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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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140/161

俺達を漢にするチャンス

第140話です。宜しくお願い致します。


「どうしたら良いんだ……」

 俺はレッドワイバーンの背の上で、思わずそう呟いた。

 眼下には、地獄のような光景が広がっている。

 燃やしても燃やしても、種から蘇るリトルツリーマン。

 ドリルでも穴を開けられないというオトコプターの装甲を、いとも簡単に貫いたツル。

 そして、貫かれた世紀末漢隊の隊員達。

 彼らはツルの中へ吸収され、リトルツリーマンの幹に顔を浮かべていた。

「た……すけ……て」

 かすれた声が聞こえる。

 その声は、本当に隊員達のものなのか。

 それとも、リトルツリーマンが俺達を動揺させるために喋らせているだけなのか。

 どちらにしても、あまりにもエグい。

 近藤は目を見開いたまま、リトルツリーマン達を見ていた。

 昨日まで豪快に笑い、住民達に慕われ、東北を背負っているように見えた男が、今は言葉を失っている。

 無理もない。

 自分が指示を出した火炎放射。

 それが通じなかっただけでなく、反撃によって部下があんな姿にされた。

 近藤の心にどれほどの衝撃が走ったのか、想像するだけで胸が苦しくなる。

 だが、このまま固まっている訳にはいかない。

 リトルツリーマン達は、今も街の方角へ向かって進んでいる。

 あいつらを止めなければ、次に犠牲になるのは街の住民達だ。

 俺達がどう動くべきか考えていた、その時だった。


 ◇


「俺のスキルで見てみます」

 今井翔太が口を開いた。

 その声は緊張していたが、震えてはいなかった。

 俺はすぐに彼を見る。

「だが、翔太のスキルはモンスターには出来なかったんじゃ……」

 今井翔太の《水晶玉》。

 相手の名前や種族、スキルなど、あらゆる情報を見ることができるスキル。

 桜井の《天上天下唯我独尊》の情報を知ることができたのも、このスキルのおかげだった。

 だが、以前の《水晶玉》は、人間や超人族には使えても、モンスターには使用することができなかった。

 だから一瞬、俺はそう言ってしまった。

 すると、今井翔太は小さく笑う。

「俺もレベルアップしたんで!」

 その言葉に、俺ははっとした。

 そうだ。

 数ヶ月の準備期間で、強くなったのは俺だけじゃない。

 未来も、陸斗も、メイド達も、皆それぞれスキルを伸ばしている。

 今井翔太も当然、その中に含まれていた。

「頼む」

 俺が短く言うと、今井翔太は頷いた。

 彼はリトルツリーマンの群れへ視線を向ける。

「スキル《水晶玉》」

 今井翔太がスキルを唱えた瞬間、その瞳に水晶のような光が宿った。

 透明で、どこか冷たい光。

 彼の視線が、リトルツリーマン達をじっと捉える。

 空気が張り詰める。

 近くでは、世紀末漢隊の隊員達が仲間を救おうと焦っている。

 だが、リトルツリーマンのツルがまた伸びてくる可能性を考えると、迂闊に近づくこともできない。

 時間がない。

 だが、情報がなければ動けない。

 今井翔太はしばらくリトルツリーマンを見つめ続けた。

 そして、ようやく口を開く。

「リトルツリーマンの情報分かりました!」

「何が分かった……?」

 俺はすぐに尋ねた。

 今井翔太の表情は険しい。

 良い情報ではないことが、その顔だけで分かった。

「リトルツリーマン自身は不死身です」

「は?」

 俺は思わず声を漏らした。

「何だって」

 不死身。

 その言葉が、頭の中で嫌な音を立てて響く。

 燃やしても蘇る。

 種から再生する。

 それだけでも厄介なのに、不死身だというのか。

「そんなモンスター相手にどうしろって言うんだ……!」

 俺は歯を食いしばった。

 不死身の敵。

 しかも数が多い。

 さらに、こちらの隊員を吸収して人質のように使っている。

 そんな相手をどうやって止めればいい。

 だが、今井翔太はすぐに声を上げた。

「落ち着いて下さい!」

 その言葉に、俺は我に返る。

 今井翔太は続けた。

「あくまで、リトルツリーマンだけです」

「あくまで……?」

「リトルツリーマンを生み出しているトレントクイーンというモンスターがどこかにいるはずです!」

 トレントクイーン。

 その名前を聞いた瞬間、俺の中で点と点が繋がった。

 リトルツリーマンは不死身。

 だが、それは本体ではないから。

 あいつらは兵隊。

 倒しても倒しても生み出される駒。

 つまり、狙うべきはリトルツリーマンそのものではない。

「なるほど、リトルツリーマンはただの兵隊で、トレントクイーンを倒せばリトルツリーマンも消滅するという事だな?」

「はい、そうです!」

 今井翔太が力強く頷く。

 ようやく、攻略の糸口が見えた。

 完全な絶望ではない。

 倒すべき相手はいる。

 問題は、そのトレントクイーンがどこにいるかだ。


 ◇


「流石だな」

 俺は今井翔太にそう言ってから、すぐに未来へ視線を向けた。

「未来は索敵でトレントクイーンを探してくれ!」

 おそらく、近くにいるはずだ。

 これだけ大量のリトルツリーマンを動かしているのなら、本体が遠く離れているとは考えにくい。

 そう言おうとした時、未来がすでに答えた。

「もう、やってる!」

 未来の声は鋭かった。

 見ると、空にはカラスが複数飛んでいる。

 地面近くには、ヤモリがリトルツリーマン達の隙間を縫うように走っていた。

 未来は《動植物愛護》の《動植物図鑑》で召喚した動物達を使い、すでに周囲を探っていたらしい。

 本当に頼もしい。

 未来は目を細め、カラスとヤモリから伝わってくる情報に集中している。

 俺も上空からリトルツリーマンの群れを見る。

 小型の木々は、ある程度の間隔を空け、まばらに並びながら進んでいた。

 だが、その中に1か所だけ、明らかに密集している場所がある。

 そこだけ、地面がほとんど見えない。

 リトルツリーマン達が壁のように集まり、何かを隠しているように見えた。

「あそこ怪しいわね……」

 未来が呟く。

 ヤモリが地面を這い、リトルツリーマン達の隙間へ入っていく。

 細い隙間。

 根と根の間。

 落ち葉の影。

 人間の目では決して覗けない場所を、ヤモリは進んでいく。

 そして、未来の表情が変わった。

「見つけた……」

 その声には確信があった。

「悠真! あの密集しているとこ、あそこの中にトレントクイーンが守られてるわ!」

「了解だ!」

 俺はすぐにその場所を確認する。

 リトルツリーマン達が何重にも囲んでいる中心。

 そこに、女性の形をした木のモンスターがいるらしい。

 リトルツリーマンとは明らかに違う存在。

 まさに女王。

 あいつを倒せば、この不死身の兵隊達を止められるかもしれない。


 ◇


 俺は近藤へ振り返る。

 ここは東北だ。

 世紀末漢隊の戦場だ。

 俺達が勝手に指揮を取るべきではない。

「近藤、指示をくれ!」

 俺は叫んだ。

 だが、返事がない。

 近藤は、まだリトルツリーマン達の方を見ていた。

 吸収された隊員達の顔が浮かぶ幹。

 そこから聞こえる、かすれた助けを求める声。

 近藤の表情は、今まで見たことがないほど歪んでいた。

 逞しく、自信に満ち溢れていた姿はそこにはない。

 部下を救えなかった悔しさ。

 自分の指示が間違っていたのではないかという後悔。

 それらが近藤の身体を縛りつけているように見えた。

 無理もない。

 俺だって、仲間があんな姿にされたら平静ではいられない。

 だが、それでは困る。

 今、世紀末漢隊の隊員達は近藤の指示を待っている。

 近藤が止まれば、彼らも動けなくなる。

「近藤! 聞いてるか?」

 俺はもう一度叫んだ。

 近藤はわずかに反応する。

「あぁ……」

 だが、その声に力はない。

 俺は早口で状況を伝える。

「今井翔太がリトルツリーマンの情報を調べてくれて、倒すには生み出しているトレントクイーンってモンスターを倒さないと駄目なんだ!」

 近藤は俺を見た。

 だが、まだ目が揺れている。

「そのトレントクイーンは未来の索敵で、あの密集場所にいる事が分かった」

 俺はリトルツリーマンが密集している場所を指さした。

「攻撃の命令をくれ!」

 これで、動く理由は揃った。

 目標も見えた。

 今すぐ指示を出せば、反撃に移れる。

 だが、近藤はまだ動かなかった。

 篠原や他の隊員達も、不安そうに近藤を見ている。

 彼らは近藤を責めていない。

 ただ、待っている。

 兄貴の指示を。

 東北を守ってきたリーダーの声を。

 近藤は拳を握りしめた。

「分かってはいるが……」

 その声は低く、苦しそうだった。

「俺のせいで部下があぁなってしまった……」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。

「ウジウジするなァァァ!!!」

 自分でも驚くほどの怒号だった。

 空に響いた俺の声に、全員がこちらを見る。

 未来も、陸斗も、門脇も、芹沢も、今井翔太も、阿川も。

 世紀末漢隊の隊員達も。

 そして近藤も。

 俺は近藤を睨むように見た。

「ここは、戦場だ!」

 叫びながら、自分の声が震えているのが分かった。

 怒りだけではない。

 焦り。

 恐怖。

 そして、近藤に戻ってきてほしいという思い。

「一瞬の迷いが生死を分ける!」

 近藤の顔が歪む。

「そんなの分かってる!」

 近藤も声を荒げた。

「仲間をあんな形で失った気持ちがお前に分かるのか!!」

 その叫びに、俺は一瞬言葉を詰まらせた。

 近藤の声には怒りがあった。

 だが、それ以上に悲しみがあった。

 自分への怒り。

 部下を守れなかった悔しさ。

 仲間をあんな形にされてしまった絶望。

 それを俺が軽々しく分かるなどとは言えない。

 だから、俺は正直に答えた。

「仲間を失った気持ちは分からない……」

 近藤の目を見る。

「分かるなんて、口が裂けても言えない」

 俺はまだ、仲間をあんな形で失ったことはない。

 大切な仲間を目の前で奪われた近藤の痛みを、俺が知ったような顔で語ることはできない。

 だが、それでも言わなければならないことがある。

「だが、俺だって東京や仲間を守っている者として、常に判断が求められる!」

 俺は拳を握る。

 思い出す。

 SPМとの戦い。

 あの時、俺は自分の甘さと判断の遅れで、仲間達を危険に晒した。

「そんな中、SPМの戦いの際も、俺のヘマで危うく全員が桜井の支配下に落ちる所だった」

 あの時の恐怖は、今でも忘れられない。

 仲間達が支配される。

 自分の意思を奪われる。

 誰もが桜井の命令に従ってしまう。

 俺がもっと早く気付いていれば。

 俺がもっと慎重に動いていれば。

 何度もそう思った。

「だから、俺だって凹んだし、俺がそのままリーダーのような役割を続けて良いのかと悩んだ事もあった」

 東京都知事になった今でも、その悩みは完全に消えた訳ではない。

 俺の判断で、人が動く。

 俺の判断で、街の方針が決まる。

 俺の判断で、誰かの命が左右される。

 その重さに押し潰されそうになることは、何度もあった。

「だけど、俺のヘマを皆が助けてくれた」

 俺は仲間達を見る。

「俺の大切な仲間達だ!」

 俺が間違えた時、俺が悩んだ時、俺が立ち止まりそうになった時、いつも誰かが支えてくれた。

 俺1人で何とかしてきた訳じゃない。

 俺の《日常生活》だけで東京を作った訳じゃない。

 皆がいたから、ここまで来られた。

「俺が間違った時、俺が考えている時、支えてくれる仲間が居たんだ」

 俺は近藤へ向き直る。

「何でも自分1人で責任を負うな!」

 近藤の目が揺れる。

「近藤……お前には支えてくれる仲間、信じる事が出来る仲間が居ないのか?」

 その言葉に、近藤は黙った。

 そして、ゆっくりと周囲を見た。

 世紀末漢隊の隊員達。

 篠原。

 オトコプターに乗る者達。

 不安そうに兄貴を見つめる者達。

 皆、近藤を責めていなかった。

 皆、近藤の指示を待っていた。

 信じているから。

 この男が再び顔を上げることを。

 この男が東北を守るために、もう一度叫ぶことを。

 近藤は小さく息を吐いた。

「居るよ……」

 その声は、さっきより少しだけ力を取り戻していた。

 近藤は拳を握る。

「沢山、居るぜ!!!」

 その瞬間、世紀末漢隊の隊員達の顔が変わった。

 兄貴が戻ってきた。

 そんな空気が広がる。


 ◇


 近藤は大きく深呼吸した。

 そして、隊員達へ向き直る。

「皆、すまなかった……」

 近藤が謝った。

 あの豪快な男が、素直に頭を下げるような声で言った。

「俺、1人じゃ何にも出来ないみたいだ」

 隊員達は黙って聞いている。

「俺に力を貸してくれ!」

 その言葉が響いた瞬間、世紀末漢隊の隊員達が一斉に声を上げた。

「兄貴の為なら、何だってやりますぜ!!」

「俺達はそのためにいるんですぜ!!」

「兄貴だけに背負わせる訳ねぇだろ!!」

「それが真の漢ってもんですよ!!」

 声が次々と上がる。

 篠原も大きく頷いていた。

「兄貴、命令をくれ!」

 その声に、近藤の目が完全に戻った。

 不安に揺れていた瞳に、いつもの力が宿る。

 近藤は突然、自分の頬を思い切り殴った。

 鈍い音がした。

 頬が赤く腫れ上がる。

 俺は思わず目を見開いた。

 だが、近藤は痛みなど気にしていない。

 それは、自分を叱るための一撃だったのだろう。

 迷いを吹き飛ばすため。

 そして、もう一度リーダーとして立つため。

 近藤は俺を見た。

「皆、そして悠真、目を覚ましてくれてサンキューだ!」

「あぁ」

 俺は頷く。

「さあ、皆隊長の指示を待ってるぞ!」

 近藤はにやりと笑った。

 そこにはもう、さっきまでの迷いはなかった。

「分かってる!」

 近藤が空に響く声で叫ぶ。

「東北を守るのは俺達世紀末漢隊だ!」

 隊員達の目が燃える。

「やられた仲間の分もやってやるぜ!」

 その瞬間、世紀末漢隊の声が空を震わせた。

「ヒャッハーーー!!」



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