↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
168/204

白い煙の正体

第168話です。宜しくお願い致します。


白い煙が、雪子と爺やを包み込んでいく。

 それは霧のように薄く見えたが、広がる速度は異様に速かった。

 床の隙間から。

 壁の穴から。

 まるで、この部屋そのものに最初から仕込まれていたかのように、白い煙は一瞬で2人の周囲を満たしていく。

 雪子は咄嗟に口元を押さえた。

「この煙は何……?!」

 隣にいた爺やも、すぐに雪子の前へ出ようとする。

 しかし、煙はすでに2人を飲み込んでいた。

 視界が白く濁る。

 幸子の姿も、玉座の輪郭も、神崎誠司と神崎涼子の姿も、煙の向こうでぼやけていく。

 だが、幸子の声だけは、はっきりと届いた。

「元家族が全員集合してるわね……」

 幸子は玉座の上から、部屋の中を見渡していた。

 父親である神崎誠司。

 母親である神崎涼子。

 妹である神崎雪子。

 そして、かつて唯一自分を見てくれた爺や。

 かつて神崎家と呼ばれた場所に関わる者達が、今、この部屋に集まっている。

 それは、幸子にとって歪んだ意味での家族の再会だった。

 誠司と涼子は、すでに幸子の支配下にある。

 幸子を崇拝し、幸子の言葉に従い、今も大きな葉で風を送り続けている。

 そして今、雪子と爺やも白い煙に包まれていた。

 幸子は、煙の中にいる2人へ静かに問いかける。

「雪子、爺や……」

 その声は、いつものような支配者の声ではなかった。

 どこか縋るようで、それでも逃げ道を塞ぐような響きがあった。

「もう一度、私の家族になってくれる……?」


 ◇


 雪子は白い煙の中で、幸子の言葉を聞いた。

 煙の正体は分からない。

 何かがおかしい。

 そう思いながらも、その問いだけは無視できなかった。

 幸子は姉だ。

 血は繋がっていなくても、雪子にとって、今でも大切な姉だった。

 雪子は震える声で答える。

「……勿論、今でも姉様の家族よ」

 それは本心だった。

 どれだけ幸子が変わってしまっても。

 どれだけ多くの人を支配してしまっても。

 雪子は幸子を切り捨てるつもりなどなかった。

 続いて、爺やも深く頷く。

「はい、わたくしはあなたの側をもう2度と離れません……!」

 爺やの言葉もまた、本心だった。

 世界が壊れてから、ずっと幸子を案じていた。

 今度こそ、離れない。

 今度こそ、側にいる。

 その想いに嘘はなかった。

 幸子は、2人の返答を聞いて、ゆっくりと微笑んだ。

「……そう、ありがとう」

 その笑みは、嬉しそうだった。

 けれど、どこか壊れていた。

「あなた達なら答えてくれると思ったわ……」

 次の瞬間。

 雪子と爺やの様子が変わった。

 雪子の瞳から、警戒が消えていく。

 幸子を止めたいという切実な思いが、薄い膜に覆われるように遠ざかっていく。

 爺やも同じだった。

 幸子を救うためにここへ来たはずの目が、ゆっくりと幸子への崇拝に塗り替えられていく。

 幸子は、玉座の上から手招きをした。

「さぁ、2人ともこっちにいらっしゃい……」

 雪子と爺やは、ほとんど同時に答えた。

「はい、幸子様」

「はい、幸子様」

 2人はゆっくりと幸子へ近づいていく。

 もう雪子は、幸子を説得しようとはしていなかった。

 もう爺やは、幸子を止めようとはしていなかった。

 2人はただ、幸子の言葉に従い、幸子の側へ歩いていく。


 ◇


 幸子はその光景を見て、堪えきれないように笑った。

「ハハハハッ!」

 高く、乾いた笑い声が、玉座の間に響く。

「これで、神崎家は完成したわ……」

 幸子の周囲には、誠司と涼子、雪子、爺やが揃っていた。

 かつて自分を見なかった父と母。

 自分を追い抜いた妹。

 そして、自分を唯一見てくれた爺や。

 その全員が、今は幸子を見ている。

 幸子の言葉を待っている。

 幸子のために存在している。

 それは幸子にとって、ずっと欲しかった形のはずだった。

 だが、その光景はあまりにも歪だった。

 幸子は誠司と涼子へ視線を向ける。

「私が、神崎家の代表としてお母様とお父様の望み通り、この日本を建て直してあげるからね……」

 誠司と涼子は、うっとりとした表情で幸子を見ている。

 幸子はさらに続けた。

「あなた達は私の事を見守って頂戴ね……」

 誠司と涼子。

 雪子。

 爺や。

 全員が、幸子の言葉に頷いた。

 幸子は満足そうに目を細める。

 そして、部屋の隅へ向けて声をかけた。

「白井、そこに居るんでしょ?」

 その声に応じるように、白衣を着た地味な男が姿を現した。

 白井だった。

 彼は部屋の隅に控えていたのか、あるいは煙を放出する装置の近くにいたのか、幸子の呼びかけにすぐさま反応し、深々と頭を下げた。

「はい、ここに居ります!!」

 その顔は、喜びと緊張で紅潮していた。

 幸子は白井を見下ろし、満足げに言う。

「良くやったわね……」

 白井の肩がぴくりと震える。

 幸子の褒め言葉を、一言も聞き逃すまいとしているようだった。

「貴方達が開発した、超人族を人間に戻す薬……」

 幸子は、白い煙に包まれた雪子と爺やを見た。

「大成功だわ……!!」

 白井の顔が一気に輝いた。

「ありがたき幸せであります!!」

 白井はその場に跪き、額が床につきそうなほど深く頭を下げた。

 彼にとって、幸子に認められることは何よりの報酬だった。


 ◇


 幸子が白井達研究者に作らせていたもの。

 それは、超人族を普通の人間に戻す薬だった。

 白い煙として放出されたそれは、吸い込んだ超人族の力を奪い、スキルを失わせる。

 幸子はその研究のために、毎日自ら注射を打ち、血を採取して白井達へ提供していた。

 幸子の《承認欲求》。

 そのスキルは、超人族以外の人間にしか効果を発揮しない。

 だからこそ、ゲートが現れた当時、超人族であった雪子には効かなかった。

 雪子だけは、幸子を崇拝しなかった。

 雪子だけは、幸子の支配から外れていた。

 それが、幸子にとっては許せなかった。

 取り戻したかった。

 家族にしたかった。

 そして、今後この日本すべてを自分の手で建て直すためには、超人族すら支配できるようにしなければならない。

 そのために、幸子は白井達へ命じていた。

 超人族を、人間へ戻す薬を作れ、と。

 白井率いる何百人もの研究者達は、幸子の血を使い、ついにそれを完成させた。

 そして今、雪子と爺やはその薬のガスを吸った。

 その瞬間、2人は超人族ではなくなった。

 スキルを失い、幸子の《承認欲求》の対象となった。

 そこへ、幸子の問い。

 もう一度、私の家族になってくれる。

 雪子と爺やは答えてしまった。

 本心から。

 だからこそ、その返答は条件を満たした。

 2人は、幸子の支配下に入ってしまったのだ。

 幸子は白井へ視線を戻す。

「さぁ、貴方も休んでと言いたい所だけど、今、良からぬ奴らが居るから貴方も対処お願いね!」

 白井は勢いよく顔を上げた。

「はい、命をかけて私達の最高傑作で敵を無力化して参ります!!」

 幸子は満足そうに頷く。

 白井はもう一度深く頭を下げると、部屋を後にするために動き出した。

 その顔には、恐怖はなかった。

 あるのは、幸子の役に立てるという歓喜だけだった。


 ◇


 一方、その頃。

 北門から侵攻している悠真達は、まだ雪子と爺やに起きた異変を知らなかった。

 北門の突破口から拠点内へ進んだ悠真達は、押し寄せてくる幸子親衛隊を相手にしながら、救出作業を続けていた。

 幸子親衛隊達は次々と武器を構えて襲いかかってくる。

 だが、北門チームの連携は崩れていない。

「まだまだ行きますよぉ゙〜!」

 アルが明るい声を上げる。

 空中には無数の小銃が並んでいた。

 アルはまるで指揮者のように両手を動かし、それに合わせて小銃が一斉に向きを変える。

 撃ち抜くのは、幸子親衛隊の身体ではない。

 銃。

 槍。

 剣。

 手に持っている武器だけだった。

 乾いた銃声が響くたびに、幸子親衛隊達の武器が弾かれていく。

「なっ?!」

「武器が……!」

 隊員達が驚く間にも、アルは楽しげに手を振る。

「はい、そこ危ないであります! 武器だけ没収であります!」

 騒がしい。

 だが、正確だった。

 アルは一切、隊員達の身体には当てていない。

 同じ頃、ソックスは冷静に状況を見ていた。

 前方から、さらに幸子親衛隊が固まって押し寄せてくる。

 1人ずつ拘束していては、少し効率が悪い。

 ソックスは銃口を空へ向け、複数発の弾を撃ち放った。

「スキル、《特殊弾》で青の弾」

 放たれた弾が、空中で弾けた。

 次の瞬間、その中から大量の水が溢れ出す。

 水は滝のように落下し、幸子親衛隊達へ襲いかかった。

「うわぁーーー!」

「な、何だこの水は!」

「流されるぞ!」

 隊員達は大量の水に飲まれ、足元をすくわれ、まとめて押し流されていく。

 ソックスの《特殊弾》は、これまで緑と赤の弾が披露されていた。

 緑の弾は、粘液による拘束。

 赤の弾は、着弾後に炎を広げる。

 そして今回使われた青の弾は、水を生み出す弾だった。

 1発でも十分な水を発生させることができる。

 複数発同時に撃てば、今のように敵集団を押し流すほどの水量を作ることも可能だった。

 流されていく幸子親衛隊達を、今度はコン太が逃さない。

「スキル、《化けぎつね》で《植物召喚》だコン!」

 コン太の足元から、複数のツルが伸びた。

 ツルは水の流れの中へ入り込み、流されている隊員達を次々と絡め取っていく。

「捕まえたコン!」

 コン太はツルを器用に操り、隊員達を阿川の《配管工》へ運んでいく。

 水で流す。

 ツルで回収する。

 配管へ送る。

 そして、その先で浮田の《手術室》によって支配を解除する。

 北門の救出作業は、極めて順調に進んでいた。


 ◇


 その横で、ソックスがちらりとアルを見る。

「また、お前はふざけてるだろ……」

 アルは自分を指差した。

「いやぁ〜華麗に倒しているアルはカッコよくない?」

 アルは歯を光らせるような勢いで、得意げな顔をした。

 ソックスは深いため息をつく。

「はぁ……」

 そして、冷静に言う。

「その顔で言われてもカッコよくないし、無駄口たたかないで、早く任務を遂行しろ……」

 アルは心外そうに声を上げる。

「え、カッコよくないの?!」

 さらに、少し嬉しそうに続けた。

「それに、今回はソックスから話しかけてきたよね?」

 ソックスの眉がぴくりと動く。

「任務中の注意だ」

「つまり話しかけたであります!」

「黙れ」

「照れなくてもいいでありますよ!」

「本当に撃つぞ」

 相変わらずのやり取りだった。

 緊迫した戦場であっても、アルとソックスの調子は変わらない。

 だが、その掛け合いの間にも、2人の手は止まっていなかった。

 武器だけを撃ち抜くアル。

 水で敵を流すソックス。

 その隙を逃さず、コン太が回収する。

 悠真達の作戦は、確実に機能していた。


 ◇


 そこへ、セイコが前へ出る。

 セイコは優雅に片手を胸へ当て、もう片方の手を大きく広げた。

「あなた達に、私の華麗なる演技を特別に見せて差し上げますわぁ!」

 セイコはその場で回転を始めた。

 最初は優雅な舞のようだった。

 だが、すぐにその回転は異常な速度へ変わる。

 空気が巻き込まれ、周囲に強烈な風が生まれていく。

 幸子親衛隊達が思わず身構えた。

「何だ、あの女は?!」

「風が……!」

 次の瞬間、セイコの回転によって発生した突風が、幸子親衛隊達へ襲いかかった。

「うわぁっ!」

「飛ばされる!」

 隊員達は風に巻き上げられ、地面を転がるように吹き飛ばされていく。

 直接殴るわけではない。

 斬るわけでもない。

 だが、強烈な突風によって、隊員達の体勢は完全に崩された。

 セイコは回転を止め、優雅に片足を引いた。

「オーホッホッホッ!」

 そして、誇らしげに宣言する。

「わたくしの、サウザンドトウループはどうだったかしら……?」

 さらに、胸を張る。

「わたくしはバレエだけではなく、フィギュアスケートも出来ますのよォ!」

 悠真はその言葉に、思わず突っ込んだ。

「1000回転ジャンプなんて聞いたことねぇよ……」

 北門は、騒がしいながらも順調だった。

 アルが武器を弾き。

 ソックスが水で流し。

 コン太がツルで回収し。

 セイコが突風で隊員達の動きを崩す。

 警備隊も周囲を抑え、阿川の配管へ次々と幸子親衛隊達を送り込んでいる。

 誰も殺さない。

 できる限り傷つけない。

 そして、浮田の《手術室》へ送る。

 その作戦は、確実に成果を上げていた。


 ◇


 だが、その順調さは長く続かなかった。

 悠真の足元に、白いものが揺らめいた。

「……ん?」

 最初は、土煙かと思った。

 門を崩した時の砂埃が、まだ残っていたのかもしれない。

 しかし、それは違った。

 白い煙が、地面の隙間からゆっくりと立ち上っていた。

 それは北門の周囲だけではない。

 壁際から。

 崩れた門の影から。

 地面に空いた小さな穴から。

 同じ白い煙が、いくつも噴き出し始めていた。

 幸子の玉座の間で、雪子と爺やを包み込んだものと同じ煙。

 超人族を人間に戻す薬のガス。

 だが、悠真達はまだその正体を知らない。

 アルが首を傾げる。

「何でありますか、この煙?」

 ソックスの表情が険しくなる。

「……嫌な感じがするな」

 コン太も鼻をひくつかせ、耳を伏せた。

「何か変な匂いがするコン……」

 悠真は白い煙を見つめ、背筋に嫌な予感が走るのを感じていた。

 順調に進んでいた北門の救出作業。

 その足元から、不気味な白い煙が広がり始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。