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【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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165/202

西門と南門

第165話です。宜しくお願い致します!


北門で悠真達が動き出した頃。

 同じく、西門でも作戦は始まっていた。

 西門に配置されているのは、神崎雪子、今野、爺や、色谷、ルドルフ、今井翔太、今井恭太、一葉。

 そこに、悠真の警備隊10人と、雪子の地下拠点から来た超人族10人が加わっている。

 北門ほど守りが厚いわけではない。

 だが、それでも幸子親衛隊の拠点を守る門の1つであることに変わりはなかった。

 見張り台には数名の隊員が立ち、門前にも幸子親衛隊が並んでいる。

 彼らは皆、幸子の《承認欲求》によって支配されている人間達だった。

 だからこそ、倒すことが目的ではない。

 傷つけずに無力化し、阿川が設置していった《配管工》へ送る。

 その先で浮田の《手術室》によって支配を解除する。

 それが、全チーム共通の作戦だった。


 ◇


 西門で最初に動いたのは、今野だった。

 今野は見張り台の上にいる幸子親衛隊を見上げる。

 あの隊員達に大声を出されれば、西門全体が一気に警戒態勢へ入ってしまう。

 ならば、その前に回収する。

 今野は右手を前へ出した。

「スキル、《マイバッグ》!」

 その瞬間、見張り台の上空に大きなバッグが現れた。

 口を大きく開けたバッグは、空中に浮かびながら、見張り台の隊員達へ迫る。

 幸子親衛隊の1人が異変に気づき、顔を上げた。

「何――」

 だが、声を出し切る前に、その身体はバッグの中へ吸い込まれていた。

 続けて、隣の隊員も。

 さらに奥にいた隊員も。

 見張り台にいた数名の幸子親衛隊は、叫ぶ暇も、銃を構える暇もなく、次々と《マイバッグ》へ収納されていった。

 バッグは役目を終えると、ひとりでに口を閉じる。

 そして、空中で小さく折りたたまれ、今野の手元へ戻ってきた。

 今野は小さく息を吐く。

「まずは、上を抑えた……」

 その声に、雪子は静かに頷いた。


 ◇


 次に動いたのは、爺やだった。

 年齢を重ねた執事らしい落ち着いた所作で、一歩前へ出る。

 その表情は穏やかだが、目は真剣だった。

 門前に立つ幸子親衛隊達を見据え、爺やは静かに唱えた。

「スキル、《土いじり》」

 直後、門前の地面が動いた。

 最初は、ほんのわずかな盛り上がりだった。

 だが次の瞬間、幸子親衛隊達の足元の土が一斉に膨らみ始める。

「何だ?!」

 隊員の1人が声を上げた。

 足元を見下ろした時には、すでに遅かった。

 土は足首を包み、膝までせり上がり、腰を越え、胴体へと達していく。

 まるで地面そのものが生き物になったかのように、幸子親衛隊達を飲み込んでいった。

「くっ……動けない!」

「何をしている、撃て!」

 幸子親衛隊達は胴体まで土に埋まり、身動きが取れなくなる。

 だが、彼らはまだ銃を持っていた。

 支配下にある彼らは、恐怖よりも命令を優先する。

 幸子様の門を守る。

 その命令に従うため、隊員達は土に拘束されながらも銃を構えようとした。


 ◇


 しかし、その時だった。

 1人の隊員が握っていた銃が、突然、細長い緑の野菜へ変わった。

「……ネギ?」

 隊員は呆然と呟いた。

 自分の手の中にあるものを見ても、理解が追いつかない。

 ついさっきまで確かに銃だった。

 それが今は、どう見てもネギだった。

 隣の隊員が慌てて銃を構えようとする。

 だが、その銃も次の瞬間には、太いゴボウへ変わった。

「ゴボウ……?」

 さらに、その隣の銃はウナギへ変わる。

 ぬるりとした黒い身体が隊員の手の中で跳ね、隊員は思わず情けない声を漏らした。

「うわっ、動いた?!」

 その後も、銃は次々と食材へ変わっていく。

 ネギ。

 ゴボウ。

 ウナギ。

 大根。

 ニンジン。

 武器だったものが、戦うための道具ではなく、食卓に並ぶようなものへ変わっていく。

 幸子親衛隊達は混乱した。

 自分達の身に何が起きているのか分からない。

 その時、彼らの背後に、ゆっくりと1人の女性が姿を現した。

 白い長髪。

 口の下の小さなほくろ。

 割烹着のような服装。

 神崎雪子だった。

 雪子は、土に拘束された幸子親衛隊達を見つめ、胸の前で手を握る。

「ごめんなさい、貴方達を助けるためなのよ……!」

 雪子の声には、敵意はなかった。

 あるのは、申し訳なさと覚悟だった。

 実は雪子は、今井恭太のスキル《透明人間》によって姿を消していた。

 透明になった雪子は、幸子親衛隊達に気づかれないまま背後へ回り込んでいたのだ。

 そして、自身のスキル《調理師》を使った。

 《調理師》は、触れた動物以外のものを好きな食材に変えることができる。

 銃は動物ではない。

 だから、雪子が触れた銃は、次々と食材へ変わっていった。

 人を傷つけず、武器だけを奪う。

 それは、今回の救出作戦において非常に相性の良い使い方だった。


 ◇


 色谷はその光景を見て、軽く肩をすくめた。

「俺の出番、一旦なかったな……」

 だが、その声には悔しさよりも感心が滲んでいた。

 色谷は雪子と恭太を見比べる。

「それにしても、即興とは思えないくらい雪子さんと恭太のコンビが決まったな!」

 雪子は少しだけ表情を緩め、恭太へ向き直った。

「恭太さんの透明化のお陰ですねっ!」

 そう言って、にこりと微笑む。

 恭太は一瞬、言葉を詰まらせた。

 雪子の笑顔を真正面から向けられ、少し照れたように視線を逸らす。

「……オレのスキルは相方が強力なスキルの奴じゃないと輝かないからな」

 ぶっきらぼうな言い方だった。

 だが、それは遠回しな称賛でもあった。

 雪子の《調理師》が強力だからこそ、《透明人間》が活きた。

 恭太はそう言っているのだ。

 雪子はその意味に気づいたのか、少し驚いたあと、嬉しそうに目を細めた。

 色谷は次に爺やの方を見る。

「それと、あの土で出来た雪子さん達の拠点を作ったのは爺やさんだったんだな」

 爺やは穏やかに頭を下げる。

「ちょっとした土いじりでございます……」

 色谷は土に胴体まで埋まった幸子親衛隊達を見る。

 そして、地下に広がっていた土の集落を思い出す。

 壁も屋根も通路も、まるで当たり前のように作られていたあの地下拠点。

 それを作った人物が、目の前の爺やだということに納得すると同時に、少し呆れたように言った。

「ちょっとしたではないな……」

 爺やはただ静かに微笑むだけだった。


 ◇


 その間にも、土に拘束された幸子親衛隊達は必死にもがいている。

「お前等!! ただじゃおかないからな!」

「幸子様に逆らう者は許さない!」

 怒号が飛ぶ。

 だが、雪子は怯まなかった。

 彼らが本心で怒っているわけではないと分かっているからだ。

 幸子の支配下にあるから、そう言っている。

 だからこそ、助けなければならない。

 雪子は真剣な表情で告げた。

「すぐに戻してあげますからね……!」

 その言葉を合図に、警備隊と雪子の地下拠点から来た超人族達が動き出した。

 土で拘束された幸子親衛隊達を1人ずつ持ち上げ、阿川の《配管工》へ運んでいく。

 今野も《マイバッグ》に収納していた見張り台の隊員達を取り出し、同じように配管へ送る準備をした。

 配管の中は、阿川のスキルによってベルトコンベアのようになっている。

 隊員達を入れれば、そのまま自動的に浮田の《手術室》へ運ばれていく。

 支配を解除するための流れは、西門でも問題なく機能していた。

 やがて、門前にいた幸子親衛隊達の回収が終わる。

 西門の前に残ったのは、大きな門と、見張り台。

 そして、それを見上げる一葉だった。

 一葉は両手を合わせ、にこやかに微笑んだ。

「では、邪魔な門は破壊しましょう♡」

 その声音は柔らかい。

 まるで、部屋の片づけでも始めるような軽さだった。

 だが、言っている内容は物騒そのもの。

 今井翔太が思わず呟く。

「相変わらず、一葉さん怖いな……」

 一葉はその呟きに微笑みを深める。

「スキル、《爆弾魔》!」

 次の瞬間、空中の四方八方に大量の爆薬が現れた。

 それらはまるで意思を持っているかのように、西門、見張り台、防衛設備の周囲へ配置されていく。

 幸子親衛隊達はすでに配管へ送られている。

 だから、巻き込む心配はない。

 一葉は静かに手を下ろした。

 直後。

 轟音が響いた。

 爆発が連鎖する。

 西門の一部が吹き飛び、見張り台が崩れ、爆風が土煙を巻き上げた。

 火花が散り、破片が地面へ落ちる。

 やかましいほどの爆音が周囲へ響き渡る中、一葉は満足そうに微笑んでいた。

 まるで、美しく掃除が終わった部屋を見ているように。

「さぁ、進みましょうか♪」

 こうして、西門にも突破口が開かれた。


 ◇


 一方、その頃。

 南門でも、救出作戦が始まっていた。

 南門に配置されているのは、未来、警備隊10名、そして雪子の地下拠点から来た超人族10名。

 未来は門の前に並ぶ幸子親衛隊達を遠目に確認しながら、どの召喚対象を使うか考えていた。

 今回の目的は、できるだけ傷つけずに無力化すること。

 強力な炎や雷で一気に吹き飛ばすわけにはいかない。

 幸子親衛隊は敵ではある。

 だが、助けるべき人達でもある。

 未来は少し考えたあと、ぽんと手を打った。

「今回は出来るだけ傷つけたくないから、この子達にしようかなぁ〜!」

 そして、明るく唱える。

「スキル、《動植物愛護》の《動植物図鑑》!」

 未来の周囲に光が広がる。

「アイスイエティー召喚!」

 次の瞬間、白い毛皮に覆われた巨大なモンスターが現れた。

 体長は3メートルほど。

 太い腕。

 手には大きな氷の斧。

 雪男のような姿をしたモンスター、アイスイエティーが10体ほど並ぶ。

 見た目だけなら、十分すぎるほど恐ろしい。

 だが、未来はその姿を見て嬉しそうに笑った。

 続けて、もう一度スキルを使う。

「更に、ポイズンフロッグ召喚!」

 今度は、巨大なカエルが10体ほど現れた。

 ぬめりを帯びた皮膚。

 大きく垂れた舌。

 毒々しい紫色の身体。

 派手な模様。

 名前の通り、見るからに危険そうなモンスターだった。

 雪子の地下拠点から来た超人族達は、思わず一歩下がる。

 味方だと分かっていても、目の前に巨大な雪男と毒々しいカエルが並べば、反射的に身構えるのも無理はなかった。

 そして、その姿は当然、南門の幸子親衛隊達にもすぐに見つかった。

「敵だぁー!!」

 南門の隊員達が銃を構えようとする。

 だが、未来は焦らなかった。

 むしろ、子供にお願いするような柔らかい声で指示を出す。

「アイスイエティー、お願い!」

 アイスイエティー達は一斉に口を開いた。

 次の瞬間、白い吹雪が南門へ向かって放たれる。

 冷たい風と細かな氷の粒が、幸子親衛隊達へ押し寄せた。

「うわっ!」

「身体が……!」

 隊員達の胴体や足元に、薄く氷が張りついていく。

 ただし、凍らせすぎてはいない。

 未来は最初から、傷つけないように指示していた。

 命に関わるような凍結ではなく、あくまで動きを止めるための軽い氷。

 幸子親衛隊達は、身体の一部を固定され、銃を構えることも、走ることも難しくなった。

 未来はぱっと表情を明るくする。

「流石、イエティーちゃん達!」

 褒められたアイスイエティー達は、嬉しそうに未来へ駆け寄った。

 太い腕を揺らし、氷の斧を持ったまま、どすどすと近づいてくる。

 雪子の地下拠点から来た超人族達は、思わず顔を引きつらせた。

「味方とはいえ、流石に怖いな……」

 誰かが小さく呟く。

 未来は心底不思議そうに首を傾げた。

「何でこの子達の可愛さ分からないかなぁ……」

 未来にとっては、白くてもふもふした可愛い子達なのだろう。

 だが、普通の感覚では、氷の斧を持った3メートルの雪男である。

 認識の差は大きかった。


 ◇


 未来はすぐに次の指示へ移る。

「次は、ポイズンフロッグお願い!」

 ポイズンフロッグ達が一斉に大きな舌を伸ばした。

 ぬめりを帯びた長い舌が、軽く凍って動けなくなっている幸子親衛隊達へ絡みつく。

 そして、強い力で引く。

 バリンッ。

 足元や胴体に張りついていた氷が砕け、隊員達の身体が地面から引き剥がされる。

「うわぁっ!」

「離せ!」

「幸子様のために……!」

 隊員達は抵抗しようとする。

 だが、氷で動きを止められ、さらにポイズンフロッグの舌に捕まっていてはどうしようもない。

 ポイズンフロッグ達はそのまま隊員達を運び、阿川が設置した《配管工》へ次々と送り込んでいった。

 毒を使う必要はなかった。

 今回は、舌による搬送役。

 それだけで十分だった。

 未来は嬉しそうに両手を合わせる。

「もう、みんないい子達ね!」

 アイスイエティーも、ポイズンフロッグも、未来に褒められてどこか誇らしげに見えた。

 南門前の幸子親衛隊達が配管へ送られたあと、未来は門を見上げる。

 分厚い門。

 そのままでは中へ進めない。

 未来は少し考え、次の召喚対象を決めた。

「それじゃあ、門も開けちゃおうか」

 未来は再び《動植物図鑑》を使う。

 今度現れたのは、黒い羽を持つ小型のモンスター達だった。

 ヴァンパイアバット。

 鋭い牙と小さな身体を持つそのモンスター達は、未来の指示で一斉に南門へ飛びついた。

 そして、門へ向けて酸を吐きかける。

 じゅうううっ。

 嫌な音と共に、分厚い門の表面が溶けていった。

 木材とも金属ともつかない補強部分が、酸によって少しずつ崩れていく。

 完全に粉砕するのではない。

 通れるだけの穴を作る。

 未来は細かく指示を出し、ヴァンパイアバット達に門の一部だけを溶かさせた。

 やがて、南門にも人が通れるほどの穴が開く。

 未来は満足そうに頷いた。

「よし、こっちも行けそうね!」


 ◇


 北門では、悠真達がソックス、コン太、アル、ガドラーの連携で門前の隊員達を配管へ送り込んでいた。

 西門では、今野、爺や、雪子、恭太、一葉達が、拘束と武装解除、そして門の破壊を進めている。

 南門では、未来の召喚したモンスター達が、凍結と搬送、酸による突破口作りを行っていた。

 どの門でも、目的は同じだった。

 倒すのではない。

 殺すのではない。

 幸子に支配された人達を助けるために、無力化する。

 そして、浮田の《手術室》へ送る。

 北門に続き、西門、南門でも、救出作業が始まったのだった。



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