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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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188/204

影山潤

第188話です。宜しくお願い致します。


影山潤は、戦いの最中に過去を思い出していた。

 潤は、影山駿の弟だった。

 影山家は、ごく普通の家庭だった。

 父がいて、母がいて、特別裕福というわけでも、特別貧しいというわけでもない。

 それでも、潤と駿は両親から愛情を受けて育てられた。

 潤と駿は、いわゆる一卵性の双子だった。

 先に取り上げられたのが、兄の駿。

 その後に取り上げられたのが、弟の潤。

 ただ、それだけの違いだった。

 同じ日に生まれ、同じ顔で、同じ家で育った。

 幼い頃は、2人でよく遊んだ。

 同じ玩具を取り合い、同じ場所で転び、同じように母に怒られた。

 その頃の潤には、兄と弟という区別が少し不思議だった。

 ただ少しだけ早く生まれた。

 たったそれだけで、駿は兄になり、潤は弟になった。

 だが、成長するにつれて、その疑問は少しずつ薄れていった。

 代わりに、はっきりと見えてきたものがあった。

 差だった。


 ◇


 小学生になる頃、潤は遊んでばかりいた。

 宿題を忘れ、授業中に余計なことを言い、先生にも親にもよく怒られた。

 一方で、駿は真面目だった。

 勉強もできた。

 運動もできた。

 何をやらせても器用にこなし、気づけばクラスの中心にいた。

 先生から頼られ、友達からも好かれ、親からも褒められる。

 駿は、潤にできないことを何でもできた。

 同じ顔をしているはずなのに。

 同じ日に生まれたはずなのに。

 周囲はいつも、駿を見ていた。

 そして潤は、いつの間にか潤ではなく、駿の弟として見られるようになっていた。

 けれど、潤はそれを嫌だとは思わなかった。

 不思議と、悔しさよりも誇らしさの方が大きかった。

 兄ちゃんはすごい。

 兄ちゃんは何でもできる。

 兄ちゃんは、自分にはできないことを簡単にやってのける。

 幼い頃、一緒に遊んでいた時期には何とも思っていなかった。

 だが、成長するにつれて、潤の中で駿は憧れになっていった。

 同い年なのに。

 取り上げられた順番が少し違うだけなのに。

 それでも、こんなにも優秀な兄がいることが、潤には誇らしかった。

 駿の背中を追うこと。

 それは、潤にとって当たり前のことになっていた。


 ◇


 そして、潤と駿が31歳になったある日。

 世界は崩壊した。

 空にゲートが現れ、モンスターが溢れ、日常は壊れた。

 それが運だったのか。

 それとも運命だったのか。

 潤には分からない。

 だが、潤と駿は揃って超人族に覚醒した。

 兄である駿のスキルは《影法師》。

 影を操り、攻撃にも、探索にも、防御にも、サポートにも使える。

 何でも器用にこなせる駿に相応しい、万能で優秀なスキルだった。

 潤は、そこにも兄らしさを感じた。

 やっぱり兄ちゃんはすごい。

 そう思った。

 一方で、潤のスキルは《雨宿り》だった。

 屋根を出し、その周囲に酸性雨を降らせる。

 相手を屋根の下に閉じ込め、実質的に拘束することはできる。

 だが、それだけだった。

 駿の《影法師》のように万能ではない。

 派手でもない。

 使い勝手も悪い。

 さらに、今回の飯島茶々のように、その場から遠距離攻撃をしてくる相手には弱かった。

 屋根の下から攻撃されてしまえば、拘束している意味が薄くなる。

 穴だらけのスキル。

 潤は、自分のスキルをそう思っていた。

 まるで自分みたいだと、どこかで感じていた。

 けれど今。

 いつも優秀な兄のスキルが、完全に封じられている。

 飯島寧々の《ジェルフィッシュ》。

 その強烈な光によって、影が消されている。

 駿の《影法師》は使い物にならない。

 いつもなら、駿が勝ち筋を作る。

 潤はその補助をする。

 だが、今は違う。

 兄が動けない。

 なら、自分が動かなければならない。

 いつまでも、兄ちゃんの背中を追うだけでは駄目だ。

 この優秀な兄ちゃんの元に相応しい弟にならなければ。

 潤は、強くそう思った。


 ◇


 現在。

 飯島茶々は、背中から生えた針を影山兄弟へ向けて発射し続けていた。

 針は鋭く、硬く、空気を裂いて飛んでくる。

 潤は正面に召喚した屋根を盾代わりにして、それを防ぎ続けていた。

 ガン。

 ガン。

 ガン。

 屋根に針が突き刺さる。

 だが、茶々の背中の針は撃ち尽くされるたびに一瞬で生え変わっていた。

 弾切れがない。

 休むこともない。

 ひたすら針が飛んでくる。

 盾代わりの屋根は、すでに針で埋まりつつあった。

 表面にはヒビが入り、少しずつ限界が近づいている。

 飯島茶々は、淡々と言った。

「いつまでもつのかしらね、姉様」

 飯島寧々も、同じように冷静な声で答える。

「きっと時間の問題よ、妹」

 影山駿は、眩い光を放つ寧々を警戒しながら、潤へ低く呟いた。

「すまない……」

 その声には、悔しさがあった。

「あの光の前では俺が、使い物にならない……」

 普段なら、駿がそう言うことはほとんどない。

 いつだって冷静で、何かしらの手を考える。

 だが今は、影そのものを封じられている。

 駿の強みが、完全に潰されていた。

 潤はすぐに首を横に振る。

「そんな事ないよ!」

 そして、ヒビの入った屋根を見た。

 針で埋まり、今にも壊れそうな屋根。

 だが、潤の目にはまだ諦めはなかった。

「俺にいい案があるんだ……!」

 茶々の針がさらに飛ぶ。

 屋根に突き刺さる。

 ヒビが広がる。

 飯島茶々が小さく首を傾げた。

「そろそろ限界が近いみたいね」

 潤は、その言葉に笑った。

「そうだな」

 そして、盾代わりにしていた屋根を両手で掴む。

「だからこの屋根はお前達に返すよ」

 次の瞬間、潤は屋根を持ったまま前へ飛び出した。

「うぉー!!!」

 泥臭い突撃だった。

 格好よさはない。

 洗練されてもいない。

 ただ、屋根を盾にして、酸性雨と針を防ぎながら前へ進む。

 茶々は針の発射を止めた。

 そして、寧々の前に出る。

 背中の針を外側へ向け、ハリネズミのように丸まった。

 防御態勢。

 自分の防御力で、寧々を守るつもりだった。

 だが、潤の狙いは単純な体当たりではなかった。

 潤は走りながら、再びスキルを唱える。

「スキル、《雨宿り》で屋根召喚!」

 今度は、頭上ではない。

 正面でもない。

 飯島姉妹の左側。

 右側。

 そして後ろ。

 そこに、次々と屋根が出現した。

 前方からは潤が、盾にした屋根を押し込んでくる。

 左右と後方には、新たな屋根。

 飯島姉妹は、一瞬で屋根に囲まれる形になった。

 寧々の眉がわずかに動く。

 だが、潤の作戦の本命はそこではなかった。

 屋根が作るもの。

 それは、雨を防ぐ空間だけではない。

 光を遮る場所。

 つまり、影だった。

 左の屋根の裏。

 右の屋根の裏。

 後ろの屋根の裏。

 そして、潤が押し込んでいる前方の屋根の影。

 寧々の《フラッシュ》によって地面の影は消されていた。

 だが、新たに屋根を作れば、その裏側には光が届きにくい影が生まれる。

 影山駿は、その意図に気づいた。

「……なるほどな、潤」

 駿の足元から、再び影が揺れる。

 屋根の裏にできた影が、影山駿のスキルを呼び戻す。

「スキル、《影法師》」

 影の分身体が生まれた。

 それも、ひとつではない。

 屋根の影から、いくつもの黒い影が立ち上がる。

 顔のない、真っ黒な分身体達。

 それらは音もなく動き、左、右、後ろの屋根を外側から押し込んだ。

 潤は前方から屋根を押す。

 飯島姉妹は、四方から屋根で閉じ込められた。

 寧々は冷静さを保とうとしたまま、屋根へ手を当てる。

「こんなもの……押してしまえば」

 力を込める。

 だが、屋根は動かない。

「何で……」

 寧々の声に、初めて戸惑いが混じった。

 外側から、影の分身体達が大量に押している。

 寧々の光は影を消せる。

 だが、屋根に囲まれたこの状態では、すべての影へ光を届かせることができない。

 潤は、自分の《雨宿り》で影を作った。

 そして、兄の《影法師》を再び使える状況にした。

 駿の影分身体達が、それぞれ影で作った剣を握る。

 そして、屋根の隙間へ剣を差し込んだ。

 まるで、黒ひげ危機一髪のように。

 外側から、次々と。

「キャーー!!」

 寧々の悲鳴が響いた。

 宝石のような鱗に覆われた皮膚。

 その防御力は高い。

 だが、隙間はある。

 影の剣は、その隙間を狙って突き刺さっていった。

 急所は外している。

 だが、無傷では済まない。

 寧々の身体から血が飛び散る。

 一方で、茶々は丸まって防御態勢を取っていたため、針と硬い身体で剣を防いでいた。

 潤は状況を見極める。

 そして、屋根を消した。

 四方を囲んでいた屋根が消える。

 そこに現れたのは、血だらけになって膝をつく飯島寧々だった。

 宝石のような皮膚に覆われているとはいえ、影の剣はその隙間をいくつも貫いていた。

 寧々は荒く息を吐き、もう立ち上がれない。

 茶々だけは、ほとんど無事だった。

 丸まっていた防御のおかげで、剣が刺さらなかったのだ。

 だが、茶々の表情から余裕は消えていた。

「そんな……姉様っ!」

 寧々を見た茶々の声が震える。

 先ほどまで淡々としていた姉妹の空気が、初めて崩れた。

 しかし、潤は止まらなかった。

「まだ、戦いは終わって居ないんだぜ、妹さん!」

 潤は一気に茶々へ踏み込む。

 茶々は慌てて体勢を戻そうとした。

 だが、遅い。

 潤は茶々の身体を押し倒した。

 その先にあるのは、先ほどから降り続いていた酸性雨。

 飯島姉妹を屋根の下に閉じ込めるために降らせていた、強い酸の雨だった。

 茶々の身体が、酸性雨の中へ倒れ込む。

「ギャーー!!!」

 悲鳴が上がる。

「溶ける……!!」

 茶々の皮膚から煙が上がる。

「熱い熱い熱いっ!!」

 茶々はもがく。

 背中の針と防御力で影の剣は防げても、酸性雨までは防ぎきれない。

 皮膚が焼け、溶けていく。

 潤は茶々が意識を失うまで、目を逸らさなかった。

 そして、茶々が動かなくなったのを確認すると、すぐに酸性雨を止めた。

 雨が止む。

 煙だけが、薄く立ち上っていた。

 飯島寧々は血だらけで倒れ、飯島茶々は酸性雨で皮膚を焼かれ、気を失っている。

 影山兄弟の勝利だった。


 ◇


 影山駿は、潤の隣へ歩み寄る。

 そして、静かに笑った。

「流石、俺の弟だな…!」

 その言葉に、潤は少しだけ照れたように笑う。

 だが、すぐにまっすぐ兄を見た。

「俺は兄ちゃんみたいに優秀じゃないし、強くもない……」

 それは、ずっと思っていたことだった。

 駿のようにはなれない。

 駿のように何でも器用にはできない。

 だが、それでも。

「だけど、兄ちゃんがダメな時は俺だって戦える!」

 潤は拳を握る。

「俺らしく泥臭く戦うさ!!」

 その顔は、晴れやかだった。

 駿は静かに頷いた。

「あぁ……」

 それから、倒れた飯島姉妹を見て、少しだけ苦笑する。

「それにしてもお前、串刺しにするわ皮膚を溶かすわ、本当にエグい事するよな……!」

 潤も倒れた姉妹を見て、苦笑した。

「俺も自分でやっといて何だけどこのやられ方は嫌だなぁ……」

 兄弟は、わずかに息を整える。

 こうして、兄弟姉妹対決は影山兄弟に軍配が上がった。



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