警備隊の出陣
第143話です。宜しくお願い致します。
世紀末漢隊が、涙を流しながらもリトルツリーマン達を焼き尽くしていく。
それはただの攻撃ではなかった。
仲間を苦しみから解き放つための弔い。
そして、トレントクイーンへ近づくための道作り。
オトコプターの火炎放射が森を赤く照らし、リトルツリーマン達が燃え、崩れ、種から再び蘇る。
相変わらず不気味な光景だ。
倒しても倒しても、あいつらは消えない。
だが、燃えている間だけは動きが止まる。
その隙を作り続ければ、いずれトレントクイーンを守る密集は崩せる。
そのためには、さらに戦力をぶつける必要があった。
俺は地上に降り立っている警備隊を見た。
その先頭にいるのは、執事のような格好をした警備隊のリーダー。
ガドラーだ。
「ガドラー頼むぞ!」
俺が声をかけると、ガドラーは胸に手を当て、恭しく一礼した。
「お任せください!」
相変わらず、無駄に所作が綺麗だ。
「必ずや我が君の期待に応えてみせます!」
ガドラーの目が、眼鏡の奥で鋭く光る。
普段は俺への忠誠心が異常すぎて少し扱いに困る存在だが、警備隊のリーダーとしての能力は間違いなく高い。
俺はまだ、ガドラーが本格的にスキルを使うところをそこまで見たことがない。
だが、警備隊のリーダーとして自我機能を持ち、他の隊員達を統率している以上、何かしら強力な能力を持っているはずだ。
ガドラーは前へ進み出る。
そして、片手を掲げた。
「スキル《マーカー》!」
その瞬間、ガドラーの目の前に大きな黄色い蛍光ペンのようなものが現れた。
いや、正確には俺には見えない。
ガドラーがその手を動かした瞬間、空間に何かを描いているような気配だけがあった。
だが、ガドラーの視線と手の動きから、そこに確かに何かが存在しているのが分かる。
ガドラーは空中から地面へ向けて、大きな弧を描くように手を動かした。
まるで巨大な蛍光ペンで、地面に線を引いているような動きだ。
ただし、そのマーカーも、引かれた線も、スキルを使った本人にしか見えていない。
敵からは見えない。
味方である俺達からも見えない。
だからこそ、奇襲性は高い。
ガドラーは静かに言った。
「全員構えなさい」
その声に、45人の警備隊が一斉に動いた。
銃を構える。
動きに無駄がない。
普段は個性の強い連中だが、戦闘態勢に入るときの統率は見事だった。
リトルツリーマンの軍勢が、こちらへ迫ってくる。
世紀末漢隊に押し返され、炎に焼かれながらも、種から蘇った個体が次々と前へ進む。
小さな木々がぞろぞろと押し寄せる光景は、何度見ても気味が悪い。
ガドラーは微動だにしない。
ただ、じっとタイミングを計っている。
そして、多くのリトルツリーマンが、ガドラーの描いたであろう円の内側に入った瞬間。
ガドラーが指を鳴らした。
パチン。
乾いた音が響く。
次の瞬間、リトルツリーマン達の足元が消えた。
いや、地面が丸ごと抜け落ちた。
突然、大きな穴が現れたのだ。
そこにあったはずの地面が、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
リトルツリーマン達は驚いたように身体を揺らし、そのまま一斉に落ちていった。
「今です、放ちなさい!」
ガドラーの命令が飛ぶ。
警備隊45人が一斉に銃を放った。
ドドドドドッ!!
銃声が連続して響く。
穴に落ちたリトルツリーマン達へ向けて、銃弾が雨のように降り注いだ。
リトルツリーマン達はツルを伸ばし、防ごうとする。
だが、警備隊の銃撃は以前よりも明らかに強化されていた。
ツルを貫く。
木の幹を貫く。
撃たれたリトルツリーマン達が、穴の中で次々と砕けていく。
種から復活するとはいえ、穴の中へ落とされた状態で銃撃を浴び続ければ、まともに上がってくることはできない。
ガドラーは片手を胸に当て、冷たい声で言った。
「我が君を不快にさせた者は万死に値します!」
言葉が重い。
というか、怖い。
俺を不快にさせたという理由だけで万死に値するのは、流石に極端すぎる。
だが、今は頼もしいことも確かだった。
ガドラーの《マーカー》。
それは、使用した本人にしか見えない大きな蛍光ペンを召喚するスキルらしい。
地面や空間など、好きな場所に線を引くことができる。
そして、円を描いた場所に穴を開けることができる。
穴を開けた場所には、何もない空間が生まれる。
落とし穴として使うこともできる。
敵の進路を分断することもできる。
空間に穴を開けるという性質上、使い方次第では防御や退避にも応用できそうだ。
かなり強い。
俺はガドラーの戦い方を見て、素直に感心した。
「まだ、お前がしっかりとスキルを使った所を見たことがなかったが、かなり強いな……」
俺は続けて、警備隊達を見る。
「それに、警備隊達もガドラーの指示にしっかり従って優秀だ……」
その瞬間、ガドラーの身体がびくりと震えた。
「あぁ……」
妙に震えた声を出す。
「わたくしの事をそんなに褒めて頂けるなんてぇ……」
嫌な予感がする。
ガドラーは顔を上げ、感極まったように叫んだ。
「もう、消滅しても構いませんッ!!」
「いや、勝手に消滅するなよ!」
俺は即座にツッコんだ。
何故、褒めたら消滅しようとするのか。
相変わらず、俺への忠誠心が異常だ。
しかも本人は本気で言っているから余計に困る。
ただ、ガドラーの作った穴は確かに有効だった。
大量のリトルツリーマンを一気に落とし、警備隊の銃撃で足止めする。
トレントクイーン周辺の兵隊を減らすにはかなり使える。
だが、リトルツリーマンも簡単には止まらない。
穴に落ちた個体の中には、長いツルを上へ伸ばすものが出てきた。
ツルが穴の縁や、周囲の岩に絡みつく。
そのまま這い上がろうとしている。
やはり厄介だ。
落として終わり、とはいかない。
◇
その時だった。
「上には登らせないでありますよぉー!」
アルの声が響き、軽やかに動きながら、穴の縁へ向かって銃を乱射した。
這い上がろうとしていたリトルツリーマン達が、次々と撃ち落とされる。
アルの射撃は相変わらず派手だ。
弾幕という言葉が似合う。
ただし、隣にいるソックスは冷静だった。
「アル、弾の無駄……」
ソックスは短くそう言いながら、銃を構える。
そして一発。
たった一発で、ツルを伸ばしていたリトルツリーマンの幹を撃ち抜いた。
リトルツリーマンはそのまま穴の底へ落ちる。
また別の個体。
ソックスは照準を合わせ、一発で撃ち抜く。
アルが乱射で押さえ込み、ソックスが確実に仕留める。
この2人の連携も、やはり安定していた。
「流石だ!」
俺は声を張る。
「そのままガドラー達のサポートを頼む!」
「アイアイサー!!」
アルが元気よく返事をする。
「了解です……」
ソックスも静かに頷いた。
これでガドラー達の足止めはかなり安定する。
だが、ガドラーは少しだけ不満そうだった。
「わたくし達だけでここを足止め出来たら、我が君にもっと褒められたかもしれないのに……」
小さく呟いている。
聞こえているぞ。
何というか、忠誠心が面倒くさい方向へ伸びている。
とはいえ、ガドラーはアルとソックスの援護を拒否するほど愚かではない。
すぐに表情を引き締め、警備隊へ指示を飛ばし続けた。
◇
別の場所では、未来が動いていた。
俺達が乗っているレッドワイバーンとは別に、未来はさらに複数のレッドワイバーンを召喚している。
いや、複数どころではない。
数十体。
赤い竜の群れが、空を埋めるように広がっていた。
世紀末漢隊の隊員達も、一瞬その光景に目を奪われている。
無理もない。
俺達は味方だと分かっているから落ち着いていられるが、普通なら完全に災害だ。
未来はレッドワイバーン達を見上げ、少し楽しそうに言った。
「さぁ、今日だけは環境破壊よ!」
とんでもないことを言っている。
だが、相手はリトルツリーマンだ。
しかも街へ向かって進むA+ランクモンスターの兵隊。
今は躊躇している場合ではない。
レッドワイバーン達が一斉に口を開いた。
その口の奥に、青い光が集まっていく。
空気が震える。
次の瞬間。
青い炎が、広範囲へ向かって吐き出された。
ゴォォォォォォォォォ!!
凄まじい熱気が、上空にいる俺達のところまで届く。
青い炎のブレスが、リトルツリーマン達をまとめて焼き尽くしていく。
木の身体が一瞬で炎に包まれ、黒く崩れる。
種が残る。
それでも、次のブレスが上から叩きつけられる。
復活する暇を与えないように、レッドワイバーン達が広範囲を焼き払い続けた。
「よしよし、いい子ちゃんねぇ〜」
未来がレッドワイバーン達を褒める。
その声に反応したのか、レッドワイバーン達が嬉しそうに鼻息を噴射した。
そして、先ほどよりさらに威力が強そうなブレスを吐く。
「褒められてやる気出してるのか……」
俺は思わず呟いた。
未来の《動植物愛護》は、やはり凄い。
ただ召喚するだけではない。
意思を通わせ、力を引き出す。
レッドワイバーン達は、完全に未来を信頼しているように見えた。
◇
さらに、メイド達も動き始める。
まずは一葉。
一葉はいつものように落ち着いた表情で、リトルツリーマンの群れへ視線を向けた。
「スキル《爆弾魔》」
静かな声。
だが、その直後に起きた現象は全く静かではなかった。
空中の四方八方に、大量の爆薬が召喚される。
それらが一斉に起爆した。
ドガァァァァァン!!
爆音が森に響き渡る。
爆風が木々を揺らし、火花が飛び散る。
リトルツリーマン達が次々と粉々になっていった。
木の破片が吹き飛び、枝が砕け、幹が裂ける。
まるでリトルツリーマンの群れの中に、いくつもの地雷原が生まれたようだった。
一葉はその光景を見ながら、わずかに息を吐く。
「あぁ……スッキリする……」
その声が、心の底からのものに聞こえた。
普段はおしとやかで、丁寧で、どこか控えめな一葉。
だが、戦闘になると本当に物騒だ。
やはり一葉を怒らせるのだけはやめよう。
心の中で改めてそう誓う。
次に動いたのは二葉だ。
二葉は嬉しそうに両手を広げる。
「スキル《鉄球召喚》」
その手元に、巨大な鎖付き鉄球が現れた。
相変わらず、とんでもなく重そうな鉄球だ。
だが、芹沢の《ラブレター》による身体能力6倍の効果を受けている今の二葉は、それを軽々と扱っていた。
二葉は鉄球の鎖を握り、勢いよく振り回す。
風が唸る。
鉄球が空気を切り裂き、リトルツリーマン達をまとめて吹き飛ばしていく。
それだけではない。
二葉は身体を目一杯使い、回転を始めた。
鉄球が大きな円を描き、その回転がさらに風を巻き込んでいく。
やがて、二葉を中心に竜巻のような風が生まれた。
リトルツリーマン達がその竜巻へ巻き込まれる。
鉄球に叩き潰される。
吹き飛ばされる。
砕かれる。
二葉はその中心で、笑みを浮かべた。
「私、お掃除は普段から得意なんです♡」
いや、それは掃除ではない。
破壊だ。
しかし、確かに周囲のリトルツリーマンは綺麗に消し飛んでいる。
そういう意味では掃除なのかもしれない。
いや、やはり違うと思う。
続いて、三葉も前へ出た。
三葉は楽しそうに腕を振る。
「スキル《四肢ワープ》!!」
その瞬間、三葉の腕と脚が消えた。
何度見ても、物理的に怖い光景だ。
そして次の瞬間、リトルツリーマン達の側に三葉の腕と脚が現れる。
腕が拳を振るう。
リトルツリーマンの群れがまとめて殴り飛ばされる。
脚が蹴りを放つ。
別のリトルツリーマン達が、まとめて吹き飛ぶ。
芹沢のバフにより、三葉の身体能力は6倍になっている。
その影響は、四肢ワープにもはっきり出ていた。
1回のパンチで数十体が飛ぶ。
1回の蹴りで、木の群れに大きな空白ができる。
規格外のパワーだ。
「アハハハハー!」
三葉の明るい笑い声が響く。
「羽虫を潰してるみたいにかるーい!」
相変わらず発言が恐ろしい。
見た目は可愛らしいメイドなのに、戦闘中の感性はかなり物騒だ。
俺は思う。
やはり、このメイド達は恐ろしすぎる。
一葉は爆破。
二葉は鉄球竜巻。
三葉は四肢ワープによる規格外の殴打。
普段は丁寧に俺の世話をしてくれる存在だが、戦場では完全に別物だ。
だが、今はその恐ろしさが頼もしい。
◇
世紀末漢隊の火炎放射。
ガドラーの《マーカー》と警備隊45人の銃撃。
アルとソックスの援護。
未来のレッドワイバーン部隊による青い炎。
一葉の爆破。
二葉の鉄球竜巻。
三葉の四肢ワープ攻撃。
東京と東北の総力戦。
それぞれの攻撃が、リトルツリーマンの群れを押し返していく。
もちろん、リトルツリーマンは不死身だ。
種から何度も復活する。
だが、こちらの攻撃速度が、その復活速度を少しずつ上回り始めていた。
復活した瞬間に焼かれる。
芽を出した直後に撃たれる。
幹が形成される前に爆破される。
伸びたツルは盾やドリルでいなされ、穴に落とされ、銃で撃ち抜かれる。
群れの密集が、目に見えて崩れ始めた。
トレントクイーンを守っていた壁が、少しずつ薄くなっていく。
俺は息を呑む。
ようやく見えてきた。
リトルツリーマン達の中心。
そこにいたのは、未来が言っていた通り、女性の形をした木のモンスターだった。
リトルツリーマンとは明らかに違う。
細く長い木の身体。
髪のように伸びた枝葉。
人間の女性を思わせる輪郭。
だが、その顔には人間らしさなどない。
冷たく、歪んだ木の女王。
周囲のリトルツリーマン達が、それを守るように動いている。
あれが、トレントクイーン。
リトルツリーマンを生み出している元凶。
そして、世紀末漢隊の仲間達をあんな姿にした存在。
近藤の巨大ロボが、ゆっくりと剣を構える。
その視線は、真っ直ぐトレントクイーンへ向けられていた。
「あれが、仲間達にあんな事をした元凶だな……」




