苦しみから解き放つ
第142話です。宜しくお願い致します。
「みんな、暴れてこい!」
俺の声に、アル、ソックス、セイコ、そして警備隊達が一斉に動き出そうとした。
だが、その前に俺はもう1つ指示を出す。
今回の相手は、ただ力任せに叩けばいい相手ではない。
リトルツリーマンは不死身。
倒しても倒しても、トレントクイーンがいる限り種から蘇る。
ならば、こちらの目的はリトルツリーマンを完全に倒すことではない。
あくまで、トレントクイーンから引き離すこと。
そして、トレントクイーンへ近藤を届けることだ。
そのためには、力で押し込める連中に前へ出てもらう必要がある。
「芹沢!」
俺は芹沢に声をかけた。
「二葉、三葉、セイコにバフを頼む!」
芹沢はすぐに笑みを浮かべる。
こんな状況でも、彼女らしい艶のある笑みだった。
「任せて♡」
芹沢は片手を胸元へ当て、スキルを唱える。
「スキル《ラブレター》! 私があなたを愛しているわ」
その瞬間、芹沢の周囲に3枚の紙が現れた。
真っ白な紙。
それが風もないのに、ひとりでに折り畳まれていく。
角が合わさり、形が整い、やがて3つの紙飛行機になった。
紙飛行機はふわりと浮かび上がる。
そして、二葉、三葉、セイコへ向かって飛んでいった。
芹沢の《ラブレター》には、大きく分けて2種類の使い方がある。
1つ目は、芹沢がよく使っている方だ。
私のことを愛してほしい。
紙飛行機が当たった対象を強制的に操る能力。
以前は約10分間しか操れなかった。
だが、スキルのレベルアップにより、今では最大1時間まで操ることが可能になっている。
スピアーファルコンを操った時もそうだったが、相手によっては戦況を大きく変えられる強力な効果だ。
そして2つ目が、今使った効果。
私があなたを愛しているわ。
紙飛行機が当たった対象の身体能力を上げる支援効果だ。
以前は10分間、身体能力4倍。
それでも十分強かった。
だが、こちらもレベルアップによって大幅に強化されている。
今では2時間、身体能力6倍。
かなり馬鹿げた強化だ。
さらに、以前は同時に複数へ発動することができなかった。
だが、今は違う。
スキルのレベルアップにより、複数同時発動が可能になった。
だから今回、3枚の紙飛行機を同時に飛ばし、3人を一気に強化できる。
紙飛行機が、二葉、三葉、セイコへ命中する。
その瞬間、3人の身体から雰囲気が変わった。
二葉は自分の手を握ったり開いたりしながら、目を輝かせる。
「こんなに違うのですね!」
普段から丁寧な口調の二葉だが、今はその声に戦闘への期待が混じっていた。
「鉄球で雑草を駆逐致します!」
言い方が物騒だ。
相手は確かに木のモンスターだが、雑草扱いでいいのか。
三葉も両腕をぶんぶんと振りながら、楽しそうに笑っている。
「最高ですーー」
そして、さらっと怖いことを言った。
「今なら素手でリトルツリーマンを裂けそうですー!」
「裂くな。いや、場合によっては裂いていいのか……?」
俺は思わず小さく呟く。
リトルツリーマンは不死身だから、倒すこと自体に意味は薄い。
だが、引き剥がしたり、道を作ったりするには三葉の力は役立つはずだ。
セイコは胸に手を当て、優雅に微笑んだ。
「芹沢様、感謝いたしますわ!」
そして、当然のように言う。
「また、わたくしの淑女っぷりがあがりましたわ!」
淑女っぷりとは何なのか。
少なくとも、これから巨大化して暴れるつもりの人間が言う言葉ではない気がする。
いや、セイコは人間ではないが。
この3人は、俺達の中でも主に身体を使って戦うメンバーだ。
二葉は《鉄球召喚》で巨大な鉄球を扱う。
もちろん鉄球そのものが武器ではあるが、それを振るう肉体も重要になる。
三葉は《四肢ワープ》で四肢を飛ばし、直接殴ったり蹴ったりする。
身体能力が上がれば、攻撃の威力も反応速度も大きく変わる。
そしてセイコは《巨大化》による力押しが得意だ。
バフとの相性はかなり良い。
これで東京側の近接戦力は整った。
◇
その間にも、世紀末漢隊は動き出していた。
近藤の指示通り、オトコプター部隊がバトルモードでリトルツリーマンへ向かっていく。
右側に鋭いドリル。
左側に「漢」と刻まれた盾。
火炎放射器を構え、隊列を組みながら進む様子は、見た目の派手さとは裏腹にかなり統制が取れていた。
「ヒャッハー!!!」
「燃え尽きろぉ゙ぉ゙ぉ゙!!」
世紀末漢隊の隊員達が叫ぶ。
オトコプターから炎が放たれる。
業火がリトルツリーマン達を包み込んだ。
木の身体が燃える。
枝が炭になり、葉が灰になっていく。
リトルツリーマン達は苦しむように身体を揺らし、やがて燃え尽きていく。
だが、それで終わりではない。
黒く焦げた後に、小さな種が残る。
種は地面へ落ちる。
そして、土に埋まり、再び芽を出す。
またリトルツリーマンが生まれる。
分かっていても、気味が悪い。
何度見ても、嫌な再生だ。
だが、世紀末漢隊は今、それを倒すために燃やしている訳ではない。
動きを止めるため。
隊列を崩すため。
トレントクイーンから引き離すため。
燃やされた直後、リトルツリーマンは一時的に動きが止まる。
その隙を狙って、オトコプター隊が横から回り込んでいく。
リトルツリーマンも反撃する。
長いツルが、槍のように空へ伸びた。
さっきと同じ攻撃。
オトコプターの装甲すら貫通する、異常な威力のツルだ。
だが、今度は世紀末漢隊も対策している。
「右から来るぞ!」
「任せろぉ!」
1機のオトコプターが盾を構え、ツルの進路へ割り込む。
ツルが盾にぶつかり、火花のようなものが散った。
完全に受け止めるのではない。
角度をつけて逸らす。
盾で流されたツルが、空を切る。
その隙に、別のオトコプターが火炎放射を浴びせた。
「ファイヤー!!」
またリトルツリーマンが燃える。
別の場所では、ドリルを高速回転させたオトコプターが、伸びてきたツルを削るように弾いていた。
1人がいなし、もう1人が燃やす。
自然と二人一組で動いている。
即席の連携ではない。
普段から何度も訓練していなければ、こうは動けない。
「流石に洗練されてるんだな……」
俺は思わず呟いた。
見た目は世紀末。
口調も荒い。
テーマソングも濃い。
だが、戦い方は堅実で、連携はかなり高い。
近藤が指示を出せば、隊員達はその意図を理解して動く。
東北を守ってきた実力は本物だ。
◇
だが、リトルツリーマンもただやられているだけではなかった。
燃やされ、動きを止められ、ツルをいなされる。
その状況を見て、リトルツリーマン達は別の手を使ってきた。
1体のリトルツリーマンが、幹の一部を不自然に伸ばす。
そこには、吸収された世紀末漢隊の隊員の顔が浮かんでいた。
苦しそうに歪んだ顔。
目だけが、助けを求めるように動く。
リトルツリーマンは、その顔をオトコプターへ見せつけるように突き出した。
「あ……つい、たす……けて」
声が聞こえた。
かすれた声。
喉を焼かれるような苦しそうな声。
「やめ……て、や……めて」
その声に、オトコプターの動きが一瞬鈍った。
「くっ……!」
「やめろ、そんな顔を見せるな……!」
世紀末漢隊の隊員達が動揺する。
無理もない。
あれは仲間の顔だ。
ついさっきまで、一緒に戦っていた仲間。
昨日まで、同じ釜の飯を食っていた仲間。
その顔が、苦しそうに助けを求めている。
それを自分達の手で燃やせるはずがない。
リトルツリーマンは、それを分かってやっている。
幹に浮かんだ顔を、あえて前に出す。
攻撃しようとするオトコプターの真正面へ持っていく。
すると、隊員達は一瞬ためらう。
その一瞬を狙い、別のリトルツリーマンがツルを伸ばしてくる。
オトコプターは何とか盾で受け流した。
だが、動きは明らかに鈍っていた。
動揺の波が広がっていく。
1人の隊員が、震える声で口を開いた。
「この間、あいつ逸れていた奥さんが見つかったって喜んでたんだよ」
その声は通信越しに聞こえた。
「今度こそはもう、離さないって……」
俺は息を詰まらせた。
吸収された隊員の1人のことだろう。
崩壊した世界で、大切な人と逸れる。
それがどれほど辛いことかは、俺にも想像できる。
ようやく見つかった奥さん。
もう離さないと喜んでいた男。
その男が今、リトルツリーマンの幹に顔を浮かべて、苦しそうに助けを求めている。
別の隊員が声を漏らす。
「駄目だ、俺達には出来ない……」
「昨日まで、同じ釜の飯を食ってたんだぜ……」
「友にこんな事……」
攻撃の手が止まり始める。
防御はしている。
何とかツルをいなしている。
だが、火炎放射を放つ手が鈍い。
燃やすことを躊躇している。
当然だ。
仲間を燃やすようなものなのだから。
いくらリトルツリーマンを止めるためだとしても、簡単に割り切れるはずがない。
その様子を見たリトルツリーマン達が、ニヤリと笑った。
木の表面が歪み、顔のように見える。
いや、確かに笑っていた。
人の心を折るために、吸収した隊員達を使っている。
あまりにも悪趣味だ。
リトルツリーマン達は、さらに勢いを増してツルを伸ばしてくる。
世紀末漢隊は徐々に防戦一方になっていった。
近藤の巨大ロボも、奥へ進むための隙を探しているが、隊員達の動揺で道が開かない。
このままでは、また被害が出る。
そう思った時だった。
◇
近藤の声が響いた。
「お前等の気持ちはよく分かる」
その声は、いつものような豪快な叫びではなかった。
低く、重く、隊員達の胸に届くような声だった。
世紀末漢隊の隊員達が、近藤の言葉に耳を傾ける。
「俺だってさっきまでどうしたら良いか分からなかった」
近藤は、自分の弱さを隠さなかった。
さっき、部下達が吸収された時。
近藤自身も動けなくなった。
自分のせいだと責め、指示を出せなくなっていた。
それを、彼は隊員達の前で認めた。
「でももう俺は決めた!」
近藤の声に力が戻る。
巨大ロボの中から響くその声は、リトルツリーマンの群れを突き抜けるようだった。
「アイツらの為に出来ることは、アイツらをこんな状態にした木を燃やし尽くす事だ!」
隊員達が息を呑む。
「そして、アイツらを早く苦しみから解き放ってやろう……!」
その言葉に、俺は胸が締めつけられた。
近藤は「仲間を殺せ」とは言わなかった。
「燃やせ」とも、ただ命令として言った訳ではない。
苦しみから解き放つ。
あの状態にされた仲間達を、これ以上苦しませないために。
そう言ったのだ。
隊員達の表情が変わる。
まだ辛そうだった。
まだ苦しそうだった。
それでも、迷いだけは少しずつ消えていく。
「アイアイサー!!」
1人の隊員が、泣きながら答えた。
それに続いて、他の隊員達も声を上げる。
「アイアイサー!!」
「兄貴……分かりましたぜ……!」
「俺達が、楽にしてやります……!」
いつもの明るく勢いのある声とは違う。
涙をこらえた声。
悔しさと怒りを押し殺した声。
それでも、彼らはもう一度前を向いた。
◇
オトコプターが火炎放射器を構える。
幹に浮かぶ仲間の顔が、苦しそうに揺れる。
「あ……つい……」
その声に、隊員達の顔が歪む。
だが、今度は引かなかった。
「今、楽にしてやるからな……」
1人の隊員が呟く。
「また、向こうでも絶対に会おうな……」
別の隊員が、涙を拭いながら続ける。
「お前の奥さんには……俺達が、必ず伝えるからよ……!」
そして、火炎放射器が炎を吐いた。
炎が幹を包む。
仲間の顔が浮かんだ木が、赤く燃えていく。
隊員達は歯を食いしばり、泣きながらも炎を止めなかった。
それは攻撃というより、弔いだった。
弔い合戦。
いや、仲間を苦しみから解き放つための行為だった。
業火の中で、吸収されていた隊員達の顔が苦しそうに歪む。
俺は思わず目を逸らしそうになった。
だが、逸らしてはいけない気がした。
彼らは見届けている。
仲間を。
なら、俺も目を逸らす訳にはいかない。
炎がさらに強くなる。
幹が崩れていく。
その時、ふと、吸収されていた隊員達の顔つきが変わったように見えた。
さっきまでの苦しそうな顔ではない。
ほんの少しだけ、楽になったような。
解放されたような。
そんな顔に見えた。
それが本当なのかは分からない。
リトルツリーマンが見せているだけなのかもしれない。
ただの錯覚かもしれない。
それでも、世紀末漢隊の隊員達には、それが救いに見えたはずだ。
「……行ってこい」
「よく頑張ったな……」
「後は俺達がやるからよ……」
隊員達は、声を震わせながら炎を放ち続けた。
リトルツリーマンは燃える。
やがて種を残して、また蘇るだろう。
だが、吸収されていた隊員達の顔は消えた。
少なくとも、あの苦しそうな姿からは解き放たれた。
◇
世紀末漢隊は、そこから静かに戦い方を変えた。
さっきまでのように、ただ騒がしく叫んで燃やすのではない。
もちろん炎は激しい。
オトコプターは飛び交い、ツルを盾でいなし、ドリルで弾き、火炎放射でリトルツリーマンを焼いていく。
だが、隊員達の表情は静かだった。
怒り。
悲しみ。
悔しさ。
その全てを胸に抱えながら、ひとつひとつ燃やしていく。
「今、楽にしてやる……」
「すまねぇ……遅くなったな……」
「もう、苦しまなくていいからな……」
吸収された仲間の顔がついた幹を見つけるたびに、隊員達は涙を流しながら炎を放った。
近藤も巨大ロボの中で、黙ってその光景を見ていた。
ただ見ているだけではない。
仲間達の覚悟を受け止めているようだった。
俺も拳を握りしめる。
これがA+ランクモンスター。
ただ強いだけじゃない。
人の心を踏みにじる。
仲間の姿を利用し、迷わせ、動きを止める。
こんなモンスターを、街へ行かせる訳にはいかない。
トレントクイーンを倒さなければならない。
そのためにも、世紀末漢隊が作ってくれているこの道を無駄にしてはいけない。
炎が森を照らす。
リトルツリーマン達が燃えていく。
また種から蘇るとしても、その瞬間だけは確かに動きが止まる。
そして、少しずつ。
本当に少しずつだが。
トレントクイーンを守るリトルツリーマン達の密集が崩れ始めていた。
世紀末漢隊は涙を流しながら、それでも前へ進む。
仲間を弔うように。
苦しみから解き放つように。
静かに、リトルツリーマン達を焼き尽くしていった。
一応、物語上では使用した事がある事にはなっているんですが、この作品の中ではまだ芹沢のバフスキル使用した事なかったですよね……。
どこかで使用したかったと思っていたのですが、
意外と機会がなくてここまで来ちゃいました。




