バトルモード
第141話です。宜しくお願い致します。
「東北を守るのは俺達世紀末漢隊だ!」
近藤の声が、白河市の空に響いた。
「やられた仲間の分もやってやるぜ!」
「ヒャッハーーー!!」
世紀末漢隊の隊員達が、一斉に声を上げる。
さっきまでの重苦しい空気は、完全に吹き飛んでいた。
いや、状況が良くなった訳ではない。
リトルツリーマンは今も森の中を進んでいる。
吸収された隊員達の顔は、幹に浮かび上がったままだ。
トレントクイーンを倒さなければ、リトルツリーマンは消えない。
戦況は、まだ最悪に近い。
それでも、近藤が戻ってきた。
それだけで、世紀末漢隊の空気は変わった。
部下達は兄貴を信じている。
近藤が叫べば、彼らは動く。
この男が東北を守ってきた理由が、改めて分かった気がした。
近藤は赤く腫れた自分の頬を軽く撫で、それから隊員達を見渡した。
その目には、もう迷いはない。
「まずはお前等、オトコプターのモードをバトルモードへ変えろ!」
「アイアイサー!」
世紀末漢隊の隊員達が、即座に返事をした。
次の瞬間、複数のオトコプターから、またあのテーマソングが流れ始める。
♪漢〜! ヒャッハー!
♪漢〜! ヒャッハー!
♪漢なら後ろは見るな前だけ常に見ろぉ〜
♪漢なら弱きを守り強くあれぇ〜
この状況でも流れるのか。
俺は一瞬そう思ったが、今はもうツッコむ気にもなれない。
むしろ、この曲が流れることで、世紀末漢隊の隊員達の気合いが目に見えて上がっている。
彼らにとって、この曲はただのテーマソングではないのだろう。
戦うための合図。
自分達が何のために立ち向かうのかを思い出すための歌。
そう考えると、少しだけ見方が変わる。
いや、歌詞の濃さは相変わらずだが。
◇
テーマソングと同時に、オトコプターの機体が変化し始めた。
箱型の飛行物体の側面が開き、金属音を立てながら内部から装備がせり出してくる。
右側からは、大きく鋭いドリル。
先端が回転し、空気を震わせる。
左側からは、分厚く頑丈そうな盾。
その盾には、力強い文字で「漢」と刻まれていた。
火炎放射器だけではない。
近接戦闘用の装備まで備えているらしい。
「こんな事まで出来るのか……」
俺は思わず呟いた。
ただの飛行物体だと思っていたオトコプターが、一気に戦闘用の機体へ変わっていく。
しかも、ドリルと盾。
これ以上ないくらい分かりやすい装備だ。
「だが、ちょっとカッコいいな……」
正直、少し胸が高鳴った。
武骨で、分かりやすくて、無駄に熱い。
近藤の趣味全開なのに、戦場で見ると妙に頼もしい。
近藤は俺の反応を見て、にやりと笑う。
「勿論、《漢のロマン》で改造してあるぞ!」
「だろうな……」
俺は頷くしかなかった。
あのスキルは、本当に乗り物の可能性をどこまでも広げている。
近藤はさらに胸を張った。
「そして、俺の機体は更に特殊だ!」
「更に特殊……?」
嫌な予感と、少しの期待が同時に湧く。
近藤は自分のオトコプターへ向かって叫んだ。
「よし、変身だ!」
変身。
今、確かに変身と言った。
その瞬間、近藤専用のオトコプターから凄まじい金属音が響いた。
機体のあらゆる方向から、様々な金属パーツがせり出してくる。
側面の装甲が開く。
下部から太いフレームが伸びる。
翼のような部分が折り畳まれ、背中へ回っていく。
コックピットの部分がせり上がり、まるで顔のような形になる。
胴体が形成される。
そこから腕が生え、さらに脚が伸びる。
右手には大きな剣。
左手には、隊員達のオトコプターよりもさらに巨大な盾。
背中には、元々翼だった部分が装着されている。
完全に、巨大ロボだった。
しかも飛行できるタイプの巨大ロボだ。
「流石にこれはヤバいだろ……」
俺は思わず声を漏らした。
「改造のレベル超えてるって……」
乗り物から乗り物への改造。
昨日、近藤はそう説明していた。
だが、これはもう乗り物なのか。
いや、コックピットがあり、人が乗って操作するなら、広い意味では乗り物なのかもしれない。
だが、見た目は完全にロボットだ。
しかも問題は、そこだけではなかった。
頭部だ。
ロボットの頭の部分には、モヒカンがついていた。
ゴツゴツした濃い顔。
太い眉。
妙に主張の強い目元。
どう見ても近藤剛の顔だった。
自分の顔にする辺り、やはり主張が激しい。
普通ならもう少し、無難なデザインにするのではないだろうか。
いや、近藤に無難を求める方が間違っているのかもしれない。
「ガッハッハ!」
近藤は満足げに笑った。
「やってみるもんだよなぁ!」
「やってみるもんだ、で済むのか……」
俺は呆れながらも、目を離せなかった。
頭の部分は置いておくとして、ロボット自体は普通にカッコいい。
大きな剣。
分厚い盾。
背中の翼。
空を飛べる巨大ロボ。
そんなもの、男なら一度くらい憧れるだろう。
「頭の部分は置いといて、ロボットは男の憧れだよな……」
俺は思わず、少しキラキラした目で言ってしまった。
すると、近藤の目が輝いた。
「分かるか……!!」
「あぁ、分かる……!」
何だろう。
この瞬間だけは、俺と近藤の間に奇妙な友情のようなものが生まれた気がする。
危険な戦場で何をしているのかと思わなくもないが、ロボットはロマンなのだから仕方ない。
陸斗も、少し興奮したようにロボットを見上げていた。
「正直、ちょっと分かります……!」
今井翔太も小さく頷く。
「あれは男なら一度は乗ってみたいですね……」
やはり分かる人間には分かるのだ。
だが、その横で芹沢が冷ややかな目をしていた。
「女子には全く分からないわね……」
未来も腕を組んで、同じような目をしている。
「宮城県に来てから貴方と意見が合うことが多いわね……」
「それはそれで複雑なんだけど」
芹沢と未来は、微妙な顔を見合わせていた。
一葉、二葉、三葉のメイド3人は特に反応していない。
ロボットに興奮する訳でもなく、呆れる訳でもなく、ただ冷静に戦力として見ているようだった。
この温度差。
かなり恥ずかしい。
俺は少し咳払いした。
◇
近藤も同じように気持ちを切り替えたのか、巨大ロボのコックピットから声を張る。
「じゃあ指示を出すぞぉ!」
その一言で、空気が一気に戦場のものへ戻った。
近藤はさっきまでとは違う。
迷いは消え、目標を見据えている。
「まず、女王を仕留める為には、女王を守る兵隊を何とか女王から引き離したい!」
リトルツリーマンの密集地帯。
その中心に、トレントクイーンがいる。
未来の索敵で見つけた場所だ。
だが、トレントクイーンの周囲には大量のリトルツリーマンがいる。
そのまま突っ込めば、ツルに貫かれるだけだ。
「よって、お前等全員で一斉にリトルツリーマンを相手にするんだ!」
近藤の声が響く。
「基本は火炎放射攻めで、ドリルや盾でツルの攻撃を流す感じでいなしていくんだ!」
なるほど。
リトルツリーマンは不死身。
燃やしても種から復活する。
だから、倒し切ることを目的にしてはいけない。
火炎放射で一時的に動きを止める。
その間に位置をずらす。
ツルの攻撃は、ドリルや盾で受け流す。
無理に倒すのではなく、トレントクイーンから引き剥がす。
それが世紀末漢隊の役割だ。
「トレントクイーンは俺が仕留める!」
近藤が宣言する。
巨大ロボの右手に握られた剣が、ぎらりと光った。
「俺のアシストを頼む!」
「アイアイサー!!!」
世紀末漢隊の隊員達が、一斉に声を上げた。
先ほどまでの動揺はない。
彼らは近藤を信じている。
近藤もまた、彼らを信じている。
それが分かる声だった。
「お前達を信じてるぞ!!」
近藤の言葉に、篠原が強く頷く。
「兄貴……!」
青いモヒカンの料理人は、今は完全に戦士の顔をしていた。
「必ずやり遂げますぜ!!」
その声に、他の隊員達も続く。
「任せてくだせぇ!」
「兄貴の道は俺達が開きますぜ!」
「やられた仲間の分も、まとめて燃やしてやる!」
叫び声が空を震わせる。
近藤はそれを聞き、静かに頷いた。
それから、俺達の方を見る。
「東京メンバーの能力が俺はよく知らないから、とにかく俺達のアシストを頼む!」
「あぁ」
「細かい指示は悠真がしてくれたらいい」
「了解だ!」
東北の全体指揮は近藤。
東京組の細かい動きは俺。
それが一番自然だ。
俺達は世紀末漢隊の戦場に入り込ませてもらっている立場だ。
だが、俺達の能力を一番把握しているのは俺だ。
近藤はそこをきちんと分けた。
さっきまで自責で固まっていた男とは思えないほど、的確な判断だ。
やはり、近藤は戻ってきた。
◇
俺は東京メンバーへ振り返る。
「よし、俺達もやるぞ!」
未来が頷く。
陸斗も真剣な表情で俺を見る。
門脇は静かに息を整え、芹沢は少し緊張しながらも目を逸らさない。
今井翔太と阿川も準備はできている。
一葉、二葉、三葉も、すぐに動けるよう待機していた。
そして、ここで俺が出せる戦力はまだある。
俺は地面へ向けてスキルを唱えた。
「《日常生活》スキル、派遣、警備!」
空間が揺らいだ。
まず現れたのは、見慣れた3人だった。
地面の上に降り立つようにして、アル、ソックス、セイコが姿を現す。
「呼ばれて飛び出て満を持しての登場、アルであります!!」
アルがいつもの調子で胸を張る。
戦場の緊張感を全く無視した登場だ。
「自分で満を持じしてとか言うな……」
ソックスが即座にツッコむ。
このやり取りを見ると、こんな状況でも少しだけ気が緩む。
いや、気を緩めている場合ではないのだが。
セイコは拳を握り、口元を吊り上げた。
「暴れたくてウズウズしてましたの!」
「頼もしいよ」
俺は短く言った。
この3人は派遣スキルで呼び出せる、俺の大切な戦力だ。
アルの機動力。
ソックスの冷静さ。
セイコの巨大化。
どれも、この戦場では役に立つはずだ。
さらに、警備スキルも発動する。
俺達は宮城へ向かう途中、約100キロごとに中継地点として誰もいない建物をテリトリー登録してきた。
白河市付近も、その範囲に入る。
つまり、ここは俺の《日常生活》のテリトリー内だ。
だから警備隊を召喚できる。
地面に光が広がる。
そして、次々と警備隊が姿を現した。
合計45人。
以前は30人までしか召喚できなかった。
だが、この数ヶ月のスキルレベルアップにより、警備隊の召喚人数は45人まで増えている。
それだけでも大きい。
しかも今の警備隊は、以前のような無個性な存在ではない。
自我機能が解放され、見た目や性格にも変化が出ている。
その中から、1人の男が前へ進み出た。
「再び我が君に出会えました事、私は興奮が収まりません!!!」
片手を前に振り、お辞儀をする。
まるで貴族のような挨拶だった。
彼は警備隊の格好をしている。
だが、普通の警備隊員とは明らかに違う。
メガネをかけている。
胸にはハンカチーフ。
ネクタイに手袋。
どこか執事のような雰囲気。
警備隊としては、かなり異様な格好だ。
そして、彼は警備隊のリーダーでもある。
以前、警備スキルがレベルアップした時、会話機能しかなかった警備隊に自我機能が解放された。
その時から、警備隊の見た目や個性が大きく変わった。
中でも、この執事のような男は特に濃い。
俺はその時、彼に名前をつけた。
警備隊をもじって、ガドラー。
我ながら安直な名前だと思った。
だが、本人はとんでもなく喜んでいた。
「あぁ、何て素晴らしい名前なんでしょう……!!」
その時のガドラーは、両手を胸に当て、心の底から感動しているようだった。
「この素晴らしい名前に恥じぬように、我が君に全力でお仕えさせて頂きます!」
正直、少し引いた。
いや、かなり引いた。
だが、忠誠心が高いことは間違いない。
そして今も、ガドラーは目を輝かせて俺を見ている。
「我が君、ご命令を」
俺は思わず内心で呟く。
何故、警備隊はみんなこんなに個性的なんだ。
アル達もそうだが、俺のスキルから生まれる存在は、どうしてここまで濃いのだろう。
チャン爺も、一葉達も、ガドラーも。
もう少し普通でもいい気がする。
だが、今はその濃さすら頼もしい。
俺は目の前の戦場を見た。
燃えても蘇るリトルツリーマン。
その奥に守られているトレントクイーン。
吸収された世紀末漢隊の隊員達。
近藤が命じ、世紀末漢隊が動き出そうとしている。
東京組も、もう準備はできた。
アル、ソックス、セイコ。
警備隊45人。
そしてガドラー。
俺は息を吸う。
ここからは反撃だ。
「みんな、暴れてこい!」
アルじゃないですけど、満を持じしてガドラーというキャラが登場しましたね。




