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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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145/172

本命ラブレター

第145話です。宜しくお願い致します。


200メートル級の巨体が、俺達の前にそびえ立っていた。

 トレントキング。

 トレントクイーンを倒した先に現れた、王冠のような枝葉を持つ巨大な木の王。

 空を覆うほどの枝。

 山のように太い幹。

 足元にいる俺達が、あまりにも小さく感じる。

 近藤の巨大ロボですら、トレントキングの前では頼りなく見えた。

 トレントクイーンを真っ二つにしたあの一撃。

 リトルツリーマン達を消滅させたあの瞬間。

 一瞬だけ、勝ったと思った。

 だが、その勝利の先にいたのは、さらに大きな絶望だった。

「こんなやつ、どうやって倒せば……」

 近藤の声には、隠しきれない動揺があった。

 無理もない。

 俺だって同じ気持ちだ。

 あまりにも大きい。

 あまりにも異質だ。

 これまで戦ってきたモンスターとは、明らかに格が違う。

 だが、立ち止まっている時間はない。

 トレントキングはゆっくりと身体を揺らしている。

 そのたびに、周囲の木々がざわめき、地面が低く震える。

 もし、こいつが街へ向かって動き出したら。

 世紀末漢隊の移動する街でも、耐えられるか分からない。

 近藤もそれを理解したのだろう。

 一瞬の沈黙のあと、巨大ロボの中から力強い声が響いた。

「とにかく、距離をとりながら遠距離で攻撃できる火炎放射を浴びせるんだ!」

「アイアイサー!」

 世紀末漢隊の隊員達が即座に返事をする。

 近藤はリトルツリーマンの時のように、無闇やたらに突っ込ませることはしなかった。

 距離を取る。

 遠距離で攻撃する。

 その指示には、近藤の慎重さが滲んでいた。

 これ以上、仲間を失いたくない。

 リトルツリーマンのツルにオトコプターを貫かれ、部下達を吸収されたあの光景が、近藤の中に残っているのだろう。


 ◇


 オトコプター部隊が散開する。

 トレントキングから距離を取り、火炎放射器を向ける。

「ファイヤー!!」

 複数のオトコプターから炎が放たれた。

 業火がトレントキングの巨大な幹へ浴びせられる。

 炎は確かに当たっている。

 トレントキングの表面が赤く染まり、枝葉の一部が燃え上がる。

 だが、効いているようには見えなかった。

 リトルツリーマン相手なら全身を包み込んでいた炎も、トレントキング相手ではあまりにも小さい。

 巨大な幹の表面を少し焦がす程度にしか見えない。

 さらに、トレントキングが身体を震わせた。

 次の瞬間、幹や枝の隙間から大量の水分が滲み出す。

 まるで木そのものが汗をかくように、全身に水を纏っていく。

 炎がじゅうじゅうと音を立てて消えていった。

「クソッ……駄目だ、効いてない」

 近藤が悔しそうに吐き捨てる。

 木のモンスターなのに、火を消す能力まで持っている。

 リトルツリーマンのように火で動きを止めることすら難しい。

 トレントキングは、ただ大きいだけではない。

 その巨体を維持するための防御手段まで備えている。

 近藤はすぐに次の手を考えた。

「悠真、ガドラーに頼めるか?」

 その言葉で、俺は近藤の意図を理解した。

 足場を奪う。

 トレントキングがどれだけ巨大でも、地面に立っている以上、足元を崩せば動きを止められる可能性がある。

 俺はすぐにガドラーへ視線を向けた。

「ガドラー頼むぞ!」

 ガドラーは眼鏡の奥の目を輝かせ、胸に手を当てた。

「あぁ……絶体絶命の中、わたくしに頼んで頂けるなんてぇ……」

 今それを言う余裕があるのか。

「今夜は興奮して眠れそうにありません……!!!」

「……いいから頼んだぞ!」

 俺がやや強めに言うと、ガドラーは恍惚とした表情のまま一礼した。

「このガドラー、死んでも果たして参りますっ!!」

「だから勝手に死ぬなって……!」

 相変わらず、俺への忠誠心が重い。

 いや、重すぎる。

 だが、今は頼るしかない。

 ガドラーはすぐに表情を引き締めた。

 さっきまでの妙な興奮は消え、警備隊リーダーとしての顔になる。

「スキル《マーカー》!」

 ガドラーが手を動かす。

 俺には見えない。

 だが、ガドラー本人にしか見えない大きな蛍光ペンで、トレントキングの周囲を囲んでいるのだろう。

 対象があまりにも巨大だ。

 リトルツリーマンを落とした時とは比べ物にならないほど、大きな円を描く必要がある。

 ガドラーの額に汗が滲む。

 指先がわずかに震えているのが見えた。

 それでも、彼は手を止めなかった。

 トレントキングの足元を囲むように、大きく、大きく、見えない線を描いていく。

 やがて、ガドラーは大きく息を吐いた。

「準備完了致しました」

「よし」

 俺は周囲へ声を張る。

「ガドラーの合図で、遠距離攻撃可能な奴らは一斉攻撃だ!」

 作戦は単純だ。

 ガドラーの落とし穴でトレントキングの自由を奪う。

 その隙に、上から遠距離攻撃を集中させる。

 巨大な相手だからこそ、足元を崩し、動けなくなったところを一気に叩く。

 普通なら十分すぎる作戦のはずだ。

 普通なら。

 ガドラーがトレントキングを見据える。

「では参ります!」

 そして、指を鳴らした。

 パチン。

 乾いた音が響く。

 次の瞬間、トレントキングの足元が消えた。

 ガドラーが見えないマーカーで囲んだ範囲の内側が、丸ごと抜け落ちる。

 巨大な穴が現れた。

 地面が崩れ、トレントキングの巨体がゆっくりと沈む。

 いや、落ちる。

 あまりにも大きいせいで、落下すら遅く見える。

 だが、確かにトレントキングの身体は穴へ引きずり込まれていった。

 地響きが起きる。

 土煙が舞い上がる。

 その瞬間、俺は叫んだ。

「今だ! 一斉攻撃!」


 ◇


 まず動いたのは未来だった。

 未来が召喚した大量のレッドワイバーン達が、一斉に口を開く。

 口の奥に青い光が集まっていく。

 次の瞬間、青い炎が広範囲へ向かって吐き出された。

 ゴォォォォォォォォォ!!

 青い業火が、穴へ落ちたトレントキングを上から包み込む。

 レッドワイバーン達のブレスは、リトルツリーマンを何度も焼き尽くした強力な炎だ。

 それが何十体分も重なっている。

 さらに、世紀末漢隊のオトコプター部隊も火炎放射器を放つ。

「ファイヤー!!」

 赤い炎と青い炎が重なり、穴の中が地獄のような熱気に包まれる。

 続いて、陸斗が前へ出た。

 その表情は真剣そのものだった。

「《手遊び》で光線、さらに《集中》」

 陸斗の周囲に光が生まれる。

 1本。

 2本。

 3本。

 次々と光線が現れていく。

 以前は同時に扱える光線は15本までだった。

 だが、レベルアップした今は違う。

 陸斗の周囲には、25本の光線が浮かんでいた。

 その25本が、陸斗の《集中》によって1つに集約されていく。

 細い光が束ねられ、太く、眩い光線へ変わる。

 陸斗はさらに手をかざした。

「《貫通》!」

 集約された光線に、鋭い圧が宿る。

 ただ太いだけではない。

 貫くための力。

 陸斗は狙いを定め、トレントキングへ向けて放った。

 太い光線が空を裂く。

 そして、トレントキングの右腕部分へ直撃した。

 光線は巨大な木の腕を貫いた。

 木片が飛び散り、穴が空く。

 確かに傷が入った。

 この巨体相手に、明確な損傷を与えた。

「よし……!」

 俺は思わず声を漏らす。

 陸斗の成長は本物だ。

 25本の光線を《集中》で1本へ束ね、《貫通》で一点突破の力を持たせる。

 この攻撃なら、トレントキングの装甲にも通る。

 続いて、アルとソックスも動いた。

 アルはいつもの調子で元気よくスキルを唱える。

「スキル《自動小銃召喚》!」

 空中に浮かぶように、8つの銃が並んだ。

 銃口が一斉にトレントキングへ向く。

「撃ちまくるでありますよー!」

 8つの銃が同時に火を噴く。

 銃弾が雨のようにトレントキングへ降り注いだ。

 一方、ソックスは冷静に銃を構える。

「スキル《特殊弾》、赤の弾」

 ソックスが放った弾が、トレントキングの幹へ命中する。

 着弾した瞬間、弾が弾け、炎が広がった。

 赤の弾は、着弾地点から炎を広げる特殊弾らしい。

 以前、SPМの柿原と戦った時に使った緑の弾は、ネバネバしたスライム状の液体を出し、相手の動きを封じるものだった。

 だが、今回の相手は木のモンスター。

 動きを止めるより、燃やす方が有効だと判断したのだろう。

 ソックスらしい冷静な選択だ。

 さらに、一葉もスキルを発動する。

「スキル《爆弾魔》」

 穴の上空、そしてトレントキングの周囲に、大量の爆薬が現れる。

 それらが一斉に起爆した。

 ドガァァァァァン!!

 爆音が重なり、爆風が穴の中を吹き荒れる。

 炎、銃撃、光線、爆発。

 あらゆる遠距離攻撃が、トレントキングへ集中する。

 普通のモンスターなら、跡形もなく吹き飛んでいるはずだ。

 いや、Aランクモンスターでも、これだけの集中攻撃を受ければただでは済まないだろう。


 ◇


 しかし、トレントキングは違った。

 穴の中で、巨大な身体が震える。

 幹や枝から大量の水分が噴き出した。

 まるで豪雨のように水が全身を覆い、炎を次々に消していく。

 青い炎も、赤い炎も、燃え広がる前に押し流される。

 爆風と砂煙で、しばらくトレントキングの姿は見えなかった。

 全員が息を呑む。

 この総攻撃で、どこまで削れたのか。

 俺は煙の向こうを睨んだ。

 やがて、砂煙が少しずつ晴れていく。

 現れたトレントキングの姿を見て、俺は言葉を失った。

 大きな右腕部分には、陸斗の光線によって開けられた穴があった。

 そこだけは確かに貫かれている。

 だが、それ以外はほぼ無傷に近かった。

 表面に焦げ跡はある。

 爆発で削れた部分もある。

 しかし、それだけだ。

 致命傷には程遠い。

 あれだけの攻撃を浴びせて、この程度。

 トレントキングの耐久力は、想像以上だった。

「嘘だろ……」

 誰かが呟いた。

 俺も同じ気持ちだった。

 その時、トレントキングが足に力を込めた。

 地面が軋む。

 穴の底が割れる。

 次の瞬間、200メートル級の巨体が跳び上がった。

「なっ……!」

 俺は目を見開く。

 この図体で、あの跳躍力。

 常識外れにもほどがある。

 トレントキングは巨大な身体を持ち上げ、穴の縁を踏み砕きながら地上へ戻ってきた。

 ガドラーの落とし穴でも、長く拘束することはできない。

 絶望が、また一段深くなる。


 ◇


 だが、その瞬間だった。

 芹沢が小さく呟いた。

「かかったわね♡」

 その声に、俺は芹沢を見る。

 芹沢はトレントキングの脱出を見て、まるで予想通りだと言わんばかりに微笑んでいた。

 トレントキングの目の前には、1枚の紙飛行機が浮かんでいる。

 芹沢の《ラブレター》だ。

 トレントキングが穴から跳び出すタイミングを見計らい、芹沢は先に紙飛行機を置いていたのだろう。

「はい♡ 私の事を愛してちょうだい♡」

 紙飛行機がトレントキングの顔へ向かって飛ぶ。

 もし通れば、200メートル級の怪物を一時的にでも支配できるかもしれない。

 だが、トレントキングは反応した。

 巨大なツルが一瞬で伸びる。

 紙飛行機を叩き落とした。

 芹沢の《ラブレター》は、トレントキングへ届かなかった。

 普通なら失敗だ。

 しかし、芹沢はニヤリと笑っていた。

「残念ながら、本命ラブレターは私じゃないみたい♡」

 その言葉に、俺ははっとした。

 トレントキングは、芹沢の紙飛行機を警戒した。

 意識を前方へ向けた。

 その一瞬。

 背後から、別の攻撃が迫っていた。

 低く、冷静な声が響く。

「私が本命だ」

 門脇だった。

 トレントキングの後ろ側。

 そこから、門脇が《ガチャカプセル》を投げていた。

 小さなカプセルが、巨大なトレントキングめがけて飛んでいく。

 以前までの《ガチャカプセル》には、大きさの上限があった。

 巨大すぎる相手をそのまま閉じ込めることはできなかった。

 だが、門脇もこの数ヶ月でレベルアップしている。

 今の《ガチャカプセル》には、大きさの上限がない。

 つまり、この200メートル級のトレントキングであっても、捕獲できる可能性がある。

 まともに攻撃しても倒せない。

 ならば、閉じ込める。

 トレントキングの意識を芹沢の《ラブレター》へ向けさせ、その隙に門脇の《ガチャカプセル》を当てる。

 それが本命。

 カプセルが、トレントキングへ迫っていく。



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