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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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133/149

フォック族のコン助(後編)

第133 話です。宜しくお願い致します。



コン助の胸を、ゴブゴブリンの爪が貫いていた。

 春日は、その光景を理解するまでに一瞬遅れた。

 目の前で起きていることが、現実だと認めたくなかった。

 半年間、ずっと共に過ごしてきた友。

 翡翠球へ帰すと約束した相手。

 そのコン助が、自分を庇って倒れている。

 春日の中で、何かが弾けた。

 恐怖よりも、悲しみよりも先に、激しい怒りが込み上げてくる。

 春日は震える手で、残っていた硫酸の瓶を掴んだ。

 そして、コン助を貫いたゴブゴブリンへ向かって、無我夢中で投げつけた。

 瓶が割れ、硫酸がゴブゴブリンの顔と胸に浴びせられる。

 ゴブゴブリンは耳障りな悲鳴を上げた。

 皮膚が溶け、身体が大きく痙攣する。

 それでも春日は止まらなかった。

 手元に残っていた瓶を、次々と投げる。

 中身が何かを確認する余裕などない。

 ただ、コン助を傷つけた相手を許せなかった。

 硫酸を浴びたゴブゴブリンは、その場でのたうち回り、やがて動かなくなった。

 周囲にいたゴブゴブリン達は、春日の異様な奮闘に怯んでいた。

 先ほどまで獲物を追い詰めるように笑っていたモンスター達が、今は距離を取っている。

 春日は涙で顔を歪ませながらも、まだ瓶を探すように手を動かしていた。

 その姿に恐れをなしたのか、残っていたゴブゴブリン達は次々と逃げ出していく。

 春日は追わなかった。

 追う力など残っていなかった。

 ゴブゴブリン達の姿が消えた瞬間、春日はその場に崩れ落ちるように膝をついた。


「コン助……そんな……」

 春日は震える声で呟いた。

 コン助は地面に倒れていた。

 胸元の毛は赤く濡れている。

 傷口は深い。

 春日は、何とかその傷を押さえようとした。

 だが、どうすればいいのか分からなかった。

 研究者であっても、今の春日には友の命を救う手段がなかった。

 コン助は、苦しそうに息をしながらも、春日の顔を見上げた。

「怪我はない……かコン……?」

 その言葉を聞いた瞬間、春日の目から涙が溢れた。

「私よりもコン助の方が……」

 春日は首を横に振る。

「私が星型の粒子なんて拾いに行かなければ……」

 春日は自分を責めた。

 袋を落とした。

 それを拾おうとして足を止めた。

 そのせいでゴブゴブリン達に追いつかれた。

 そのせいで、コン助が自分を庇った。

 そう思うと、胸が潰れそうだった。

 だが、コン助は小さく笑った。

 いつものような明るい笑顔には届かない。

 それでも、春日を安心させようとしている笑みだった。

「心配ないよ……だってオイラは幸せだコン……!」

「何、言ってるの!!」

 春日は叫ぶ。

「胸に穴が……」

 その先の言葉は続かなかった。

 言葉にしてしまえば、本当に終わりを認めることになる気がした。

 コン助はゆっくりと瞬きをする。

「オイラはもう無理だコン……」

「そんなこと言わないでくれ……」

 春日はコン助の身体を抱きしめた。

 温もりはまだある。

 まだ生きている。

 だから助けたい。

 助かってほしかった。

 だが、コン助の声はどんどん小さくなっていく。

「でも、この世界に来てからの1番の親友を助ける事が出来たコン……!」

 コン助は力を振り絞るように言った。

「オイラに借りが出来たコン……ね」

 その言葉は、冗談のようにも聞こえた。

 けれど、春日は笑えなかった。

 涙が止まらなかった。

「お願いだ! お願いだから、借りを返させてくれよ……」

 春日は必死に言う。

「私は初めて会った時から助けられっぱなしだよ……」

 研究室でゴブゴブリンに襲われた時もそうだった。

 コン助が現れなければ、春日は死んでいた。

 それからの半年間もそうだ。

 コン助がいたから、春日は孤独ではなかった。

 コン助がいたから、崩壊した世界の中でも研究を続けられた。

「それに、まだ君を故郷に返す事ができてないよ……」

 春日は声を震わせる。

 それは、春日がコン助と交わした最初の約束だった。

 翡翠球へ帰す。

 故郷へ戻す。

 そのためにゲートを研究していた。

 その約束を果たせないまま、コン助を失うなど耐えられなかった。

 コン助は春日の頬を見上げ、少しだけ穏やかな表情を浮かべる。

「……最初は故郷に帰りたい気持ちが強かったけど、春日と一緒に過ごしていると、だんだんどっちでもよくなっていったコン……」

 春日は息を呑んだ。

 コン助にとって、故郷は大切な場所のはずだった。

 帰りたいと、何度も言っていた。

 だからこそ、春日は研究を続けてきた。

 だが、コン助は今、違うことを言っている。

「オイラは春日と一緒に、あぁでもない、こうでもないって研究するのが1番楽しかったコン……」

 コン助の声は弱々しい。

 それでも、その言葉には嘘がなかった。

「だから、この地で死ぬのも悪くないコン……!!」

「そんな……」

 春日は首を横に振る。

 悪くないはずがない。

 こんな形で終わっていいはずがない。

 だが、コン助は本当に穏やかな顔をしていた。

 春日と過ごした時間を、幸せだったと言ってくれている。

 それが余計に春日の胸を締め付けた。

 春日は涙を拭った。

 泣いていても、コン助に何も返せない。

 少なくとも、最後に約束だけはしなければならない。

「私も、コン助と一緒に過ごした日々は忘れない……」

 春日は涙で濡れた顔のまま、コン助を見る。

 その目には、少しずつ決意が宿っていた。

「研究も絶対に完成させる!!」

 春日ははっきりと言った。

「約束だ!!」

 コン助の口元が、ほんの少しだけ緩む。

「良かった……」

 コン助は小さく息を吐く。

「春日に借りを作っておいて……」

 その言葉を最後に、コン助は安らかな笑みを浮かべた。

 そして、静かに息を引き取った。

 春日はしばらく動けなかった。

 コン助の身体を抱いたまま、ただその場に座り込んでいた。

 泣き声すら出なかった。

 腕の中の温もりが、少しずつ失われていく。

 それを感じながら、春日は何度もコン助の名前を心の中で呼んだ。

 だが、返事はなかった。


 ◇


 やがて春日は、ゆっくりと立ち上がった。

 コン助をこのままにしておくことはできない。

 春日はコン助の小さな身体を抱え、静かな森へ向かった。

 コン助から、翡翠球は自然豊かな世界だと聞いていた。

 見渡す限りの緑。

 澄んだ水。

 たくさんの動物や植物。

 コン助は何度か、故郷の景色を楽しそうに話してくれた。

 だから春日は、せめて地球の中でも自然の中に眠らせてやりたかった。

 春日は森の奥へ進み、静かな場所を選んだ。

 風が木々を揺らしている。

 遠くでモンスターの気配がするかもしれないという恐怖はあった。

 それでも、春日はその場所で手を動かし続けた。

 土を掘る。

 コン助をそっと寝かせる。

 土をかける。

 簡単な墓標として、近くにあった木の枝を立てた。

 立派な墓ではない。

 だが、春日にできる精一杯だった。

 春日は墓の前に膝をつく。

「コン助、私は何があっても研究を完成させるよ……」

 声は震えていた。

 それでも、春日は言葉を続ける。

「もし、次に誰かがこの世界に迷い込んだ時に、元の世界に返してあげられるように……」

 コン助を帰すことはできなかった。

 約束を果たせなかった。

 その事実は、春日の胸に深く突き刺さっている。

 だが、それで終わらせる訳にはいかない。

 コン助との半年を、悲しみだけで終わらせたくなかった。

「私達の想いを必ず形にする……」

 その瞬間だった。

 春日の胸の奥で、何かが反応した。

 身体の内側から熱が広がる。

 頭の中に、今までとは違う感覚が流れ込んでくる。

 研究を完成させたい。

 理論を形にしたい。

 頭の中にあるものを、現実にしたい。

 その強い想いに呼応するように、春日は超人族として覚醒した。

 スキル名は、《机上の空論》。

 自分の頭の中で考えた理論や理屈を、実際に物として具現化する能力。

 ただし、理論が間違っていれば思い通りにはならない。

 それは研究者である春日にとって、これ以上ない力だった。

 コン助との約束を果たすための力。

 次に迷い込んだ誰かを帰すための力。

 そして、この危険な世界を生き延びるための力。

 春日はまず、身を守る手段が必要だと考えた。

 ゲート研究を続けるには、生き延びなければならない。

 モンスターに殺されてしまえば、何も完成させることはできない。

 だから春日は、光線銃の開発に取り組むことになった。

 モンスターを倒すための武器。

 自分の身を守り、研究を続けるための手段。

 それが、後に悠真達が見た光線銃へと繋がっていく。


 ◇


 春日の回想は、そこで終わった。

 場面は現在へ戻る。

 中央会館の一室には、しばらく沈黙が落ちていた。

 春日は話し終えた後、静かに視線を落としている。

 いつものような騒がしさはない。

 研究の話になると目を輝かせる春日とは違う。

 そこにいるのは、友を失い、それでも約束を背負って生きてきた1人の人間だった。

 悠真は言葉を探した。

 だが、簡単な慰めの言葉など出てこなかった。

「なるほど……」

 悠真はようやくそう言った。

「何て言ったらいいか……」

 悲しすぎる過去だった。

 研究者としての春日の明るさの裏に、そんな出来事があったとは思わなかった。

 コン助を帰せなかった後悔。

 それでも研究を完成させるという約束。

 その全部が、今の春日を作っている。

 春日は小さく首を振った。

「勿論、今でも光線銃が完成すれば、ゲートの研究を続けるつもりです」

 その声は静かだった。

 だが、決意は揺らいでいない。

 光線銃は目的ではない。

 あくまで、研究を続けるための手段。

 春日の本当の目的は、今もゲートの謎を解くことだった。

 そして、春日は悠真を見る。

「因みに、コン太さんは翡翠球に帰りたいという気持ちはあるのでしょうか?」

 その問いに、悠真は息を呑んだ。

 翡翠球に戻りたいか。

 家族や友達に会いたいのではないか。

 そんなことを、悠真はコン太に聞いたことがなかった。

 コン太はいつも明るかった。

 語尾に「コン」をつけて、元気に話していた。

 桜井との戦いでも、大きな役割を果たしてくれた。

 皆を助け、場を和ませ、東京の一員として自然にそこにいた。

 だからこそ、悠真は深く考えていなかった。

 コン太も、本当は知らない世界に飛ばされた存在なのだ。

 慣れない環境。

 モンスターだらけの地球。

 故郷から切り離された孤独。

 明るい性格に救われていたのは、悠真達の方だった。

 悠真は、胸の奥が重くなるのを感じた。

 なぜ、今まで聞かなかったのか。

 なぜ、コン太がどう思っているのか考えなかったのか。

 後悔が押し寄せる。

「いや、聞いたことないんだ……」

 悠真は正直に答えた。

 声には、自分自身への悔しさが滲んでいた。

 そして、春日を見つめる。

「春日、明日一緒にコン太に聞きに行ってくれないか……?」

 悠真は続ける。

「本当は翡翠球に帰りたいかどうかを……」

 春日はしばらく悠真を見ていた。

 コン助と過ごした春日だからこそ、分かることがある。

 フォック族が故郷をどう思うのか。

 別世界に迷い込んだ存在が、どんな孤独を抱えるのか。

 春日は静かに頷いた。

「……分かりました」

 こうして、次の日の朝。

 悠真と春日は、コン太の元へ出向くことになった。



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