選択
第26話です。宜しくお願いいたします。
門の前。
静かな緊張が流れていた。
未来が操作する犬が、一歩前に出る。
そして――
「断る」
短く、はっきりと言った。
その瞬間。
「はぁ!?」
「おいおいおい!」
「ふざけてんのか!?」
後ろに控えていた隊員たちが一斉に騒ぎ出した。
「俺達が直々に来てやってるんだぞ!?」
「最強の部隊だぞ!?光栄に思えよ!!」
怒号が飛び交う。
だが――
「やめろ」
低く、よく通る声が響いた。
門脇隊長だった。
一言で、空気が止まる。
騒いでいた隊員たちも、口を閉じる。
「……すいませんでした」
門脇隊長は犬へと視線を戻す。
「少し、話をさせてもらえないか」
落ち着いた声だった。
威圧ではない。
あくまで“対話”の姿勢。
(……話は通じそうだな)
リビングでその様子を見ながら、俺は小さく息を吐く。
感情で動くタイプじゃない。
少なくとも――
あの男は。
「未来」
「うん」
「条件を伝えてくれ」
未来が頷く。
犬が、再び口を開く。
「なら――条件がある」
門の向こうの視線が集まる。
「門脇。あんた一人だけ、こっちに入れ」
一瞬の沈黙。
そして――
「なっ……!?」
「隊長一人だと!?」
また外野がざわつく。
「危険すぎます!」
「罠かもしれません!」
声が飛ぶ。
だが。
「……分かった」
門脇は即答した。
周囲が一斉に彼を見る。
「私一人で行こう」
「隊長!?」
「問題ない」
短く言い切る。
その言葉に、誰もそれ以上は口を挟めなかった。
門が開く。
ゆっくりと、門脇が足を踏み入れる。
その瞬間――
周囲の空気が変わった。
植物。
地面。
空間そのもの。
目には見えないが、確実に“何か”が張り巡らされている。
(……罠か)
門脇は内心で理解する。
だが、表情には出さない。
そのまま進む。
建物の前に立つ。
そして、扉が開いた。
そこに立っていたのは――
「いらっしゃいませ」
深く頭を下げる、一人の執事。
「どうぞ、こちらへ」
自然な動作で、案内する。
(……執事、か)
わずかに目を細める。
だが、何も言わず、その後に続いた。
中に入った瞬間。
「……」
門脇の足が、一瞬だけ止まる。
広い。
明らかに、外観以上の広さ。
空間の広がりが、異常だ。
さらに――
豪華な内装。
磨き上げられた床。
整えられた調度品。
崩壊した世界とは、まるで別物。
(……なんだ、ここは)
心の中で呟く。
だが、顔には出さない。
そのまま歩き続ける。
案内されたのは、応接間だった。
「少々お待ちください」
チャン爺が一礼し、静かに去っていく。
入れ違いで――
「失礼致します」
一葉が紅茶を運んでくる。
無駄のない動き。
静かな所作。
そして、そのまま一礼して退出した。
数分。
静寂が流れる。
――コン。
扉がノックされる。
「失礼する」
声と共に、扉が開いた。
入ってきたのは――
黒瀬悠真。
ゆっくりと歩き、向かいの席に座る。
「……待たせたな」
一言、そう言って。
門脇を真っ直ぐ見る。
「警戒した態度、悪かった」
軽く頭を下げる。
「俺の名前は黒瀬悠真」
「この建物の家主だ」
静かに、名乗る。
そして、続ける。
「それで――」
一呼吸置く。
「話ってのは、スカウトのことだろ」
そのまま、視線を逸らさずに言った。
「門でも言ったが俺は入るつもりはない」
はっきりと。
迷いなく。
「それと」
少しだけ首を傾ける。
「そもそも――SPМって何だ?」
「……何?」
門脇が、わずかに目を細める。
「SPМを知らないのか?」
「あぁ、全く聞いた事もない」
俺は肩をすくめて答えた。
その反応に、門脇は小さく息を吐く。
「……なるほど」
そして、静かに口を開いた。
「では、説明しよう」
紅茶に手を伸ばし、一口だけ口に含む。
その動作一つも、無駄がない。
「SPМは、国が設立した組織だ」
「ゲートの出現により、自衛隊だけでは対処が不可能になった」
「だから――」
「超人族のみで構成された、対モンスター専門部隊を作った」
淡々とした説明。
だが、その内容は重い。
「超人族だけで……?」
思わず口に出る。
「そんなに、いるのか」
「思っている以上にはな」
門脇は短く答える。
俺は少しだけ考えた後、口を開いた。
「……それで」
「なんで、俺が超人族だと思った?」
あえて“俺”とだけ言う。
この場にいるのは、自分一人。
そう思わせるために。
だが――
「君“達”が、だ」
門脇は、はっきりとそう言った。
「……」
内心で苦笑する。
(バレてるか)
「シャドウウルフの死体を辿ってきた」
「数、倒し方、位置」
「どう考えても一人の仕事じゃない」
的確だ。
否定のしようがない。
(まぁ、そりゃそうか)
あれだけ派手にやれば、気付かれるのも当然だ。
「それに」
門脇が続ける。
「こちらも、見られていたようだな」
その視線が、ゆっくりと壁へ向く。
小型の監視カメラ。
「……」
リビングの空気が、一瞬凍る。
(……気付いてる)
未来たちが息を呑む。
だが門脇は、特に気にした様子もなく言った。
「お互い様だろう」
軽く笑う。
俺も、口を開いた。
「あのアニマル小僧だろ」
「犬だけじゃなく、この前は馬にもなってたな」
一瞬。
門脇の目が細くなる。
そして――
「はははっ」
小さく笑った。
「なるほど」
「やはり、気付いていたか」
視線が戻る。
まっすぐに、こちらを見る。
「お互い、何でもお見通しだな」
そして、空気が変わる。
門脇の表情が、わずかに引き締まる。
「……さて、本題だ」
一拍。
「君達は“力”を持ってしまった」
「それは、偶然ではない」
「選ばれたとも言える」
静かな声。
だが、重みがある。
「ならば――」
「国に尽くす義務があるとは思わないか?」
その言葉に、空気が張り詰める。
「今、日本は崩壊しかけている」
「物資も、食料も、居住区も足りない」
「ゲートは増え続け、モンスターは止まらない」
「救える命が、山ほどある」
真っ直ぐな言葉だった。
「君達の力で」
「助けられる人間がいる」
その視線が、こちらを射抜く。
「それでも――」
「ここに引きこもるのか?」
少しだけ、考える。
ほんの一瞬。
だが――
答えは、もう決まっていた。
「……悪いな」
俺は、静かに言った。
「答えは変わらない」
視線を逸らさずに続ける。
「そっちの組織に入るつもりはない」
一呼吸。
「国の犬になる気もない」
はっきりと。
だが、強く言い切る。
「俺達は――」
ほんの少しだけ、言葉を選ぶ。
「ここにいる“家族”を守りたい」
その一言に。
監視カメラの向こうで、空気が揺れた。
「この家族がいる日常生活を、当たり前にしたい」
そして。
「もちろん」
「元の日本を取り戻したい気持ちもある」
「だから――」
「俺達は、俺達なりに動く」
それが、俺の答えだ。
「……そうか」
門脇は、短く呟いた。
少しだけ目を閉じる。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「分かった」
「これ以上は、無理にとは言わない」
その声には、納得があった。
「日本を思う気持ちは、同じだからな」
そう言って、軽く頷く。
「今日は、帰らせてもらう」
それだけ言って、背を向けた。
建物を出て、門の外。
「隊長〜!」
犬飼がすぐに駆け寄る。
「いいんですか?あんなあっさり!」
「せっかく俺が調査してきたのに〜!」
少し不満そうに言う。
門脇は、歩きながら答えた。
「あぁ、仕方ない」
「……最近のSPМは、少し歪んでいる」
その言葉に、犬飼は少しだけ表情を変える。
「力に溺れてる奴も多い」
「本来の目的を見失っている連中もな」
視線を前に向けたまま、続ける。
「だが、あいつは違った」
「……あぁいう奴が、本来の形なんだろうな」
小さく呟いた。
一方、その頃。
「……すまない」
俺は、みんなに向き直る。
「俺一人で決めたことだけど」
「ついてきてくれるか?」
静かに問いかける。
少しの沈黙。
そして――
「もちろんです!」
真っ先に、陸斗が答えた。
「僕達の幸せ、みんなにも分けてあげましょう!」
真っ直ぐな目。
「美咲もがんばるー!!」
元気な声が響く。
未来も、ふっと笑う。
「悠真は私達の家族だもん」
「家族が決めたことに文句なんてないよ」
浮田は肩をすくめながら言う。
「元々、医者だからな」
「人を助けるのは当然だ」
チャン爺は、深く頭を下げる。
「坊ちゃまの日常生活、全力でお支え致します」
「ご主人様の命令に従います」
メイド三人も、揃って頭を下げた。
その光景を見て。
思わず、少しだけ笑う。
「……ありがとな」
ふぅ、と息を吐く。
「さぁ」
「これから忙しくなりそうだな」
そう言って――
数秒、間が空く。
「……あ」
思い出したように顔を上げる。
「今日はオフだったな」
一瞬の沈黙。
そして――
「解散ー!」
手を叩く。
「俺はアニメの続き観るから!」
そう言って、そのまま部屋へと戻っていく。
「えー!?」
「ずるーい!」
後ろから声が飛ぶ。
だが、もう止まらない。
さっきの続きが気になって仕方ない。
扉を閉める。
再び、日常へ。
だが――
その日常は、確実に動き始めていた。
門脇隊長のスキル実は面白いスキルなので、
ここで無理やり出そうかとも考えたのですが、
また、次回に取っておきますね。




