日常を創る者たち
第27話です。宜しくお願いいたします。
翌朝――。
リビングにはいつものように人が集まっていた。
だが、その空気はほんの少しだけ違っていた。
昨日の出来事――SPМとの接触。
それが、確実に何かを変えていた。
テーブルにはチャン爺が用意した朝食が並んでいる。
焼きたてのパンに、スクランブルエッグ、スープ。
いつも通りの、穏やかな朝のはずだった。
しかし――
「……昨日の人達、ちょっと怖かったですね」
陸斗がぽつりと呟く。
その声は、どこか緊張を含んでいた。
「うーん、確かにね。悪い人って感じじゃなかったけど……」
未来はコーヒーを一口飲みながら、視線を少しだけ落とす。
何かを考えている顔だった。
「でも、すごい人達だったよね!」
美咲だけはいつも通りだ。
パンを頬張りながら、キラキラした目で話している。
この空気の違いに気付いていないのか、それとも気にしていないのか。
どちらにしても、その無邪気さが少しだけ場を和ませていた。
そんな中――
「……みんな、ちょっといいか」
悠真が静かに口を開いた。
全員の視線が悠真へと集まる。
少しだけ間を置いてから、悠真は続けた。
◇
「今後のことなんだけどさ」
「俺のテリトリー、今4つまで登録できるんだ」
「今は――」
指を折りながら説明する。
「元々の俺の家」
「コンビニ」
「総合病院」
「この3つを登録して、今のこの建物になってる」
リビングを見渡す。
豪華な内装、広い空間、全てが融合されたこの拠点。
「つまり、あと1つ登録できるってわけだ」
その言葉に、未来が少しだけ顔を上げた。
「……それで?」
促すように聞く。
悠真は頷いた。
「昨日も言ったけどさ」
「俺は、避難してる人達を助けたいと思ってる」
その言葉に、全員が黙って耳を傾ける。
「だから――」
一度、言葉を切る。
「新しく、マンションをテリトリー登録しようと思う」
「そこに、避難してる人達を匿う」
少しだけ空気が動いた。
「……マンション?」
未来が小さく呟く。
「あぁ」
「この拠点とは別で運用する」
「俺のスキルなら、物資も食料も問題ない」
「警備もできる」
淡々とした説明。
だが、その中には確かな意志があった。
「つまり――」
「安全な避難場所を、もう一つ作るってことだ」
少しの沈黙。
最初に口を開いたのは未来だった。
「……いいと思う」
はっきりとした声。
「避難してる人達を助けるって意味でもそうだし」
「拠点を分けるのは正解ね」
腕を組み、冷静に続ける。
「ここに全員集めるより、管理もしやすい」
「リスク分散にもなるし」
完全に“分析”としての意見だった。
感情ではなく、理屈。
それが逆に、この案の現実味を強めていた。
悠真は軽く頷く。
「だよな」
◇
――その時だった。
「……少し待ってくれ」
低く、落ち着いた声。
浮田だった。
その一言で、空気が少し引き締まる。
「避難民を助けるのは賛成だ」
「それ自体に異論はない」
ゆっくりと、言葉を選びながら続ける。
「だが――」
一度、全員を見渡す。
「タダで全てを与えるのか?」
その問いに、誰もすぐには答えられなかった。
「それは……甘やかしすぎだと思う」
はっきりとした否定。
だが、感情的ではない。
あくまで“現実”としての言葉だった。
「体裁の問題でもある」
「秩序の問題でもある」
少しだけ、息を吐く。
「人はな――」
「与えられるだけの環境にいると、崩れる」
リビングが静まり返る。
「この世界がこうなる前、人は皆それぞれ役割を持っていた」
「働いて、学んで、支え合っていた」
浮田の視線が悠真に向く。
「お前が言ってる“日常”ってのは、そういうもんだろ?」
その言葉に、悠真は黙って聞いていた。
「だから俺はこう思った」
「ただ助けるんじゃない」
「――協力してもらうべきだ」
そこで一度、言葉が止まる。
「協力……?」
悠真が聞き返す。
浮田は小さく頷いた。
◇
「あぁ」
「例えばだ――」
指を立てて、一つずつ言葉を並べていく。
「マンションの一階を改造して、物資や食料を扱う店にする」
「そこに住む人間に、店番や管理を任せる」
未来が少しだけ目を細める。
「……なるほど」
浮田は続ける。
「それだけじゃない」
「小さな医療施設を作る」
「住民の健康管理を行う」
「人が増えれば、マンションの管理も必要になる」
「さらに――」
一瞬、間を置く。
「子供がいれば、学ぶ場所も必要だ」
「学校や託児所も作るべきだろう」
静かだが、確実に現実を見据えた言葉だった。
「つまり――」
「物資や住む場所を提供する代わりに、働いてもらう」
そして、最後に付け加える。
「超人族がいれば、スキルに応じた役割も与えられる」
「戦闘、補助、医療、何でもな」
その言葉に、リビングの空気が変わった。
ただの避難所ではない。
“機能する場所”のイメージが、一気に広がる。
数秒間、誰も言葉を発しなかった。
考えている。
全員が、それぞれの立場でこの案を咀嚼していた。
「……確かに」
最初に口を開いたのは陸斗だった。
「その方が、現実的ですね」
少しだけ考えた後の言葉。
納得の色がはっきりと出ている。
「ただ守るだけじゃ、続かないですもんね」
未来も静かに頷く。
「管理もしやすくなるし、秩序も保てる」
「……いい案ね」
チャン爺も、顎に手を当てながら口を開いた。
「社会の再構築……でございますか」
「興味深いお話でございます」
一葉たちメイドは揃って頭を下げる。
「ご主人様のご意志、承知致しました」
その言葉に迷いはない。
ただ従うのではなく、理解した上での応答だった。
「えーっと……」
美咲が少し困った顔で首を傾げる。
「みんなで暮らすってこと?」
その問いに、悠真は少しだけ笑った。
「あぁ、そうだな」
「ただ住むだけじゃなくて、ちゃんと生活する場所だ」
優しく説明する。
美咲は「そっかぁ……!」と小さく頷いた。
◇
悠真はゆっくりと息を吐いた。
「……いいな、それ」
浮田の方を見る。
「ただ守るだけじゃ意味がない、か」
少しだけ考えるように目を細める。
「日常ってのは――」
小さく笑う。
「作るもんだよな」
そして、はっきりと言った。
「その案、採用だ」
その一言で、全てが決まった。
「じゃあ、次は場所だな」
悠真はテーブルに地図を広げた。
崩壊した街の中で、まだ形を保っているエリアを指でなぞる。
「……ここだな」
指が止まる。
都心部にある、高層マンション。
未来がすぐに覗き込む。
「……かなり大きいわね」
「住居スペースも十分ある」
「出入口も限られてるから、防衛もしやすい」
分析は即座に終わる。
悠真は頷いた。
「だからいい」
「ここを使う」
「じゃあ、行くか」
悠真が立ち上がる。
それに合わせて、他のメンバーも動き出す。
「今回は探索ですね」
陸斗が確認するように言う。
「あぁ」
悠真は軽く答える。
「まずは下見だ」
「使えるかどうか見てからだな」
「ドライブだー!」
美咲だけはテンションが上がっていた。
「いや目的違いますよ!」
と陸斗がツッコむ。
少しだけ、笑いが生まれる。
張り詰めていた空気が、自然と和らいでいく。
◇
ミニバンが発進する。
崩壊した街を、静かに走り抜けていく。
割れたガラス、崩れた建物、放置された車。
かつての日常の残骸が、そこかしこに転がっていた。
その中を――
悠真達は進む。
(誰かに与えられる日常じゃない)
ハンドルを握りながら、悠真は思う。
(俺達が――)
前を見据える。
(作る)
その瞳には、迷いはなかった。
かなり規模が大きくなってきましたね。
読んで頂きありがとうございます!!
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