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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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169/202

ポンッ 2

第169話です。宜しくお願い致します。


北門の周囲に、白い煙が広がり始めていた。

 それは、崩れた門の隙間から。

 壁際の小さな穴から。

 地面に空いた裂け目のような場所から。

 ゆっくりと、しかし確実に噴き出していた。

 幸子親衛隊達を阿川の《配管工》へ送り込み、救出作業は順調に進んでいた。

 アルが武器だけを撃ち抜き、ソックスが水で流し、コン太がツルで回収する。

 セイコも突風で敵の動きを崩し、ガドラーと警備隊達も北門の周囲を押さえていた。

 だが、その足元から現れた白い煙に、悠真は強い違和感を覚えた。

「何だ、この煙は……?」

 悠真は咄嗟に鼻と口を手で押さえた。

 正体は分からない。

 だが、敵がこのタイミングで出してきたものだ。

 安全なはずがない。

 悠真はすぐに声を張った。

「セイコ頼む!」

 その指示に、セイコは優雅に一礼する。

「お任せ下さいですわ!」

 セイコはその場で再び回転を始めた。

 最初は舞うように。

 次第に速度を増し、周囲の空気を巻き込んでいく。

 風が生まれた。

 強い突風が、白い煙を押し返していく。

「サウザンドトウループですわ!」

 セイコの声と共に、白い煙は渦を巻きながら吹き飛ばされていった。

 北門周辺に漂っていた不気味な白煙が、風に流されて遠ざかっていく。

 悠真はそれを見て、一瞬だけ安堵した。

「助か……」


 ◇


 助かった。

 そう言いかけた、その時だった。

 悠真の背中に、チクッとした違和感が走った。

 最初は小さな痛みだった。

 針で刺されたような、ほんの一瞬の痛み。

 だが、次の瞬間、その痛みは背中全体へじわりと広がっていった。

 悠真は反射的に後ろへ手を伸ばす。

 指先に、硬く尖ったものが触れた。

 1本ではない。

 いくつか、背中に刺さっている。

 コン太がその光景を見て、顔を青ざめさせた。

「背中に矢が刺さってるコン……」

「……矢」

 悠真は呆然と呟いた。

 次の瞬間、膝から力が抜ける。

 身体を支えきれず、悠真はその場に膝をついた。

「痛い……」

 呼吸が乱れる。

 背中から熱い痛みが広がっていく。

 それと同時に、身体の奥から何かが抜け落ちていくような感覚があった。

「力が抜ける……」

 悠真の異変に、ガドラーが即座に反応した。

「我が君!!」

 ガドラーは駆け出そうとした。

 だが、次の瞬間。

 悠真の目の前で、ガドラーの姿が消えた。

 ポンッ。

 場違いなほど軽い音だった。

 まるで最初からそこにいなかったかのように、ガドラーの姿が消える。

 続けて、周囲にいた警備隊達も次々と消えていった。

 1人。

 また1人。

 北門を守っていた15名の警備隊が、次々と音を立てて消えていく。

「ご主人様!!」

 アルが叫ぶ。

 だが、その声も途中で途切れた。

 アルの身体が薄れ、そのままポンッという音共に消えた。

「一体何が……」

 ソックスも、状況を理解する前に消えた。

 悠真は目を見開いた。

「な……んで?」

 声が震える。

 何が起きているのか分からない。

 背中に刺さった矢。

 抜けていく力。

 ガドラー達が消え、警備隊が消え、アルとソックスが消える。

 悠真の中で、現実がぐちゃぐちゃに崩れていった。

 その中で、セイコだけが動いた。

 消えていく仲間達を見て、セイコは何かを悟ったように表情を引き締める。

 そして、ものすごい速度で悠真の元へ駆け寄った。

「失礼いたしますわ!」

 セイコは悠真を抱え上げる。

 悠真が何かを言うより早く、セイコはそのまま阿川の《配管工》の入口へ向けて、悠真の身体を投げた。

 悠真は凄まじい勢いで飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「ぐっ……!」

 背中の矢に痛みが走った。

 だが、その痛みよりも、何が起きているのか分からない恐怖の方が大きかった。

 セイコは悠真を見て、申し訳なさそうに声を上げる。

「荒っぽくして申し訳ありませんわ!」

 それでも、その声には焦りが滲んでいた。

「配管を伝って一旦逃げるので……」

 最後まで言い切る前に、セイコの身体も薄れていく。

「セイコ……!」

 悠真が呼ぼうとした時には、もう遅かった。

 セイコもまた、ポンッという音と共に消えた。


 ◇


 白い煙の正体は、超人族を人間に戻す薬だった。

 セイコが風で吹き飛ばしたことで、悠真達は一度は煙を吸わずに済んだ。

 しかし、それも幸子親衛隊側の作戦の内だった。

 白い煙に注意を向けさせる。

 その隙に、薬を塗った矢を撃ち込む。

 悠真の背中に刺さった矢には、同じ薬が塗られていた。

 その薬によって、悠真は超人族ではなくなった。

 悠真のスキル《日常生活》は消えた。

 それにより、《派遣》で呼び出されていたアル、ソックス、セイコ。

 《警備》で呼び出されていたガドラーと警備隊達。

 そのすべてが、維持できなくなり消えてしまった。

 だが、悠真はまだそこまで理解できていなかった。

 ただ、痛みと混乱の中にいた。

 背中が痛い。

 力が入らない。

 仲間達が消えた。

 自分の中にあったはずの何かが、根こそぎ奪われたような感覚だけが残っていた。

 それでも、セイコの最後の言葉だけは耳に残っている。

 配管を伝って一旦逃げる。

 今は、それしかなかった。

 悠真は震える声でコン太へ言った。

「コン太、一旦この場から逃げるぞ!」

 コン太もまだ動揺していた。

 だが、悠真の言葉に必死に頷く。

「……分かったコン!」

 コン太は悠真の方を向いて返事をした。

 その背後で、幸子親衛隊の1人が斧を振り上げていることに気づかないまま。

 悠真の目が、それを捉えた。

 考えるより先に、身体が動いていた。

「コン太、危ない!!」

 悠真は残った力を振り絞り、コン太を押しのけた。

 コン太の身体が地面へ転がる。

 その直後。

 振り下ろされた斧が、悠真の腕を捉えた。

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 遅れて、焼けるような痛みが襲ってくる。

 悠真の腕が、地面に落ちていた。

 切り口から大量の血が溢れ出す。

 悠真の顔から血の気が引いていく。

 地面に倒れたコン太が、振り返る。

 そして、その光景を見た。

「悠真ァァァ!!!」

 コン太の叫びが、北門に響いた。

 その声は悲鳴だった。

 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、コン太はすぐにスキルを発動する。

「スキル、《化けぎつね》で《植物召喚》!」

 コン太の周囲に、大量の丸太が現れた。

 丸太は幸子親衛隊達へ向かって転がっていく。

 斧を振るった隊員も、周囲にいた親衛隊達も、その丸太に押し倒された。

 コン太はそのわずかな時間を使い、悠真の元へ駆け寄る。

 地面には、悠真の血が広がっていた。

 コン太の目から、大粒の涙が零れ落ちる。

「腕が……」

 声が震える。

 だが、悠真は苦しそうにしながらも、最初にコン太を見た。

「……怪我はないか?」

 コン太は唇を震わせる。

「悠真のお陰で元気だコン……」

 悠真は痛みに顔を歪めながらも、わずかに笑おうとした。

「お前を翡翠球に帰す前に、地球で死なせる訳には行かないからな……」

 その言葉に、コン太はさらに涙を流した。

「オイラは翡翠球なんてもういいコン!!」

 コン太は叫ぶように言った。

「悠真達と地球で過ごしたいコン……」

 それは、コン太の本音だった。

 翡翠球へ一時でも帰り、家族や友達の安否を確認すること。

 それはずっと大切な目的だった。

 だが、今のコン太にとって、悠真達と過ごした時間もまた、かけがえのないものになっていた。

 悠真は弱々しく頷く。

「ありがとな……」

 そして、息を震わせながら続けた。

「さぁ、早くコン太だけでも逃げるんだ……」

 コン太は首を横に振った。

「2人で逃げるコン!!」

 コン太はツルを伸ばし、悠真の身体を運ぼうとする。

 悠真を置いて逃げるつもりなど、最初からなかった。


 ◇


 だが、その瞬間だった。

 背後から、バットを持った幸子親衛隊が近づいていた。

 コン太は悠真を助けることに必死で、反応が遅れた。

 鈍い音が響く。

 バットがコン太の身体を殴り飛ばした。

「コン……!」

 コン太は地面を転がり、そのまま動かなくなった。

 意識を失ったのだ。

 悠真は手を伸ばそうとした。

 だが、身体が動かない。

 血が流れ続けている。

 力が入らない。

「……コン……太」

 かすれた声が漏れる。

 幸子親衛隊達が、悠真を見下ろしていた。

 その中の1人が、斧を持って前へ出る。

 口元には、歪んだ笑みが浮かんでいた。

「とどめだ……!」

 悠真は動けなかった。

 スキルは使えない。

 アル達はいない。

 ガドラーも警備隊もいない。

 セイコも消えた。

 コン太も倒れている。

 斧を持った幸子親衛隊が、悠真へ向けて腕を振り上げる。

 そして、その斧が、悠真へ向かって振り下ろされた。



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