楽園 ― そして侵入者
第37話です。宜しくお願いします。
街が完成してから、数日が経った。
最初に変わったのは――住民たちの“生活”だった。
「ここ、日当たりいいですね!」
「こっちは広いけど、ちょっと遠いな……」
あちこちで、そんな声が聞こえる。
新しく整備された住宅街。
そこには、好きな家を選び、引っ越しを始める住民たちの姿があった。
家族で相談しながら決める者。
一人で静かに決める者。
それぞれが、自分の“居場所”を選んでいく。
その光景は、まるで――
昔の、当たり前だった日常のようだった。
(……いいな)
俺はその様子を少し離れた場所から眺めていた。
自分が作った街で、誰かが暮らしている。
それを実感するたびに、少しだけ胸が熱くなる。
とはいえ――
全員がマンションを出たわけではない。
「俺はここでいいかな」
「職場近いですしね」
そう言って、そのままマンションに残る住民も多かった。
確かに、設備も整っているし、利便性も高い。
何より、安心感がある。
無理に外へ出る必要はない。
それぞれが、自分に合った生活を選んでいる。
それが――この街の形だった。
働く場所も、しっかりと機能していた。
「いらっしゃいませー!」
コンビニでは、元気な声が響く。
レジを担当する者。
品出しをする者。
役割分担が自然とできている。
スーパーでは――
「野菜、補充しておきますね」
「ありがとうございます!」
商品が整然と並び、人の流れもスムーズだ。
飲食店では、料理の香りが漂ってくる。
「こちら、出来上がりました!」
「美味そう……!」
住民たちが笑顔で食事を楽しんでいる。
そこには、もう“生きるため”だけの空間ではなく――
“生活するため”の空間があった。
公民館も、大きく役割を変えていた。
半分は――教室。
「はい、ここはこうなります」
黒板の前で、元教師が丁寧に説明している。
子供たちは真剣に話を聞き、ノートを取っている。
その隣では――
「はい、次はこっちで遊ぼうか」
託児所として、小さな子供たちが遊んでいる。
そして、もう半分は――
「いやぁ、昔はな……」
「そうなんですか」
穏やかな会話が流れる空間。
老人ホームのような役割を果たしていた。
年齢も、立場も違う人たちが――
それぞれの形で、この街で生きている。
そして――
気づけば、住民の数はさらに増えていた。
現在――210人。
あのマンションだけでは考えられなかった規模だ。
(……ここまで来たか)
俺は街を見渡しながら、小さく息を吐く。
人が増え、生活が広がり、街ができていく。
それは、確実に――
“理想”に近づいていた。
だが――
この時の俺は、まだ知らなかった。
この場所が――
“外の世界”から、どう見られているのかを。
――場面は変わる。
荒れ果てた市街地。
崩れたビルの影から、低い唸り声が響く。
「グルルル……」
数体のモンスターが、逃げ惑う人々を追い詰めていた。
「た、助けて……!」
「来るな……来るなぁ!!」
その瞬間――
轟音が鳴り響く。
「――遅ぇんだよ」
次の瞬間、モンスターの身体が吹き飛んだ。
地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「もう終わりか?」
別の隊員が笑いながら言う。
その周囲では、次々とモンスターが倒されていく。
圧倒的な力。
それは“戦い”というより、“蹂躙”だった。
「……終わったか」
男がそう呟くと、武器を肩に担ぐ。
周囲には、倒れたモンスターの死骸。
そして――
怯えながらも、助かったことに安堵している避難民たち。
「た、助かりました……!」
「ありがとうございます……!」
何人かが、頭を下げる。
だが――
「は?」
その男は、眉をひそめた。
「当たり前だろ」
吐き捨てるように言う。
「俺たちは“選ばれた側”なんだよ」
その言葉に、周囲の強襲隊員たちがクスクスと笑う。
「守ってやったんだから、感謝くらいちゃんとしろ」
その態度は、どこか威圧的で――
“守る者”というより、“支配する者”に近かった。
「まぁいい」
男は腕を組みながら続ける。
「お前らには、居住区を用意してある」
「小さいけどな」
「それと、配給もある」
指で方向を示す。
「ありがたく思えよ」
その言葉に、避難民たちは顔を見合わせる。
助けてもらった。
だが――
その先にある生活が、決して“良いもの”ではないことも、何となく理解していた。
少しの沈黙。
そして――
一人の女性が、静かに口を開いた。
「……すみません」
「私たちは――遠慮します」
「……は?」
空気が、一瞬で凍る。
「なんだって?」
男の声が低くなる。
だが、女性は震えながらも続けた。
「私たちは……“天国”に行くので」
その言葉に、周囲がざわつく。
「……天国?」
「なんだそれ」
強襲隊の一人が眉をひそめる。
女性は、ゆっくりと説明する。
「昔のような生活ができる場所です」
「食べ物もあって、安心して暮らせて……」
「皆、そこで……普通に生活しているって……」
その言葉は、どこか夢物語のようで――
だが、確かな“希望”を含んでいた。
「……そんな場所、あるわけねぇだろ」
男が吐き捨てる。
だが――
避難民たちは、もう迷っていなかった。
「それでも……行きます」
「ありがとうございます、助けていただいて」
深く頭を下げる。
そして――
そのまま、足早にその場を去っていく。
止める者はいなかった。
ただ、強襲隊の連中は――
その背中を、無言で見つめていた。
「……なんだよ、それ」
ぽつりと呟く。
理解できない。
自分たちが提示した“安全”よりも――
見えない何かを選ぶ、その判断が。
「……報告するぞ」
別の隊員が口を開く。
「隊長に」
「あぁ……そうだな」
男はゆっくりと振り返る。
「面倒な話になりそうだ」
――SPМ本部。
無機質な空間に、数人の隊員が並んでいた。
「……以上です」
先程の件を報告し終えた隊員が、静かに頭を下げる。
その前に立っていたのは――
一人の女。
長い髪を無造作にかき上げ、鋭い目つきでこちらを見下ろしている。
凛堂 明日香。
SPМの中でも“最強”と呼ばれる存在。
「……はぁ?」
その一言で、空気が一気に重くなる。
「オレらの誘いを断った?」
低く、苛立ちを含んだ声。
「しかも、“天国”?……だと?」
凛堂はゆっくりと笑う。
だが、その笑みには一切の温度がない。
「……調子乗ってんな」
その場にいた隊員たちは、誰も口を開けない。
「オレらが守ってやってんだぞ?」
「それを断るってことは……」
一歩、前に出る。
「それ以上の何かがあるってことだよなぁ?」
その目は、明らかに“獲物”を見つけた目だった。
――ここで、少しだけ説明しておく。
SPМには、5つの部隊が存在する。
その中でも、戦闘に特化した部隊は3つ。
・戦術隊
・影撃隊
・強襲隊
そして、その中でも――
最も“攻撃力”に特化しているのが、強襲隊だ。
力でねじ伏せる。
派手に、圧倒的に、敵を潰す。
それが、この部隊のやり方。
そして――
その強襲隊を率いるのが、この女。
凛堂 明日香だった。
「……面白そうじゃねぇか」
凛堂は肩を回しながら言う。
「“天国”ねぇ……」
鼻で笑う。
「温い場所なら――」
その目が、鋭く光る。
「オレ様がぶっ潰す」
その一言で、全員のスイッチが入る。
「出るぞ」
誰も反論しない。
強襲隊は、そのまま出動した。
――数時間後。
「……なんだ、ここ」
隊員の一人が思わず呟く。
そこに広がっていたのは――
“異様な光景”だった。
崩壊した世界の中で――
その一角だけが、明らかに違う。
整えられた道路。
綺麗な建物。
手入れされた街路樹。
そして――
人々の“笑顔”。
「子供が……遊んでる……?」
「店も……動いてるぞ……」
信じられない光景だった。
凛堂は、その光景を見つめたまま動かない。
「……は?」
思わず、言葉が漏れる。
戦場でも、血でも、死でもない。
そこにあったのは――
“普通の生活”だった。
「……なんだよ、これ」
その声は、わずかに揺れていた。
だが、次の瞬間――
その目が、ゆっくりと歪む。
「……ここが、“天国”か?」
口元が吊り上がる。
「……気に入らねぇな」
その視線の先には――
楽しそうに笑う住民たち。
そして、その中心にある街。
「壊しがいがある」
凛堂は、そう呟いた。
その瞬間――
この街に、初めて“外の脅威”が向けられた。
戦術隊は以前、悠真達の前に訪れた門脇隊長が戦術隊の隊長です。
戦術隊はとにかくトリッキーなスキルで戦うのが特徴的な集団になります。




