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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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4/13

侵入

第4話です。この話も少し長いですが良かったら宜しくお願いします。

ガリ、ガリ、ガリ。


 玄関の向こうから響くその音は、妙にゆっくりとしていた。


 急いで叩き壊そうとしているわけじゃない。


まるでこちらの様子を窺いながら、じわじわと爪を立てているような、不快な音だ。


「……」


 息を殺す。


 音は止まらない。


 ドア一枚を挟んだ向こうに、“何か”がいる。


 そう理解しているだけで、背中に嫌な汗が滲む。


 さっき外に出た時間は、本当に一瞬だった。


ほんの数秒。


玄関先に一歩出て、空気を感じ、周囲を見て、危険だと判断して戻っただけだ。


 それだけで見つかった。


「……いや、もしかしたら」


 俺が外に出る前から、近くにいたのかもしれない。


 あの不快な気配。


 見られているような感覚。


 あれは気のせいじゃなかった。


 モンスターは、もう近くまで来ていた。


 ガリッ。


 今度は少し強くドアが鳴る。


 薄い金属板を引っかいたような甲高い音に、思わず肩が跳ねた。


「……落ち着け」


 自分に言い聞かせる。


 まだ入られていない。


 玄関は閉まっている。


鍵もかけた。


少なくとも“普通の相手”なら、これだけで簡単には入ってこない。


 だが、相手は普通じゃない。


 人を食い殺すような異形だ。


 ドアの強度なんて、あってないようなものかもしれない。


「……確認するか」


 見ないまま怯えているのは、一番良くない。


 俺はできるだけ音を立てないように足を運び、玄関の横に立つ。


覗き穴から真正面に顔を出すのは危険だと本能が告げていたから、少し位置をずらしてから、ゆっくりと覗き込んだ。


「っ……」


 思わず息を呑む。


 そこにいたのは、犬に似た何かだった。


 だが、犬と呼ぶにはあまりにもおぞましい。


 四足歩行の体勢を取っているものの、脚が異様に長い。


関節の向きもおかしい。


毛はなく、黒ずんだ皮膚がぬらついた光を放っている。


頭部は本来の顔の位置から縦に裂け、その内側で別の口が蠢いていた。


 目は見当たらない。


 にもかかわらず、そいつは確かにこの家の中を“認識している”ようだった。


 裂けた頭部を玄関にぴたりと寄せ、鼻を鳴らすように何度も細かく震えている。


【Dランク魔獣確認しました。】


「……Dランク、か」


 なぜかそんな言葉が頭に浮かぶ。


 この世界の仕組みを全部理解しているわけじゃない。


だが、あれは最初に見た街中にいた群れより明らかに質が違う。


雑魚じゃない。


少なくとも、今の俺が真正面からどうにかできる相手ではない。


 バールを持っているから何とかなる、なんてレベルじゃない。


 勝てない。


 見た瞬間にそう分かる。


 そして、そいつは急に動いた。


 ドンッ!!


「っ!」


 玄関全体が揺れる。


 蹴ったのか、体当たりしたのか分からない。


ただ、かなりの衝撃だった。


ドアノブがびりびりと震え、蝶番が悲鳴を上げる。


 続けざまに、ドン、ドン、ドンッ!!


「……まずいな」


 思わず後ろへ下がる。


 同時に視界の端に表示が浮かんだ。




【テリトリー損傷を確認】

対象:黒瀬悠真のアパート

損傷箇所:玄関扉(中)

【修復準備中】

3

2

1

【修復中 0%】




「……修復が始まる」


 それ自体は救いだ。


 だが、前回の検証はあくまで“俺が一箇所だけ壊した場合”だった。


今みたいに外から継続的に破壊され続けるケースは試していない。


 嫌な予感がした。


 ドンッ!!


 玄関がさらに大きく揺れ、今度は内側にわずかに歪む。


鍵の部分がミシッと嫌な音を立てた。


 修復ゲージはまだ8%。


 遅い。


 45秒という数字は、検証しているときは短く感じた。


だが、命が懸かった状況では致命的に長い。


 ドアが完全に直る前に、次の一撃が入る。


 それを何度も繰り返されたら——


「……追いつかない」


 答えは、すぐに出た。


 ドンッ!!


 バキッ、と何かが割れる音。


 玄関扉の下側に亀裂が入る。そこから細い爪のようなものが差し込まれ、一気に内側へ引き裂こうとした。


「っ……!」


 俺は反射的にバールを握り締める。


 近づくな。


 でも、近づかなきゃ侵入される。


 理屈と本能がぐちゃぐちゃになる。


 どうする。


 殴るか?


 無理だ。


 あんなものに触れる距離まで行ったら、その時点で終わる。


「くそっ……!」


逃げ道を探して部屋の奥へ視線を走らせる。


窓から逃げる? 


いや、その外にも何がいるか分からない。


そもそもこの家の外に出た時点で、俺の強みはほぼ消える。


ここを捨てるのは悪手だ。


だが、ここにいても死ぬかもしれない。


 ドンッ!!


 また衝撃。


 今度は玄関だけじゃなかった。横の壁まで爪が引っかかり、クロスが裂け、板材が剥がれる。


 表示が増える。




損傷箇所:玄関扉(大)

損傷箇所:壁面(中)

【修復中 11%】

【修復中 4%】




「複数箇所……!」


 まずい。


 まずい、まずい。


 修復ゲージが分散しているのか、単純に追いつかないのかは分からない。


だが現実として、壊れる速度の方が早い。


 壁の裂け目から、黒い爪がぬるりと入り込んでくる。


 関節の多い、虫じみた前脚。


 床をガリガリと削りながら、少しずつこちらへ伸びてくる。


「……っ」


 喉が鳴る。


 怖い。


 頭ではなく、体が恐怖していた。


 鼓動が早い。


 手が震える。


 足がうまく動かない。


 今まで一応冷静でいられたのは、この家が安全だという前提があったからだ。


 でも今、その前提が崩れている。


 家が破られる。


 中まで入られる。


 そうなったら、俺には何もない。


「……ふざけるなよ」


 バールを構える。


 無駄かもしれない。


でも何もしないよりはマシだ。


近づいてきたら叩く。


頭でも脚でも、とにかく怯ませて、その間に——


 その間に、何をする?


 答えはない。


 ただ、死にたくないという感情だけがあった。


 バキバキッ!!


 玄関扉の中央がついに大きくへこみ、裂けた。


そこから、あの頭部が割れた犬型モンスターの一部が覗く。


 裂けた口の内側で、さらに小さな歯列が何層にも重なって蠢いていた。


「っ……!」


 目が合った——気がした。


 目なんてないはずなのに、確かに“こっちを見た”。


 モンスターが裂けた口を広げる。


 笑ったように見えた。


 次の瞬間、一気に前脚が伸びる。


 俺は咄嗟にバールを振り下ろした。


 ガンッ!!


 硬い感触。


 弾かれる。


「——あ」


 駄目だ。


 軽い。


 浅い。


 通ってない。


 前脚は少し揺れただけで、そのまま床を掴み、体を引きずり込もうとしてくる。


玄関の裂け目がさらに広がる。


 入られる。


 その確信が、全身を冷やした。


『一定以上の外敵侵入を確認しました』


「……は?」


 唐突に、頭の中に無機質な声が響く。


 同時に視界いっぱいに新たな表示が展開された。




【条件達成】

テリトリー防衛機能を解放します

【サブスキル獲得】

《警備 Lv1》




「けい……び……?」


 言葉の意味を理解するより先に、空気が変わった。


 玄関前の空間が、ぶわりと歪む。


 まるで透明な水面に石を投げ込んだみたいに、空間そのものが波打った。


 そこから——人影が、現れる。


「……は?」


 一人。


 二人。


 三人。


 黒に近い濃紺の装備を身につけた男たちが、玄関前に並ぶように出現した。


 全員が防弾ベストのようなものを着け、顔の下半分を覆うマスクを着用している。


視線は冷たく、感情らしいものが見えない。


手には大きな銃——機関銃のような武器が握られていた。


 どこから出てきたのか分からない。


 分からないが、それ以上に。


「……味方、か?」


 俺の呟きに答える者はいない。


 三人は一斉に前を向いた。


モンスターを認識した瞬間、ためらいなく銃口を向ける。


 そして——


 ダダダダダダダダッ!!


 轟音。


 狭い室内に凄まじい発砲音が響き渡る。


「っ!?」


 思わず耳を塞ぎそうになる。


 だが、その一瞬で状況はひっくり返った。


 弾丸の雨を浴びた犬型モンスターの前脚が砕け、裂けた頭部が吹き飛ぶ。


黒い体液のようなものが玄関と壁に飛び散り、そいつは悲鳴とも断末魔ともつかない、耳障りな音を発した。


 だが警備隊は止まらない。


 ダダダダダッ!!


 続けざまの掃射。


 玄関の外へ押し返すように射撃が続き、数秒後にはモンスターの体が原型を留めないほどに破壊されていた。


 沈黙。


 さっきまで家を壊しかけていた怪物は、玄関前に黒い肉塊となって転がっている。


「……」


 理解が追いつかない。


 数秒前まで俺は死にかけていた。


 それが今、一瞬で終わった。


 あの圧倒的な恐怖が、ただの肉片になっている。


「……マジかよ」


 かろうじて、それだけが口から出た。


 警備隊の三人は、残敵の有無を確認するようにしばらく銃口を向けたまま静止していたが、やがて一人が僅かに頷くような動作をした。


 直後、彼らの体が粒子のようにほどけていく。


「え……」


 止める間も、問いかける間もない。


 三人は現れたときと同じように静かに消えた。


 残されたのは、ボロボロになった玄関と壁、そして外に転がるモンスターの死骸だけだった。


「……なんだよ、今の……」


 呆然と立ち尽くす。


 すると、また視界に表示が出る。




【モンスターを討伐しました】

スキルポイントを獲得しました

+1

【初回討伐ボーナス】

スキルポイントを獲得しました

+2

合計獲得スキルポイント:3




「……」


 少し遅れて、笑いが込み上げる。


 いや、笑うしかない。


 命の危機、謎の武装兵、モンスター討伐、そしてポイント獲得。


 本当に、ゲームじみている。


 だが胸の奥で感じている震えは本物だった。恐怖も、安堵も、全部現実だ。


「ステータス」


 声に出すと、画面が切り替わる。




【ステータス】

名前:黒瀬 悠真

種族:超人族

Lv:1

スキルポイント:3

【メインスキル】

《日常生活 Lv1》

【サブスキル】

《警備 Lv1》

 《警備》に意識を向ける。

【警備 Lv1】

・テリトリーが外敵から一定以上の損傷を受けた際に発動

・警備隊を召喚し、対象を排除する

・召喚人数:3

・会話機能:なし

・活動時間:短

・発動条件:テリトリー内への侵入危険度 中以上




「……なるほどな」


 かなり分かりやすい。


 つまり、このスキルは“俺が危険になったら勝手に守ってくれる”わけじゃない。


 あくまでテリトリー防衛。


 家が侵入されそうになったとき、初めて発動する。


「ってことは……」


 外では使えない。


 外で俺が襲われても、たぶん警備隊は出てこない。


 だからこそ、さっきの一件はギリギリだった。


 家に戻れたから生き残れた。


 戻れなかったら、終わっていた。


「……本当に、家が本体だな」


 俺はメガネを押し上げる。


 最初は生活補助スキルだと思っていた。


 だが違う。


 これはもっと、拠点防衛に寄っている。


 修復。


 環境維持。


 商品生成。


 そして警備。


「……この家、要塞じゃないか」


 自分で口にして、ようやく実感が湧いた。


 無敵じゃない。


 実際、玄関も壁もかなり壊された。


修復にも時間がかかる。


外で襲われればどうしようもない。


 でも、この家の中に戻れさえすれば。


 この家を守るための機構が整い始めれば。


 少なくとも、ただ怯えて死ぬだけの存在ではなくなれる。


 そのとき、また修復ゲージが目に入った。




【修復中】

玄関扉(大) 61%

壁面(中) 54%




 さっきまで壊れかけていた部分が、ゆっくりと元に戻り始めている。


ひしゃげた扉の金属が形を取り戻し、裂けた壁が塞がっていく。


 しかも、モンスターの死骸から飛び散った黒い体液まで、じわじわと消えていく。


「……掃除までしてくれるのか」


 徹底している。


 そうこうしているうちに修復ゲージが100%へ到達し、玄関は何事もなかったかのように元通りになった。


 俺はそっと扉に手を触れる。


 さっきまで壊されていた感触はない。


 冷たい、いつもの玄関扉だ。


「……助かった」


 遅れて、膝から力が抜けた。


 その場に座り込む。


 緊張が切れたせいか、手の震えが止まらない。


バールを握っていた右手がじんじんしていた。


さっきの一撃で弾かれた衝撃が残っている。


「……危なかった」


 今さらながら、喉が渇く。


 立ち上がって水を出し、一気に飲み干す。


冷たい水が喉を通っていく感覚だけで、生きていることを実感した。


 怖かった。


 正直に言えば、かなり。


 家の中にいれば安全だと、どこかで油断していた。


 だが現実は違う。


 家は守ってくれる。


 けれど、壊される。


 侵入される。


 ぎりぎりまで追い詰められる。


 そのうえで、ようやく《警備》が発動する。


「……万能じゃない」


 当たり前だ。


 そんな都合のいい話はない。


 でも。


「……十分だ」


 十分すぎる。


 俺一人では、あのモンスターに勝てない。


 けれど、この家なら勝てる。


 俺が強いんじゃない。


 テリトリーが強い。


 このスキルが強い。


 なら、やるべきことは一つだ。


「……もっと、強くする」


 家を。


 テリトリーを。


 警備を。


 修復を。


 商品生成を。


 外に出なくてもいいとは、もう思わない。


いずれは出る必要があるだろう。


物資の確保、周囲の把握、そして生き残るために。


 だが今はまだ早い。


 外は、俺の領域じゃない。


 今の俺にとって本当に安全なのは、この家の中だけだ。


 だから。


「……ここから先は、防衛優先だな」


 玄関を見つめる。


 数分前まで、あそこから死が入り込もうとしていた。


 その現実は、忘れない方がいい。


 生き延びたいなら、恐怖をちゃんと覚えておくべきだ。


 怖さを忘れた瞬間に、人は雑になる。


 そして死ぬ。


 窓の外へ目を向ける。


 夜の住宅街は静まり返っていた。


 何もいないように見える。


 だが、もう騙されない。


 静かだから安全なんじゃない。


 静かだからこそ、何が潜んでいるか分からない。


「……外は、まだ早い」


 ぽつりと呟く。


 そして、テーブルの上にバールを置いた。


 今日はもう、出ない。


 出る理由がない。


 いや、出るべきじゃない。


 今やるべきなのは、手に入れた新しい力を理解することだ。


 《警備》の細かい仕様。


 スキルポイントの振り先。


 そして、この家をどうすればもっと“落ちにくい拠点”にできるのか。


 考えるべきことは山ほどある。


 世界は崩壊した。


 でも、その中で。


 少なくともこの家だけは、まだ戦える。


「……まずは、生き延びる」


 そのためなら、どんな仕組みでも使う。


 どれだけ異常でも構わない。


 生き残った奴だけが、次を選べる。


 俺は静かに息を吐き、再びステータス画面を開いた。


 この家の強化方法を、考えるために。



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