楽園 ― そして侵入者
第37話です。宜しくお願いします。
街が完成してから、数日が経った。
最初に変わったのは――住民たちの“生活”だった。
「ここ、日当たりいいですね!」
「こっちは広いけど、ちょっと遠いな……」
あちこちで、そんな声が聞こえる。
新しく整備された住宅街。
そこには、好きな家を選び、引っ越しを始める住民たちの姿があった。
家族で相談しながら決める者。
一人で静かに決める者。
それぞれが、自分の“居場所”を選んでいく。
その光景は、まるで――
昔の、当たり前だった日常のようだった。
(……いいな)
俺はその様子を少し離れた場所から眺めていた。
自分が作った街で、誰かが暮らしている。
それを実感するたびに、少しだけ胸が熱くなる。
◇
とはいえ――
全員がマンションを出たわけではない。
「俺はここでいいかな」
「職場近いですしね」
そう言って、そのままマンションに残る住民も多かった。
確かに、設備も整っているし、利便性も高い。
何より、安心感がある。
無理に外へ出る必要はない。
それぞれが、自分に合った生活を選んでいる。
それが――この街の形だった。
働く場所も、しっかりと機能していた。
「いらっしゃいませー!」
コンビニでは、元気な声が響く。
レジを担当する者。
品出しをする者。
役割分担が自然とできている。
スーパーでは――
「野菜、補充しておきますね」
「ありがとうございます!」
商品が整然と並び、人の流れもスムーズだ。
飲食店では、料理の香りが漂ってくる。
「こちら、出来上がりました!」
「美味そう……!」
住民たちが笑顔で食事を楽しんでいる。
そこには、もう“生きるため”だけの空間ではなく――
“生活するため”の空間があった。
◇
公民館も、大きく役割を変えていた。
半分は――教室。
「はい、ここはこうなります」
黒板の前で、元教師が丁寧に説明している。
子供たちは真剣に話を聞き、ノートを取っている。
その隣では――
「はい、次はこっちで遊ぼうか」
託児所として、小さな子供たちが遊んでいる。
そして、もう半分は――
「いやぁ、昔はな……」
「そうなんですか」
穏やかな会話が流れる空間。
老人ホームのような役割を果たしていた。
年齢も、立場も違う人たちが――
それぞれの形で、この街で生きている。
そして――
気づけば、住民の数はさらに増えていた。
現在――210人。
あのマンションだけでは考えられなかった規模だ。
(……ここまで来たか)
俺は街を見渡しながら、小さく息を吐く。
人が増え、生活が広がり、街ができていく。
それは、確実に――
“理想”に近づいていた。
だが――
この時の俺は、まだ知らなかった。
この場所が――
“外の世界”から、どう見られているのかを。
◇
――場面は変わる。
荒れ果てた市街地。
崩れたビルの影から、低い唸り声が響く。
「グルルル……」
数体のモンスターが、逃げ惑う人々を追い詰めていた。
「た、助けて……!」
「来るな……来るなぁ!!」
その瞬間――
轟音が鳴り響く。
「――遅ぇんだよ」
次の瞬間、モンスターの身体が吹き飛んだ。
地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「もう終わりか?」
別の隊員が笑いながら言う。
その周囲では、次々とモンスターが倒されていく。
圧倒的な力。
それは“戦い”というより、“蹂躙”だった。
「……終わったか」
男がそう呟くと、武器を肩に担ぐ。
周囲には、倒れたモンスターの死骸。
そして――
怯えながらも、助かったことに安堵している避難民たち。
「た、助かりました……!」
「ありがとうございます……!」
何人かが、頭を下げる。
だが――
「は?」
その男は、眉をひそめた。
「当たり前だろ」
吐き捨てるように言う。
「俺たちは“選ばれた側”なんだよ」
その言葉に、周囲の強襲隊員たちがクスクスと笑う。
「守ってやったんだから、感謝くらいちゃんとしろ」
その態度は、どこか威圧的で――
“守る者”というより、“支配する者”に近かった。
◇
「まぁいい」
男は腕を組みながら続ける。
「お前らには、居住区を用意してある」
「小さいけどな」
「それと、配給もある」
指で方向を示す。
「ありがたく思えよ」
その言葉に、避難民たちは顔を見合わせる。
助けてもらった。
だが――
その先にある生活が、決して“良いもの”ではないことも、何となく理解していた。
少しの沈黙。
そして――
一人の女性が、静かに口を開いた。
「……すみません」
「私たちは――遠慮します」
「……は?」
空気が、一瞬で凍る。
「なんだって?」
男の声が低くなる。
だが、女性は震えながらも続けた。
「私たちは……“天国”に行くので」
その言葉に、周囲がざわつく。
「……天国?」
「なんだそれ」
強襲隊の一人が眉をひそめる。
女性は、ゆっくりと説明する。
「昔のような生活ができる場所です」
「食べ物もあって、安心して暮らせて……」
「皆、そこで……普通に生活しているって……」
その言葉は、どこか夢物語のようで――
だが、確かな“希望”を含んでいた。
「……そんな場所、あるわけねぇだろ」
男が吐き捨てる。
だが――
避難民たちは、もう迷っていなかった。
「それでも……行きます」
「ありがとうございます、助けていただいて」
深く頭を下げる。
そして――
そのまま、足早にその場を去っていく。
止める者はいなかった。
ただ、強襲隊の連中は――
その背中を、無言で見つめていた。
「……なんだよ、それ」
ぽつりと呟く。
理解できない。
自分たちが提示した“安全”よりも――
見えない何かを選ぶ、その判断が。
「……報告するぞ」
別の隊員が口を開く。
「隊長に」
「あぁ……そうだな」
男はゆっくりと振り返る。
「面倒な話になりそうだ」
◇
――SPМ本部。
無機質な空間に、数人の隊員が並んでいた。
「……以上です」
先程の件を報告し終えた隊員が、静かに頭を下げる。
その前に立っていたのは――
一人の女。
長い髪を無造作にかき上げ、鋭い目つきでこちらを見下ろしている。
凛堂明日香。
SPМの中でも“最強”と呼ばれる存在。
「……はぁ?」
その一言で、空気が一気に重くなる。
「オレらの誘いを断った?」
低く、苛立ちを含んだ声。
「しかも、“天国”? ……だと?」
凛堂はゆっくりと笑う。
だが、その笑みには一切の温度がない。
「……調子乗ってんな」
その場にいた隊員たちは、誰も口を開けない。
「オレらが守ってやってんだぞ?」
「それを断るってことは……」
一歩、前に出る。
「それ以上の何かがあるってことだよなぁ?」
その目は、明らかに“獲物”を見つけた目だった。
◇
――ここで、少しだけ説明しておく。
SPМには、5つの部隊が存在する。
その中でも、戦闘に特化した部隊は3つ。
・戦術隊
・影撃隊
・強襲隊
そして、その中でも――
最も“攻撃力”に特化しているのが、強襲隊だ。
力でねじ伏せる。
派手に、圧倒的に、敵を潰す。
それが、この部隊のやり方。
そして――
その強襲隊を率いるのが、この女。
凛堂明日香だった。
「……面白そうじゃねぇか」
凛堂は肩を回しながら言う。
「“天国”ねぇ……」
鼻で笑う。
「温い場所なら――」
その目が、鋭く光る。
「オレ様がぶっ潰す」
その一言で、全員のスイッチが入る。
「出るぞ」
誰も反論しない。
強襲隊は、そのまま出動した。
◇
――数時間後。
「……なんだ、ここ」
隊員の一人が思わず呟く。
そこに広がっていたのは――
“異様な光景”だった。
崩壊した世界の中で――
その一角だけが、明らかに違う。
整えられた道路。
綺麗な建物。
手入れされた街路樹。
そして――
人々の“笑顔”。
「子供が……遊んでる……?」
「店も……動いてるぞ……」
信じられない光景だった。
凛堂は、その光景を見つめたまま動かない。
「……は?」
思わず、言葉が漏れる。
戦場でも、血でも、死でもない。
そこにあったのは――
“普通の生活”だった。
「……なんだよ、これ」
その声は、わずかに揺れていた。
だが、次の瞬間――
その目が、ゆっくりと歪む。
「……ここが、“天国”か?」
口元が吊り上がる。
「……気に入らねぇな」
その視線の先には――
楽しそうに笑う住民たち。
そして、その中心にある街。
「壊しがいがある」
凛堂は、そう呟いた。
その瞬間――
この街に、初めて“外の脅威”が向けられた。
戦術隊は以前、悠真達の前に訪れた門脇隊長が戦術隊の隊長です。
戦術隊はとにかくトリッキーなスキルで戦うのが特徴的な集団になります。
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