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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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172/203

失われた日常生活

第172話です。宜しくお願い致します。

 

悠真は手術台の上で、ゆっくりと息を整えた。

 身体はまだ重い。

 腕は戻っている。

 傷も塞がっている。

 それでも、大量に血を失った影響なのか、全身には力が入らなかった。

 だが、悠真には確認しなければならないことがあった。

 浮田に北門で何が起きたのかを話す前に、自分自身の状態を確かめる必要がある。

 悠真はかすれた声で言った。

「話す前に念の為試させてくれ……」

 周囲にいた者達が、息を呑む。

 悠真は片腕をゆっくりと上げた。

 そして、いつものようにスキルを発動しようとする。

「スキル、《日常生活》で《派遣》……!」

 本来なら、その言葉に応じて、すぐに騒がしい声が響くはずだった。

 元気すぎるほど明るい声で現れるアル。

 そのアルへ冷静にツッコミを入れるソックス。

 そして、自由奔放に、優雅で意味の分からない登場をするセイコ。

 いつもなら、そんな光景が当たり前のように目の前に広がるはずだった。

 しかし、何も起きなかった。

 白い手術空間の中は、ただ静まり返っている。

 アルの声もない。

 ソックスのため息もない。

 セイコの高笑いもない。

 シーンとした沈黙だけが、その場に残った。

 悠真はその静けさを見て、小さく息を吐いた。

「……やっぱりな」

 陸斗が目を見開く。

「……どういう事ですか?!」

 悠真は視線を落とし、静かに答える。

「恐らく、俺の《日常生活》のスキルが使えなくなったんだ……」

 その言葉に、手術空間にいた全員が固まった。

 《日常生活》。

 それは悠真の根幹だった。

 東京を守り、拠点を維持し、警備隊を呼び出し、アル達を派遣し、あらゆる生活基盤を支えてきたスキル。

 それが使えない。

 その意味は、あまりにも大きかった。


 ◇ 


 浮田が険しい表情で頷く。

「あぁ、チャン爺達が急に消えて違和感を覚えて、北門に陸斗と阿川に行って貰ったからな……」

 未来も唇を噛みしめながら言う。

「南門でも悠真の警備隊達も消えてしまっていたわ……」

 色谷も続けた。

「俺達、西門のところも一葉さんや警備隊が急に消えたんだ……!」

 東門、南門、西門。

 各場所で、悠真のスキルによって存在していた者達が同時に消えていた。

 偶然ではない。

 悠真の身に起きた異変と繋がっているのは明らかだった。

 悠真は重い息を吐く。

「まだ、俺が超人族じゃなくなったのか、それとも一時的に無効にするだけなのか、それは分からない……」

 完全に失ったのか。

 一時的なものなのか。

 スキルだけが封じられているのか。

 それとも、自分自身が超人族ではなくなったのか。

 そこまでは、まだ分からない。

 だが、1つだけ確信に近いものがあった。

「だが、話していた幸子さんの研究というのはこの事だろうな……」

 未来の顔が青ざめる。

「そんな……」


 ◇


 悠真はゆっくりと、北門で起きたことを話し始めた。

「俺達は至って順調に北門から進んでいっていた」

 アル達の連携は上手くいっていた。

 幸子親衛隊を殺さず、できる限り傷つけず、阿川の《配管工》へ送り込めていた。

 だが、突然状況が変わった。

「でも、急に白い煙のようなものが出てきたんだ……」

 陸斗が反応する。

「白い煙……?」

「あぁ……、毒とかだったらヤバいから吸わないように口を覆ったし、セイコが吹き飛ばしてくれたから難を逃れる事は出来た」

 白い煙は、一度セイコの風で吹き飛ばされた。

 その時は、危機を避けられたと思った。

 だが、本当の狙いはその先だった。

「だけど、その時に背中に違和感を覚えた……」

 悠真の声が少しだけ沈む。

「俺の背中に矢が刺さっていたんだ……」

 手術空間の中に、緊張が走る。

 悠真は一度目を閉じる。

 あの瞬間の感覚。

 背中に走った小さな痛み。

 そこから急速に抜けていった力。

 アル達が消えていく光景。

 思い出すだけで、胸の奥が冷たくなった。

「白い煙で周りの視界を奪い、更に白い煙に集中させて、その油断を突くっていった所だろう……」

 悠真は少し黙った。

 そして、再び口を開く。

「そこからだ……」

 声は小さかった。

 だが、全員が聞き逃さないように耳を傾けていた。

「アル達が急に消え始めたのは……」

 悠真は自分の手を見た。

 今は戻っている腕。

 しかし、そこにあるはずの力はまだ戻っていない。

「その矢が原因だろう……」

 浮田が眉を寄せる。

 悠真は続けた。

「勿論、その矢だけに薬が使われていたのか、その矢と煙に使われていたのかは分からないがな……」

 白い煙そのものにも何かが含まれていた可能性はある。

 だが、少なくとも悠真に直接影響を与えたのは、背中に刺さった矢だ。


 ◇


 浮田は腕を組み、低く呟いた。

「……成る程な」

 そして、幸子のスキルを思い返す。

「まぁ、確かに幸子さんのスキルは超人族以外を洗脳させる能力だから、その薬があれば、この国を支配出来るくらいの能力になるもんな……」

 幸子の《承認欲求》は、超人族には効果がない。

 それが、今までの大きな前提だった。

 だが、もし超人族を人間に戻す薬があるのなら。

 あるいは、スキルそのものを封じる薬があるのなら。

 幸子の弱点は消える。

 超人族さえも無力化し、普通の人間に戻し、そのうえで《承認欲求》の条件を満たさせることができる。

 それは、山梨だけでは済まない。

 日本全体を支配できるほどの脅威だった。

 その時、色谷が考え込むように口を開いた。

「超人族を人間に戻しているのか、スキルだけをなくしているのか、それとも一時的なのかは分からない……」

 色谷は一度言葉を切る。

 そして、周囲を見渡した。

「でも、逆に元に戻す薬ってのも同時に開発してるんじゃないか……?」

 その言葉に、一同がハッとした。

 人間に戻す薬がある。

 ならば、その作用を戻す薬。

 あるいは中和する薬が存在する可能性もある。

 悠真も目を細めた。

「……確かにその可能性は全然あるかもな……」

 考えれば考えるほど、あり得る話だった。

 危険な薬を作るなら、失敗や誤使用に備えて解除手段を用意する可能性はある。

 何より、研究者達が作ったものなら、効果を制御する方法を探していてもおかしくない。

 悠真はゆっくりと息を吸う。

「それに、もし本当にそれがあって手に入れる事が出来たら能力を取り戻せるだけじゃない……」

 全員の視線が悠真へ集まる。

「一気に戦況はひっくり返るぞ……」

 陸斗がすぐに問いかける。

「どういう事ですか?」

 悠真はかすれた声で説明する。

「もし、薬を手に入れたら戻せる薬は俺に使い、スキルを使えなくする薬は幸子さんに使う事で……」

 そこまで聞いた陸斗が、目を見開いた。

「成る程!」

 そして、勢いよく続ける。

「幸子さんのスキルがなくなるから、洗脳された人も正気に戻るって事ですね!」

 芹沢も頷いた。

「それに、幸子さんのスキルが仮に戻ったとしても対処法が分かれば、洗脳される事はもうないってことね♡」

 悠真は頷く。

「そう、その通り……!」

 絶望的な状況の中に、初めて反撃の糸口が見えた。

 悠真がスキルを取り戻す。

 幸子の《承認欲求》を封じる。

 その2つが叶えば、戦況は大きく変わる。

 だが、問題はそこからだった。

「だが、元に戻す薬があるかという確証がある訳ではないし、スキルをなくす薬もどうやって手に入れるかだよな……」

 敵地のどこに薬があるのか。

 白井の研究施設なのか。

 幸子の部屋の近くなのか。

 保管庫なのか。

 そもそも戻す薬が存在するのか。

 何も分かっていない。

 今井恭太が口を開く。

「俺のスキルで潜入させる事は出来るが、どうやって薬を見つけるかが問題だな……」

 《透明人間》による潜入は有効だ。

 しかし、透明化できる人数には限りがある。

 何を探せばいいのか分からないまま敵地を歩き回るのは危険すぎる。

 手術空間に、再び重い空気が流れた。


 ◇


 その時だった。

 寝かされていたコン太が、かすかな声を漏らした。

「それならオイラが適任だコン……!!」

 悠真が驚いて顔を向ける。

「……コン太!」

 コン太はゆっくりと目を開けていた。

 まだ顔色は悪い。

 身体もふらついている。

 それでも、その目には強い意志が宿っていた。

「起きてたのか……!」

 浮田がすぐに近づく。

「まだ、安静にしてないと……」

 本来なら、コン太は動かすべきではない。

 脳震盪を起こし、意識を失ったばかりなのだ。

 浮田の言葉は医者として当然だった。

 だが、コン太は首を横に振る。

「悠真は身を呈してオイラを守ってくれたコン……!」

 声は弱い。

 それでも、はっきりとしていた。

「悠真があの時庇ってくれなかったら多分、オイラは死んでたコン……!」

 コン太は悠真を見る。

 大粒の涙が、目尻に浮かんでいた。

「次はオイラが悠真を助ける番だコン!!」

 悠真は何も言えなかった。

「コン太……」

 コン太は今度は浮田を見る。

「浮田、頼むコン!」

 そして、頭を下げる。

「行かせてほしいコン!」

 浮田は深くため息を吐いた。

「はぁ……」

 本当なら、止めるべきだった。

 医者としては、絶対に安静にさせるべき状態だ。

 ここで送り出すなど、医者失格と言われても仕方がない。

 だが、状況はそんな正論だけで動けるものではなかった。

 コン太の能力は、潜入や探索に向いている。

 変身もできる。

 植物も操れる。

 そして何より、コン太は自分の意思で立ち上がっている。

 浮田は苦い顔で言った。

「本当は安静にしておいてほしいから、ここで送り出すのは医者失格だろうが……」

 それでも、浮田は続ける。

「他に、手段がある訳じゃないしな……」

 そして、静かに頷いた。

「許可するよ」

 コン太の顔がわずかに明るくなる。

「ありがとうコン!!」


 ◇


 悠真達は、すぐに再突入するのではなく、一度雪子達の地下拠点へ戻ることにした。

 今も《手術室》の外では、幸子親衛隊達が攻撃を加えている。

 このまま真正面から動けば、再び同じ罠にかかる可能性が高い。

 それに、一旦逃げ帰ったと思わせれば、幸子側を油断させることができるかもしれない。

 悠真はまだ本調子ではないため、支えられながら移動する。

 コン太も無理をしているのは明らかだったが、自分の足で立っていた。

 阿川の《配管工》を使い、悠真達は雪子達の地下拠点へ戻る。

 だが、配管を抜けた先で待っていたのは、予想外の光景だった。

 そこにあったはずの地下拠点が、崩れていた。

 土で作られた通路。

 土の壁。

 格子扉。

 住居のように整えられていた空間。

 爺やの《土いじり》によって作られた地下の集落。

 そのすべてが、無残に崩れ落ちていた。

 土埃が舞っている。

 かつて人々が暮らしていた場所の面影は、ほとんど残っていない。

 今野が呆然と立ち尽くした。

 そして、掠れた声で呟く。

「拠点が何で……?!」



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