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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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救出のための準備

第14話です。宜しくお願いします。

未来が泣きながら料理を食べた夜のあと、家の中には不思議なくらい静かな空気が流れていた。


 ただ、その静けさは落ち着きというより——


 嵐の前の準備に近かった。


 未来が抱えている問題は重い。


 施設に取り残された園長と子供たち。


 しかも場所は、ここからそう近くない。


 翌朝、俺たちはリビングに集まっていた。


 テーブルの上には地図代わりに手書きの簡単なメモと、双眼鏡、それから未来がヤモリ越しに見た施設周辺の状況を書き出した紙が広げられている。


「……隣の市、か」


 俺は未来の話を聞きながら、低く呟いた。 


「うん」


 未来は昨夜よりも落ち着いた顔をしていたが、それでも声の奥には焦りが滲んでいた。


「車なら、そんなに時間はかからないと思う……でも」


「途中が安全とは限らない」


 俺が言葉を継ぐと、未来は小さく頷いた。


 陸斗も真面目な顔で地図を見ている。


「今まで俺たちが相手にしてきたのは、せいぜいDランク以下だ」


 俺は指先でテーブルを軽く叩きながら言った。


「でも、距離が伸びるってことは、それだけ未知の範囲に入るってことだ。今後、もっと上のランクのモンスターがいてもおかしくない」


「……はい」


 陸斗が短く返す。


 未来も唇を引き結んだ。


「もし途中でCランク以上に当たったら、今の俺たちじゃ厳しい」


 正確に言えば、かなり厳しい。


 陸斗の火力は上がった。


未来のスキルも便利だ。


チャン爺もいる。


 でも、だからといって長距離移動しながら未知の敵と戦って、さらに要救助者を連れて帰るのは別問題だ。


「……じゃあ」


 未来が少しだけ前のめりになる。


「やっぱり、すぐには……」


「行けない」


 俺ははっきり言った。


 未来の目が揺れる。


 言い方がきつかったかもしれない。


でも、ここを曖昧にするわけにはいかなかった。


「今のまま行くのは、助けに行って全滅するのと大差ない」


「……っ」


「けど、見捨てるって意味じゃない」


 俺は未来を見る。


「助けるために、準備する」


 それを聞いて、未来は少しだけ息を吐いた。


 まだ不安は消えていない。


でも、さっきよりはちゃんと俺の言葉を受け止めた顔をしている。


「その間、未来の能力で物資を届ける」


「……私の?」


「ああ。犬を操作できるんだろ」


「できるけど……そんなに大きな荷物は……」


「一度に大量じゃなくていい。


水、食料、薬。今必要なものを少しずつ運べばいい」


 未来のスキル、《動植物愛護》。


 犬なら、バッグや袋を咥えて運ぶくらいはできる。


少なくともヤモリよりはずっと現実的だ。


「商品生成で出したものを届ければ、施設側も多少は持つ」


「……そうか」


 未来の目に、少しだけ光が宿る。


 完全な救出はまだでも、今すぐできることはある。


 それが分かっただけでも意味は大きい。


「それに」


 俺は続ける。


「こっちもその間にレベルを上げる」


「……スキルポイントですね」


 陸斗がすぐに反応する。


「そうだ。何を優先して上げるかを決める必要がある」


 俺がそう言った瞬間だった。


 チャン爺が、いつもの落ち着いた調子で一歩前に出た。


「僭越ながら、お坊ちゃま」


「なんだ」


「まずは、私の《召使い》スキルを上げることを提案いたします」


 俺は少しだけ眉を上げた。


「……理由を聞こう」


「はい」


 チャン爺は一礼して、淡々と説明を始める。


「私は現在《召使い Lv1》でございます。この段階では、生活支援や家事、簡易的な補助程度しか行えません」


「それは見てれば分かる」


「ですが、Lv3に到達すると《戦闘能力》の項目が解放されます」


「戦闘能力?」


 思わず聞き返す。


「はい。戦闘に関する機能が追加され、Dランクモンスター程度であれば問題なく対処可能となります」


「……」


 それは大きい。


 かなり大きい。


 今の俺たちの一番の問題は、実質的な戦闘要員が陸斗しかいないことだ。


 俺はテリトリー内なら警備を使えるが、毎回家を壊してもらう前提なのは面倒すぎる。


効率も悪い。


「今までお坊ちゃまがスキルポイントを獲得する際は、陸斗様にわざと光線を外していただき、注意を引いたモンスターをこちらへ誘導し、警備を発動させる必要がありました」


「……あれ、かなり手間だしな」


「はい。ですが、私が戦闘可能になれば、陸斗様の負担を大きく減らせます」


 そこで、俺は一つ気づく。


「……待て」


「はい」


「お前が倒した場合のポイントはどうなる?」


 チャン爺は迷いなく答えた。


「私自身は、お坊ちゃまのスキルによって生成された存在でございます。よって、私が敵を倒した場合、主たる獲得者はお坊ちゃまと判断される可能性が高いかと」


「……なるほどな」


 つまり、チャン爺が戦えば、俺のポイント効率が一気に上がる。


 それだけじゃない。


「住民登録も使えば」


 陸斗が口を開く。


「僕が倒しても、悠真さんに半分入る」


「その通りでございます」


 チャン爺が頷く。


「逆もまた然り。お坊ちゃまが獲得したポイントは、住民登録された者にも半分配布されます」


 未来が少し驚いたように目を見開いた。


「……すごい」


「かなりな」


 俺も同意する。


 このシステムは、本当に効率がいい。


「さらに」


 チャン爺は続ける。


「効率よくスキルポイントを振り、《日常生活》のレベルを上げていけば、登録可能テリトリーの数も今後増える可能性がございます」


「……そうだな」


 俺は地図を見る。


「ギリギリ行ける地点まで進んで、その近くの施設をテリトリー化できれば、そこへ家を置換できる」


「はい」


「そうすれば、救出後の帰還距離も短くなる」


 未来がそれを聞いて、息を呑んだ。


「……それなら」


「助けた後も安全だ」


 俺ははっきり言った。


「ただ助けに行くだけじゃ意味がない。連れて帰れる状態まで作って、初めて救出だ」


 未来は、しばらく黙っていた。


 それから、小さく頭を下げる。


「……ありがとう」


「礼はまだ早い」


 俺は短く返す。


「助けてからにしろ」


 そこで、美咲がぱっと手を上げた。


「じゃあ、みんな登録しちゃえばいいんじゃない!?」


 その一言で、空気が少しだけ柔らかくなる。


「……まあ、そうだな」


 俺は住民登録の画面を開く。


 対象は、陸斗、美咲、未来の三人。


「住民登録」


 表示が浮かぶ。




《住民登録》

登録対象を選択してください

・瀬川陸斗

・瀬川美咲

・黒川未来

最大登録可能人数:5




「これでいいか」


 三人を見る。


 陸斗はすぐに頷き、美咲も「うん!」と元気よく返事をした。未来は少しだけ緊張していたが、それでもちゃんと頷いた。


「じゃあ、登録する」


 確定。


その瞬間、三人の視界にも何かが表示されたらしい。


「……あ」


「でた……!」


「ほんとだ……」


 それぞれ驚いたような声を漏らす。


「これで、お前らもテリトリー内の一部機能を使えるようになる」


「……責任重大だな」


 陸斗が真面目に呟く。


「別に、いきなり全部任せるわけじゃない」


 俺は少しだけ口元を緩めた。


「使い方はこれから覚えればいい」


 その言葉に、未来も少しだけ肩の力を抜いたようだった。


「さて」


 俺は立ち上がる。


「作戦開始だ」


 それからの数時間は、慌ただしかった。


 まずはいつも通り、モンスターをおびき寄せる。


 双眼鏡と監視システムで位置を把握し、陸斗があえて光線を少し外して注意を引く。


寄ってきたモンスターに家の一部を軽く壊させ、警備を発動。


 前と同じ流れだ。


 だが、住民登録を済ませた今は効率が違う。


 陸斗が倒しても、俺にポイントが入る。


 俺が得れば、陸斗や未来にも半分入る。


 美咲にまでスキルポイントが表示された時は、本人より俺の方がびっくりした。


「みさきもポイントもらえるの!?」


「……らしいな」


「やったー!」


 本人はよく分かっていないが、嬉しそうだった。


 そして、俺はそのポイントをすぐにチャン爺へ振った。


 召使いLv1からLv2。


 そしてLv3へ。


 表示が変わる。




《召使い Lv3》

新項目解放

・戦闘能力 Lv1




 次の瞬間。


 チャン爺の雰囲気が変わった。


「……おい」


 思わず声が出る。


 体格が、ほんの少しだが明らかに変わっていた。


背筋はさらに伸び、肩幅も広く見える。


老人らしい穏やかな空気は残っているのに、その内側に“戦える者”の圧が混じっていた。


「……強くなった、のか?」


「はい、お坊ちゃま」


 チャン爺は微笑む。


「良好でございます」


 いや、その笑顔がちょっと怖い。


「では、僭越ながら」


 その後のチャン爺は、本当に頼もしかった。


 外へ出る。


 寄ってきたDランクモンスターを、まるで散歩の途中でゴミを拾うくらいの感覚で処理していく。


 動きに無駄がない。


 そして何より——笑顔だ。


「お、おい……」


 思わず俺が引く。


「チャン爺、楽しそうじゃないか……?」


「はい。お役に立てて嬉しゅうございます」


 にこやかに答える。


 いや、そういう問題じゃない。


 陸斗も少しだけ顔を引きつらせていた。


「……なんか、ちょっと怖いですね」


「だよな」


 でも、強いのは間違いない。


 しかも効率がいい。


 チャン爺が大きく削り、陸斗が仕留める。


 あるいは、逆。


そして、その合間に未来のスキルも強化していった。


「未来、お前も上げとけ」


「……私?」


「ああ。特に《強化》だ」


 未来は少し驚いた顔をした。


「理由は簡単だ。犬を使うなら、身体能力が上がるだけでもだいぶ違う」


「……確かに」


 未来はすぐに理解したように頷く。


「強化が上がれば、犬でも戦えるようになるかもしれない」


 それは大きい。


 未来のスキルは情報収集に向いているが、強化次第では戦術の幅がかなり増える。


 だからこそ、チャン爺が大きく削ったモンスターへ、とどめだけ未来の犬に刺させる形も試した。


 最初、未来はかなり緊張していた。


「……本当に、やれるかな」


「大丈夫だ」


 俺は短く言う。


「チャン爺が致命傷まで持っていく。お前の犬は最後に噛みつけばいい」


「……うん」


 未来は犬へ意識を繋ぎ、震えながらも指示を出す。


 犬が飛ぶ。


 噛みつく。


 モンスターが倒れる。


 そして、表示。




【モンスターを討伐しました】

スキルポイントを獲得しました

+1




「……入った」


 未来が目を見開く。


「だから言っただろ」


 俺はそう返す。


 その顔が少しだけ明るくなるのを見て、やっぱり意味はあったと思った。


 そうして、俺たちは時間をかけてレベルを上げていった。


 警備。


 召使い。


 陸斗の《手遊び》。


 未来の《動植物愛護》。


必要なところを考えて、振って、試して、また倒す。


 繰り返すたびに、できることが増えていく。


 そして、ようやく——


「……よし」


 俺はステータス画面を閉じた。


「これで一通り上がったな」


 リビングには、疲労と、それ以上の手応えが残っていた。


 陸斗は少し息を切らしているが、表情は前向きだ。


 未来も額に汗を滲ませながら、昨日までよりずっとしっかりした目をしている。


 チャン爺だけは、相変わらず余裕の笑みだった。


 ……こいつ、やっぱり少し怖い。


 でも、頼もしいのも事実だ。


 未来が、小さく呟く。


「……行けるかもしれない」


 その声には、初めて“希望”が混ざっていた。


 俺は頷く。


「まだすぐじゃない」


 釘は刺す。


「でも、確実に近づいてる」


 施設までの道。


 モンスターの強さ。


 救出後の帰還。


 不安要素はまだある。


 けれど、最初とは違う。


 ただの思いつきじゃなく、現実的な救出プランが見えてきている。


「……次は、どこまで行けるかだな」


 俺は地図を見る。


 次のテリトリー。


 その先のルート。


 救出作戦は、もう始まっていた。




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