消された影
第186話です。宜しくお願い致します。
場面は、再び佐々木金次郎達がいた場所へ戻る。
凛堂明日香は、佐々木の本体を探すために走り去った。
その後を、富山光と藤島が追っていった。
門脇誠司は合田によって地下へ落とされ、犬飼守と柿原紅蓮の前には城島と蛇島が立ちはだかっている。
影山駿と影山潤の前には、飯島寧々と飯島茶々。
戦場は、佐々木の思惑通りに分断されつつあった。
佐々木は霊体のまま、残った幹部達を見回す。
「ククククッ……じゃあ後は頼んだんだなぁ」
幹部達は、それぞれ静かに頷いた。
佐々木は満足げに口元を歪めると、霊体をふわりと浮遊させ、その場を離れていく。
すでに自分の役目は果たした。
各戦場に、最も厄介な相手をぶつける。
あとは、それぞれが東京側の主力を潰せばいい。
佐々木は、ゆっくりと街の影へ向かって進みながら呟いた。
「凛堂……あいつは野生の勘だけは鋭いからなぁ……」
凛堂は力任せに見えて、妙なところで勘が働く。
理屈ではなく、本能で危険な場所へ辿り着くことがある。
だからこそ、佐々木は油断しなかった。
「念の為、本体を移動しておくんだなぁ……ククククッ……」
不気味な笑い声を残し、佐々木の霊体はその場から離れていった。
◇
一方、影山兄弟は飯島姉妹と対峙していた。
飯島寧々と飯島茶々。
瓜二つの顔を持つ双子は、まるで緊張していない。
影山潤は、そんな2人を睨みつける。
「先手必勝だ!」
そして、兄である影山駿へ視線を向けた。
「俺たちから行くぞ……」
影山潤は一歩前へ出て、スキルを唱える。
「スキル、《雨宿り》!」
その瞬間、飯島寧々と飯島茶々の頭上に、それぞれ屋根が出現した。
小さな屋根。
一見すれば、雨から身を守るためのものに見える。
しかし、その屋根の周囲には、すぐに雨が降り始めた。
ただの雨ではない。
地面に落ちた雨粒が、じゅう、と音を立てて煙を上げる。
酸性雨だった。
影山潤は、飯島姉妹へ告げる。
「その屋根から出た瞬間、お前等は強い酸の雨を浴びて、皮膚が溶けていくぞ」
屋根の下にいれば安全。
だが、そこから一歩でも外へ出れば酸性雨が降り注ぐ。
つまり、移動を封じる拘束。
影山潤の《雨宿り》は、相手を閉じ込めるためにも使えるスキルだった。
そして、その隙を逃さず、影山駿も動く。
「スキル、《影法師》」
影山駿の足元から、黒い影が盛り上がった。
床に伸びていた影が、液体のように揺れる。
そこから、ゆっくりと人型が立ち上がった。
影山駿と同じ体格。
同じ背丈。
だが、顔はない。
全身が真っ黒な、影そのものの存在だった。
影の分身体は、音もなく床へ沈んだ。
まるで水面の下へ潜るように、影の中へ消えていく。
次の瞬間、飯島寧々の足元の影が揺らめいた。
そこから、影の分身体が姿を現す。
通常なら、ここで攻撃が決まる。
屋根の外へ出られない相手に、影の中から奇襲をかける。
影山兄弟の得意な連携だった。
だが、飯島寧々は動じなかった。
表情ひとつ変えず、静かに呟く。
「スキル、《タイプBランク》で《ジェルフィッシュ》」
その瞬間、飯島寧々の皮膚が変化していった。
肌の表面に、ゴツゴツとした色とりどりの輝きが生まれる。
宝石のようにも見えた。
魚の鱗のようにも見えた。
鮮やかな色彩を帯びた皮膚が、寧々の身体を覆っていく。
そして、寧々は一言だけ告げた。
「フラッシュ」
次の瞬間、寧々の身体が強烈な光を放った。
直視できないほどの白い光。
その光が周囲を塗り潰す。
寧々の足元にあった影が消えた。
影山駿の影の分身体も、その光に飲まれ、一瞬でかき消される。
影山駿は、あまりの眩しさに手で目を遮った。
「何だと……俺の影が……」
影山潤も目を細めながら、驚愕の声を漏らす。
「そんな……兄さんと俺の必勝パターンが……」
影山兄弟の戦い方は明確だった。
弟である影山潤が《雨宿り》で相手の移動を封じる。
屋根の外には酸性雨。
相手は動けない。
その隙に、兄である影山駿が《影法師》で影の分身体を送り込む。
分身体で攻撃する。
あるいは屋根の外へ突き飛ばし、酸性雨を浴びせる。
それが、影山兄弟の必勝パターンだった。
だが、佐々木はそれを知っていた。
知っていたからこそ、影山駿の影を封じられる飯島寧々をぶつけた。
寧々は、光を放ちながら静かに告げる。
「あなたの影はこれで使えない」
影山駿は歯を食いしばる。
相性が悪い。
それも、単純な実力差ではない。
こちらの戦法を知った上で、潰しに来ている。
影山潤は、それでも言い返した。
「だが、お前達もここから動けない筈だ……!」
飯島姉妹の上には、まだ屋根がある。
その周囲には酸性雨が降り続いている。
影は封じられても、移動は封じている。
そう思った。
しかし、飯島茶々が小さく首を傾げる。
「姉様、やっぱりバカだね」
飯島寧々も淡々と頷く。
「そうね、妹」
そして、影山潤を見た。
「あんな風になっちゃダメよ」
影山潤の眉が跳ねる。
「誰が、バカだよ!!」
茶々は表情を変えずに言った。
「動けないのならここから攻撃すれば良いだけ」
そして、スキルを唱える。
「スキル、《タイプBランク》で、《ニードルハリネズミ》」
茶々の背中が膨らむ。
そこから、無数の針が生えてきた。
鋭く、硬く、細い針。
茶々は影山兄弟へ背中を向ける。
「発射」
次の瞬間、背中の針が一斉に飛び出した。
空気を裂きながら、影山兄弟へ向かって迫る。
屋根の下から動く必要はない。
そこに立ったまま、遠距離攻撃をすればいい。
影山潤は咄嗟に叫んだ。
「スキル、《雨宿り》で屋根召喚!」
今度は、屋根が頭上ではなく正面に出現した。
影山潤と影山駿の前に、盾のように屋根が現れる。
飛んできた針が、その屋根へ次々と突き刺さった。
ガン、ガン、と硬い音が響く。
影山潤は冷や汗を流す。
「危ねぇ……」
影山駿も小さく息を吐いた。
「潤、助かった……」
茶々はわずかに首を傾げる。
「防がれてしまいました、姉様」
寧々は落ち着いたまま答える。
「問題ないわ、有利なのはこっちなんだから」
影山潤は、盾代わりにした屋根の裏で奥歯を噛みしめた。
「まさか、遠距離攻撃をしてくるなんて……」
影山駿は、冷静に状況を見ていた。
「佐々木はやはり、相性を考えられた戦闘配置をしてきたということだな……」
影を消す寧々。
屋根の下からでも攻撃できる茶々。
影山兄弟の連携は、見事に対策されていた。
影山潤は険しい顔で呟く。
「このままだと、防戦一方になってしまう……」
◇
一方、別の場所でも戦闘が始まっていた。
犬飼守と柿原紅蓮。
その前には、城島と蛇島が立っている。
犬飼は一刻も早く、門脇の元へ向かいたかった。
だからこそ、最初から全力で動く。
「スキル、《人体実験》!」
犬飼の身体が変化する。
腕はライオンのように太く、鋭い爪を備えたものへ。
足はチーターの脚へ。
高速で距離を詰め、強靭な腕で相手を切り裂くための形態だった。
隣で、柿原もスキルを唱える。
「スキル、《聖火》!」
右手に火縄銃。
左手には火炎瓶。
柿原はそれを構え、口元を吊り上げた。
「さぁ、始めるぜっ!」
最初に動いたのは、犬飼だった。
チーターの脚が地面を蹴る。
一瞬で蛇島との距離を詰める。
そして、ライオンの腕で爪を振るった。
狙いは蛇島の皮膚を抉ること。
しかし、蛇島は慌てなかった。
「スキル、《タイプBランク》で《ポイズンスネーク》」
蛇島の身体が、ぐにゃりと揺れた。
犬飼の爪が迫る。
だが、蛇島は身体を捻らせた。
普通ならあり得ない方向へ、上半身が曲がる。
犬飼の爪は、蛇島の身体を掠めることすらなく空を切った。
「なっ……!」
犬飼は続けて爪を振るう。
右から。
左から。
下から。
しかし蛇島は、それを全て避けた。
関節がないかのように。
骨の制限がないかのように。
しなやかに身体を曲げ、滑るように攻撃をかわしていく。
蛇島は薄く笑った。
「フフフッ……」
犬飼の爪が、また空を切る。
「自慢の攻撃が当たらないのが不思議かしら……?」
犬飼は歯を食いしばる。
蛇島は、ゆっくりと口を開いた。
「次は私の番ね」
次の瞬間、蛇島の口から紫色の液体が吐き出された。
ピュッ、ピュッと鋭く飛ぶ液体。
犬飼は咄嗟に身体を動かして避ける。
紫の液体が地面に落ちた。
じゅう、と音を立てて地面が溶ける。
「溶解液か……」
犬飼は距離を取りながら、蛇島を睨んだ。
柔らかな身体で攻撃を避ける。
近づけば、溶解液を浴びる危険がある。
厄介だった。
何より、犬飼には焦りがある。
門脇は今、地下で合田と1対1になっている。
門脇のスキルは、1人で戦うには向いていない。
早く助けに行かなければならない。
しかし、その道を蛇島が塞いでいる。
犬飼の焦りを見透かしたように、蛇島がにやりと笑った。
「あらあら、早く終わらせてご主人の元に行きたかったんじゃないの……?」
そして、わざと甘く、挑発するように続ける。
「子犬ちゃん……!」
犬飼の目が鋭くなる。
「舐めやがって……」
影山潤初のスキル使用になります。
決して筆者は貴方の事を忘れていませんでした……。
ごめんね、遅くなって……。




