↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
177/202

お姉ちゃん

第177話です。宜しくお願い致します。


白井が扉を開けた。

 その瞬間、廊下で息を潜めていた5人が動く。

 今井恭太。

 コン太。

 未来。

 陸斗。

 阿川。

 全員が透明化したまま、白井の背後をすり抜けるように部屋の中へ入った。

 誰にも気づかれてはいない。

 部屋の中には、神崎幸子がいた。

 そして、その側には雪子、爺や、神崎誠司、神崎涼子の姿もある。

 雪子と爺やを見た瞬間、透明化している5人の胸に緊張が走った。

 未来も陸斗も、すぐにでも声をかけたい気持ちを押し殺した。

 今はまだ動く時ではない。

 白井は、そんな5人の存在に気づくことなく、幸子の前へ進んだ。

 そして、両手を握りしめ、心底嬉しそうな顔で声を弾ませる。

「いやぁ〜、幸子様!」

 幸子は玉座のような椅子に腰掛けたまま、白井を見る。

 白井は感極まったように続けた。

「先程、見たばかりですがやはり美しいですなぁ……!!」

 幸子の眉が、わずかに動いた。

「先程見た……?」

 その声音には、明らかな違和感があった。

 だが、白井は気づかない。

 幸子と話せることが嬉しくて仕方がないのか、さらに興奮した様子で言葉を続ける。

「人工的にスキルを作る研究に興味を持っていただいた事に私は嬉しくて、嬉しくて!」

 幸子は椅子の肘掛けに置いた指を止めた。

 部屋の空気が、少しだけ変わる。

「ちょっと待って……」

 幸子は白井をじっと見た。

「何の話をしてるの……?」

 白井はきょとんとした顔になる。

「え……?」

 そして、不思議そうに首を傾げた。

「先程、研究室で人工的にスキルを作る研究に興味が湧いたと仰ってましたが……?」

 幸子の表情が、はっきりと険しくなった。

「人工的にスキルを作る話なんて初耳何だけど……?」

 白井の顔から、少しずつ血の気が引いていく。

 幸子は続ける。

「それに、私は今日一度も研究室には行ってないわよ……」

 白井は硬直した。

「そんな……」

 声がかすれる。

「どういう事でしょうか……」


 ◇


 ここで迷っている時間はなかった。

 その時、幸子の後ろから声がした。

「何を言ってるの……!」

 部屋の中に、もう1人の幸子が現れる。

 透明化を解いたコン太だった。

 黒い長い髪。

 整った顔立ち。

 口元のほくろ。

 そこに立っているのは、どこからどう見ても神崎幸子そのものだった。

 ただ1つ違うのは、その手に白井から受け取った注射器が握られていることだった。

 コン太は幸子の姿のまま、微笑む。

「私に注射をくれたじゃない……?」

 白井の目が大きく見開かれる。

「幸子様が2人?!」

 幸子も目を見開いた。

「え……?」

 幸子が後ろを振り向こうとする。

 その一瞬。

 コン太は動いた。

 手にしていた注射器を、幸子の首筋へ突き刺す。

 あまりにも一瞬の出来事だった。

 幸子は、何が起きたのか理解できなかった。

 首筋に走った鋭い痛み。

 注射器。

 自分と同じ顔をした誰か。

 その情報が頭の中で繋がるよりも早く、薬は幸子の身体へ入っていった。

 部屋の中が一気に混乱する。

 白井が叫んだ。

「幸子様!!」

 雪子が息を呑む。

 爺やの目が揺れる。

 誠司と涼子も、何が起きたのか分からないまま固まっていた。


 ◇


 しかし、変化はすぐに訪れた。

 幸子の身体から、何かが抜け落ちるような感覚が広がる。

 それは目には見えない。

 音もない。

 だが、部屋の空気が確かに変わった。

 幸子の《承認欲求》。

 人々を幸子へ絶対的に従わせていた力。

 その支配が、崩れていく。

 雪子の瞳から、幸子への盲目的な忠誠が消えていく。

 爺やの目にも、同じように本来の光が戻る。

 誠司と涼子の顔からも、幸子を崇拝するような表情が消えた。

 雪子は、目の前の幸子を見つめる。

 その声は、震えていた。

「幸子姉様……」

 幸子は首筋に手を当てたまま、立ち尽くしている。

 雪子はゆっくりと言った。

「もう、終わりにしない……?」

 爺やも一歩前に出る。

 その表情には、深い悲しみと慈しみが混ざっていた。

「幸子お嬢様……」

 爺やは静かに頭を下げる。

「もう、わたくし達のスキルは無くなりました……」

 その言葉が、幸子の心を決定的に揺さぶった。

「いやぁァァァ!!!」

 幸子は大声で叫んだ。

 喉が裂けそうな声だった。

 自分を神様にしていた力。

 誰にも見てもらえなかった自分を、誰かの中心に置いてくれた力。

 雪子を取り戻すために使った力。

 爺やをもう一度側に置くために使った力。

 その全てが、失われた。

「そんなぁ……」

 幸子は膝から力が抜けたように、ふらつく。

「どうして、こんな事に……」

 そして、そのまま放心状態で固まってしまった。

 口をぽかんと開け、目の焦点も合っていない。

 まるで、自分の心だけがどこか遠くへ置き去りにされたようだった。


 ◇


 その沈黙を破ったのは、神崎誠司だった。

 幸子への支配から解き放たれた誠司は、顔を真っ赤にして怒鳴る。

「お前は最悪な事をしてくれたなぁ!!」

 幸子は動かない。

 誠司はさらに声を荒げる。

「神崎家に泥を塗るようなマネをして!」

 その目には、怒りと嫌悪が浮かんでいた。

「恥さらしめ!!」

 神崎涼子もすぐに続いた。

「そうよ! そうよ!」

 涼子は幸子を睨みつける。

「私達に葉っぱなんて仰がせて、なぁに女王になった気でいるのよ!」

 声には、押さえ込まれていた怒りが一気に噴き出していた。

「あぁ〜気持ち悪いったらありゃしない!!」

 正気に戻った両親は、幸子へ嫌味と怒号を浴びせ続ける。

 幸子は何も言わなかった。

 放心状態のまま、口を開け、無表情でその言葉を聞いている。

 誠司と涼子の言葉は、明らかに言い過ぎだった。

 あまりにも冷たく、残酷だった。

 だが、幸子がスキルによって大勢の人間を操っていたことも事実だった。

 多くの人の自由を奪い、雪子や爺やさえも支配下に入れた。

 その罪が消えるわけではない。

 誰かを傷つけた者が、傷つけられた言葉によってさらに壊されていく。

 その光景は、あまりにも歪だった。

 その時、雪子が叫んだ。

「2人ともちょっと黙って!!」

 部屋の空気が止まった。

 神崎誠司と神崎涼子は、驚いたように雪子を見る。

 雪子が両親に対して声を荒げることなど、今まで一度もなかった。

 いつも顔色を伺い、期待に応え、神崎家の娘として振る舞ってきた。

 その雪子が、初めて怒鳴った。

 誠司も涼子も、思わず言葉を失う。


 ◇


 雪子は幸子へ視線を向けた。

 その目には、涙が浮かんでいた。

「私がさ、幸子姉様の誕生日の日に花飾りあげた時あったじゃない……?」

 幸子の表情が、ほんのわずかに揺れた。

 あの日。

 庭で摘んだ花で作った、ピンク色の花飾り。

 幼かった雪子が、幸子の誕生日に贈ったもの。

 幸子が初めて、雪子に素直な感謝を伝えた日。

 雪子は涙をこらえながら続ける。

「その時、私は知ってたの……!」

 声が震える。

「花飾りの一部の花を押し花にして、部屋の本棚の本の中に大切にしまってあること……!」

 幸子の目が少しだけ開かれる。

 ずっと誰にも知られていないと思っていた。

 自分の中だけにしまっていた、小さな宝物。

 雪子は、それを知っていた。

「私は知ってる! 本当は幸子姉様がこんなに優しい事を……!」

 雪子の涙が頬を伝う。

「それなのに、私は姉様の気持ちも考えず、こんな家や両親の顔色ばかりを伺っていた」

 誠司の眉が吊り上がる。

「こんな両親だと……?」

 涼子も不愉快そうに雪子を睨む。

 だが、雪子はもう怯まなかった。

 今までずっと言えなかった言葉を、ようやく口にする。

「私は元々両親から捨てられて養子になっていたの……」

 その言葉に、幸子がわずかに反応した。

 聞いているのかどうかすら分からなかった幸子の瞳が、少しだけ雪子へ向く。

 雪子は胸元を握りしめる。

「だから、私にはこの家しかなかったし、両親にも捨てられたくなくて必死に頑張った!」

 雪子にとっても、神崎家は楽園ではなかった。

 捨てられた子供が、もう二度と捨てられないために縋った場所。

 認められるために、必死で努力した場所。

 それが神崎家だった。

「お姉様……」

 雪子は一度言いかけて、首を横に振る。

「いえ、お姉ちゃんとも仲良くなりたかったの!」

 その呼び方に、幸子の瞳が揺れた。

 神崎家の娘としての呼び名ではない。

 妹が姉へ向ける、素直な呼び名だった。

「神崎家や政治なんて本当はどうでも良かったの!」

 雪子は涙を流しながら叫ぶ。

「本当は自分に家族が欲しかっただけ……」

 その言葉は、幸子の胸に深く刺さった。

 雪子も同じだった。

 欲しかったのは地位ではない。

 神崎家の名前でもない。

 両親の期待でもない。

 ただ、家族が欲しかった。

 自分を捨てない誰かが欲しかった。

 雪子は幸子へ向かって、頭を下げる。

「結果的にお姉ちゃんを傷つけてしまって本当にごめんなさい……」

 幸子の唇が震える。

「雪子……」

 幸子の目から、涙がこぼれた。

 そして、何度も小さく首を横に振る。

「……うん」

 声がかすれている。

「私の方こそ本当にごめんなさい……」

 幸子は自分の手を見る。

 その手で何をしてきたのか。

 どれだけの人を支配したのか。

 どれだけの自由を奪ったのか。

 ようやく現実が押し寄せてくる。

「私は取り返しのつかない事をしてしまったわ……」

 幸子と雪子の間に、ほんのわずかな静けさが訪れた。

 姉妹として向き合えた、あまりにも遅い時間。


 ◇


 しかし、その静けさはすぐに壊された。

 涼子の冷たい声が響く。

「そうよ、取り返しのつかない事を貴方はしたわ……」

 幸子がびくりと肩を震わせる。

 涼子は幸子を睨んでいた。

「雪子が私達に楯突いたのだって、全部あんたのせいよ……」

 涼子の視線は、幸子への嫌悪に満ちていた。

「もっと早くにこうすれば良かったわ……」

 その声に、透明化している未来達も違和感を覚えた。

 涼子の手が、机の上へ伸びている。

 そこには、果物ナイフが置かれていた。

 涼子はそれを掴んだ。

 雪子が目を見開く。

 幸子は、まだ動けない。

 涼子は叫んだ。

「死ねぇ゙ぇ゙ぇ゙!!!」

 涼子が幸子へ向かって突っ込む。

 幸子の顔が恐怖に歪んだ。

「キャーー!!」

 雪子も叫ぶ。

「お姉ちゃん!!!」

 果物ナイフが突き出される。

 刃が、胸に突き刺さった。

 だが、刺されたのは幸子ではなかった。

 幸子の前に飛び出した男。

 その胸に、果物ナイフが深く沈んでいる。

 白井だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。