東京と東北の友好都市
第150話です。宜しくお願い致します。
次の日。
昨日は本当に濃すぎる1日だった。
A+ランクモンスター、リトルツリーマン、トレントクイーン、トレントキング。
東京での宴と友好都市の提案。
さらには、ブル太だと思っていたブルドッグが、翡翠球から来たイングリッ種族のエイゴだったという衝撃の事実。
情報量が多すぎて、正直まだ頭の中が整理しきれていない部分もある。
だが、今日もやるべきことはある。
昨日、剛に約束した東京の街案内だ。
東北の街を案内してもらったように、今度は俺が東京を見せる番だった。
阿川の《配管工》によって、剛が再び東京へやって来る。
配管の出口から現れた剛は、朝からいつも通りの大きな声で笑った。
「今日は楽しみにしてるぞぉー!」
「あぁ、色々案内するから是非楽しんでくれ!」
俺がそう答えると、剛は腕を組んで満足げに頷いた。
昨日の宴で中央会館を見ただけでも、剛達はかなり驚いていた。
だが、東京は中央会館だけではない。
住民が暮らす街、商店に飲食店。
更には病院、警察署、インフラ施設。
そして、駅と電車。
東京がどうやって日常を取り戻しているのか。
それを実際に見てもらうことは、友好都市の話を進めるうえでも大事だと思った。
◇
俺は剛を連れて、東京の街を案内していく。
中央会館を出ると、整備された道路が続いている。
昨日まで戦場にいたことを思えば、あまりにも穏やかな光景だった。
通りでは住民達が行き交い、店の前では店員が品物を並べている。
子供達が数人で走り、年配の人がベンチに座って談笑している。
もちろん、崩壊前の東京そのものではない。
まだ足りないものは多い。
傷跡も残っている。
だが、ここには人の生活がある。
剛はその光景を、黙って見ていた。
普段の豪快な表情ではなく、どこか懐かしいものを見るような目だった。
「すげぇな……」
ぽつりと、剛が呟く。
「昨日の中央会館だけでも驚いたが、街そのものが動いてるんだな……」
「あぁ」
俺は頷いた。
「俺のスキルで土台を作った部分は多いけど、ここを動かしているのは住民達だ」
住宅区を案内し、次に商店街へ向かう。
飲食店の前を通ると、剛は店の中を覗き込み、料理の匂いに少し目を輝かせた。
昨日あれだけ食べたのに、もう食べ物に反応している。
流石というべきか。
◇
その後、インフラ施設も見せた。
電気、水道、ガス。
東京を維持するために必要な設備。
剛は世紀末漢隊の移動する街とは違う仕組みに興味津々だった。
警察署も案内する。
東京では治安維持のために警察機能を再建し、さらに東京自衛隊とも連携している。
元SPМ隊員達が東京自衛隊として活動している話をすると、剛は少しだけ真面目な顔になった。
「門脇達も、ちゃんと新しい場所でやってるんだな……」
「あぁ。かなり助かってるよ」
俺は素直に答えた。
SPМは過去に大きな過ちを犯した。
だが、今の彼らは東京を守るために働いている。
それを剛にも知ってもらえたのは良かった。
それからも、行政施設、医療施設、銀行、工務店関係の場所など、いくつか案内していく。
剛はどれを見ても驚いていた。
ただ、派手に騒ぐというより、1つ1つを真剣に見ている。
世紀末漢隊の街とは全く違う復興の形。
移動する街ではなく、固定された都市として機能する東京。
剛はその違いを、しっかり受け止めているようだった。
◇
そして、今日の案内のメインに向かう。
中央駅だ。
駅へ近づくにつれ、人の流れが増えていく。
住民達が改札へ向かい、駅員が案内し、電光掲示板には行き先と時刻が表示されている。
ホームへ向かうと、ちょうど電車が入ってくるところだった。
線路の向こうから、車両がゆっくりと近づいてくる。
ブレーキ音。
車輪の音。
ホームへ入ってくる車体。
その光景を見た剛は、完全に固まっていた。
そして、電車が停車したあと、深く息を吐く。
「はぁ……今日見たものはどれも凄かったが、電車と駅は普通の建物よりも流石に難易度が高そうだから圧巻だな……」
剛の言葉には、素直な感嘆があった。
建物なら、俺の《日常生活》でかなり整えられる。
だが、駅と電車はそれだけでは足りない。
線路、信号、車両、運行管理などなど、1つでも欠ければ成り立たない。
だからこそ、俺1人では絶対に作れなかった。
「他の建物や産業もそうだが、元々その仕事に従事していた人と話し合って一緒に作ったんだ」
俺は駅を見渡しながら言った。
「勿論駅も色んな人達と協力したよ……」
元駅員や鉄道関係者。
それに鉄道が好きで詳しい人とも協力した。
そうやってたくさんの人達が知恵を出してくれた。
俺のスキルは、あくまできっかけであり土台だ。
街を動かすのは、人だ。
「だから、こんなにも良いものが出来たんだ……」
◇
俺がそう話していると、1人の男性がこちらへ近づいてきた。
白髪混じりの髪をした初老の男性。
背筋が伸びていて、表情には穏やかさと厳しさが同居している。
彼の名前は片桐。
以前、中央駅を作っていた時に先頭に立ってくれた元駅長だ。
今は再び、この中央駅の駅長として働いてくれている。
「黒瀬さん……!」
「あぁ、片桐さん!」
俺はすぐに笑みを浮かべる。
ちょうどいいタイミングだった。
「剛、紹介するよ!」
俺は剛へ向き直る。
「こちら、この駅を建てるのを先導してくれて、現在この中央駅の駅長をしている片桐さんだ」
そして、片桐さんにも剛を紹介する。
「片桐さん、こちら東北地方を守っている世紀末漢隊のリーダーである、近藤剛だ」
片桐さんは少し驚いたように剛を見た。
無理もない。
オレンジモヒカンに世紀末風の格好。
初見で駅長と並ぶと、絵面がかなり濃い。
だが、片桐さんはすぐに穏やかな笑みを浮かべ、手を差し出した。
「片桐です。よろしくお願いします」
「近藤剛だ! よろしくな!」
2人はしっかりと握手を交わした。
その瞬間、剛の目が駅と電車へ向く。
もう興味を抑えきれないという顔だった。
「この電車はどうやって出来たんだ?」
剛が前のめりに尋ねる。
片桐さんは、少しだけ目を輝かせた。
「これはですね……」
そこから、2人の話は止まらなくなった。
片桐さんは電車の運行管理や線路の点検、車両整備、電力供給について説明する。
剛は剛で、《漢のロマン》による乗り物改造の観点から、車両の構造や安全性、モンスター対策について質問する。
「なるほど、電力が安定しなければ運行本数を増やせない訳か」
「はい。さらに線路の状態確認も重要です。少しの歪みが大事故に繋がりますから」
「なら、モンスターが線路に出た時の防衛装備も必要だなぁ……」
「それは今後の課題ですね。黒瀬さんとも話していますが、安全確認の仕組みをさらに強化したいところです」
「新幹線を通すなら、その辺りは絶対に必要になるな!」
「新幹線ですか?」
「東京と東北を繋ぐんだよぉ!」
気づけば、2人は完全に専門的な話へ入り込んでいた。
片桐さんは鉄道のプロ。
剛は乗り物改造のスキルを持つ男。
相性が良すぎた。
俺はしばらく待っていたが、話が終わる気配がない。
「おーい、そろそろ良いか……?」
俺が声をかけると、剛は片手を上げた。
「ちょっと待ってくれないか……!」
完全に夢中だ。
片桐さんも、久しぶりにこれだけ乗り物や鉄道の話に食いつく相手が現れたのが嬉しいのか、いつもより饒舌になっている。
「友好都市になってくれるか正式に決めたかったんだが……」
俺がそう言うと、剛は電車を見たまま答えた。
「あぁ、それならもうやると決めたぁ」
「そんなあっさりと、それもこんな立ち話で?!」
思わず声が大きくなる。
友好都市の話は、かなり大事な話のはずだ。
少なくとも、もう少し重々しく決めるものだと思っていた。
だが、剛は平然としている。
「こんな素晴らしいもの見せられて断るやつなんか居ないだろぉ〜」
「……それなら良かった」
俺は苦笑しながらも、胸を撫で下ろした。
「ありがとう……」
しかし、その後も剛と片桐さんの電車談義は止まらなかった。
新幹線を通す場合の線路幅。
車両の耐久性。
モンスターを感知する仕組み。
避難用車両。
火炎放射器を付けるべきかどうか。
片桐さんが「火炎放射器は慎重に検討が必要です」と冷静に返していたのが少し面白かった。
結局、そこから1時間ほど俺は待つことになった。
まあ、2人が楽しそうだったので、悪い時間ではなかった。
それに、将来的な東京と東北の交通網を考えるなら、この2人が話し込むのはむしろ良いことだ。
◇
その後、俺達は中央会館へ戻った。
そして改めて、東京と東北の友好都市提携を正式に結ぶことになった。
もちろん、これは国全体の正式な制度に基づく完全な協定というより、まずは東京と東北の現場代表同士による協力関係だ。
東京側は、東京都知事である俺。
東北側は、世紀末漢隊のリーダーである近藤剛。
商業交流。
文化交流。
移住や人の行き来。
将来的な道路と新幹線の整備。
モンスター襲撃時の相互支援。
それらを目標に、協力していく。
昨日の宴の中で出た話が、今日きちんと形になる。
剛が俺の前に立ち、手を差し出した。
「改めて宜しくな悠真!」
俺もその手を握る。
「こちらこそ、宜しく頼む」
大きく、力強い手だった。
俺達は固い握手を交わした。
東京と東北。
崩壊後、それぞれ別の形で日常を取り戻そうとしてきた場所が、ここで繋がった。
全国調査の最初の成果としては、十分すぎるほど大きい。
◇
握手を終えたあと、剛がふと思い出したように口を開いた。
「それと、別の話だが、別の地域の調査をまたやりに行くんだろう?」
「あぁ、総理から言われてるからな……」
全国調査は、まだ始まったばかりだ。
東北で大きな成果は得られたが、日本全体を考えるなら、他の地域にも行く必要がある。
剛は腕を組みながら尋ねた。
「次はどこに調査に行くか決めてるのか?」
「ちゃんと決めてるわけじゃないけど、東に行ってるから北海道にしようかなって思ってる」
東北まで来たなら、そのまま北へ向かう。
北海道にも大きな生存圏があるかもしれない。
そう考えるのは自然だった。
だが、剛は少し考え込んだあと、俺へ手を向けた。
「なら、ちょっと待ってくれないか?」
「どうしたんだ……?」
「北海道を治めてる奴とは仲が良いんだ」
その言葉に、俺は驚いた。
北海道を治めている奴。
つまり、北海道にも独自に人々をまとめている存在がいるということだ。
「また、こっちから事情を話して会えるように調整しといてやるよ」
「それは、助かる!!」
俺は素直に声を上げた。
全国調査で一番大変なのは、最初の信用を得る部分だ。
俺達が何者なのか。
東京がどういう場所なのか。
総理から頼まれて調査していると言っても、本当に信用してもらえるかは分からない。
1から「怪しい者ではありません」とアピールし、話を聞いてもらうのはかなり大変だ。
世紀末漢隊は、見た目に反して警戒心がほぼ皆無だった。
いや、まったくなかったわけではないが、かなり受け入れてくれた。
あれは剛達の人柄による部分が大きい。
次からも同じようにいくとは限らない。
だから、剛が先に話を通してくれるのは本当にありがたかった。
剛は少しだけ申し訳なさそうに言う。
「だが、向こうも忙しいから日程調整に時間がかかるとは思う」
「それは問題ないよ」
俺は頷いた。
「先に別の地域に行っておくし!」
「分かった!」
剛は力強く頷く。
「他の地域は俺もあんま知らねぇ……」
そして、俺の肩を軽く叩いた。
軽くのつもりだろうが、やはりそこそこ痛い。
「何かあったら俺に遠慮なく頼れよ!」
「あぁ……ありがとう!」
東京と東北が友好都市になっただけではない。
剛という頼れる友人が出来た。
それは俺にとって、かなり大きなことだった。
◇
その後、俺は深澤総理にも今回の調査結果を報告した。
東北には、世紀末漢隊という大規模な守護組織があったこと。
リーダーは近藤剛。
東北では、乗り物を改造した移動する街のような独自の復興が進んでいること。
A+ランクモンスターが出現し、東京と世紀末漢隊で対応したこと。
そして、東京と東北で友好都市として協力関係を結んだこと。
深澤総理は、最後の部分で少しだけ眉を上げた。
勝手に友好都市を結んだことについては、少し注意された。
国との兼ね合いがある以上、本来は事前に相談が欲しかったということだ。
それは当然だと思う。
俺は東京都知事ではあるが、日本全体の復興を進めるうえで、国との連携は必要になる。
現場判断で動いたとはいえ、少し先走った部分はある。
ただ、深澤総理は大きく咎めることはしなかった。
「危険な調査、本当にお疲れ様でした」
そう言って、労ってくれた。
A+ランクモンスターとの戦い。
東北との友好的な関係構築。
結果として、日本復興にとって大きな一歩になったことは認めてくれたのだと思う。
俺は深澤総理への報告を終え、少しだけ肩の荷が下りた気がした。
◇
それから数日間、俺達は休息を取った。
もちろん完全に何もしなかった訳ではない。
東京と東北の友好都市に関する細かな準備。
剛との連絡。
春日によるエイゴの話の聞き取り。
星型の砂についての調査。
東京の通常業務。
やることはいくらでもあった。
それでも、A+ランク戦の疲労を抜くため、無理に次へ向かうことはしなかった。
数日後。
俺は東京メンバーを集めた。
中央会館の会議室。
そこには、全国調査に関わる主要メンバーが揃っている。
東北での経験を踏まえ、次の場所は慎重に決める必要があった。
北海道については、剛が話を通してくれる。
なら、日程調整がつくまで別の地域へ向かうのがいい。
俺は皆を見渡し、口を開いた。
「次に向かう所は中部地方に決めた」
節目の150話です!!
皆様、長い長い話数お付き合いして頂きありがとうございます!!
悲しいか嬉しいか分かりませんがまだまだ話は続きます。
まぁ、読んでる皆様がこんな所で終わるわけないって1番よく分かってますよね……!
これからも執筆していきますので宜しくお願い致します!
因みに片桐さんは第75話の走り出す日常にてチラッと登場しております……




