移動する街
第138話です。宜しくお願い致します。
「俺のスキルの名前だ」
近藤は堂々とそう言った。
スキル名、《漢のロマン》。
名前だけ聞けば、何のスキルなのか全く分からない。
だが、昨日見たオトコプターや、バイバイバッタを焼き尽くした火炎放射のような装備を考えると、相当な能力であることは間違いなかった。
「何だ、その名前……」
俺が思わず呟くと、近藤はまた豪快に笑った。
「ガッハッハ!」
もう何度聞いたか分からない笑い声だ。
だが、不思議と嫌な感じはしない。
むしろ、この声を聞くと、世紀末漢隊の隊員達が安心する理由も少し分かる気がした。
「簡単に言うと、乗り物に限ってだけだが、俺が思うように改造できるっていうスキルだ!」
「乗り物を改造……」
「あぁ。オトコプターは元は車だったが、それを改造して空を飛べるようにしたんだ」
近藤は当然のように言う。
元は車。
それを改造して、あの箱型の飛行物体にした。
空を飛び、低速飛行もでき、火炎放射のような武装まで備えた乗り物。
改めて聞いても、凄まじい能力だ。
「車やバイクを改造出来るとか、まさに漢のロマンだろ?」
近藤は胸を張る。
そこに関しては、近藤らしいとしか言いようがない。
確かに、車やバイクを好きなように改造できるというのは、好きな人間にとってはたまらないのだろう。
俺にはそこまで深いこだわりはないが、近藤の目の輝きを見れば、それが本気であることは分かった。
「なるほど、それで火炎放射みたいなのも出していたのか……」
「あぁ。バイバイバッタには、あれがよく効く」
近藤は当たり前のように頷いた。
俺は少し考える。
乗り物に限るとはいえ、思うように改造できる。
それなら、かなり応用範囲が広い。
「それ、でも良く考えたら凄いスキルじゃないか?」
俺は率直に言った。
「元々が乗り物なら好きなように改造できるってことだろ? だったら何でも作れるんじゃ……?」
近藤は首を横に振った。
「いや、乗り物から乗り物だな」
「乗り物から乗り物?」
「あぁ。それに、あくまで改造だ」
近藤は分厚い指を立てて説明する。
「乗り物をメインとして機能を追加するという枠は超える事が出来ないんだがな」
「……流石に何でもありではないのか」
俺は少し納得した。
例えば、車を完全なビルに変えることはできない。
武器単体を作ることもできない。
あくまで、元になる乗り物があり、その乗り物としての性質を残したうえで機能を追加する。
そういう制限なのだろう。
それでも十分凄い。
元さえあれば、様々な用途に改造できる。
俺の《日常生活》とは全く違う方向性だが、人を生かすための力としてはかなり強力だ。
近藤が東北を守っている理由が、少しずつ見えてきた気がした。
◇
翌日。
近藤自ら、俺達に街を案内してくれることになった。
昨日は世紀末漢隊の拠点に泊まらせてもらったが、今日は実際に住民達が暮らしている街を見せてもらう。
世紀末漢隊がどのように東北を守り、住民達がどんな生活をしているのか。
それを知ることは、全国調査をするうえでかなり重要だ。
「お前等、モンスターに乗ってきてここまで来たんだろう?」
出発前、近藤がそう尋ねた。
「あぁ、そうだが……」
俺は頷く。
未来が召喚したレッドワイバーンは、かなり頼れる移動手段だ。
だが、見た目は完全にモンスターである。
「街まで歩くには少し距離がある」
近藤は腕を組みながら言う。
「だが、モンスターに乗っていくと住民は怖がるから、オトコプターに乗っていくといい」
「わざわざ助かるよ」
俺は素直に礼を言った。
こういうところも、近藤はきちんと考えている。
レッドワイバーンは俺達にとって味方だ。
しかし、何も知らない住民から見れば巨大なモンスターでしかない。
街の上にいきなり現れれば、不安になるのは当然だ。
近藤は住民の気持ちをよく分かっている。
豪快で大雑把に見えるが、細かいところに気を配る男だ。
俺達は世紀末漢隊の隊員達が用意してくれたオトコプターに乗り込んだ。
近くで見ると、やはり不思議な乗り物だった。
元が車だったとは思えないほど形は変わっているが、どこか車らしさも残っている。
シートやハンドルのようなものもあり、操作部分は思ったより分かりやすかった。
「これは凄いですね!」
陸斗が目を輝かせる。
「誰でもゲームみたいに操縦できるんですね!」
陸斗が操作盤を見ながら感心していた。
確かに、レバーやボタンの配置はかなりシンプルだ。
複雑な操縦技術がなくても、ある程度直感的に動かせるようになっている。
「ガッハッハ!」
近藤は嬉しそうに笑う。
「改造して、誰でも車よりも簡単に乗れるように意識して作ったからなぁ!」
「誰でも乗れるように、か」
「あぁ。乗るだけならシンプルな機能に絞ったからな」
ただ高性能な乗り物を作っただけではない。
誰でも使えるようにしている。
そこが大きい。
強い者だけが扱える道具では意味がない。
住民や隊員が使えなければ、街を守る力にはならない。
近藤のスキルの本当の凄さは、そこにあるのかもしれない。
「ホントに、アトラクションみたいで楽しいわ!」
未来が少し楽しそうに声を上げる。
オトコプターはふわりと浮き上がり、ゆっくりと前へ進んだ。
激しく揺れることもなく、想像以上に安定している。
「ガッハッハ!」
近藤は満足そうだった。
「楽しんで貰えただけで、作った甲斐があるってもんだぜ!」
俺達は少しだけ遠回りするように空を飛んだ。
宮城の空。
崩壊した世界の景色。
それでも、ところどころに人の営みが残っている。
そしてその中心に、近藤達が守る街があった。
しばらく飛んだ後、オトコプターはゆっくりと高度を下げた。
街へ降り立つ。
俺は目の前に広がる光景を見て、思わず足を止めた。
◇
「これは……」
そこにあったのは、俺が知っている街とは全く違うものだった。
至るところに、車やバイク、自転車の形をしたものがある。
しかし、それは普通の乗り物ではない。
車を巨大化させたような住居。
コンテナほどの大きさの箱に、巨大な車輪がついている家。
その上にさらに小さな建物が乗っているもの。
キッチンカーのように改造された店。
バイクを土台にした小さな屋台。
自転車を改造した運搬車。
大型トラックの荷台に建物が乗っているものまである。
もちろん、普通に走っている車やバイク、自転車もあった。
だが、街全体が「乗り物を改造して作られたもの」で構成されているような、不思議な光景だった。
異様。
だが、同時にどこか近未来的でもある。
崩壊した世界の中に、無理やり新しい生活を作り上げたような街。
東京とは全く違う復興の形だった。
「ガッハッハ!」
近藤が俺の反応を見て笑う。
「驚いただろ?」
「あぁ、正直かなり驚いてる」
「この街はほとんど全ての乗り物に手が加わっている」
「全てに……?」
俺は周囲を見渡した。
これ全部に、近藤のスキルが関わっているということか。
「あぁ。住む場所や店、街はモンスターによって奪われてしまった」
近藤の声が少しだけ低くなる。
「だから、俺が改造していったんだ」
さらりと言っているが、とんでもないことだ。
家を失った人達のために、車を住居にする。
店を失った人達のために、キッチンカーのような店舗を作る。
壊された街の代わりに、乗り物で新しい街を作る。
近藤は自分のスキルを、戦うためだけではなく、人が生きる場所を作るために使っていた。
俺は近くにあった車輪付きの家を見る。
外から見れば家だ。
窓もある。
入口もある。
小さなベランダのようなものまでついている。
だが、下には大きな車輪がついていた。
移動できる家。
普通なら冗談のような言葉だ。
だが、この街では現実になっている。
「もしかして、これって全部移動も出来るのか?」
俺が尋ねると、近藤は当然だと言わんばかりに笑った。
「そりゃあ〜お前、これ全部一応乗り物だぜ?」
「全部一応乗り物……」
「移動できなかったら乗り物じゃないだろ?」
「凄いな……」
俺は素直に感心した。
近藤は自分のスキルの強みを最大限に活かしている。
それを自分だけのためではなく、避難民や住民のために使っている。
東京では、俺の《日常生活》が街を修復し、食料や物資を補い、生活基盤を作ってきた。
それに対して近藤は、乗り物を改造することで街を再構築している。
まるで違うやり方だ。
だが、目的は同じだった。
人が生きられる場所を作ること。
「ガッハッハ!」
近藤は楽しそうに笑う。
「引っ越しもこれだと楽なんだぞぉ!」
「確かに、家ごと移動できるしな……」
自分で言って、少し笑ってしまった。
家ごと移動。
そんな言葉を普通に使う日が来るとは思わなかった。
だが、この街では当たり前のことなのだ。
◇
俺達が街を歩いていると、住民達が次々と近藤に声をかけてきた。
「あー、近藤さんだ!」
「こんにちはー!」
近藤はその一つ一つに、豪快に手を上げて答えている。
怖そうな見た目なのに、住民達は全く怖がっていない。
むしろ親しげだ。
その時、小さな女の子が走ってきた。
「近藤おじちゃん!」
「おぉ、どうしたぁ?」
「私、昨日縄跳びでやっとあやとび跳べるようになったんだよ!!」
女の子は自慢げに言った。
近藤は大きな手で、その子の頭を優しく撫でる。
「そうか、そうかぁ!!」
その声は、普段の豪快さを残しながらも、とても柔らかかった。
「良く頑張ったんだなぁ!!」
「うん!!」
女の子は嬉しそうに笑った。
その光景を見て、俺は自然と納得した。
近藤は住民から愛されている。
そりゃそうだ。
この街の暮らしを作ったと言っても過言ではない。
ただ守っているだけではない。
住む場所を作り、店を作り、移動手段を作り、食料を得る仕組みまで作っている。
住民にとって近藤は、恐ろしいリーダーではなく、生活を支えてくれる存在なのだ。
そんなことを考えていた時だった。
街の端の方から、羽音のようなものが聞こえた。
俺はすぐにそちらへ視線を向ける。
そこにいたのは、昨日も見たモンスターだった。
バイバイバッタ。
昨日のような大群ではない。
だが、数体から十数体ほどが、街の中へ入り込んでいた。
そのうちの何体かが、近くにあった住民の車へ襲いかかろうとしている。
「危ない……!!」
俺は反射的に動こうとした。
だが、その前に近藤が落ち着いた声で言う。
「心配ない!」
「え……?」
俺が振り返るより早く、襲われそうになっている車から音楽が流れ始めた。
聞き覚えのある曲だった。
♪漢〜! ヒャッハー!
♪漢〜! ヒャッハー!
♪漢なら後ろは見るな前だけ常に見ろぉ〜
♪漢なら弱きを守り強くあれぇ〜
またこの歌か。
しかも、住民の車から流れるのか。
俺は思わず目を見開いた。
周囲の住民達は慣れているのか、避難するどころか手拍子まで始めている。
いや、慣れすぎだろ。
その車の側面から、オトコプターにもついていた金属の筒のようなものがせり出してきた。
筒の先端が赤く熱を帯びていく。
車の中にいた住民が、窓から顔を出して叫んだ。
「ファイヤー!!」
次の瞬間、金属の筒から炎が噴き出した。
バイバイバッタの群れが炎に包まれる。
昨日見た世紀末漢隊の火炎放射と同じだ。
バッタ達は丸焦げになり、増える間もなく次々と消滅していった。
数分もしないうちに、街へ入り込んだバイバイバッタは全て焼き尽くされた。
住民達が歓声を上げる。
「やったー!」
「今日もよく燃えたな!」
「漢ソング最高!」
何だ、この街は。
凄い。
凄いのだが、やはり濃い。
俺は近藤を見る。
「お前、まさかあの火炎放射器を全ての車に設置しているのか?!」
近藤は当たり前だと言わんばかりに笑った。
「ガッハッハ!」
「当たり前だ!」
「当たり前なのか……」
「これで、住民達はバイバイバッタくらいなら自分達で対処出来るようになった」
その言葉に、俺ははっとした。
近藤は住民を守っている。
だが、それだけではない。
住民自身が自分達を守れるようにしているのだ。
東京では、俺の警備隊や東京自衛隊、警察、超人族達が街を守っている。
それはそれで大事だ。
だが、近藤の街では少し違う。
住民一人一人が、ある程度の自衛手段を持っている。
住む場所も移動できる。
危険が迫れば、逃げることもできる。
バイバイバッタ程度なら、自分達で倒すこともできる。
守られるだけではない。
自分達で生き抜く。
そういう街なのだ。
俺は改めて街を見渡した。
車輪付きの家。
移動式の店。
車の上に建てられた電波塔。
見た目は異様だ。
だが、とても機能的だった。
モンスターに襲われる世界で、生き残るために作られた街。
東京とは全く違う。
だが、間違いなく復興の形の一つだ。
「本当に凄い街なんだな」
俺は素直に言った。
「自分達で対処するっていう考え方とかは勉強になるよ……」
近藤は嬉しそうに笑う。
「ガッハッハ!」
「みんな、真の漢達だからな!」
その言葉も、昨日までならただの暑苦しい言葉に聞こえたかもしれない。
だが、今は少し違って聞こえた。
近藤にとっての漢とは、弱きを助ける存在であり、逃げずに立ち向かう存在だ。
そして、この街の住民達もまた、自分達の暮らしを守るために立ち向かっている。
だから近藤は、住民達を真の漢と呼ぶのだろう。
◇
そんな時だった。
青いモヒカンの男が、こちらへ向かって走ってきた。
昨日の料理担当、篠原だ。
普段なら自信満々に料理の腕を語りそうな男だが、今は表情が険しい。
「大変ですぜ、兄貴!」
篠原は息を切らしながら近づいてきた。
「どうした、篠原」
近藤の声が少し低くなる。
篠原の慌て方で、ただ事ではないと判断したのだろう。
篠原は俺達の方を一瞬見てから、すぐに近藤へ報告した。
「福島で初めてのA+ランクモンスターが出ました!!」
その場の空気が変わった。
さっきまで賑やかだった街の音が、少し遠くなったように感じる。
A+ランクモンスター。
これまで聞いてきたモンスターの中でも、明らかに上位の危険度だ。
近藤の表情からも、事態の重さが伝わってくる。
「何、A+ランクモンスターだと……」
誰もが想像した空飛ぶ車や動く家です。
現実でも開発される日は来るのでしょうか……?




