勝利の先に
第144話です。宜しくお願い致します。
東京と東北の総力戦によって、リトルツリーマンの密集は少しずつ崩れ始めていた。
世紀末漢隊の火炎放射。
ガドラーと警備隊の銃撃。
アルとソックスの援護。
未来のレッドワイバーン達による青い炎。
一葉の爆撃。
二葉の鉄球。
三葉の四肢ワープ。
それぞれの攻撃が重なり、リトルツリーマン達の復活速度を、こちらの殲滅速度が上回り始めている。
もちろん、リトルツリーマン自体は消滅しない。
燃やされても、砕かれても、種からまた蘇る。
だが、蘇るまでの一瞬。
その一瞬が積み重なり、トレントクイーンを守っていた壁に隙間が生まれていた。
女性のような形をした木のモンスター。
トレントクイーン。
その姿が、さっきよりもはっきり見える。
近藤の乗る巨大ロボが、大剣を構えたまま前へ出る。
その声が、通信越しに響いた。
「よし、もう一押しだ!」
近藤の声に、世紀末漢隊の隊員達が反応する。
「ガンガン燃やせぇ゙ー!!」
「アイアイサー!!」
オトコプター部隊が一斉に前へ出た。
火炎放射器の筒が赤く光る。
次の瞬間、業火がリトルツリーマン達へ浴びせられた。
トレントクイーンの周囲にいたリトルツリーマン達が次々と燃えていく。
火に包まれ、崩れ、種となり、また蘇る。
その繰り返しだ。
しかし、こちらも手を緩めない。
燃えた瞬間に次の炎を重ねる。
復活した個体を、さらに焼く。
トレントクイーンまでの道が、少しずつ開いていく。
◇
だが、トレントクイーンもただ守られているだけではなかった。
近藤が距離を詰めようとすると、周囲のリトルツリーマン達が一斉に動いた。
自らトレントクイーンの前へ飛び出し、盾になる。
世紀末漢隊の火炎放射を受けても、未来のレッドワイバーンの青い炎を受けても、リトルツリーマン達は構わず前へ出る。
どうせ自分達は何度でも蘇る。
そう言わんばかりに、捨て身でトレントクイーンを守っていた。
「クソ……何度も蘇れるからって捨て身な守りをしやがって……」
近藤が悔しそうに呟く。
「このままじゃ埒があかねぇ……」
確かに、このまま正面から攻撃していても、いつまでもリトルツリーマンの盾に阻まれる。
復活できる兵隊を無限に盾として使われるのは厄介すぎる。
こちらの火力で一時的に押し切れても、トレントクイーン本体へ届くまでにまた壁が作られる。
何か、別の手が必要だった。
その時、芹沢が少し前へ出た。
「私に任せて♡」
こんな戦場の中でも、芹沢はいつものような甘い声で言った。
だが、その目はしっかりと戦況を見ている。
俺はすぐに察した。
芹沢には、正面からの火力ではなく、別のやり方がある。
芹沢は片手を軽く上げ、スキルを唱えた。
「スキル《ラブレター》♡」
白い紙が1枚現れる。
それはひとりでに折り畳まれ、紙飛行機になった。
紙飛行機は風に乗るように、トレントクイーンに近い位置にいる1体のリトルツリーマンへ向かって飛んでいく。
他の攻撃と比べれば、あまりにも小さく、頼りなく見える。
だが、芹沢の《ラブレター》は見た目で判断するようなスキルではない。
紙飛行機が、1体のリトルツリーマンに触れた。
その瞬間、その個体の動きがぴたりと止まる。
芹沢が微笑む。
「はい♡ 私の事を愛してちょうだい♡」
リトルツリーマンにも通じた。
俺は思わず息を呑んだ。
芹沢の《ラブレター》は、対象を強制的に操ることができる。
だが、リトルツリーマンにどこまで自我があるのかは分からなかった。
もし完全な兵隊で、ただ命令に従うだけの存在なら、効き方も変わるかもしれない。
しかし、結果としてスキルは通った。
芹沢はすぐに命令を出す。
「他のリトルツリーマンに気づかれないように、ツルで隣の仲間に攻撃をするのよ♡」
支配下に入ったリトルツリーマンが、ゆっくりとツルを伸ばした。
周囲のリトルツリーマン達は、上空からのブレスや火炎放射、地上からの銃撃に気を取られている。
その一瞬の隙に、支配されたリトルツリーマンのツルが、隣の個体を打ちつけた。
攻撃されたリトルツリーマンが、身体を大きく揺らす。
そして、怒ったようにツルを振り回した。
攻撃された方向を見れば、そこにいるのは仲間のリトルツリーマン。
周囲の誰も、最初の一撃を正確には見ていない。
上空から炎が降り、地上では爆発が起こり、警備隊の銃撃も続いている。
混乱した戦場の中で、リトルツリーマン達は自分達の中に裏切り者がいるように見えたのだろう。
攻撃された個体が、別のリトルツリーマンへツルを叩きつける。
すると、そのリトルツリーマンも怒って反撃する。
1体が攻撃する。
また1体が反撃する。
その動きが連鎖していく。
トレントクイーンを守るはずだったリトルツリーマン達が、お互いにツルを伸ばし、叩きつけ、潰し合い始めた。
俺はその光景に目を見開く。
敵の壁が、内側から崩れていく。
芹沢は満足そうに微笑んだ。
「やっぱり、自我はあったようね♡」
そして、少し恐ろしいことをさらりと言う。
「スパイ1体で信頼は簡単に落ちていくものよ♡」
軽い口調なのに、言っていることがえげつない。
だが、効果は抜群だった。
不死身の兵隊を、正面から倒し切ることはできない。
ならば、盾として機能しないように乱せばいい。
芹沢らしい搦め手だ。
「芹沢、ナイスだ!」
俺がそう言うと、芹沢は嬉しそうに頬へ手を当てた。
「悠ちんに褒められちゃった♡」
そして、ちらりと未来を見る。
なぜ、今そっちを見る。
未来は悔しそうに口を尖らせた。
「私だって活躍してるんだもん……」
この状況で張り合うのか。
いや、張り合うらしい。
俺は慌てて未来にも声をかける。
「未来、お前の活躍がなきゃここまで善戦するのは無理だっただろう……」
実際、それは本当だ。
レッドワイバーン達の広範囲ブレスがなければ、リトルツリーマンの復活速度を上回るのは難しかった。
未来の索敵がなければ、トレントクイーンの位置も分からなかった。
未来の働きは間違いなく大きい。
俺の言葉を聞いて、未来は一気に表情を明るくした。
「そうでしょう、そうでしょう!」
そして、ドヤ顔で芹沢を見る。
芹沢はにこにこと笑っている。
だが、その笑顔の奥に、見えない火花が散っている気がした。
宮城に来てから、2人の意見が合うことが多かった。
世紀末漢隊の暑苦しさに対して、同じように冷ややかな目を向けることもあった。
だが、やはり仲が良くなった訳ではないらしい。
俺は内心で小さく息を吐いた。
まあ、いつものことだ。
◇
芹沢の活躍により、戦況は大きく変わった。
リトルツリーマン達は、トレントクイーンの指示に従い切れていない。
上空からの攻撃、地上からの攻撃、そして仲間割れ。
混乱が混乱を呼び、トレントクイーンを守る壁がさらに薄くなっていく。
今なら、届くかもしれない。
そう思った時だった。
今井翔太が、少し離れた場所でトレントクイーンを見つめていた。
彼の瞳に、水晶のような光が宿っている。
念のため、《水晶玉》でトレントクイーンの情報を確認しているのだろう。
そして、その表情が変わった。
「……これは」
低い声だった。
嫌な予感がした。
今井翔太が、俺の方へ顔を向ける。
「悠真さん!」
「どうした……?」
俺が問い返すと、今井翔太は焦ったように口を開いた。
「トレントクイーンですが……」
その時だった。
近藤の巨大ロボが、前へ出た。
リトルツリーマンの壁が崩れた。
トレントクイーン本体までの道が、ほんの一瞬だけ開いている。
この千載一遇のチャンスを逃すまいと、近藤が動いたのだ。
「みんな、ありがとう!」
近藤の声が響く。
「俺が確実に決める!!」
「近藤!」
俺は声を上げた。
だが、近藤の巨大ロボはすでに飛び出していた。
背中の翼部分が展開し、推進力を得て、一気にトレントクイーンへ向かう。
右手には、太く巨大な剣。
その剣が振りかざされる。
トレントクイーンも反応した。
細い木の身体から、大量のツルが伸びる。
リトルツリーマンのものよりも太く、速い。
まるで無数の槍が、一斉に近藤を貫こうとしているようだった。
このままだと、近藤までツルに絡め取られる。
その瞬間、陸斗が叫んだ。
「させません!!」
陸斗が両手を動かす。
《手遊び》のバリアが発動した。
透明な防御膜が、近藤の巨大ロボの前に展開される。
トレントクイーンのツルが、バリアにぶつかった。
バチンッ!!
硬い音が響き、ツルが弾かれる。
1本、2本、3本。
次々と迫るツルを、陸斗のバリアが弾いていく。
近藤の進路が守られた。
世紀末漢隊の隊員達が叫ぶ。
「兄貴ーー!!」
「イケェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙!!!」
東京組も、世紀末漢隊も、全員が近藤の一撃を見守った。
近藤は大剣を振り下ろす。
「仲間達の分だ喰らえッ!!」
巨大な剣が、トレントクイーンの頭上から振り下ろされた。
木の身体を縦に切り裂く。
トレントクイーンの身体が、真っ二つになった。
「ギャーーーーーーー!!」
耳が千切れるかと思うほど、不快な高音が空に響き渡る。
俺は思わず顔をしかめた。
レッドワイバーンも空中で大きく揺れる。
トレントクイーンの叫びは、ただの悲鳴ではなく、空気そのものを震わせるような音だった。
そして、周囲のリトルツリーマン達に異変が起きる。
次々と崩れていく。
燃やされても蘇っていたはずのリトルツリーマンが、今度は種を残さず消えていく。
黒い粒子のようになり、空気へ溶けるように消滅していった。
「消えていく……!」
誰かが叫ぶ。
世紀末漢隊の隊員達の間に、安堵の空気が広がりかける。
俺も一瞬、これで終わったのかと思った。
近藤の巨大ロボが、切り裂かれたトレントクイーンを見下ろす。
「やった……のか?」
その言葉が聞こえた。
だが、俺の胸には嫌なざわめきが残っていた。
今井翔太が言いかけていた。
トレントクイーンの情報を見た今井翔太の表情は、明らかに悪かった。
それに、この終わり方はあまりにも不自然だった。
リトルツリーマンは消えている。
トレントクイーンは真っ二つになった。
だが、まだ終わった気がしない。
「いや、まだだ……」
俺は小さく、しかしはっきりと言った。
近藤がこちらを見る。
「どういう事だ……?」
◇
その答えは、すぐに目の前で起きた。
切り裂かれたトレントクイーンの残骸が、ひとつの塊へ変わっていく。
それは、種だった。
先ほどまでリトルツリーマンが残していたものとは比べ物にならないほど大きな種。
その種が、土の上へ落ちる。
地面が震えた。
芽が出る。
根が伸びる。
幹が生える。
成長速度があまりにも速い。
数秒ごとに、巨大な木が空へ伸びていく。
俺達が見上げるほどの高さになり、それでも止まらない。
100メートル。
さらに伸びる。
150メートル。
まだ伸びる。
やがて、200メートルほどの巨大なモンスターがそこに現れた。
見た目は、リトルツリーマンをそのまま巨大化させたようだった。
だが、大きさが桁違いだ。
太すぎる幹。
空を覆うほどの枝。
周囲の森を見下ろす巨大な姿。
そして、頭部には王冠のような枝葉が形成されていた。
まるで、森そのものの王。
圧倒的な存在感が、戦場全体を押し潰す。
近藤の巨大ロボですら、その前では小さく見えた。
世紀末漢隊の隊員達も、東京メンバーも、誰もが言葉を失う。
近藤が呆然と呟く。
「何だ……これは……?」
今井翔太が、苦しそうに言葉を続けた。
「さっき《水晶玉》でトレントクイーンを見たんですけど……」
今井翔太は巨大な木の王を見上げながら言う。
「トレントクイーンを倒すと、トレントキングの種となって生まれ変わるみたいです……」
トレントキング。
その名前を聞いた瞬間、背筋に寒気が走った。
トレントクイーンを倒せば終わると思っていた。
リトルツリーマンを生み出す女王を倒せば、戦いは終わると思っていた。
だが違った。
女王を倒した先に、王がいた。
A+ランクモンスターの本当の絶望は、まだ終わっていなかった。
近藤が巨大な剣を構え直す。
だが、その声には隠しきれない動揺があった。
「こんなやつ、どうやって倒せば……」




