天国への侵攻
第38話です。宜しくお願いします。
穏やかな昼下がりだった。
整えられた街路樹の間を、柔らかな風が通り抜ける。
噴水の水音が心地よく響き、子供たちの笑い声がそれに重なる。
「こらー!走ったら危ないですよー!」
「だって鬼ごっこだもん!」
公民館の前では、子供たちが元気に走り回り、それを見守る大人たちが微笑んでいる。
少し離れた飲食店では、昼の営業で賑わいを見せていた。
「定食一つお願いします!」
「はいよー!」
コンビニの前では、仕事終わりの住民たちが軽く雑談をしている。
――ここには、確かに“日常”があった。
あの地獄みたいな世界の中で、俺たちはそれを取り戻していた。
(……いい感じだな)
俺はマンションの窓から、その光景を眺めていた。
その時だった。
――――ピ――――――ッ!!
耳をつんざくような警報音が、街全体に響き渡る。
「……!?」
思わず顔を上げる。
次の瞬間、街のスピーカーから機械的な音声が流れた。
『警報。警報。テリトリー内に敵性反応を確認』
『即時、警戒態勢に移行してください』
空気が一変する。
さっきまでの穏やかさが、一瞬で消えた。
「な、何これ……!」
「敵……!?」
住民たちがざわつき、不安な声があちこちから上がる。
「落ち着いてください!」
浮田の声が響く。
「避難指示に従って行動してください!」
すぐに動き出す住民たち。
何度か訓練していたこともあって、完全にパニックにはなっていない。
だが、それでも恐怖は隠せない。
子供が泣き出す。
それを必死にあやす親。
日常が、音を立てて崩れていく。
(……来たか)
俺は小さく息を吐く。
玄関を出ると、既にみんな集まっていた。
「悠真さん……!」
未来が少し不安そうな顔でこちらを見る。
「敵……ですよね……?」
「あぁ、その可能性が高いな」
陸斗も、真剣な表情で前を見ている。
「外に行きますか……?」
「あぁ」
俺は短く答える。
「この街の中で戦うわけにはいかない」
チャン爺が静かに頷いた。
「外で迎え撃つのが得策ですな」
俺たちは、街の外へと出る。
そして――
その光景を見た瞬間、全員が足を止めた。
黒を基調としたマント。
胸元には、十字を思わせるエンブレム。
まるで軍隊のように、整然と並ぶ集団。
人数は、およそ30。
その姿は――
以前ここに現れた、門脇という男たちと酷似していた。
だが、違う。
空気が、圧が、明らかに違う。
そして――
その中心に立っていたのは、一人の女性だった。
鋭い目つき。
隠そうともしない、圧倒的な“暴力の気配”。
その女が、ゆっくりと一歩前に出る。
「……お前が」
低く、響く声。
「この“天国”とやらのリーダーか?」
その瞬間――
完全に、戦いの火蓋が切って落とされた。
その問いに、俺は一歩前に出る。
「天国……?」
小さく繰り返してから、肩をすくめる。
「天国かどうかは知らないが――ここは俺が管理している場所だ」
女をまっすぐ見据える。
「お前らは……またSPМってやつか?」
その言葉に、女の眉がわずかに動いた。
「……また、だと?」
小さく呟く。
「俺の前に誰か来てたのか?」
一瞬だけ考えるように視線をずらし、鼻で笑う。
「報告が上がってないってことは……どうせ門脇だろ」
「影山は上に従順だからな、勝手なことはしねぇ」
軽く肩を回しながら、こちらに視線を戻す。
「まぁいい」
そして――
一歩、踏み出す。
「俺の名前は――」
低く、重く。
「SPМ強襲隊隊長、凛堂 明日香」
その名乗りだけで、空気が張り詰める。
「俺たちはな……お前を“確かめに来た”」
視線が、まるで獲物を値踏みするように俺を捉える。
「確かめるって……何をだ?」
俺が問い返すと、凛堂はニヤリと笑った。
「決まってんだろ」
「お前らが――どれだけ“邪魔か”をな」
「は?」
思わず、声が漏れる。
「お前ら、勝手に避難民を助けてるらしいな」
「それがどうした?」
俺は即答する。
「助けるか助けないかは、俺たちの自由だろ」
「お前らだって助けてるんじゃないのか?」
一歩踏み込む。
「なら、お互いこの世界を生き抜くためにやってるだけだ」
「干渉する理由なんてないだろ」
その言葉に――
凛堂の笑みが、ゆっくりと消えた。
「……お前、何も分かってねぇな」
低く、吐き捨てる。
「困るんだよ」
一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「俺たちはな――」
その目が、歪む。
「この国の“唯一の救世主”にならなきゃいけねぇんだよ」
背後の隊員たちが、静かに頷く。
「国民は俺たちを崇め、従う」
「その状態を作ってる最中なんだよ」
そして、指をこちらに向ける。
「なのにお前らは――」
「勝手に救って、勝手に居場所を作ってる」
口角が吊り上がる。
「一言で言うとな――邪魔なんだよ」
その場の空気が、一瞬で冷えた。
住民たちも、未来たちも――全員が言葉を失っている。
だが、その沈黙を破ったのは――
「ふざけんなよ!!」
一人の住民だった。
前に出て、凛堂を睨みつける。
「お前らのお世話になんかならねぇよ!」
「ここで、悠真さんが受け入れてくれたんだ!」
「俺たちはここで、もう一度――普通に生きるんだよ!!」
その叫びは、震えていた。
だが、確かな意志があった。
「……ははっ」
俺は思わず、笑ってしまった。
そして、一歩前に出る。
「だよな」
住民の横に立ち、凛堂を見据える。
「俺たちはSPМには入らない」
軽く肩を回す。
「前にも一度、正式に断ってるしな」
そして――
ニヤリと笑う。
「自分たちのこと大好きなお子ちゃま集団の仲間なんて――」
「死んでもお断りだ」
一瞬、静寂。
そして――
凛堂の表情が、ピクリと歪む。
「……そうか」
ゆっくりと頷く。
「なら仕方ねぇな」
その声には、明確な“殺意”が混じっていた。
「救世主は俺たちだけで十分だ」
そして――
手を軽く上げる。
「――壊せ」
次の瞬間。
強襲隊が、一斉に動いた。
建物へ攻撃が叩き込まれる。
壁が砕け、窓が吹き飛ぶ。
「きゃあああ!!」
「逃げろ!!」
住民たちが悲鳴を上げ、後ろへと下がる。
だが――
その破壊は、すぐに止まる。
「……?」
隊員の一人が、違和感に気づく。
崩れたはずの建物が――
瞬時に、元通りに修復されていく。
まるで、最初から壊れていなかったかのように。
「無駄だな」
俺は静かに言う。
「ここは、俺のテリトリーだ」
凛堂の目が、細くなる。
「……スキルか」
明らかにイラついた表情。
「なら――」
ゆっくりと、拳を握る。
「お前をぶっ潰せば終わりだよな?」
その瞬間――
再び、隊が動いた。
今度は、真っ直ぐこちらへ。
「来るわよ……!」
未来が叫ぶ。
「いきます……!」
陸斗が構える。
チャン爺が、静かに刀を抜く。
俺も、手をかざす。
「――警備、出動」
次の瞬間。
俺の前に、二つの影が現れる。
「呼ばれて飛び出て――アルであります!!」
「……ソックスです」
テンションMAXのアルと、いつも通りのソックス。
だが――
その手に握られている武器が違う。
機関銃が、もう一つ増えている。
しかも、明らかに“強化されている”。
(……やっぱりか)
俺は小さく笑う。
気づいていた。
この街で生活していく中で――
俺たちは、確実に強くなっている。
「面白ぇ……」
凛堂が笑う。
その目は、完全に戦闘狂のそれだった。
「ちょっとは楽しめそうじゃねぇか」
俺は、深く息を吸う。
そして――
「――守るぞ」
その一言で、全員の意識が揃う。
未来が動き、シャドウウルフを展開する。
陸斗の光線が空を裂く。
チャン爺の斬撃が閃く。
アルとソックスの銃撃が響く。
そして――
俺は、凛堂を見据える。
ここからが、本当の戦いだ。
“天国”を守るための――戦いが、始まる。
実は今これを書いているのが日曜日なのですが、
土曜日に風邪を引いてしまってまだ治ってないんです。
土日で4話の執筆を予定していたのですが、2話しか
かけなかったので、やばいです……。
ストックがほとんどなくなってしまいました……。




