家族のかたち
第18話です。少し短めですが、宜しくお願いします。
空気が、重かった。
誰も、すぐには動けなかった。
未来は床に座り込んだまま、ただ俯いている。
肩が小さく震えていた。
泣いているのは分かるのに、声はほとんど出ていない。
美咲お姉ちゃんが、何か言おうとして――やめた。
陸斗も、口を開きかけて、閉じた。
チャン爺は、ただ静かにその様子を見ている。
俺も――何も言えなかった。
(……何て言えばいい)
軽い言葉なんて、絶対に違う。
ここで「大丈夫」とか「気にするな」とか、そんな言葉を投げたら――きっと、未来を傷つける。
だから、考えた。
今、俺にできることを。
そして――
決めた。
「……もういいだろ」
俺は、ゆっくり口を開いた。
自分でも驚くくらい、声は冷たかった。
「こんな奴」
園長がピクッと反応する。
「はぁ?」
だが、俺はそっちを見ない。
未来だけを見る。
「……ここを離れるぞ」
短く、はっきりと言った。
未来の肩が、びくっと揺れる。
でも――動かない。
ゆっくりと、顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
その目が、園長の方を見る。
そして――
「……でも……」
かすれた声。
「私の家族……だから……」
その言葉が、胸に刺さる。
分かる。
簡単に切れるわけがない。
何年も一緒にいたんだ。
信じてたんだ。
“家族”だと思ってたんだ。
……それでも。
俺は、しゃがんだ。
未来と目線を合わせる。
「……いいか、未来」
少しだけ、間を置く。
言葉を選ぶ。
「家族ってのはな」
未来の目が、揺れる。
「血とか、時間とか……そういうもんじゃない」
一歩、踏み込む。
「一緒にいるって、決めた奴らだ」
自分でも驚くくらい、言葉が自然に出てきた。
たぶん、もう決まってたんだと思う。
心のどこかで。
「俺達がお前の家族になる」
未来の目が、大きく見開かれる。
でも、そこで終わらせなかった。
「いや――」
一瞬、息を吸う。
「もう、なってるだろ」
そのまま、未来を抱きしめた。
細い体。
軽い。
でも、その中に詰まってるものは――たぶん、すごく重い。
次の瞬間。
「っ……」
未来の体が震えた。
そして――
「なんで……なんでぇ……」
声が溢れた。
「私……信じてたのに……」
俺の胸に顔を押し付けて、泣きじゃくる。
嗚咽が、止まらない。
俺は、何も言えなかった。
ただ――
離さなかった。
時間がどれくらい経ったのか分からない。
数秒かもしれないし、何分かもしれない。
でも、その間、未来はずっと泣いていた。
やがて――
「……ありがとう……」
小さな声。
かすれているのに、ちゃんと届いた。
その瞬間だった。
「は??」
空気をぶち壊す声。
園長だ。
「あんた達、正気なの?」
信じられない、という顔。
「出会って1ヶ月も経ってない連中が家族?」
笑いながら言う。
「アタシはねぇ!」
声が一気に大きくなる。
「あの子を何年も育ててきたのよ!!」
ヒステリックに叫ぶ。
「育ての母親見捨ててどうするの!?」
手を伸ばす。
「ねぇ!?助けてよ!!」
必死な顔。
でも――そこにあるのは、もう“優しさ”じゃなかった。
「怪我してるの!!ここから動けないの!!」
被害者ぶる。
縋る。
だが、その言葉は――もう届かない。
未来が、ゆっくりと俺の腕の中から離れた。
ふらつきながらも、立ち上がる。
涙はまだ止まっていない。
でも――目が違った。
まっすぐ、園長を見る。
「……もういい」
静かな声。
園長の顔に、一瞬だけ希望が浮かぶ。
だが――
「もう、私の家族は貴方じゃない」
その言葉で、全てが壊れた。
「……は?」
園長の表情が固まる。
その瞬間。
――影が、揺れた。
嫌な気配。
「っ!?」
反応する間もなかった。
黒い影が床から浮かび上がる。
シャドウウルフ。
一瞬で、園長の目の前に現れた。
「え――」
「ギャアアアアアア!!」
悲鳴。
牙が喉に食い込む。
そのまま、噛み砕く。
血が飛び散る。
あっという間だった。
「なんで……なんで……」
床に倒れ込みながら、園長が呟く。
「あの方は……守ってくれるって……」
そのまま、動かなくなった。
静寂。
そして――
シャドウウルフが、こちらを見る。
全員が構えた。
(来るか……?)
だが――
何もしなかった。
ただ一瞬、俺達を見て。
そのまま、影に溶けるように消えた。
「……は?」
美咲お姉ちゃんが呟く。
陸斗も警戒を解かない。
「……今のは……」
俺は、ゆっくり息を吐いた。
(……殺す気なら、できた)
なのに、やらなかった。
(……あれは、“命令”だ)
誰かの。
もっと上の存在の。
そう確信した。
だが――
今はいい。
やるべきことは一つだ。
「……行くぞ」
未来に手を差し出す。
一瞬、迷ったように見えた。
でも――
その手は、しっかりと掴まれた。
「俺達と一緒に来い」
未来が顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃだ。
でも――
笑っていた。
「……うん!」
強く、頷く。
その顔を見て、少しだけ安心した。
俺達は、施設を後にした。
未来は、一度も振り返らなかった。
俺だけが、一瞬だけ振り返る。
もう、戻らない場所。
そう思った。
――深い地下。
光の届かない、闇の奥底。
水晶玉が、淡く光っている。
そこに映るのは――先ほどの光景。
影が揺れる。
シャドウウルフが現れる。
その頭を、異形の存在が撫でた。
「はぁ……」
ため息。
「おもちゃ、壊されちゃったかぁ」
どこか楽しそうな声。
「まぁ、いいや」
水晶を覗き込む。
「面白そうなの、いっぱいいたなぁ……」
くつくつと笑う。
「次は誰にしよっかなぁ」
その声は、どこまでも軽かった。
まるで――
遊びを選ぶ子供のように。
最近重たい回ばかりでしんどいですよね。
スキル無双系やコツコツスローライフ系を望んで読んでくれている方には申し訳ないです。
もう少しで戻そうと思っております。




