空からやってくる世紀末
第135話です。宜しくお願い致します。
春日の研究所を用意した後、俺達は改めて宮城へ向かうことになった。
移動手段は、未来が《動植物愛護》の《動植物図鑑》で召喚したレッドワイバーンだ。
普通なら近づくだけでも恐怖を感じる見た目だが、俺達にとっては頼れる空の移動手段だった。
……いや、頼れるのは間違いない。
間違いないのだが、見た目だけで言えば完全にモンスターである。
そんなレッドワイバーンに乗り、俺達は東京を離れて東北方面へ進んでいった。
今回の目的地は宮城県。
世紀末漢隊。
そして、そのボスである近藤剛。
門脇から聞いた限りでは、かなり個性が強く、見た目も名前もふざけているように聞こえる。
だが、東北地方を守っている存在だという。
桜井が支配していたSPМとは違う。
少なくとも門脇は、近藤剛のことを悪い奴ではなさそうだと言っていた。
それなら、一度会って話をする価値はある。
◇
ただし、宮城へ一直線に向かう訳ではなかった。
俺達は途中、約100キロごとに降りて、テリトリー地点を作っていく必要がある。
桜井との戦いで思い知らされた。
テリトリーの範囲外では、俺の警備隊を自由に呼び出せない。
今は数ヶ月の強化で召喚可能範囲も広がっているが、それでも全国を相手にするには足りない。
だからこそ、誰もいない建物を見つけ、そこを《日常生活》のテリトリーとして登録する。
そうすることで、いざという時に警備隊を呼べる範囲を広げられる。
中継拠点だ。
地味な作業ではある。
だが、こういう地味な準備こそ後で効いてくる。
俺達は何度か地上へ降り、周囲に人がいないことを確認してから建物をテリトリー化した。
未来のカラスや犬に確認してもらうこともある。
陸斗も警戒を怠らず、一葉、二葉、三葉も周囲を見てくれていた。
春日の研究所を作ったばかりだが、全国調査は待ってくれない。
俺達はそうして少しずつ、宮城へ向けて進んでいった。
◇
レッドワイバーンの背に乗り、風を受けながら前方を見ていると、遠くから何かが飛んでくるのが見えた。
最初は鳥かと思った。
だが、違う。
鳥にしては動きが機械的だった。
飛行機にしては、かなり小さい。
ヘリコプターのような箱型のフォルムにも見えるが、ヘリコプターのような大きなローターは見えない。
見たことのない何か。
それが複数体、こちらへ向かって飛んでくる。
「……あれは何だ?」
俺は思わず呟いた。
未来も目を細める。
「飛行機……じゃないよね?」
「ヘリでもなさそうですね……」
陸斗も不思議そうに言う。
距離が近づいてくるにつれ、それが乗り物であることが分かった。
しかも、そこには人が乗っている。
戦闘機用のゴーグルのようなものを付けた男達だ。
服装は、どこか世紀末感がある。
肩当てに革っぽい服、妙に主張の激しい装飾。
なるほど、あれが世紀末漢隊かもしれない。
そう思った直後、先頭の男がこちらへ向かって声を張り上げた。
「お前達は何者だ!」
声が大きい。
空の上なのに、妙によく通る声だった。
「東北地方は、俺達世紀末漢隊が守っている領域だ!」
やはりそうだった。
この謎の飛行物体に乗っている連中が、世紀末漢隊らしい。
「この地に足を踏み入れたきゃ近藤さんに挨拶してからにしやがれ!」
男はゴーグル越しにこちらを睨むように言う。
「もれなく可愛いペット達も連れてな!」
「そうだ! そうだ!」
周囲の男達も一斉に声を上げた。
俺は一瞬、言葉に詰まった。
可愛いペット達。
それは、もしかしてレッドワイバーンのことだろうか。
俺は自分達を乗せてくれているレッドワイバーンを見る。
厳つくて大きな顎にゴツゴツとした赤い皮膚、獣のような鋭い目と巨大な翼。
うん。
乗せてもらっているし、未来が召喚したモンスターだから味方ではある。
だが、全然可愛くはないよな。
いや、未来にとっては可愛いのかもしれない。
そこは深く突っ込まない方がいい気もする。
少なくとも、初対面の相手がレッドワイバーンを見て「可愛いペット」と表現するのは、かなり独特だ。
俺は気を取り直し、声を返した。
「すまなかった、俺達も近藤さんに挨拶したかったんだ」
その言葉を聞いた世紀末漢隊の男は、急に表情を変えた。
「そうだったのか、俺達がいかにも安全にお前達を誘導してやる!」
いかにも安全に。
少し言い方が変だった。
だが、敵意はなさそうだ。
「振り落とされないように精々頑張るんだな!」
男はそう言って、自分達の飛行物体を旋回させた。
そして、俺達の前方へ出る。
どうやら、本当に案内してくれるらしい。
口調は荒いがやっていることは親切だった。
◇
俺達はレッドワイバーンでその後を追う。
世紀末漢隊の男達が乗っている飛行物体は、思ったよりも安定していた。
箱型の本体に、小さな翼のような部品がついている。
下部には何か噴射口のようなものがあり、そこから風のようなものを出して浮いているようにも見えた。
だが、詳しい仕組みは分からない。
ただ、少なくとも俺が知っている飛行機やヘリコプターとは違う。
一体、どうやって作ったのだろうか。
春日なら興味津々で飛びつきそうだ。
今ここに春日を連れてきていないのが少し惜しい気もしたが、連れてきていたら多分、調査どころではなくなっていたかもしれない。
世紀末漢隊の男達は、俺達を誘導しながら飛んでいく。
だが、その速度はかなり控えめだった。
レッドワイバーンなら余裕でついていける。
むしろ、こちらに合わせてかなり速度を落としているように見えた。
しばらく飛んでいると、先頭の男が何度も振り返ってくる。
「ちゃんと付いてこれてるんだろうな?」
「あぁ、大丈夫だ!」
俺が答えると、男はさらに声を張った。
「速度が速かったら遠慮せず、絶対言えコラ!」
……内容が優しい。
ものすごく口調は荒い。
だが、言っている内容は完全に気遣いだった。
こいつら絶対に優しいじゃん。
俺は内心でそう思った。
しかも、よく考えればおかしな話だ。
俺達は見ず知らずの相手だ。
さらに、明らかに凶暴そうなレッドワイバーンに乗っている。
普通ならもっと警戒してもいい。
それなのに、この男達は俺達をそのまま近藤剛の元へ案内しようとしている。
よほど純粋で素直なのか。
それとも、何をされても倒せるだけの自信があるのか。
もしくは、近藤剛という存在への信頼がそれほど厚いのか。
世紀末漢隊。
名前も見た目もふざけているように思えるが、ただの馬鹿な集団ではなさそうだった。
◇
そんなことを考えながら空を進んでいると、前方に黒い雲のようなものが見えた。
空の一角が黒く染まっている。
天気が崩れる前兆にも見えた。
「何だ、通り雨か……?」
俺が呟いた瞬間、世紀末漢隊の男達の空気が変わった。
先頭の男がすぐに叫ぶ。
「おい、お前等! 身体を低くして低空飛行をしろ!」
その声は、先ほどまでとは違う。
荒いだけではなく、明確な警告だった。
「未来、低く飛ばしてくれ!」
「分かった!」
未来がレッドワイバーンに指示を出す。
レッドワイバーンは大きく翼を動かし、高度を下げていく。
俺達は身体を低くし、振り落とされないように姿勢を整えた。
そして、すぐにその意味を理解した。
黒い雲ではなかった。
もの凄い羽音が近づいてくる。
羽音だけで空気が震えているようだった。
目を凝らすと、その黒い塊の正体が見えた。
大量のバッタだ。
普通のバッタではない。
目が赤い。
顎が異様に発達している。
1体1体は小さくても、数が尋常ではない。
何千体もいるように見える。
それが空を埋め尽くすように飛んでいた。
「まずいな……」
俺は思わず呟いた。
俺達は低空飛行に移ったことで、直接あの群れに突っ込むことは避けられた。
だが、完全に見つからなかった訳ではない。
群れの一部がこちらへ向きを変えた。
次の瞬間、大量のバッタが一斉に襲いかかってくる。
「陸斗、一葉、二葉、三葉頼む!」
俺はすぐに指示を出した。
「はい! 任せてください!」
陸斗が力強く答える。
「承知致しました」
一葉が静かに頷く。
「はい、分かりました」
二葉も落ち着いた声で返す。
「任せてですー!」
三葉だけは、少し楽しそうだった。
いや、頼もしいのだが、楽しそうなのは少し怖い。
◇
まず動いたのは陸斗だった。
陸斗はレッドワイバーンの背の上で姿勢を低くしながら、両手を構える。
「スキル《手遊び》で、光線!」
陸斗の手元から光が走った。
無数の光線が空を裂き、迫ってくるバッタを1体ずつ正確に貫いていく。
「更に分裂!」
陸斗がそう言うと、放たれた光線が無数に枝分かれした。
1本1本の威力は落ちているのだろう。
しかし、相手は小型のバッタだ。
十分に貫ける。
分裂した光線が網のように広がり、次々とバッタを撃ち落としていく。
「そして、貫通!」
さらに陸斗は続けた。
バッタを貫いた光線が、そのまま後ろにいる別のバッタまで貫いていく。
1体。
2体。
3体。
一直線に並んだバッタが次々と撃ち抜かれていく。
流石の使いこなしだった。
もはやベテランのようにすら見える。
「陸斗、凄いな……」
「まだいけます!」
陸斗は真剣な表情で、次々と光線を操っていた。
次に動いたのは一葉だった。
一葉はいつものように背筋を伸ばし、涼しい顔で前方を見る。
「スキル《爆弾魔》」
名前が物騒すぎる。
その瞬間、空中の四方八方に大量の爆薬が召喚された。
初めてメイド達のスキルを見る。
召喚された爆薬が、バッタの群れへ向かって飛んでいく。
そして、次々と爆発した。
やかましい程の爆音と爆風、そして飛び散る火花。
広範囲に広がる破壊力で、バッタの群れがまとめて吹き飛んでいく。
一葉は普段、おしとやかで真面目なメイドだ。
言葉遣いも丁寧で、仕事も完璧。
その一葉が、今は薄く笑みを浮かべていた。
「フフフッ……もっともっと爆ぜなさい!」
「一葉を怒らせるのはやめとこう……」
俺は本気でそう思った。
普段が丁寧な分、戦闘時のギャップが怖すぎる。
続いて二葉が前に出る。
「スキル《鉄球召喚》」
二葉の手元に、巨大な鎖付き鉄球が現れた。
人間が持つにはあまりにも重そうな鉄球。
だが、二葉はそれを当たり前のように握る。
鎖を掴み、大きく回転させ始めた。
空中で鉄球が唸りを上げる。
そして、迫ってくるバッタの群れへ向かって振り抜かれた。
潰れて砕けて吹き飛んでいく。
バッタがまとめて叩き落とされていく。
「ハハハハッ♡ 害虫駆除の時間ね!」
「いや、だから皆怖いって……」
二葉の笑い声が、妙に楽しそうなのが余計に怖かった。
メイド三人は、普段は本当に優秀で頼れる。
だが、戦闘になると一気に物騒になる。
最後に三葉が両手を上げた。
「スキル《四肢ワープ》!」
次の瞬間、三葉の四肢が消えた。
「うわっ……」
俺の脳が理解を拒否した。
三葉の腕と脚が消え、その次の瞬間、バッタの近くに突然現れる。
腕だけが空中に現れ、バッタを殴り飛ばす。
足だけが別の場所に現れ、バッタを蹴り飛ばす。
また別の場所では、拳がバッタの群れをまとめて薙ぎ倒している。
三葉本人は四肢が消えた状態なのに、平然としていた。
「楽しいですーー!!」
「いや、それ生きてる……?」
俺は思わず呟いた。
「四肢ない状態なのが物理的に怖すぎる」
三葉は楽しそうだが、見ている側としては軽くホラーだった。
そんなこんなで、陸斗と一葉、二葉、三葉は迫ってくるバッタをどんどん倒していった。
流石に皆頼りになるな、そう思った時だった。
◇
世紀末漢隊の男達が、こちらへ向かって声をかけてきた。
「お前等、相当強いんだな!」
先頭の男が笑っている。
「闘い方も大胆で俺達は大好きだ!」
「それはどうも!」
俺は返しながらも、少し嫌な予感がした。
褒めている。
だが、その後に何か続きそうな言い方だった。
案の定、男は次の言葉を放つ。
「だが、Cランクモンスターのバイバイバッタに限ってはその倒し方は逆効果だ……」
「どういう事だ……?」
俺は眉をひそめた。
バイバイバッタ。
ものすごく嫌な予感しかしない。
「バイバイってまさか……」
俺がそう呟いた瞬間、倒されていたバッタ達の身体が蠢き始めた。
爆発で吹き飛んだ破片。
鉄球で潰された身体。
光線で貫かれた個体。
千切れた部位が、ぐにゃりと動く。
そして、その破片や部位が新たなバッタへと再生していった。
数が減るどころか、増えている。
「そんな……倒されて千切れた部位から増えていっている……」
俺は思わず声を漏らした。
完全に厄介なタイプのモンスターだ。
倒せば倒すほど増える。
普通の攻撃では逆効果。
世紀末漢隊の男が頷く。
「完全に消滅させないと永遠に増えていく」
「結構やっかいだな……」
俺は歯を食いしばった。
陸斗達が悪い訳ではない。
むしろ、よく対応してくれていた。
だが、相手の特性を知らなければこうなる。
全国調査では、こういう未知のモンスターと出会うことも増えるはずだ。
やはり、現地の情報を持っている勢力と協力する意味は大きい。
世紀末漢隊の男は、妙に自信満々に笑った。
「俺達に任せておけ!」
◇
そう言った瞬間、男達のテンションが急に上がった。
「よっしゃァァァ!!」
「行くぞお前等ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ!!」
「ヒャッハー!」
空気が急に世紀末になった。
いや、最初から世紀末だったが、さらに濃くなった。
すると、どこからともなく音楽が流れ始めた。
いや、本当にどこから流れているんだ。
飛行物体にスピーカーでもついているのか。
軽快というには少し暑苦しい曲調。
男達の合いの手。
そして、謎に耳に残る歌詞。
♪漢〜! ヒャッハー!
♪漢〜! ヒャッハー!
♪漢なら後ろは見るな前だけ常に見ろぉ〜
♪漢なら弱きを守り強くあれぇ〜
「何だ、この変な歌は……」
俺は素直にそう呟いた。
しかも曲調と合いの手と見た目のせいで、全部が濃い。
とにかく濃い。
すると、世紀末漢隊の乗っている飛行物体から、金属の筒のようなものがせり出してきた。
複数の飛行物体が隊列を組む。
金属の筒は、バイバイバッタの群れへ向けられた。
筒の先端が赤く光り始める。
熱を帯びているのが見て分かった。
空気が揺らぐ。
次の瞬間、世紀末漢隊の男達が一斉に叫んだ。
「ファイヤーー!!」
金属の筒から、広範囲の炎が放たれた。
炎は扇状に広がり、バイバイバッタの群れを丸ごと包み込んでいく。
ただの火ではない。
火力が凄まじい。
バッタの身体も、千切れた部位も、増えようとしていた破片も、まとめて焼き尽くしていく。
黒い雲のようだった群れが、炎に呑まれて消えていった。
灰すらほとんど残らない。
完全に消滅させる。
その条件を、世紀末漢隊は分かっていた。
そして、それを実行できる武器も持っていた。
俺は炎に照らされた空を見ながら、思わず息を呑んだ。
見た目はふざけている。
口調も荒い。
テーマソングまで流す。
だが、強い。
そして、モンスターの特性をよく知っている。
世紀末漢隊は、本当に東北を守っているのかもしれない。
10分後、バイバイバッタの群れが焼き尽くされ、空が少しずつ元の色を取り戻していく。
世紀末漢隊の飛行物体は、何事もなかったかのように隊列を整えた。
俺はその謎の乗り物を見つめる。
低速飛行ができる。
空中で安定している。
しかも、広範囲火炎放射のような武装まで備えている。
これは単なる移動手段ではない。
戦闘用の飛行兵器だ。
俺は思わず呟いた。
「一体、何なんだこの乗り物は……」
念のため補足ですが、バイバイバッタは
倍に倍に増えていくという意味があります。




