世紀末漢隊の拠点
第136話です。少し長めですが、宜しくお願い致します。
バイバイバッタの群れが炎に呑まれ、跡形もなく焼き尽くされていく。
黒い雲のように空を覆っていた大量のバッタは、世紀末漢隊の飛行物体から放たれた炎によって、次々と消滅していった。
倒せば倒すほど増える。
完全に消滅させなければ再生する。
そんな厄介極まりないCランクモンスターを、世紀末漢隊はあっさりと対処してみせた。
いや、あっさりと言うには音楽と掛け声の主張が強すぎたが、結果だけ見れば見事だった。
俺は思わず、世紀末漢隊の乗っている謎の飛行物体を見つめる。
箱型の奇妙なフォルム。
飛行機でもヘリコプターでもない。
それなのに安定して空を飛び、低速での誘導もできる。
さらに、あの火力の炎まで出せる。
どう考えても、普通の機械ではない。
「いったいその飛行物体は何なんだ?」
俺が尋ねると、先頭を飛んでいた世紀末漢隊の男が、胸を張るように答えた。
「ありがたいことに、これは俺達に兄貴が特別に作ったものだ!」
「近藤が……?」
俺は思わず聞き返した。
この乗り物を作ったのが、これから会う予定の近藤剛。
だとすれば、近藤はただの世紀末風リーダーではない。
少なくとも、こういった飛行物体を複数作れる何らかの能力を持っている可能性が高い。
「兄貴こそ真の漢だからな〜」
世紀末漢隊の男は誇らしげに言う。
「懐が海よりも広い漢なのだ!」
懐が海より広い。
表現が独特すぎる。
だが、部下達が近藤を心から慕っているのはよく分かった。
この飛行物体を複数作る。
それも、ただ飛ぶだけではなく、モンスター対策の武装まで備えている。
普通ではあり得ない。
まず間違いなく、スキルが関係している。
俺の《日常生活》も大概おかしな能力だが、近藤の能力も相当なものかもしれない。
「じゃあ、案内を続けさせろ」
世紀末漢隊の男が、再び前方へ機体を向けた。
「次は念のため、後ろにも1台つけてやるからな!」
「あぁ、助かるよ」
俺は素直に礼を言った。
そして、少し遅れてしまったが、先ほどの件についても頭を下げる。
「それと、遅れたがさっきはモンスターから守ってくれて助かったよ!」
俺は声を張った。
「ありがとう!!」
すると、世紀末漢隊の男はゴーグル越しでも分かるくらい、にやりと笑った。
「なぁに、真の漢なら当然の事をしたまでだコラ!」
……やはり、口調と内容が全く噛み合っていない。
言っていることは、かなり格好いい。
だが、最後に「コラ」がつくせいで、どう受け止めればいいのか一瞬迷う。
それでも、ありがたいものはありがたい。
東北を守っているのがこいつらだという話も、今なら少し頷ける気がした。
見た目は完全に世紀末。
言葉遣いも荒い。
だが、モンスターの知識があり、対処法も分かっている。
そして、見ず知らずの俺達相手にも、必要なら助けてくれる。
変な連中ではある。
でも、悪い連中ではない。
そう思えた。
◇
その後、俺達が乗るレッドワイバーンを中心に、前方に世紀末漢隊の飛行物体、後方にも1台の飛行物体がつく形になった。
まるで護衛されているような隊列だ。
実際、護衛してくれているのだろう。
前後を挟むように飛び、周囲を警戒しながら進んでいく。
俺達は普段、誰かを守る側であることが多い。
東京を守る。
住民を守る。
仲間を守る。
そういう立場に慣れていた。
だから、こうして明確に守られる側になるのは、少し久しぶりだった。
妙に落ち着かない。
だが、同時に少し安心もする。
現地をよく知る者に案内されるというのは、やはり心強い。
「悠真さん、何だか不思議な感じですね」
陸斗が小さく呟いた。
「あぁ。守られる側ってのは、少し慣れないな」
「でも、助かりますね」
「本当にな」
俺は頷いた。
それからしばらく、特に大きな問題は起きなかった。
世紀末漢隊の飛行物体は、俺達に合わせてゆっくりと飛び続けた。
途中で何度か周囲を確認していたが、特にモンスターが近づいてくる様子もない。
やがて、前方に大きな建物群が見えてきた。
「あれが俺達の拠点だ!」
世紀末漢隊の男が叫ぶ。
俺達はレッドワイバーンの高度を少しずつ下げていった。
そして、世紀末漢隊の拠点を目にした瞬間、俺は思わず言葉を失った。
◇
まず目に入ったのは、大きな門だった。
その門の上には、習字のような力強い文字で、でかでかと書かれている。
世紀末漢隊。
まるで道場の看板のようだった。
いや、道場にしては主張が強すぎる。
ここが拠点です。
どうぞ見てください。
そんな声が聞こえてきそうなくらい、堂々としていた。
隠す気は、一切ないらしい。
敵に見つかるとか、そういう発想はないのだろうか。
もしくは、見つかっても問題ないという自信の表れなのかもしれない。
拠点の中心には、少し大きめのビルがあった。
ただし、その外観はかなり荒廃している。
壁にはところどころヒビが入り、鉄骨のようなものが剥き出しになっている。
看板は錆び、窓の一部は割れたまま。
終末世界感が強い。
むしろ、わざとそうしているようにすら見える。
世紀末漢隊という名前に合わせて、外側だけ意図的に荒廃した雰囲気を残しているのだろうか。
だとしたら、こだわりが強すぎる。
「凄いですね……」
陸斗がぽつりと言った。
「凄い、の方向性が難しいけどな」
俺は苦笑する。
レッドワイバーンが拠点の近くへ降りると、若い世紀末漢隊の隊員達がこちらを見て騒ぎ始めた。
「でっけぇペットだ!」
「赤いぞ!」
「可愛いなぁ!」
やはりレッドワイバーンを可愛い扱いしている。
未来は少し嬉しそうにしていた。
その感性は、俺にはまだ分からない。
俺達はレッドワイバーンから降り、世紀末漢隊の男達に案内されて建物の中へ入った。
そして、そこでまた驚かされることになった。
◇
外観は荒廃している。
完全に世紀末感満載だった。
だが、中は意外にも綺麗だった。
通路にはゴミが落ちていない。
棚や机も整えられている。
掃除もきちんとされているようで、埃っぽさもあまり感じない。
外とのギャップが凄い。
ただし、内装は独特だった。
黒を基調とした壁や床。
ところどころに鎖が飾られている。
メリケンサックのような装飾もある。
トゲ付きの飾りや、妙に荒々しい標語のようなものも貼られていた。
整理整頓されているのに、装飾が物騒。
清潔なのに、雰囲気は世紀末。
ちゃんとしているのか、していないのか、判断が難しい。
「外はわざと荒らしてるのか?」
俺が尋ねると、案内役の男が自慢げに頷いた。
「当然だ! 世紀末感は大事だからな!」
「大事なのか……」
「だが、中まで汚いのは漢じゃねぇ!」
「そこはちゃんとしてるんだな」
「当たり前だコラ!」
やはり、言っていることは正しい。
正しいのに、口調で損をしている。
いや、この口調も彼らにとっては大事な文化なのかもしれない。
案内役の男は、そのまま俺達を近藤の部屋まで案内してくれた。
大きな扉の前には、同じくモヒカンの隊員が立っている。
その男はこちらを見ると、顎に手を当てながら言った。
「今、兄貴は出かけていて留守だぜ!」
「留守なのか」
「もうすぐ、帰ってくると思うがな!」
どうやら、近藤は現在外出中らしい。
俺達は近藤が戻ってくるまで、少し待つことになった。
その間、拠点の中を軽く見渡す。
すれ違う隊員達は、見た目こそ派手だが、案外礼儀正しかった。
案内役の男に対しても、互いに「お疲れ様です!」と声を掛け合っている。
若い隊員達も、ふざけているようでいて、拠点内の仕事をきちんとしていた。
荷物を運ぶ者。
武器の整備をする者。
廊下を掃除する者。
見た目だけなら無法者の集まりだが、実際にはしっかり秩序がある。
これなら、東北を守っているという話も納得できる。
◇
しばらくすると、外から大きなエンジン音が響いてきた。
ドッドッドッドッ、と腹に響くような音。
世紀末漢隊の男達が一斉に反応する。
「オッ! 兄貴の愛車の音がするって事は帰ってきやしたぜ!」
案内役の男が嬉しそうに言った。
俺達は近くの窓から外を覗いてみる。
そこには、ゴツゴツしたヘルメットにサングラスをかけた人物がいた。
サイドカーに乗っている。
そのサイドカーの側面には、大きく一文字。
漢。
と印字されていた。
物凄く分かりやすい。
いや、ここまで来ると逆に清々しい。
そして、サイドカーの横に乗っているのは、ふてぶてしい顔をしたブルドッグだった。
首にはトゲトゲの首輪。
ブルドッグはまるで自分も幹部の一員だと言わんばかりに、偉そうに座っていた。
さらに、サイドカーの一部が開いた。
そこから、巨大なイノシシのような獣が引き出される。
全身が丸焼けのように焼けている。
見た目だけなら、巨大な焼きイノシシだ。
若い世紀末漢隊の隊員達が、それを見て歓声を上げた。
「兄貴、獲物だ!」
「でけぇ!」
俺はステータス画面を確認した。
表示された名前を見て、息を呑む。
Bランクモンスター、ファイヤーボア。
やはりモンスターだった。
しかもBランク。
かなり厄介な相手のはずだ。
少なくとも、普通の人間が気軽に狩れるような存在ではない。
それを近藤は持ち帰っている。
しかも、丸焼けのような状態で。
つまり、倒してきた。
いや、狩ってきたという表現の方が近いのかもしれない。
近藤はその重そうなファイヤーボアを肩に担ぎ、平然と建物の中へ入ってきた。
その後ろを、トゲトゲ首輪のブルドッグがゆっくり歩いてくる。
近藤の身体つきは、遠目で見るよりもさらに迫力があった。
筋肉質で、体格が良い。
身に着けているものは派手で世紀末風だが、その立ち姿には不思議な安定感がある。
ただ暴れてきた人間ではない。
戦い慣れている。
そんな印象だった。
近藤が俺達のいる場所までやって来ると、案内役の男が姿勢を正した。
「兄貴、お疲れ様です!」
「あぁ、お疲れぇ」
近藤は低く、ドスのきいた声で返した。
声だけで威圧感がある。
だが、部下への返事は自然だった。
乱暴に扱う感じはない。
「何か、兄貴に挨拶があるとかで客人がきております」
「ほぉ〜」
近藤が俺達を見る。
サングラスの奥の目は見えない。
だが、じっと観察されているのは分かった。
「また、大勢で来たんだなぁ」
近藤はそう言い、俺達を順に見た。
そして、途中で視線が門脇に止まる。
「って、うん? 見た顔がいると思ったが門脇じゃないかぁ」
門脇が一歩前に出る。
「近藤さん、ご無沙汰してます」
「相変わらず、お前は丁寧で品があるなぁ」
近藤は少し笑った。
門脇と近藤は、やはり面識があるらしい。
見た目だけなら全く違うタイプだ。
門脇は落ち着いていて、言葉遣いも丁寧。
近藤は世紀末風で、声も態度も豪快。
だが、近藤は門脇のことをきちんと評価しているようだった。
見た目に反して、人を見る目はありそうだ。
◇
「そういえば、桜井が死んだという話を耳にしたが、本当か……?」
近藤が少し低い声で尋ねた。
俺は内心で驚いた。
桜井が死んだという情報は、もうここまで届いているらしい。
東京やSPМ周辺だけの話ではない。
東北にまで噂が伝わっているということは、全国に広がっていてもおかしくない。
しかも、前に聞いた話では「桜井が死んで別の男が東京を支配している」という歪んだ噂になっていた。
情報が広まるのは早い。
そして、正しく伝わるとは限らない。
全国調査を進めるなら、そういう噂とも向き合う必要がありそうだ。
「はい、本当です」
門脇が静かに答える。
「そうか……残念だったな、一体何があったんだ?」
近藤は桜井の死を面白がるような口調ではなかった。
事情を聞こうとしている。
門脇は少しだけ間を置き、それから説明を始めた。
「話せば長いのですが、実は桜井のスキルで私達SPМ全員支配されていたんです」
近藤の空気が少し変わった。
だが、口は挟まない。
門脇は続ける。
「そんな時、私の隣にいる悠真さん達に助けてもらいました」
近藤の視線が一瞬、俺に向く。
「その際に桜井は追い詰められ、自ら命を落とす選択を取りました」
門脇の声には、複雑な感情が滲んでいた。
支配されていた。
操られていた。
だが、それでもSPМとして多くの人を苦しめた事実は消えない。
門脇達はそれを背負っている。
近藤はしばらく黙った。
そして、静かに言う。
「自ら命を落とすとは……過ちから逃れるのは漢ではない行為だ……」
その言葉には、怒りというより失望があった。
近藤にとって、罪を犯したなら背負って生きることが大事なのだろう。
逃げることを良しとしない。
それが彼の価値観なのだと感じた。
「お前等も大変だったな……」
続けて、近藤は門脇にそう言った。
門脇は静かに頭を下げる。
「ありがとうございます」
近藤は今度こそ、俺の方を見た。
「それと、お前が噂の桜井に代わりに支配をしている男ってことか?」
「支配はしているつもりはないんだけどな……」
俺は苦笑する。
やはり、その噂も伝わっていた。
「ただ、俺は東京を守ってはいるつもりだ」
ここで誤魔化しても意味がない。
俺が東京の中心にいるのは事実だ。
支配という言葉は違う。
だが、東京を守り、動かしている立場であることは否定できない。
「自己紹介が遅れたが、少し前に総理大臣公認で正式に東京の都知事に任命された黒瀬悠真だ」
近藤の眉が動いた気がした。
「何だと……?」
近藤は低く呟く。
「総理大臣は行方不明だと思っていたのだが居たのか?」
「あぁ、総理も桜井のスキルによる被害者だったらしい……」
「そうか……」
近藤は腕を組んだ。
「それに、お前が都知事に就任?」
「あぁ」
「何故、都知事さんがわざわざ東京からこんな遠くまで来たんだ?」
近藤の問いは当然だった。
東京の都知事が、わざわざ危険な空路を使って東北まで来る。
普通なら考えにくい。
ここで変に取り繕うのはやめた方がいい。
近藤は、おそらく嘘や駆け引きを好まないタイプだ。
見た目や口調は豪快だが、筋が通っているかどうかを重視していそうに見える。
なら、正直に話すのが一番だ。
「総理から全国の調査を頼まれてな……」
俺はまっすぐ近藤を見る。
「まずは東北からと思ってこちらに来た次第だ」
近藤は黙った。
周囲の世紀末漢隊の隊員達も、少し静かになる。
俺はその沈黙の中で、近藤の反応を待った。
全国調査。
それは見方によっては、国や東京が他地域へ干渉しに来たようにも聞こえる。
近藤がどう受け取るかは分からない。
東北を守ってきた彼らからすれば、今更国や東京が何をしに来たのかと思う可能性もある。
しばらくして、近藤が口を開いた。
「ガッハッハ!」
突然、雷でも鳴ったかのような豪快な笑い声が響いた。
俺は思わず肩を揺らす。
声量が凄い。
近くにいた隊員達は慣れているのか、嬉しそうに笑っていた。
「都知事自ら危険を顧みず遠いこの地までくるとは、お前さんは漢だな!」
近藤は大きく笑いながら言った。
「いいリーダーだとそれだけで分かる」
その言葉に、俺は少し驚いた。
評価された。
警戒されるかもしれないと思っていたが、近藤は俺が自ら来たことを認めてくれたらしい。
近藤にとって、危険を部下任せにせず自分で来ることは、かなり大事なことなのだろう。
「改めて、俺の名前は近藤剛だ」
近藤は一歩前に出る。
「この世紀末漢隊のリーダーであり、この東北の地を守っている」
そして、大きな手を差し出した。
「宜しく!」
「あぁ、宜しく」
俺はその手を握った。
近藤の手は大きく、分厚かった。
握力も強い。
だが、ただ力任せに握り潰そうとするようなものではない。
力強い握手だった。
この手で戦ってきたのだろう。
この手で、東北を守ってきたのだろう。
そう感じさせる手だった。
◇
握手を終えると、近藤はファイヤーボアを肩から下ろしながら言った。
「明日から、街を好きなだけ見るといい!」
「いいのか?」
「あぁ。隠すことなんざ何もねぇ」
近藤は豪快に頷いた。
「それと、今夜は夕食でも食べて行ってくれ」
「分かった、お言葉に甘えるとするよ」
俺は頷いた。
ひとまず、歓迎されていると見てよさそうだ。
もちろん、完全に警戒を解くのは早い。
だが、近藤剛という男は、少なくとも筋の通らない相手ではない。
話はできる。
それだけで十分大きい。
近藤は、狩ってきたであろうファイヤーボアを若い隊員達の前に見せるように置いた。
そして、満面の笑みで叫ぶ。
「今日は獅子パーティだ!」
周りの世紀末漢隊の隊員達が一斉に叫び出した。
「ヒャッハーー!!」
「兄貴最高だぁ!」
「肉だ肉だぁ!」
拠点中の空気が一気に盛り上がる。
まるで祭りだ。
俺は目の前に置かれたファイヤーボアを見る。
Bランクモンスター。
ついさっきステータス画面で確認した、明らかに危険な存在。
それを、彼らは完全に食材として見ている。
「モンスターを食べるのか?!」
俺は思わず声を上げた。
最近、実はストックがなくて困っています。




