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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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166/202

11人のチャン爺

第166話です。宜しくお願い致します。



北門、西門、南門で救出作戦が動き始めていた頃。

 残る東門でも、同じように作戦が始まろうとしていた。

 東門に配置されているのは、陸斗、阿川、浮田、チャン爺、二葉、三葉、芹沢。

 そこに、悠真の警備隊10名と、雪子の地下拠点から来た超人族10名が加わっている。

 他の門と比べても、東門チームはかなり安定した構成だった。

 陸斗の防御。

 阿川の《配管工》。

 浮田の《手術室》。

 チャン爺の護衛能力。

 二葉と三葉の破壊力。

 芹沢の支援。

 そして、警備隊と現地の超人族達。

 攻める力も、守る力も、救出するための仕組みも揃っている。

 その中心にあるのが、浮田の展開した《手術室》だった。

 すでに阿川の《配管工》は、各門の近くに設置されている。

 配管の中はベルトコンベアのようになっており、幸子親衛隊を入れれば、自動的にこの手術空間へ運ばれてくる。

 そして今、その最初の1人が北門から届いていた。

 白い壁。

 清潔な床。

 浮田のスキルによって作られた手術空間の中で、その男はゆっくりと目を瞬かせた。

 つい先ほどまで、彼は幸子親衛隊として北門を守っていた。

 だが、今はその目から狂信的な光が消えている。

 男はぼんやりと周囲を見回し、戸惑ったように呟いた。

「俺は何だか長い夢を見ていた気がする……」

 浮田は男の様子を確認し、軽く息を吐いた。

 解除は成功している。

 北門から送られてきた最初の1人は、確かに幸子の支配から外れていた。

「落ち着け。あんたは神崎幸子のスキルで支配されていたんだ」

 浮田はできるだけ簡潔に事情を説明した。

 幸子の《承認欲求》によって意思を奪われていたこと。

 悠真達は、幸子親衛隊を殺すためではなく、救出するために動いていること。

 そして、この手術空間に入ることで支配が解除されること。

 男は最初、信じられないという顔をしていた。

 しかし、自分の頭の中にかかっていた霧が晴れていく感覚があるのだろう。

 やがて震えるように息を吐き、浮田へ深く頭を下げた。

「助けて頂きありがとうございます」

「礼は後でいい。それより、これから同じようにどんどん人が送られてくる。混乱する奴もいるだろうから、できる範囲で説明を手伝ってくれ」

「分かりました」

 支配されていた者が、支配されていた者を落ち着かせる。

 それは、これから大量に送られてくる幸子親衛隊を受け入れる上で、必要なことだった。

 浮田は手術空間の外へ視線を向ける。

 配管の方からは、すでに次々と人が運ばれてくる気配があった。

「他の所からはもうどんどん来てるぞぉ〜」

 浮田は東門側の仲間達へ声をかけた。

「こっちもそろそろ始めるか?」


 ◇


 その言葉に、チャン爺が静かに前へ出る。

 いつものように背筋は伸び、表情は穏やかだった。

 だが、その目には隙がない。

「では、わたくし達も始めましょうか」

 チャン爺は東門の方を見据え、静かに唱えた。

「スキル、《一卵性兄弟》を10回」

 その瞬間、チャン爺の横に、もう1人のチャン爺が現れた。

 いつもの光景であれば、そこで終わりだった。

 だが、今回は違う。

 もう1人。

 さらに、もう1人。

 次々と、チャン爺とまったく同じ姿の分身体が現れていく。

 顔も、服装も、姿勢も、気配も同じ。

 穏やかな執事が、1人、2人、3人と増えていき、やがて10人の分身体が並んだ。

 本人を含めれば、そこには11人のチャン爺がいる。

 陸斗が思わず声を上げた。

「チャン爺さんが10人?!」

 雪子の地下拠点から来た超人族達も、目を丸くしている。

 味方であるはずなのに、同じ人物が11人並んでいる光景は、かなり異様だった。

 しかも、その全員が同じように穏やかに微笑んでいる。

 チャン爺達は一斉に、にこりと周囲へ笑みを向けた。

 その笑顔は優しい。

 優しいはずなのに、なぜか背筋が少し冷える。

 次の瞬間。

 11人のチャン爺達は、同時に仕込み刀を抜いた。

 動きは速かった。

 あまりにも速すぎて、東門の幸子親衛隊達は反応すらできなかった。

 気づいた時には、すでにそれぞれの喉元へ刀の切っ先が突きつけられていた。

「何だ?!」

「て……」

 叫ぼうとした隊員の言葉は、最後まで続かなかった。

 チャン爺達が、静かに口を開く。

「喋ったら刺しますよ?」

 声は穏やかだった。

 だが、冗談ではないと全員が理解できる声だった。

 幸子親衛隊達は動きを止める。

 喉元には、冷たい刃。

 少しでも動けば、突き刺さる。

 それでも、幸子の支配下にある彼らは、完全には怯まなかった。

 幸子様のために。

 幸子様の門を守るために。

 その思いが、彼らを動かそうとする。

 しかし、チャン爺達はそこまで読んでいた。

「それでも貴方達は幸子さんの為に喋ろうとするでしょう」

「抵抗しようとするでしょう」

「でも、もしそうしたら容赦なく貴方達を刺します」

「すると、貴方達は死んでしまうでしょう」

 ひとりのチャン爺ではなく、複数のチャン爺が少しずつ言葉を繋ぐ。

 まるで、同じ意思を持つ者達が、同じ結論へ導いているかのようだった。

「死んでしまったらどうなるか、分かりますよね?」

「貴方達が敬愛してならない幸子さんの役に2度と立てないのです」

「それでもよろしいのですか?」

 その言葉に、幸子親衛隊達の表情が揺れた。

 彼らは幸子に支配されている。

 幸子を神のように崇め、幸子の役に立つことを何よりも優先している。

 だからこそ、死ねば幸子の役に立てなくなるという理屈は、彼らにとって無視できないものだった。

 刀を突きつけられたまま、幸子親衛隊達はしばらくチャン爺達を睨みつける。

 だが、やがて1人の隊員が、手に持っていた銃を地面へ落とした。

 乾いた音が響く。

 それをきっかけに、別の隊員も銃を捨てる。

 また1人。

 また1人。

 次々と武器が地面へ落ちていった。

 チャン爺達は刀を突きつけたまま、静かに指示する。

「では、そのまま歩いて下さい」

「抵抗しなければ、傷つけません」

「貴方達を本来の状態へ戻します」

 幸子親衛隊達は悔しげな表情を浮かべながらも、自ら歩き出した。

 刀を突きつけられたまま、浮田の《手術室》へ向かっていく。

 戦闘らしい戦闘は、ほとんど起こらなかった。

 東門の幸子親衛隊達は、チャン爺達によって制圧された。


 ◇


 陸斗は目を輝かせていた。

「チャン爺さん、凄い!!」

 浮田は頬を引きつらせる。

「いや、流石だけどやっぱり怖いな……」

 そして、チャン爺達を見回した。

「チャン爺が本人合わせて11人居るのもそうだし、1人でこの場を制圧してしまった所とか……」

 チャン爺は穏やかに微笑む。

「いえいえ、1人ではなく11人でですよ?」

 その笑顔は、いつも通り優しかった。

 だからこそ、余計に怖い。

 浮田は小さく肩を震わせた。

「その笑顔がまた怖いな……」

 陸斗はまだ驚いた顔をしている。

「それにしてもまさか、10人増えるとは……」

 チャン爺は陸斗へ向き直り、丁寧に説明した。

「坊っちゃまのスキル強化により、わたくしの《一卵性兄弟》のスキルも強化されたのです」

 これまでの《一卵性兄弟》は、一度に1体の分身体を作るスキルだった。

 しかし、強化された今は違う。

 最大10回まで使用することができる。

 つまり、分身体を10人まで作ることができるのだ。

 本人を含めれば、11人。

 同じ戦闘技術。

 同じ判断力。

 同じ忠誠心。

 それが11人並ぶ。

 味方であれば頼もしいが、敵に回せば悪夢でしかない。

 説明を終えたチャン爺は、すっと視線を移した。

 その先にいたのは、二葉と三葉だった。

 チャン爺の目が、普段の柔らかなものから、少しだけ厳しいものへ変わる。

「次は貴方達の番ですよ?」

 二葉と三葉は、ほぼ同時に背筋を伸ばした。

「はい……」

「はい……」

 その反応を見て、阿川がぽつりと呟く。

「あの、狂気的な2人が少し怯えてる?」

 無理もない反応だった。

 二葉も三葉も、戦闘となればかなり物騒な部類に入る。

 二葉は巨大な鉄球を振り回し、三葉はワープした手足で相手を容赦なく叩き潰す。

 普段の彼女達を知っていれば、怯える側ではなく、怯えさせる側だと思うだろう。

 だが、チャン爺は執事長である。

 一葉、二葉、三葉にとっては、上司であり、指導者でもあった。

 普段、皆の前ではあまり見せていない。

 しかし裏では、かなりみっちりと指導されている。

 礼儀作法。

 掃除。

 立ち振る舞い。

 戦闘時の判断。

 そして、やりすぎた時の説教。

 チャン爺の指導は、優しい口調でありながら、逃げ道がない。

 だからこそ、二葉と三葉はチャン爺の前では少しだけ大人しくなるのだった。

 三葉が小さく口を尖らせる。

「一葉姉様だけズルイよね……」

 そして、西門の方角をちらりと見る。

「どうせ、チャン爺の居ない所でノビノビ爆破してるんだろうなぁ……」

 二葉も小声で頷いた。

「本当よね……」

 普段は何かと張り合う2人だが、この時ばかりは意見が一致していた。

「これだけはあなたと同意見だわ……」

 西門にいる一葉は、今頃きっと楽しげに爆薬を召喚している。

 そう考えると、二葉と三葉は少しだけ羨ましかった。

 しかし、その小声をチャン爺は聞き逃さない。

「……何か申しましたか?」

 穏やかな声。

 だが、二葉と三葉の肩がぴくりと跳ねた。

 二葉は即座に首を振る。

「いえ、何も……」

 三葉も慌てて前へ出た。

「門、壊しますぅ……!!」


 ◇


 そう言って、2人は東門へ向き直る。

 まず二葉が手を掲げた。

「スキル、《鉄球召喚》!」

 空中に巨大な鎖付き鉄球が現れる。

 重厚な鉄の塊が、ずしりと空気を震わせた。

 二葉はそれを掴むと、大きく振りかぶる。

 そして、東門へ向けて叩きつけた。

 轟音が響く。

 門の表面が大きくへこみ、亀裂が走った。

 続いて、三葉が笑みを浮かべる。

「スキル、《四肢ワープ》!」

 三葉の腕や脚が、東門の周囲へ次々と現れる。

 右腕が門の蝶番を殴り、左脚が補強部分を蹴り飛ばす。

 さらに別の位置から拳が現れ、門の亀裂を広げていく。

 二葉の重い鉄球。

 三葉の多方向からの連撃。

 東門は軋み、歪み、やがて大きな音を立てて崩れ始める。

 チャン爺の視線があるため、二葉と三葉はいつもより少しだけ真面目だった。

 だが、その分、無駄がない。

 確実に門の要所を破壊していく。

 やがて、東門にも大きな突破口が開いた。

 これで、北門、西門、南門、東門。

 4つの門がすべて壊れた。

 幸子の拠点を守る外側の門は、四方から突破されつつあった。

 だが、門を壊したからといって、すべてが終わるわけではない。

 むしろ、本番はここからだった。


 ◇


 その頃、西門ではさらに動きがあった。

 今野、爺や、雪子、恭太、一葉達の活躍によって、西門の突破口はすでに開かれている。

 見張り台の隊員達は《マイバッグ》で回収され、門前の隊員達も土や食材化によって無力化され、阿川の《配管工》へ送られた。

 一葉の爆破によって門も崩れ、先へ進む道はできている。

 雪子達は、そのまま拠点の奥へ向かおうとしていた。

 しかし、そこには大量の幸子親衛隊達が待ち構えていた。

 槍。

 銃。

 剣。

 斧。

 それぞれが様々な武器を手にしている。

 門を突破された場合に備え、内部側にも守備隊が配置されていたのだ。

 その数は、門前にいた隊員達とは比べものにならなかった。

 幸子親衛隊の1人が、憎々しげに雪子達を睨みつける。

「蛮族風情が……」

 別の隊員も叫ぶ。

「神聖な所に足を踏み込んだ罪を許す訳には行かない!!」

 その言葉と共に、大量の幸子親衛隊達が襲いかかってきた。

 西門チームはすぐに応戦する。

 今野は《マイバッグ》で数人ずつ収納し、敵の数を減らしていく。

 爺やは《土いじり》で足元を崩し、隊員達の動きを止める。

 一葉は味方を巻き込まないように爆薬の位置を調整し、防衛線を作る。

 色谷、ルドルフ、翔太、警備隊、雪子の地下拠点の超人族達も、それぞれ幸子親衛隊を傷つけすぎないように無力化していく。

 だが、数が多かった。

 1人を止めても、次が来る。

 3人を配管へ送っても、その奥から5人が現れる。

 幸子親衛隊は、まるで波のように押し寄せてきた。

 この場の全員を救いたい。

 それが雪子の願いだった。

 だが、ここで足止めされ続ければ、幸子の元へ辿り着くことができない。

 幸子本人を止めなければ、この支配は終わらない。

 雪子の胸の奥で、焦りが膨らんでいく。

 爆音。

 怒号。

 武器がぶつかる音。

 その中で、雪子は思わず呟いた。

「早く、姉様に会いたい……」

 それは誰かに向けた言葉ではなかった。

 ただ、心から零れ落ちた本音だった。

 幸子に会いたい。

 会って、話したい。

 止めたい。

 救いたい。

 幼い頃、花飾りを渡したあの日のように、もう一度、姉の心へ触れたかった。 


 ◇


 その呟きを聞いていた者がいた。

 今井恭太だった。

 恭太は迫る幸子親衛隊を警戒しながら、雪子へ視線を向ける。

 そして、短く言った。

「雪子さんと爺やさんは先に行って下さい!」

 雪子は驚いて恭太を見る。

「え……?」

 恭太は視線を逸らさなかった。

「幸子さんの目を覚まさせてあげて下さい」

 ぶっきらぼうな声だった。

 だが、その言葉には迷いがなかった。

 恭太のスキル《透明人間》は、もともと自分か他人、合計1人までを透明化するスキルだった。

 透明化された人間の姿は見えず、音も遮断される。

 潜入には非常に向いている。

 ただし、1人までという制限があった。

 だが、恭太のスキルもまた強化されていた。

 今では、一度に透明化できる人数が5人まで増えている。

 それなら、雪子と爺やを同時に透明化し、この大量の幸子親衛隊をすり抜けさせることができる。

 雪子は一瞬、迷った。

 この場に残って戦っている仲間達。

 目の前で支配されている幸子親衛隊達。

 彼らを置いて、自分だけ先に進んでいいのか。

 そんな思いが胸をよぎる。

 だが、爺やがそっと雪子の横に立った。

 何も言わず、ただ静かに頷く。

 その仕草だけで、雪子は理解した。

 今、自分が向かうべき場所はここではない。

 幸子の元だ。

 姉様の元へ行き、直接向き合わなければならない。

 雪子は胸の前で手を握り、深く息を吸った。

「……分かりました」

 そして、恭太へ向かって深く頭を下げる。

「ありがとうございます!!」

 恭太は少しだけ照れたように目を逸らした。

「礼はいいです。早く行って下さい」

 そして、スキルを発動する。

「スキル、《透明人間》」

 次の瞬間、雪子と爺やの姿が薄れていった。

 輪郭が空気に溶け、色が消え、完全に見えなくなる。

 同時に、2人の足音も消えた。

 幸子親衛隊達は気づかない。

 目の前で戦闘が続いていることに意識を奪われ、透明化した雪子と爺やの存在を察知できない。

 恭太は、2人がいるはずの場所へ向かって小さく言う。

「さぁ、早く行って下さい」

 その声に応えるように、見えない雪子と爺やは動き出した。

 大量の幸子親衛隊達の隙間を抜ける。

 崩れた西門を越え、拠点の奥へ。

 幸子がいる建物へ向かって。

 雪子と爺やは、誰にも気づかれないまま先へ進んでいった。



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