。
(……動きを止めるには最適だな)
火力というより、“制圧”。
確実に効いている。
「陸斗!」
「はい、任せてください!」
陸斗が一歩前へ出る。
冷静。
周囲の炎にも、揺れない。
「バリア」
光の膜が展開。
そのまま。
「準備」
光が収束する。
一瞬。
0.5秒もかからない。
「……いきます」
腕を振る。
「光線!!」
――五本。
集中。
一直線に一体のオーガへ。
ドォォォォンッ!!
貫通。
分厚い肉体を、抵抗なく貫く。
背後の建物まで一直線に穴が空く。
オーガの身体が崩れる。
ドサッ、と倒れる。
「……一体撃破」
淡々と呟く。
そしてすぐに次。
「もう一度」
残り五本。
別のオーガへ。
同じように――貫通。
巨体が膝から崩れ落ちる。
(……マジか)
Bランクを、正面から撃ち抜いた。
しかも、余裕を持って。
だが。
数はまだ多い。
一体のオーガが、未来のシャドウウルフを振り払う。
「っ――!」
そのまま腕を振り上げる。
未来に向かって。
(まずい!!)
「未来、下がれ!」
だが間に合わない。
振り下ろされる――
その瞬間。
――ザンッ!!
鋭い音。
オーガの腕が途中で止まる。
「……遅れてすまない」
チャン爺とは別の、低い声。
そこにいたのは――
「浮田!」
浮田だった。
手には注射針。
その注射針には、麻痺効果がある液体が注入されていた。
「援護に来た」
その後ろには。
一葉、二葉、三葉。
そしてルドルフ。
「避難は終わった」
ルドルフが静かに言う。
「後は任せました」
「助かる……!」
これで、戦力が揃った。
戦闘が激化する中。
強襲隊の一人が、オーガの攻撃で吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
血を流し、動けない。
その元へ、浮田が駆け寄る。
「じっとしてろ」
手術道具が瞬時に展開される。
傷口を処置。
再生。
「な……なんで……」
強襲隊の男が驚いた顔で言う。
「敵だろ……?」
浮田は一瞬も迷わず答える。
「医者に敵も味方もない」
淡々と。
「治療してる間は、全員患者だ」
そのまま手を動かし続ける。
傷が塞がる。
男は言葉を失った。
「押し切るぞ!!」
俺が叫ぶ。
全員が動く。
未来が拘束。
警備隊が足止め。
凛堂が殴る。
柿原が焼く。
陸斗が貫く。
チャン爺が斬る。
アルが弾幕。
ソックスが急所を撃ち抜く。
完璧な連携。
即席とは思えないほど、戦線が噛み合っていた。
そして――
最後の一体。
「囲め!!」
全員で包囲。
「終わりだァ!!」
凛堂の拳。
「光線!!」
陸斗の一撃。
同時。
ドォォォォンッ!!
巨体が崩れる。
完全に沈黙した。
――静かになった。
さっきまでの轟音が嘘みたいに。
倒れたオーガの巨体が、いくつも転がっている。
重い呼吸。
誰もすぐには動かなかった。
「……終わった、か」
誰かが呟く。
ふと、俺は空を見る。
まだある。
あの表示。
“72時間”。
そして――“24時間”。
確実に減っている。
(……止まってない)
今回のは、10秒の方だった。
じゃあ――
「……今回でこれだ」
ぽつりと口に出る。
全員が空を見上げる。
「もし、24時間のカウントが0になって……」
少しだけ間が空く。
頭の中に、今のオーガ以上の存在が浮かぶ。
「……もっと強いのが来たら」
拳を握る。
「俺たち……」
思わず、呟いた。
「倒せるのか……?」
誰も、答えなかった。
40話まで続ける事が出来ました。
読んで頂いている皆さんに感謝です。




