俺も行くっ!!
第196話です。宜しくお願い致します。
会議室の扉が、壊れるのではないかという勢いで開いた。
その音に、室内にいた全員が一斉に振り向く。
扉の向こうに立っていたのは、東北を統べる世紀末漢隊のリーダー。
近藤剛だった。
近藤は息を荒げながら、真っ直ぐに悠真を見た。
「オイ、悠真!! 東京の街が焼け野原じゃねぇか!!」
その声は、会議室全体に響き渡る。
「何があったんだ?!」
近藤の顔には、怒りと驚き、そして心配が浮かんでいた。
東京は、東北と友好都市になった場所だ。
そして何より、悠真は近藤にとって大事な友だった。
その友の街が傷ついている。
だからこそ、近藤は勢いのまま飛び込んできたのだ。
悠真は、そんな近藤を見て少し驚きながらも声をかける。
「剛……!」
そして、落ち着かせるように続けた。
「取り敢えず東京なら大丈夫だ」
近藤の眉がぴくりと動く。
「警察と自衛隊が現在被害状況を確認中ではあるが、ほとんど被害はないと思う……!」
悠真の言葉を聞き、近藤は大きく息を吐いた。
「そうか……なら良かったなっ」
心底安心したような声だった。
だが、すぐに表情を引き締める。
「それで、一体何があったんだ?」
悠真は頷き、これまでの出来事を近藤へ説明した。
山梨で神崎幸子の問題が起きていたこと。
幸子が、超人族を一時的に人間へ戻す薬を開発していたこと。
その薬を悠真が使われ、《日常生活》を失い、死にかけたこと。
その影響で、東京のスキル製建物が崩れたこと。
そして、その隙を突くように佐々木金次郎達が東京へ襲撃してきたこと。
さらに、佐々木達は大坂を拠点に関西を支配する《Monster》という組織に所属していたこと。
そのボスである銀武尊が、《施し》というスキルによってモンスターの能力を人へ与えられること。
東京襲撃の目的が、東京を支配し、新たなAランク適合者を探すことだったこと。
悠真は、必要なことを順に話していった。
◇
近藤は黙って聞いていた。
だが、その拳は徐々に握りしめられていく。
説明を終えた悠真は、最後に言った。
「それで、街の修復やら総理への報告を済ましたらMonsterに乗り込もうと思ってな……」
その瞬間、近藤の目が鋭くなった。
「Monster、許せねぇっ……!!」
低い声だった。
「俺のダチの場所を奪おうとしたって……!!」
近藤は、鎖で繋がれている佐々木を睨みつけた。
その視線だけで、空気が重くなる。
佐々木はすでに川原具視の《こたつ》の効果が切れ、正気に戻っていた。
戻っていたからこそ、近藤の圧をまともに受けた。
「ヒィー!!」
佐々木は情けない声を上げ、思わず身を縮める。
凛堂に痛めつけられた恐怖がまだ残っているところへ、今度は近藤の圧である。
佐々木にとっては、たまったものではなかった。
近藤は佐々木から視線を外し、悠真へ向き直る。
「俺も行くっ!!」
悠真は一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「……はい? 今何て……?」
近藤は当然のように答える。
「だから、俺も行くって!」
悠真は念のため聞き返した。
「……どちらに?」
「Monsterに乗り込むんだろ?」
近藤は両拳を合わせる。
ごきり、と骨が鳴るような音がした。
「俺も一緒に行ってギッタギタのメッタメタにしてやる!!」
あまりにも勢いのある宣言だった。
悠真は思わず額に手を当てる。
「マジかよ……!」
「大マジだ!!」
近藤は迷いなく言い切った。
その目を見て、悠真は小さく息を吐く。
これは止めても無駄だ。
そう理解した。
「……分かった、俺の負けだ……」
近藤は満足そうに笑う。
「俺のダチの場所にこんな事した事を後悔させてやるっ!!」
悠真は苦笑した。
「頼もしすぎるが、怖いな……」
近藤は笑い飛ばすように胸を張る。
だが、次の言葉は、先ほどまでの勢いとは少し違っていた。
「それに、東北を悠真達が救ってくれた恩を俺はまだ返す事が出来ていない!」
悠真が近藤を見る。
近藤は真っ直ぐだった。
「漢として、俺のポリシーとして恩義はしっかり返したいんだっ!」
それは、近藤剛という男らしい言葉だった。
ただ暴れたいからではない。
友の街を守りたい。
東北を救われた恩を返したい。
近藤は、そのために戦うと言っているのだ。
悠真は、その気持ちを受け止めるように頷いた。
「まぁ、戦力は多いに越した事ないしな……!」
そして、改めて手を差し出すような気持ちで言う。
「じゃあ、剛改めて、宜しく頼むぞ!」
近藤は豪快に笑った。
「ガッハッハ!」
そして、力強く頷く。
「任せておけっ!」
こうして、次の《Monster》戦に近藤剛が加わることになった。
◇
話が一区切りついたところで、悠真はふと疑問を口にする。
「そう言えば、どうして急にこっちに来たんだ?」
近藤は一瞬きょとんとした後、手を打った。
「あぁ、そうだったそうだった!」
どうやら、本来の用件を忘れかけていたらしい。
「前に北海道を治めてるやつと会えるように調整してやるって言っただろ?」
「あぁ」
悠真は頷く。
東北との友好都市の話をした時、近藤は北海道を治めている人物との橋渡しをしてくれると言っていた。
近藤はにっと笑う。
「会っても良いって言ってくれてるからそれを知らせに来たんだよ!」
悠真の表情が明るくなる。
「そうだったのか?!」
そして、素直に頭を下げる。
「それは本当に助かる……!!」
北海道との接触。
それは今後の復興や情報収集において、大きな意味を持つ。
ただし、今すぐ向かうわけにはいかなかった。
悠真は少し申し訳なさそうに言う。
「だが、先にMonsterの件が終わってからでも大丈夫か?」
近藤は迷わず頷いた。
「勿論だ!」
そして、拳を握る。
「先にカチコミに行かねぇとなっ!」
続けて、軽く手を振るように言った。
「アイツに言っておくよ!」
「あぁ……」
悠真は頷いた後、少し遠い目をする。
「会う前から野蛮人と思われそうだがな……」
近藤は気にした様子もなく豪快に笑った。
◇
その後、話し合いが終わると、悠真はすぐに東京の復旧作業へ入った。
大規模な《テリトリー修復》。
《外装変更》。
《内装変更》。
そして、頭で想像した通りに配置できる《自動配置》。
さらに、細かい街並みや建物の位置については、《秘書》が脳内で補助してくれる。
悠真は壊れた東京の街を見渡しながら、小さく呟いた。
「最近、ここらのスキル使ってなかったから久しぶりに使うなぁ……」
世界崩壊直後。
悠真はこの力を使って、アパートを守り、生活空間を整え、少しずつ拠点を広げていった。
戦いが増え、政治や外交のようなことまで背負うようになった今でも、この力の根本は変わらない。
壊れた場所を直す。
暮らせる場所を作る。
それこそが、悠真の《日常生活》だった。
悠真がスキルを唱えると、壊れた東京の街が、見る見るうちに形を取り戻していく。
崩れた建物の壁が立ち上がる。
割れた道路が繋がっていく。
焼け焦げた外壁が塗り替えられる。
瓦礫が消え、窓が戻り、生活に必要な通路が整えられていく。
跡形もなく壊された場所には、新しい建物が建ち上がった。
もちろん、悠真が街の全てを細かく覚えているわけではない。
だが、《秘書》が脳内で必要な配置を示してくれる。
どこに何があったか。
どこにどんな施設が必要か。
どの道を先に直すべきか。
避難シェルターから住民が安全に戻れる導線はどこか。
悠真はその指示を受けながら、復旧を進めていった。
その様子を、近藤は口をぽかんと開けて見ていた。
近藤が悠真のスキルをここまで間近で見るのは初めてだった。
戦う力とは違う。
破壊する力とも違う。
街そのものが息を吹き返していくような光景。
近藤は思わず呟いた。
「これが、悠真のスキルか……」
そして、少しだけ呆然とした顔で続ける。
「何か神様のようだなぁ……」
その言葉に、すぐさま反応した者がいた。
夏山京樹だった。
「あっ、分かりますっ!?」
近藤はびくりと肩を揺らす。
「神様そのものです!!」
「おっ……おう」
近藤は、夏山の勢いに思わず一歩引いた。
だが、夏山は止まらない。
「悠真さんってホントに凄いことをあっさりやっちゃうんですよ!!」
復旧していく街を見ながら、夏山は目を輝かせる。
「だから、皆感謝もするし付いてくるんです……」
その声には、ただの興奮だけではないものがあった。
尊敬。
憧れ。
そして、感謝。
近藤は最初こそ夏山の圧に引いていた。
だが、少しずつ形を取り戻していく街並みを見て、夏山の言葉が分かる気がした。
近藤もまた、悠真に救われた者の1人だった。
「あぁ……全くだ!」
近藤は腕を組み、力強く頷く。
「俺も助けられた1人だからよく分かる……」
夏山はその言葉に、なぜか満足そうに何度も頷いていた。
◇
悠真はその後、3日かけて東京の壊れている箇所を全て修復していった。
崩れた建物。
破壊された道路。
焼け焦げた施設。
戦闘の爪痕が残る場所。
そして、跡形もない場所には新しい建物を建てた。
もちろん、それはあくまで応急的な復旧だった。
この後は、建築関係者達へ引き渡し、人の手で本格的に整えていく必要がある。
だが、住民達が戻り、生活を再開するには十分な状態になっていた。
そして、4日ぶりに避難シェルターの扉が開かれた。
住民達は、恐る恐る外へ出てくる。
シェルターの中にいても、外の爆発音は聞こえていた。
地面の振動も感じていた。
自衛隊や警察から、敵の襲撃があったことも説明されていた。
だから、多くの住民は覚悟していた。
外は酷いことになっているのだろうと。
家も、道も、街も、壊れているのだろうと。
しかし、扉の先に広がっていたのは、以前とほとんど変わらない街並みだった。
青空の下、整った道路が伸びている。
建物が並び、生活の匂いが戻っている。
住民達は、思わず口をぽかんと開けた。
「すげぇ……」
「全然、壊れてない!」
「都知事凄すぎる……」
あちこちから、そんな声が漏れる。
悠真は、住民達から責められると思っていた。
東京を空けていた。
自衛隊や警察以外の主要メンバーも、山梨へ出払っていた。
だからこそ、Monsterに狙われた。
都知事としての自覚はあるのか。
なぜ東京を置いていったのか。
そう言われても仕方ないと思っていた。
だが、住民達の反応は違った。
彼らは知っていた。
こんな世界で、自分達が安心して暮らせる場所があること。
水があり、食べ物があり、眠れる場所があり、守ってくれる人達がいること。
それが、どれほど異常で、どれほどありがたいことなのかを。
それに今回、死者は出なかった。
けが人もほとんどいなかった。
自衛隊と警察は迅速に避難誘導を行い、シェルターはきちんと機能した。
外で何が起きていても、自分達は守られていた。
緊急事態でも、この街は自分達を見捨てない。
その事実は、住民達にとって大きかった。
結果として、悠真の東京での人気は、意外にもさらに上がることとなった。
◇
復旧作業と住民対応がひと段落した後、悠真は都内に建設されている首相官邸へ向かった。
深澤総理や議員達も、警察や自衛隊の指示のもと、シェルターへ避難していた。
幸い、首相官邸は数少ない攻撃を受けていないエリアの建物の1つだった。
そのため、大きな損傷はなく、そのまま残っている。
深澤総理達は、すでに首相官邸へ戻っていた。
悠真は廊下を歩きながら、深く息を吐く。
「はぁ……」
報告しなければならないことは多い。
山梨での薬の件。
悠真自身がスキルを失ったこと。
東京の建物が崩れたこと。
Monsterによる襲撃。
銀武尊の《施し》。
そして、こちらから関西へ先手を打つ可能性。
どれも軽い話ではない。
怒られるかもしれない。
あれこれ言われるかもしれない。
それでも、都知事として報告しないわけにはいかなかった。
悠真は総理の部屋の前で立ち止まる。
「総理に報告するの嫌だなぁ……」
小さく呟きながら、悠真は覚悟を決める。
そして、深澤総理の部屋の扉をノックした。




