友達と友好都市
第147話です。宜しくお願い致します。
「東京と東北で友好都市を結ばないか?」
俺がそう言うと、近藤は手に持っていた皿を一度見下ろし、それから俺の顔を見た。
さっきまで豪快に笑っていた表情が、少しだけ真面目なものに変わる。
「友好都市……?」
近藤は聞き慣れない言葉を確かめるように呟いた。
近くでは世紀末漢隊の隊員達が賑やかに料理を食べ、東京の仲間達と笑い合っている。
戦いの直後だというのに、この場には温かい空気があった。
だからこそ、俺は今この話をしたいと思った。
「あぁ、今後東北と東京でお互いに商業や文化交流、移住など、以前の日本のように自由に行き来が出来るようにしたいんだ」
全国調査。
深澤総理から頼まれたその役割は、ただ各地を見て回ることではない。
各地に残っている人達。
独自に守り、独自に発展し、どうにか日常を取り戻そうとしている場所。
そういう場所を見つけ、繋げていくことに意味がある。
東京だけが豊かになっても駄目だ。
東北だけが独立して頑張り続けるのも限界がある。
お互いに足りないものを補い合える関係を作る。
人が行き来し、物が流れ、文化が混ざり、また新しい日常を作っていく。
それが出来れば、崩壊した日本を少しずつ繋ぎ直せるかもしれない。
近藤は俺の話を黙って聞いていた。
そして、すぐに大きく頷く。
「それは俺もめちゃくちゃ賛成だが、肝心の行き来はどうやってするんだ……?」
近藤はもっともな疑問を口にする。
「まさか阿川の配管をそのまま東北と東京に置いておく訳じゃないだろ……?」
「あぁ、流石に阿川もずっとは出来ないしな……!」
阿川の《配管工》は、ものすごく便利だ。
遠く離れた場所を配管で繋ぎ、人や物を一瞬で運べる。
今回も、宮城と東京を行き来するうえで大きな助けになった。
だが、阿川個人のスキルに頼り切る訳にはいかない。
阿川がいなければ成り立たない交流では、長続きしない。
一般の人達が使える。
物資を運べる。
移住も出来る。
そういう恒久的な道が必要だ。
俺は少し息を吸ってから言った。
「だから、東京から東北で新幹線を通す……!」
近藤の目が大きく見開かれた。
「新幹線だ……と!?」
その反応は当然だった。
崩壊した世界で、新幹線。
普通に考えれば、馬鹿げている。
線路は壊れている場所もあるだろう。
駅も廃れている。
モンスターもいる。
電力や整備、人員、安全管理。
考えるべきことはいくらでもある。
だが、それでも目標にする価値はある。
「あぁ、勿論道路も整備して車でも行けるようにする」
俺は続ける。
「まずは、そこが目標だな……!」
新幹線だけではない。
道路も必要だ。
車で行き来出来れば、住民や物資の移動はさらに楽になる。
新幹線、道路、中継拠点、モンスター対策。
全部を一度に実現することは難しい。
だが、東京と東北が手を組むなら、目指すべきものは大きくていい。
◇
近藤は皿を近くのテーブルへ置き、両腕を組んだ。
「まてまてまて、そんなだいそれた事、本当にできるのか?」
「新幹線は流石にないが、東京では駅があって電車が走ってるんだ!」
「……は?」
近藤が固まる。
「今なんて……?」
目を丸くしたまま、俺を見ていた。
その顔があまりにも本気で驚いていて、少し面白い。
近藤達の街も相当すごい。
車やバイク、自転車を改造して家や店を作り、街ごと移動可能にしている。
オトコプターも火炎放射器付きの住民用車両も、普通ではない。
だが、東京には東京の復興がある。
電車が走り、駅が機能し、人が働き、店が開いている。
近藤からすれば、それも信じがたい光景なのだろう。
「まぁ、明日近藤が良かったら、宮城の街を案内して貰ったみたいに東京の街も案内するよ……!」
俺がそう言うと、近藤はまだ少し疑わしそうに頷いた。
「あぁ、にわかには信じられないからな……」
そして、口元を緩める。
「自分の目で見たほうが早いしな……」
「助かるよ!」
「任せろ。ちゃんと案内する」
明日は近藤に東京を見てもらう。
中央駅。
電車。
商業施設。
銀行。
医療施設。
学校。
警察署や東京自衛隊の様子。
東京がどういう形で日常を取り戻そうとしているのか。
それを近藤に見てもらうことは、これからの関係にとって大事なはずだ。
俺はそこで、少し悪戯心が湧いた。
「それに、普通の新幹線じゃあ面白くないなぁ……」
わざとらしく呟く。
「あーあ、誰か新幹線改造できる人居ないかなぁ……?」
俺はとぼけた顔で、ちらりと近藤を見る。
近藤は一瞬きょとんとしたあと、すぐに呆れたように笑った。
「そんな猿芝居しなくても、もし新幹線が出来るってなったら俺が改造してやるよぉ!」
「助かる!!」
俺は思わず笑った。
近藤の《漢のロマン》は、乗り物を改造するスキルだ。
新幹線は乗り物。
ならば、将来的に東京と東北を結ぶ新幹線を、近藤が改造できる可能性がある。
ただ走るだけの新幹線ではなく、モンスター対策を備えた新幹線。
世紀末漢隊らしく、やたら派手な機能が付くかもしれない。
正直、少し怖い。
だが、頼もしい。
◇
近藤は腕を組んだまま、少し嬉しそうに鼻を鳴らした。
「それとまた、別の話にはなるがなぁ……」
「うん? 何だ?」
近藤が少しだけ改まった顔をする。
何を言うのかと思っていると、近藤は真っ直ぐ俺を見た。
「そろそろ、俺の事は剛と呼んでくれないか?」
「そろそろって、まだ会って2日じゃないか……?」
思わずツッコんでしまった。
濃すぎる2日間だったから、体感ではもっと長く感じる。
だが、実際には出会ってからまだ2日ほどだ。
普通なら、まだ名字呼びでも十分な距離感だと思う。
しかし近藤は、少し不満そうに眉を寄せる。
「良いじゃないか……」
そして、妙に真剣な声で言った。
「俺だって悠真って呼んでるんだぜっ!」
「それはそうだけど……」
確かに近藤は、最初から俺を悠真と呼んでいる。
というか、近藤の距離の詰め方がそもそも早い。
俺は少し考えて、ふと気になったことを口にした。
「もしかして、友達あんまり居ないのか……?」
言ってから、少し踏み込みすぎたかと思った。
だが、近藤は怒らなかった。
むしろ、少しだけ視線を落とす。
「……あぁ居ねえな」
その声は意外なほど静かだった。
「あいつらは仲間って感じだからな……」
近藤の視線の先には、世紀末漢隊の隊員達がいる。
彼らは近藤を兄貴と慕っている。
近藤も彼らを大切にしている。
仲間。
家族。
守るべき者。
支えてくれる者。
それは間違いなく大切な関係だ。
だが、対等な友達とは少し違うのかもしれない。
「まぁ、それは分かる気がする……」
俺は小さく頷いた。
「俺も東京のみんなは仲間や家族って感じだしな……」
陸斗や美咲。
未来。
浮田。
チャン爺。
ルドルフや阿川達。
みんな大切だ。
でも、俺自身が都知事という立場になったこともあって、単純な友達と言える相手は少ない。
いや、元から多くはなかった気がする。
近藤は俺の言葉に力強く頷いた。
「そうだろ、だからいいだろ?」
結局そこに戻るのか。
俺は少しだけ笑い、肩の力を抜いた。
「……分かったよ、俺もあんまり友達居ないし……」
そして、改めて近藤を見る。
「剛、改めて宜しく!」
その瞬間、近藤の顔がぱっと明るくなった。
「ガッハッハ!」
嬉しそうに豪快に笑い、俺の背中を凄い勢いで叩く。
「あぁ、宜しくな!」
「ゲホッゲホッ」
思わずむせた。
洒落にならない衝撃が背中に来た。
「痛いじゃないか……」
「すまん、すまん!」
剛は悪びれた様子もなく笑っている。
たぶん、本人的には軽く叩いたつもりなのだろう。
身体の作りがおかしい。
いや、気合の入り方がおかしいのかもしれない。
ふと、俺は気になっていたことを聞いた。
「そう言えば、剛は年はいくつなんだ……?」
見た目だけなら、正直かなり年上に見える。
いや、見えるというか、貫禄がありすぎる。
世紀末漢隊を束ねるリーダー。
オレンジモヒカン。
ドスの効いた声。
ブルドッグを連れ、サイドカーを乗り回し、巨大ロボまで操る男。
少なくとも、俺より年上だろうと思っていた。
だが、剛はあっさり言った。
「俺は、23だぞ!」
「……23?!」
俺は思わず聞き返した。
「まさかの俺と同い年かよ……」
「オゥ、そうか!」
剛は嬉しそうに頷く。
「良いじゃねぇか!」
いや、良いか悪いかで言えば良いのだが。
問題はそこではない。
23歳の風格じゃないだろ……。
「あぁ? 何か言ったか?」
剛がこちらを見る。
「いや、何も言ってない……」
俺はすぐに目を逸らした。
口に出していたら、また背中を叩かれていたかもしれない。
◇
宴はその後も賑やかに続いた。
世紀末漢隊の隊員達は東京の料理を楽しみ、東京の仲間達ともすっかり打ち解けている。
食事が終わる頃には、会場には満腹と満足の空気が広がっていた。
そろそろ剛達も東北へ戻る時間だろう。
そう思っていた時だった。
俺の前に、コン太と春日がやって来た。
そして、何故かその後ろから、剛のブルドッグもついてきていた。
前から少し気になっていた組み合わせだ。
宴の途中でも、コン太と春日とブルドッグが一緒にいる姿が見えていた。
だが、理由は分からない。
春日はいつものような少しズレた明るさではなく、珍しく真剣な顔をしていた。
「悠真さん、そして近藤さん話があります……!」
「どうしたんだ、急に?」
俺が尋ねると、剛も不思議そうにブルドッグを見る。
ブルドッグは相変わらずふてぶてしい顔をしていた。
その顔だけ見れば、ただの偉そうな犬だ。
春日はそのブルドッグへ視線を向ける。
「ブルドッグのブル太さんですが……」
ブル太って名前だったのか……あのブルドッグ……。
いや、確かに見た目はブルドッグだし、分かりやすい名前ではある。
それにしても、ブル太さんってわざわざさん付けをするのか。
ブルドッグに。
俺がそんなことを考えていると、春日は次の言葉を口にした。
「実は本当の名前は、翡翠球から来たイングリッ種族のエイゴさんと言うのです……」
その瞬間、俺は思考が止まった。
翡翠球。
その言葉が出た時点で、ただ事ではない。
コン太の故郷。
春日がコン助と出会った世界。
そして、今俺達がゲート研究で繋がろうとしている場所。
俺はブルドッグを見る。
ふてぶてしい顔で座っているその存在が、ただの犬ではない。
翡翠球から来た、イングリッ種族のエイゴ。
その意味を理解した瞬間、背筋にぞくりとしたものが走った。
「……何だって?!」




