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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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174/206

私は悠真を信じる

第174話です。宜しくお願い致します。

 


その日の夜。

 崩れた地下拠点の周囲には、重たい空気が漂っていた。

 土埃は少しずつ落ち着いてきていたが、そこに残ったものは、安心とは程遠かった。

 亡くなった者を偲び、静かに涙を流す住民。

 助かった家族の手を握ったまま、離そうとしない者。

 崩れた土壁を見つめたまま、呆然としている者。

 誰もが、突然奪われた日常の前で立ち尽くしていた。

 未来は、その少し離れた場所に座っていた。

 膝を抱え、じっと地面を見つめている。

 東京のことが頭から離れなかった。

 悠真の《日常生活》が使えなくなった。

 爺やの《土いじり》で作られた地下拠点は崩れた。

 ならば、悠真のスキルで支えられていた東京はどうなっているのか。

 すぐにでも確認しに行きたい。

 もし東京で何かが起きていたら。

 もし、誰かが助けを待っていたら。

 そう思うと、胸の奥が落ち着かなかった。

 だが、同時に頭では分かっていた。

 悠真の判断が間違っているわけではない。

 雪子と爺やはまだ戻っていない。

 幸子側には、超人族やスキルに干渉する薬がある。

 このまま放置すれば、東京だけでは済まなくなる。

 山梨の問題を先に解決するという悠真の判断にも、理屈はあった。

 それが分かるからこそ、未来は苦しかった。

 自分の気持ちと、理解できてしまう現実が、胸の中でぶつかっている。


 ◇


 その時、未来の隣に誰かが腰を下ろした。

 視線を向けなくても、誰かはすぐに分かった。

 芹沢理香子だった。

 普段なら、未来とどこか張り合うように悠真へ絡み、互いに意識し合う相手。

 今も、芹沢はいつものように柔らかい笑みを浮かべている。

 しかし、その目はいつもより静かだった。

「貴方らしくない顔しちゃって……♡」

 未来は顔を背ける。

「うるさい……」

 声には苛立ちが混ざっていた。

「今はあんたに構ってる程、余裕ないのよ……」

 芹沢は少しだけ目を細める。

「何?」

 甘い口調のまま、しかし言葉ははっきりしていた。

「あんただけが余裕ないとでも思ってる訳?」

 未来は眉を寄せる。

 芹沢は、崩れた拠点の方へ視線を向けた。

「周りをみてみなさい♡」

 未来は言われるままに、ゆっくりと顔を上げた。

 そこには、地下拠点の住民達がいた。

 家族を失い、肩を震わせて泣いている者。

 怪我をした仲間に寄り添う者。

 何も言えず、崩れた土の集落を見つめる者。

 子供を抱きしめたまま、ただ不安そうに周囲を見る者。

 そこにいる誰もが、余裕などなかった。

 未来は何も言えなくなる。

 芹沢は静かに続けた。

「貴方の意見も私は正しいと思うわよ♡」

 未来は少しだけ芹沢を見る。

「私達はあくまで東京が最優先であるべきだしね♡」

 それは、未来の気持ちを否定しない言葉だった。

 東京を心配すること。

 東京を優先したいと思うこと。

 それは間違っていない。

 芹沢は未来のそうした思いを認めた上で、続ける。

「でも、リーダーは目の前の人達を選択したの♡」

 未来の視線が、崩れた拠点の住民達へ戻る。

「そして、東京にいる仲間達を信じたの♡」

 東京を見捨てたわけではない。

 忘れたわけでもない。

 悠真は、自分がいなくても東京を守る者達がいると信じた。

 そのうえで、今目の前にいる人達を助けることを選んだ。

 芹沢は、優しく言う。

「もしも、東京が心配になったら先ずは目の前のこの人達の事を見てみて……♡」

 未来は黙っていた。

 崩れた拠点。

 泣いている住民。

 不安そうな子供。

 その全てが、未来の目に入ってくる。

 東京が心配なのは変わらない。

 それでも、目の前にも助けを必要としている人達がいる。

 しばらく沈黙が続いた。

 やがて、未来は小さく口を開いた。

「私、悠真に初めて怒ったの……」

 芹沢は何も言わず、未来の言葉を待つ。

「私と悠真の意見が同じ事が当然だと思った……」

 未来は膝を抱える手に力を込める。

 悠真なら分かってくれる。

 悠真なら同じように考える。

 どこかで、そう思っていた。

 だから、悠真が自分とは違う判断をした時、未来は強く動揺した。

 東京を心配しているのは自分だけなのかと思った。

 でも、違う。

 悠真も怖い。

 悠真も心配している。

 それでも選んだのだ。

 未来は住民達を見つめたまま、もう一度口を開く。

「私は悠真を信じる……」

 声は少し震えていた。

 未来の目から、小さな涙がこぼれる。

 芹沢はその横顔を見て、少しだけ笑った。

「今日だけは私の膝で寝ていいわよ♡」

 未来は即座に睨む。

「うるさい……」

 だが、その声にはもう先ほどの刺々しさはなかった。

 未来は少しだけ視線を落とす。

「でも、ありがとう……」

 芹沢はそれ以上、何も言わなかった。

 ただ、未来の隣に座り続けた。


 ◇


 その同じ夜。

 眠れずにいた者が、もう1人いた。

 今井恭太だった。

 恭太は、崩れた地下拠点の近くで1人座り込んでいた。

 顔を伏せ、拳を握りしめている。

 雪子と爺やを先に行かせたのは、自分だった。

 自分の《透明人間》で2人を透明化させ、幸子の元へ向かわせた。

 あの時は、それが最善だと思った。

 雪子は幸子に会いたがっていた。

 爺やも、幸子と会うべき人物だった。

 透明化すれば誰にも気づかれずに行ける。

 そう考えた。

 だが結果として、爺やは少なくともスキルを失った可能性が高い。

 雪子もどうなっているか分からない。

 そして、爺やのスキルで作られていた地下拠点が崩れ、住民の何人かが亡くなった。

 恭太は、何度も自分の判断を思い返していた。

 自分が止めていれば。

 自分が透明化させなければ。

 別の方法を選んでいれば。

 そんな考えが、頭から離れない。

 その時、隣に人の気配がした。

「もう遅いぞ……寝ないのか?」

 浮田だった。

 浮田は恭太の隣に腰を下ろす。

 恭太はゆっくり顔を上げた。

「浮田さん……」

 そして、堪えていたものが溢れるように言葉を吐き出した。

「俺の……俺のせいで、こんな事になってしまって……」

 恭太の声は震えていた。

「俺は浮田さんに憧れて、看護師になる勉強をしてます……」

 浮田は黙って聞いている。

「人を助ける仕事である、看護師が絶対にしない事を俺はしてしまった……」

 恭太は唇を噛みしめた。

 誰かを助けたいと思っていた。

 誰かの命を救う仕事に就きたいと思っていた。

 それなのに、自分の判断が人を死なせる原因になったかもしれない。

 その事実が、恭太の胸を押し潰していた。

 浮田はすぐに否定しなかった。

 恭太の言葉を、最後まで静かに聞いた。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

「俺はお前に感謝してるぞ」

 恭太は驚いたように顔を上げる。

「え……?」

 浮田は、恭太の目を見る。

「SPМとの戦いの時、桜井のスキルを暴く為の鍵になったのはお前だろ?」

 恭太は息を呑む。

 浮田は続けた。

「あれがなかったら悠真達、勿論俺も含めて桜井に操られていたままだったかも知れないだろ……?」

 恭太の《透明人間》があったからこそ、あの時の作戦は成立した。

 恭太がいなければ、悠真達は桜井の支配から抜け出せなかったかもしれない。

 それは確かに、恭太が救った命だった。

「それに、雪子さんや爺やさんだってあくまで自分で判断した事だ」

 浮田の声は静かだった。

 だが、強かった。

「決してお前のせいだけじゃない!!」

 恭太は何も言えなかった。

 浮田は、恭太の責任をすべて消そうとしているわけではない。

 だが、恭太1人だけが背負うものではないと伝えていた。

 戦場では、誰もが判断する。

 雪子も、爺やも、自分の意思で進んだ。

 悠真達も、その判断を止めきれなかった。

 結果のすべてを、恭太1人が抱え込む必要はない。

 恭太は深く息を吸った。

「浮田さんにそんな事言って頂けるなんて……」

 少しだけ、表情が緩む。

「ありがとうございます!」

 浮田は小さく笑った。

「明日はお前のスキルが鍵だ、頼むぞ!」

 その言葉に、恭太の目が変わった。

 自分のスキルで失敗した。

 そう思っていた。

 だが、今度はそのスキルで取り返す。

 誰かを助ける。

 そのために使う。

 恭太は真っ直ぐに頷いた。

「はい、頑張ります!」

 その顔には、昨日までの自責だけではない。

 前へ進む覚悟が宿っていた。


 ◇


 翌朝。

 崩れた地下拠点の周囲に、薄い朝日が差し込んでいた。

 十分な休息とは言えない。

 それでも、悠真達は次の作戦へ向けて動き始めていた。

 未来は悠真の前に立つ。

 少し気まずそうに、しかし真剣な顔で口を開いた。

「悠真、昨日はあんな風に言ってごめんね……!」

 悠真は首を横に振る。

「いや、俺の方こそ勝手に決めて悪かった……」

 そして、未来をまっすぐ見る。

「東京の事が心配で、当然なのに……」

 未来は小さく頷いた。

 2人の間に残っていたわだかまりが、少しずつ溶けていく。

 未来はもう一度、悠真を見る。

 東京への不安が消えたわけではない。

 それでも、今は悠真を信じると決めた。

 恭太も、昨日とは違う表情をしていた。

 不安も後悔も完全に消えたわけではない。

 だが、目は前を向いている。

 自分の《透明人間》が、次の作戦の鍵になる。

 その覚悟が、顔に表れていた。

 少し離れた場所で、浮田と芹沢がその様子を見ていた。

 浮田が小さく呟く。

「何だかんだ、未来の事気にしてるよな……」

 芹沢は横目で浮田を見る。

「……貴方も恭太君に昨日何か言ってあげたんじゃない?」

 浮田は肩をすくめる。

「まぁな……」

 そして、悠真達若いメンバーを見る。

「しっかりしてるからついつい忘れがちだが、あいつらはまだ若いからな……」

 浮田は静かに続けた。

「俺達、年上組が支えてやらなきゃな……」

 その言葉に、芹沢がすぐに反応する。

「私は年齢非公開なのよぉ〜♡」

 わざとらしく頬に手を当てる。

「貴方と一緒にしないでくれるぅ〜♡」

 浮田は呆れたように息を吐いた。

「……はいはい」

 そのやり取りに、少しだけ空気が緩む。

 重苦しい一夜を越えた。

 失ったものは大きい。

 不安も消えていない。

 だが、それでも前へ進むしかない。

 悠真は仲間達を見渡した。

 《日常生活》はまだ使えない。

 東京の状況も分からない。

 雪子と爺やも戻っていない。

 幸子側には、スキルを奪う薬がある。

 それでも、ここで止まるわけにはいかなかった。

 悠真は息を吸い、声を張る。

「さぁ、作戦を実行するぞ!!」



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