少々派手に行かせて頂きます
第164話です。宜しくお願い致します。
無線越しに、それぞれのチームから準備完了の連絡が入った。
北門、南門、西門、東門。
幸子さんの拠点を囲む4つの門に、俺達はそれぞれ配置についている。
目の前にある北門は、やはり近くで見ると迫力が違った。
高い塀。
分厚い門。
その上に設置された大砲のようなもの。
見張り台には幸子親衛隊が立ち、門前にも30人ほどの隊員が並んでいる。
ここを守っているのは、幸子さんの支配下にある人達だ。
だから、目的は殺すことではない。
できる限り傷つけずに無力化し、阿川が残していった《配管工》へ送り込む。
その先には、浮田の《手術室》がある。
そこで、幸子さんの《承認欲求》による支配を解除する。
作戦としては単純だ。
だが、それを実際にやるとなると簡単ではない。
相手は銃を持っている。
門の上には大砲もある。
少しでも対応を間違えれば、こちらにも、相手にも被害が出る。
俺は無線を握り、静かに息を吐いた。
「全員、タイミングを合わせるぞ」
無線の向こうから、それぞれの返事が聞こえる。
未来。
雪子さん。
陸斗。
みんな準備はできている。
俺は北門を見据えた。
「作戦開始」
◇
その言葉と同時に、まず動いたのはソックスだった。
ソックスは余計な言葉を発しない。
静かに銃を構え、見張り台にいる幸子親衛隊へ狙いを定めた。
「スキル、《特殊弾》で緑の弾」
短い詠唱。
次の瞬間、ソックスの銃口から緑色の弾丸が放たれた。
狙ったのは、見張り台にいる隊員の身体ではない。
口元だった。
敵襲だと叫ばせないため。
幸子親衛隊の隊員が何かに気づき、口を開こうとした瞬間だった。
緑の弾が、その口元へ正確に命中する。
べちゃっ。
鈍い音と共に、緑色のスライムのようなネバネバしたものが隊員の口元を覆った。
「……っ!? ……っ!!」
隊員は声を出そうとする。
だが、声にならない。
慌てて手で剥がそうとするが、その粘液はまったく取れなかった。
むしろ、触れた指先にまで粘りつき、動きを邪魔している。
ソックスは続けて、もう1発撃った。
今度は隊員の胴体。
さらに腕。
そして、抱えていた銃。
緑の粘液が広がり、隊員は銃ごと見張り台に貼りつけられるように動けなくなった。
見事な精度だった。
敵を傷つけず、声も封じ、武器も使わせない。
ソックスらしい、静かで確実な一手だ。
◇
次に、俺の隣でコン太がぴょんと前へ出た。
「オイラの出番だコンね!」
コン太は胸を張り、頭の上の耳をぴくりと動かした。
「スキル、《化けぎつね》で《植物召喚》!」
コン太の足元から、太いツルが伸びる。
そのツルは地面を這うように進み、塀を伝って見張り台へ伸びていった。
以前のコン太の《化けぎつね》は、基本的に変身が中心のスキルだった。
能力は大きく、変身登録、変身時間、植物召喚に分かれている。
頭に木の葉を乗せることで変身できる。
そして、木の葉などの植物を自由に召喚できる。
ただ、以前の《植物召喚》は、あくまで植物を出すだけに近かった。
だが、今は違う。
スキルの強化によって、召喚した植物を自由に強化し、操作できるようになっている。
その結果、コン太のツルは、まるで生き物のように滑らかに動いた。
ソックスの粘液で動けなくなった隊員を、ツルが絡め取る。
隊員は抵抗しようとしたが、口元を塞がれ、身体も動かせない。
ツルはそのまま隊員を持ち上げ、こちら側へ運んできた。
そして、阿川が事前に置いていった配管の入口へ、するりと押し込む。
今回、阿川は各チームの近くに《配管工》を設置していった。
さらに、その配管の中は阿川のスキルによって、ベルトコンベアのようになっている。
つまり、対象を中へ入れれば、勝手に奥へ運ばれていく。
コン太が送り込んだ隊員も、そのまま配管の中を滑るように進んでいった。
その先にあるのは、浮田が展開している《手術室》の空間だ。
無線越しに、浮田の声が聞こえた。
『オッ、さっそく1人おでましか……』
少し軽い声だったが、頼もしさはある。
その隊員は、浮田の《手術室》によって、幸子さんの支配から解除されているはずだ。
初手は成功。
◇
だが、完全に気づかれずに進めるほど甘くはなかった。
門前にいた幸子親衛隊の何人かが、見張り台の異変と、コン太のツルに気づいた。
「何だ……?!」
1人がこちらへ顔を向ける。
そして、銃を構えようとしながら叫んだ。
「……敵だぁ〜!」
その声が響くのとほぼ同時に、ガドラーが前へ出た。
先ほどまでの少し沈んだ様子は、もうどこにもない。
むしろ、今までの鬱憤を晴らす気満々の顔をしている。
「スキル、《マーカー》!」
俺には見えない。
だが、ガドラーにしか見えない大きな蛍光ペンが、今この場に現れているはずだ。
ガドラーは門前に立っている幸子親衛隊達を囲むように、空中へ指を滑らせた。
その動きは優雅ですらあった。
まるで、戦場に線を引いているのではなく、舞台に装飾を描いているかのように。
だが、その線が生む結果は強烈だ。
「行きますよ!」
ガドラーが指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、門前の地面が消えた。
いや、正確には穴が開いた。
マーカーで囲まれた部分が、底の見えない空間へ変わったのだ。
幸子親衛隊達は、何が起きたのか理解する間もなく落ちていく。
「……うわぁー!!」
「な、何だこれはっ!?」
「幸子様の門を守れぇぇ!!」
叫び声が穴の中へ吸い込まれていく。
落とし穴とはいえ、ガドラーの《マーカー》による穴はただの穴ではない。
狙った範囲を綺麗にくり抜き、相手を一気に分断する。
殺すのではなく、動きを奪う。
今回の作戦にはぴったりだった。
◇
だが、落ちた隊員達はまだ銃を持っている。
穴の中から撃たれれば危険だ。
そこで、次に動いたのはアルだった。
「スキル、《自動小銃》!」
アルの周囲に、無数の小銃が現れる。
空中にずらりと並ぶ銃口。
普段のアルは、どちらかと言えば勢い任せに弾幕を張る印象が強い。
しかし、今回は違った。
アルは穴の中を覗き込み、落ちた隊員達の手元だけを狙った。
身体ではない。
銃だけだ。
「バン、バン、バン、バン♪」
アルはご機嫌にリズムを取りながら、小銃を撃たせていく。
乾いた銃声が連続で響いた。
穴の中で、幸子親衛隊の銃が次々と弾かれる。
銃身が砕け、引き金部分が壊れ、構えようとした武器だけが正確に撃ち抜かれていく。
隊員達の身体には当てない。
それなのに、武器だけを確実に無力化していく。
俺は思わず目を見開いた。
アルって、こんな精密なこともできたのか。
いつも騒がしいから忘れがちだが、やはりこいつも相当な戦力だ。
そして、武器が使えなくなったところへ、再びコン太が動く。
「スキル、《化けぎつね》で《植物召喚》!」
今度は1本ではない。
無数のツルが地面から伸びた。
ツルは穴の中へ次々と入り込み、落ちた幸子親衛隊達の身体を絡め取っていく。
銃を失い、足場もなく、上からツルに捕まれた隊員達は抵抗しようがない。
「離せっ!」
「幸子様のために……!」
「何だ、このツルは……!」
隊員達はもがくが、コン太のツルはびくともしない。
強化された植物は、以前とは比べものにならないほど丈夫だった。
ツルは隊員達を1人ずつ持ち上げ、阿川の配管へ運ぶ。
そして、そのまま流れるように配管の中へ送り込んでいった。
ソックスが声を封じる。
ガドラーが落とす。
アルが武器だけを壊す。
コン太が回収する。
阿川の配管で浮田の《手術室》へ送り、支配を解除する。
正しく、流れるような連携だった。
◇
北門チームに同行している雪子さんの地下拠点の超人族達も、その光景を見て呆然としている。
「凄すぎる……」
「俺達の出番あるのかな……」
誰かがぽつりと呟いた。
気持ちは分かる。
俺自身、少し呆然としていた。
「何だ、この連携……」
思わず声が漏れる。
「こんなに上手くいくなんてな……」
作戦としては考えていた。
だが、実際にここまで綺麗に決まるとは思っていなかった。
特にコン太だ。
俺はコン太の方を見る。
「それに、コン太!」
「何コン?」
「お前、やるじゃないか!」
俺がそう言うと、コン太の顔がぱっと明るくなった。
「エッヘン!!」
コン太は得意げに胸を張る。
「オイラも皆と一緒に戦えるようになったコン!」
そう言って、自分の胸をぽんと叩いた。
いや、ぽんというより、少し強く叩きすぎた。
「……ゴホッゴホッゴホッ」
コン太はその場で咳き込んだ。
俺は苦笑する。
鈍臭いところは相変わらずだ。
けれど、今回の活躍は本当に凄い。
これまでは、どちらかと言えば戦闘向きのスキルではない印象が強かったコン太が、今は戦闘補助、拘束、搬送までこなしている。
頼もしい仲間になっていた。
◇
俺は次にアルを見る。
「それにアル!」
「はい、アルです!」
「お前、正確に武器だけ狙うとか、ソックスみたいな戦い方出来るんだな……!」
アルはふふんと得意げに笑った。
「フッフッフッフ……」
そして、胸を張る。
「アルにだって出来ますよ……その位!」
すかさずソックスが言った。
「効果音は余計だったがな……」
「えーー!!」
アルが不満そうに声を上げる。
「バンバン言った方が楽しいじゃないかぁ〜!」
「楽しいかどうかで撃つな」
「でも当てたであります!」
「当てればいいという話でもない」
相変わらず、いいコンビだ。
騒がしいアルと、冷静なソックス。
性格は真逆に近いが、戦闘ではしっかり噛み合っている。
そんなやり取りをしていると、ガドラーが前へ出た。
表情は真剣。
先ほどの作戦成功で、完全に調子を取り戻している。
「皆さん、本番はこれからですよ」
ガドラーは警備隊達を見渡した。
そして、高らかに声を張る。
「すべては我が君の為に!!」
その瞬間、ガドラー率いる警備隊達が一斉に復唱した。
「すべては我が君の為に!!」
声が揃いすぎていて、正直かなり怖い。
「いや、怖いな……」
俺は思わず呟いた。
忠誠心が高いのはありがたい。
ありがたいのだが、ここまで揃うと別の意味で圧がすごい。
しかし、ガドラーはそんな俺の反応など気にしていない。
むしろ、さらにやる気に満ちた表情で北門を見据えていた。
「では、我が君。先日活躍出来なかった分、少々派手に行かせていただきます」
「少々で済むのか……?」
◇
俺の不安をよそに、ガドラーは再び手を上げた。
俺には見えない大きな蛍光ペンが、また空中に現れているのだろう。
ガドラーの指が、門の下へ向けて動く。
今度の対象は、門前の兵隊ではない。
巨大な門そのもの。
その周囲の地面。
見張り台。
塀の上の大砲。
北門の防衛設備を支える部分を、まとめて囲っているのだと分かった。
さすがに俺も目を見開く。
「ガドラー、まさか……」
ガドラーはにこりと笑った。
「ご安心下さい。我が君の進む道を、わたくしが作ります」
そして、指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、北門の下の地面が大きく抜けた。
轟音。
地面が揺れる。
大きな門が傾き、軋む音を立てる。
見張り台がぐらりと揺れ、塀の上に並んでいた大砲がバランスを崩した。
重い鉄の塊が、次々と穴の中へ落ちていく。
門の一部も崩れ、土煙が一気に舞い上がった。
まるで小さな地震でも起きたかのような衝撃だった。
周囲に響く破壊音。
舞い上がる砂煙。
崩れていく防衛設備。
北門は、あっという間にその機能を失っていった。
警備隊達が一斉に前へ構える。
アルもソックスも、次の敵に備えている。
コン太のツルも地面を這うように待機していた。
ガドラーは崩れた北門を見つめ、満足そうに言った。
「さぁ我が君、道が出来ました」




