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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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197/202

責任を取ろうとする男と責任を逃れようとする男

第197話です。宜しくお願い致します。



悠真は、深澤総理の部屋の前に立っていた。

 東京の復旧作業はひと段落した。

 住民達も避難シェルターから戻り、街には少しずつ日常が戻り始めている。

 だが、悠真の仕事はまだ終わっていなかった。

 山梨で起きたこと。

 東京で起きたこと。

 そして、大坂を拠点とする《Monster》という組織の存在。

 深澤総理へ報告しなければならないことは、山ほどある。

 悠真は小さく息を吐き、扉をノックした。

「失礼します」

 そう言って扉を開けると、部屋の中には深澤総理が椅子に座っていた。

 深澤総理は、悠真を見るとすぐに立ち上がる。

 悠真は頭を下げながら口を開いた。

「この度は報告が遅れて……」

 だが、その言葉は最後まで続かなかった。

 深澤総理が、悠真に向かって深く頭を下げたからだ。

「すまなかった……!」

 悠真は目を見開く。

 思っていた反応とは、まるで違った。

 悠真はてっきり怒られると思っていた。

 東京を空けたこと。

 その間に街が襲撃されたこと。

 総理への報告が遅れたこと。

 責められる覚悟をして、この部屋に来た。

 だが、深澤総理は悠真を責めるどころか、自分から謝罪した。

「そんな……」

 悠真は慌てて声を上げる。

「頭をお上げください!」

 そして、すぐに続けた。

「総理が私に謝ることなんて何も……」

 しかし、深澤総理はゆっくりと首を横に振る。

「いや、私の責任だ……!」

 その声には、強い後悔が滲んでいた。

「軽く、自衛隊から話は聞いたよ……」

 深澤総理は悠真を見つめる。

「スキルを一時的に失ったんだって?」

 悠真は静かに頷いた。

「はい……山梨を当時支配していた神崎幸子という人物が、超人族を一時的に人間に戻す薬を開発していたんです……」

 深澤総理の表情が険しくなる。

「超人族を人間に……?」

「はい……」

 悠真は、自分の胸元へ軽く手を当てる。

「そのせいで俺は死にかけました……」

 言葉にすると、改めて重かった。

 《日常生活》を失い、仲間達も一時的に消え、体も限界まで追い込まれた。

 あの時は本当に、死を覚悟した。

 だが、悠真はすぐに顔を上げる。

「でも、それはあくまで神崎幸子がやった事で、総理に責任なんて……」

 深澤総理は、再び首を横に振った。

「いや……、私が全国調査など命じなければ君は死にかける事もなかった……」

 深澤総理の声は重い。

「それに、今回の東京への敵からの奇襲……」

 少し間を置き、深澤総理は続けた。

「もし、山梨に君達が行かなければ、もっと被害を抑えられたかもしれない……」

 深澤総理は、強く責任を感じていた。

 悠真は今、東京都知事である。

 本来なら、東京のことを中心に治めていかなければならない立場だ。

 それでも深澤総理は、全国調査を悠真達に頼んだ。

 信頼できる人物であり、強力なスキルを持ち、各地の異変に対応できる可能性が最も高かったからだ。

 だが、結果として悠真は山梨で死にかけた。

 そして、東京は手薄になったところを襲撃された。

 深澤総理は、その原因の一端が自分にあると考えていた。

 全国に危険があることは分かっていた。

 しかし、各地域にここまで強力な支配者や組織が存在しているとは、思っていなかった。


 ◇


 悠真は、少しだけ黙った。

 深澤総理の謝罪が、軽いものではないと分かったからだ。

 だからこそ、悠真も軽い慰めでは返せなかった。

 悠真は真っ直ぐに深澤総理を見た。

「総理、それは違います……!」

 深澤総理が顔を上げる。

「……?」

 悠真は静かに言葉を続けた。

「総理がこの調査を俺達に頼んで居ないと、住民にまで被害が出ていたかもしれません……」

 深澤総理は黙って聞いている。

「私達が山梨に行って、私がスキルを失った事で一部の建物が崩壊し、自衛隊や警察の迅速な対応で住民達をシェルターに避難させる事が出来ました」

 それは、偶然に近い流れだった。

 悠真が《日常生活》を失った。

 その影響で、スキル製の建物が崩れた。

 東京は混乱した。

 だが、その混乱があったからこそ、警察と自衛隊は住民を避難シェルターへ誘導した。

 その後に、佐々木達の襲撃が来た。

「結果、敵の奇襲時に東京はもぬけの殻」

 悠真の声は、少しだけ強くなる。

「街はかなり破壊されましたが、街は建て直す事が出来ます」

 そして、深澤総理の目を見た。

「しかし、人を生き返らせる事は出来ません……」

 部屋の空気が静かに沈む。

 その言葉は、重かった。

 悠真は続ける。

「勿論、私がスキルを失って建物が崩壊した事で、少し怪我人は出ました……」

 そのことを、なかったことにはできない。

 怖い思いをした住民もいる。

 家や店が崩れた者もいる。

 それでも。

「しかし、重傷者や死者は出ておりません」

 深澤総理の表情が、わずかに変わった。

 悠真はさらに言葉を重ねる。

「もし、私達がそのまま東京に居れば確かにもっと早く敵を倒せたかもしれません」

 それは事実だった。

 悠真達が最初から東京にいれば、佐々木達の襲撃もすぐに制圧できた可能性が高い。

 だが、その場合、住民は街に残っていた。

 佐々木達の目的は、住民を人質にして東京を支配することだった。

「しかし、住民を人質に取られたり、重傷者や、考えたくありませんが死者も出ていたかもしれません……」

 悠真は真剣な声で告げる。

「勿論、自衛隊や警察の協力あってですが、寧ろ総理のお陰で被害が最小限に済んだんです!」

 深澤総理が息を呑む。

 悠真は少しだけ表情を柔らかくした。

「感謝をする人は居ても責める人なんて居ませんよっ!」

 深澤総理は、しばらく何も言わなかった。

 そして、小さく息を吐く。

「そう言って貰えるとは思わなかったよ……」

 その声には、少しだけ安堵が混じっていた。

 悠真はさらに続ける。

「それに、あとで自衛隊の人から聞きましたが、総理や議員達自らも警察達と共に避難誘導をしていたとか……」

 深澤総理は、少し照れくさそうに目を伏せる。

 悠真は真っ直ぐに言った。

「どの国のリーダーが進んで避難誘導などするでしょうか?」

 深澤総理は苦笑した。

「私は総理とはいえ、今できる事は限られているからね……」

 世界が崩壊した今、総理という肩書きだけで全てを動かせるわけではない。

 できないことの方が多い。

 だからこそ、できることをする。

 避難誘導も、その1つだった。

 深澤総理は、改めて悠真へ向き直る。

「改めて、黒瀬都知事……!」

 そして、手を差し出した。

「本当にありがとうっ!」

 悠真はその手を見つめた後、しっかりと握り返した。

「はい、勿体ないお言葉です!」

 その握手には、互いの責任と感謝が込められていた。

 悠真も、深澤総理も、自分の判断に責任を感じていた。

 だが、互いの行動を認め合うことで、ようやく前へ進める気がした。


 ◇


 そして、時間は少し遡る。

 悠真がまだ東京の街をスキルで修復していた頃。

 数日前。

 場所は、刑務所だった。

 佐々木金次郎や、東京を襲撃してきた他の《Monster》の超人族達は、牢屋に閉じ込められていた。

 その中で、佐々木は苛立たしげに座り込んでいた。

「あいつら、好き勝手しやがって腹が立つんだなぁ……」

 凛堂に本体を痛めつけられた。

 川原具視の《こたつ》で、聞かれたくもない情報を話させられた。

 悠真達には作戦を完全に崩された。

 思い出すだけで、腹の底から怒りが湧いてくる。

 その時だった。

 佐々木の脳内に、直接声が響いた。

「佐々木さん……」

「聞こえてますか……?」

 佐々木の目が細くなる。

「宝塚か?!」

 脳内に、軽い声が返ってくる。

「はい、宝塚ですー」

 宝塚。

 東京に潜入していた《Monster》側の間者の1人。

 彼のスキルは《テレパシー》。

 登録している人物となら、どれだけ離れていようとも、脳内だけで会話することができる。

 ただし、通信を始められるのは宝塚からのみ。

 相手側から宝塚を呼び出すことはできない。

 そのため、佐々木もこれまで宝塚へ連絡を取れずにいた。

 宝塚は気軽な口調で続ける。

「俺はあの後佐々木さんの指示があるまで外で待機しろって言われてたんすけど、一向に指示がなかったので……」

 佐々木は苦々しく答えた。

「作戦は失敗に終わった……んだなぁ」

 脳内の声が、明らかに慌てる。

「……え? マジすか!?」

 佐々木の苛立ちが一気に跳ね上がった。

「マジすかじゃねぇよ!」

 実際に声を出しているわけではない。

 だが、脳内で怒鳴るように言葉を叩きつける。

「お前が銀武様に今なら主力メンバーが誰も居ないから行けるって言ったんだなぁ……」

 佐々木の声には、怒りが滲んでいた。

「確かに黒瀬達は出払ってたが、住民まで居なかったじゃねぇかよ!!」

 宝塚は心底驚いたように声を上げる。

「えーー!!」

 そして、信じられないというように続けた。

「あんなに大量に人が居たのにすか?」

 宝塚は、東京に多くの住民がいたことは把握していた。

 だが、その後に警察と自衛隊が迅速に避難誘導を行い、住民達がシェルターへ移動したことまでは知らなかった。

 結果として、佐々木達が襲撃した時、東京の街はほとんどもぬけの殻だった。

 佐々木はさらに苛立った声で言う。

「そうだよ!」

 そして、少し間を置いて命令した。

「取り敢えず、俺達全員捕まってるから銀武様に報告するんだなぁ……」

 宝塚の声が、さらに情けなくなる。

「え?!」

「嫌っすよぉ〜!」

 脳内でも分かるほど、宝塚は本気で嫌がっていた。

「絶対に怒られるじゃないですか?」

 佐々木は容赦なく言い放つ。

「お前の責任何だから、責任持って報告しろぉ!!」

 しばらく沈黙があった。

 そして、宝塚の弱々しい声が返ってくる。

「はい……」

 その瞬間、脳内での通信が切れた。


 ◇


 牢屋の中に、静寂が戻る。

 佐々木は小さく息を吐いた。

「ふぅ……」

 そして、口元を歪める。

「本当は、住民が居なかったのはお前のせいじゃないんだなぁ……」

 宝塚が見た時、東京には確かに住民がいた。

 住民がいなくなったのは、東京側の避難体制が機能したから。

 警察と自衛隊の判断が早かったから。

 そして、避難シェルターが準備されていたから。

 宝塚だけの責任ではない。

 それどころか、佐々木自身が現地の確認を怠ったことも大きい。

 だが、佐々木はそんなことを認めるつもりはなかった。

「ククククッ……これでうまく宝塚に責任を擦りつけれたんだなぁ……」

 牢の中で、佐々木は不気味に笑う。

 捕まってなお、彼は自分の保身を考えていた。

 自分が少しでも助かる道。

 自分以外に責任を押し付ける方法。

 それを探している。

 そして、佐々木はさらに小さく呟いた。

「それに、Monsterにはあの方達も居る事だし……」

 牢屋の中で、佐々木の笑い声だけが低く響いていた。



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