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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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132/148

フォック族のコン助(中編)

第132話です。宜しくお願い致します。


「というか、ここは何処だコン?」

 ゲートから現れたフォック族、コン助は、研究室の中をきょろきょろと見回しながら言った。

 先ほどまでゴブゴブリンに襲われ、死を覚悟していた春日は、床に座り込んだまま目の前の存在を見つめていた。

 二足歩行で立つ、ぬいぐるみのようなキツネに似た生き物。

 しかも、人の言葉を話している。

 春日の理解は、まだ現実に追いついていなかった。

「ここは研究室だよ……」

 春日は、どうにかそう答えた。

「研究室……コン?」

 コン助は首を傾げる。

 その仕草はどこか愛らしい。

 だが、春日にとっては何もかもが異常だった。

 研究所の壁は壊され、同僚達の姿はなく、見たこともないモンスターに襲われた。

 そして今度は、ゲートから喋るフォック族が出てきた。

 世界が壊れたのだと、春日は嫌でも理解し始めていた。

「というか君は、フォック族って……?」

 春日がそう尋ねると、コン助は胸を張った。

「オイラはフォック族のコン助だコン。キツネじゃないコン」

「フォック族……」

 春日は、その言葉を繰り返した。

 聞いたことのない種族名だった。

 少なくとも、地球にいる生き物ではない。

 春日は研究者としての好奇心と、目の前の現実への恐怖の間で揺れながら、コン助と互いの状況を確認することになった。

 コン助は、人間ではない。

 地球の存在でもない。

 翡翠球という別世界から来た存在だった。

 コン助の住んでいた翡翠球でも、突然ゲートが開いた。

 そこからモンスターが押し寄せてきたという。

 春日はその話を聞きながら、眉を寄せた。

 地球だけではない。

 別世界でも、同じようにゲートが開いている。

 その事実は、研究者である春日にとって衝撃的だった。

「でも、何でゲートからコン助が出てきたんです?」

 春日が尋ねると、コン助は少しだけ耳を伏せた。

「沢山のモンスターから逃げていたら、目の前に真っ黒のワッカが現れて、無我夢中で飛び込んだコン!」

「そうだったんですね……」

「勢いで飛び込んだコン……」

 コン助は研究室の床へ視線を落とした。

「でもまさか、こんな別世界に行くとは思わなかったコン……」

 その声は、さっきまでの元気な調子とは違っていた。

「故郷に帰りたいコン……」

 ぽつりと呟かれた言葉に、春日は胸を締め付けられた。

 コン助は、見た目こそ不思議な存在だった。

 だが、迷子になった子どものように、不安そうな顔をしていた。

 別世界に飛ばされ、帰り道も分からない。

 春日には、その心細さが少しだけ分かる気がした。

 春日自身も、つい先ほどまで日常の中にいた。

 それが突然、モンスターに襲われ、同僚達と離れ、研究室に取り残された。

 世界から切り離されたような孤独感は、春日にもあった。

 だからこそ、コン助を放っておくことはできなかった。

 春日はゆっくりと立ち上がる。

 まだ足は震えていた。

 それでも、コン助の前で真剣な顔をした。

「私が、帰る方法を一緒に探しますよ!」

 コン助はぱっと顔を上げた。

「ホントだコンか?」

「はい! こちらもゴブリンに殺されそうな所を助けてもらったので……」

 春日は苦笑いしながら答えた。

 実際には、コン助が意図して助けた訳ではない。

 だが、ゲートが開かなければ、春日は確実にゴブゴブリンに殺されていた。

 コン助が現れたことによって、春日は命を繋いだ。

 それは確かだった。

「ありがとうコン!!」

 コン助は嬉しそうに言った。

 春日は少し迷った後、右手を差し出す。

 コン助はその意味をすぐに理解したらしく、小さな手で春日の手を握った。

 人間とフォック族。

 地球の研究者と、翡翠球から来た迷子。

 奇妙な2人の協力関係は、こうして始まった。


 ◇


 それから、春日とコン助はゲートの研究を始めた。

 コン助を翡翠球へ帰す方法を探すためだった。

 しかし、外の世界はすでに地獄絵図だった。

 研究所の外には、モンスターが徘徊していた。

 人の悲鳴が聞こえることもあった。

 建物が崩れる音も、何度も響いた。

 春日達は研究所に長く留まることができなかった。

 いつモンスターが入り込んでくるか分からない。

 食料も限られている。

 薬品や資料を持ち出せるだけ持ち出し、2人は研究所を出ることにした。

 そこからの生活は、決して楽なものではなかった。

 身を隠せそうな建物を見つけては、そこを拠点にする。

 だが、モンスターに見つかれば逃げるしかない。

 隠れ家にしていた建物を壊されたこともあった。

 夜中に物音を聞き、息を殺してやり過ごしたこともある。

 食料を探すために外へ出て、危うくモンスターに見つかりかけたこともあった。

 それでも、春日とコン助は生き延びた。

 春日は持ち出した薬品や道具を使い、最低限の防衛手段を作った。

 コン助は小柄な身体を活かして、狭い場所へ入り込み、食料や使えそうな道具を探した。

 互いに足りないものを補い合いながら、2人は少しずつ信頼を深めていった。

 そして、研究も続けた。

 ゲートが開いた場所を調べる。

 ゲートが閉じた後の空間の揺らぎを観察する。

 周囲に落ちている小さな粒子を拾い集める。

 春日はそれらを簡易的な器具で調べ、記録をつけた。

 コン助はその様子を横で見ながら、いつも不思議そうにしていた。

「春日は難しいことばかり考えてるコン」

「研究とはそういうものです」

「でも、楽しそうだコン」

「勿論です。研究は楽しいですから」

 そんな会話を交わすことも増えていった。

 最初は、ただ帰る方法を探すための協力者だった。

 だが、いつしか2人は、苦難を共にする友になっていた。


 ◇


 一緒に行動を始めてから、半年が過ぎた。

 その頃には、春日とコン助の関係はかなり近いものになっていた。

 コン助は春日を信頼し、春日もまた、コン助をただの研究対象として見ることはなくなっていた。

 ある日、春日は小さな瓶を手に、興奮した様子でコン助へ駆け寄った。

「コン助、やっと少し近づいたよ!」

 コン助は耳をぴんと立てた。

「本当かコン?」

「うん! ゲートが開いた時に星型の粒子が毎回落ちるでしょ?」

「あのキラキラしたやつだコン?」

「そう。それに、この世界のものではない物質が確認されたんだよ!」

 春日の声は弾んでいた。

 半年間、少しずつ集めてきた星型の粒子。

 それはただの光の残りではなかった。

 地球上の物質とは明らかに違う性質を持っていた。

 春日は、それを手がかりにすれば、ゲートの仕組みに近づけるかもしれないと考えた。

「これを研究すれば、ゲートの謎に近づけるかもしれない!」

 春日は瓶を大事そうに見つめる。

「そうしたら、故郷にも帰れるかも……!」

 その言葉を聞いた瞬間、コン助の顔がぱっと明るくなった。

「凄いコン!!」

 コン助は跳ねるように喜んだ。

「こんなに早く、帰れるかもしれない手がかりが見つかるなんて、やっぱり春日は天才だコン!」

 春日は一瞬、言葉を失った。

 天才。

 そう言われることに慣れていなかった。

 同僚達にはよくからかわれていた。

 失敗して爆発させるなよ、と笑われることも多かった。

 もちろん、それは悪意だけではなかった。

 だが、春日の研究をまっすぐ信じてくれる者は少なかった。

 コン助だけは違った。

 春日の努力を見ていた。

 失敗しても、諦めずに続ける姿を見ていた。

 だからこそ、素直にそう言ってくれた。

「ありがとう……」

 春日は小さく呟いた。

「天才だなんて、言ってくれるなんて、コン助だけだよ……」

 コン助は首を傾げる。

「事実を言っただけだコン!」

 その言葉に、春日は少しだけ笑った。

 だが、その胸の奥には複雑な感情もあった。

 コン助を故郷へ帰したい。

 それは本心だった。

 コン助は翡翠球に帰りたがっている。

 家族や仲間がいるのかもしれない。

 故郷の景色をもう一度見たいのかもしれない。

 春日は、それを叶えてやりたかった。

 しかし、帰る方法に近づけば近づくほど、春日は別の感情にも気付いてしまう。

 帰る方法が見つかるということは、コン助と別れる日が近づくということでもある。

 半年間、2人で生き延びてきた。

 隠れ家を探し、食料を分け合い、モンスターから逃げ、研究を続けた。

 コン助は、春日にとって大切な友になっていた。

 だから、別れを想像すると胸が痛んだ。

 それでも、春日はその感情を口には出さなかった。

 コン助には帰ってほしい。

 その気持ちもまた、本物だったからだ。


 ◇


 ある日、春日とコン助は、いつものようにゲートが閉じた後の場所へ向かっていた。

 ゲートが消えた後には、星型の粒子が落ちている。

 それは、ゲート研究の重要な材料だった。

 2人は周囲を警戒しながら、粒子を拾い集めていた。

 春日が袋を広げ、コン助が小さな手で粒子を拾って入れていく。

「今日は少し多いコン」

「うん。この量があれば、前の実験の続きができる」

 春日は慎重に袋の口を閉じようとした。

 その時だった。

 目の前の空間が、突然歪んだ。

 春日は息を呑む。

 そこに、もう1つのゲートが開いた。

「そんな……」

 春日の声が震える。

 ゲートの中から現れたのは、ゴブゴブリンだった。

 1体ではない。

 2体、3体、さらに続く。

 最終的に、およそ10体ものゴブゴブリンが姿を現した。

 春日とコン助だけで相手にできる数ではなかった。

「逃げるコン!」

 コン助が叫ぶ。

 春日は急いで、拾った星型の粒子を袋に入れた。

 そして、2人はその場から走り出す。

 だが、ゴブゴブリン達もすぐに2人へ気付いた。

 耳障りな声を上げながら、後を追ってくる。

 春日は袋を抱えたまま必死に走った。

 コン助も小さな身体で懸命に走る。

 しかし、荒れた道には瓦礫が多かった。

 春日は足を取られかけ、体勢を崩す。

 その拍子に、手に持っていた袋を落としてしまった。

 袋の口が緩み、中の星型の粒子が少しこぼれる。

「あっ……!」

 春日は反射的に足を止めた。

 それは、半年かけてようやく掴みかけた手がかりだった。

 コン助を故郷へ帰すための可能性だった。

 捨てて逃げることなど、できなかった。

 春日はすぐに拾おうとする。

 だが、その一瞬の遅れで、ゴブゴブリン達が追いついてしまった。

「春日、危ないコン!」

 コン助が叫ぶ。

 春日は研究所から持ち出していた硫酸の瓶を取り出した。

 コン助も、小さな鞄から同じように瓶を取り出す。

 2人は迫ってくるゴブゴブリン達へ向かって、硫酸を投げつけた。

 瓶が割れ、液体が飛び散る。

 何体かのゴブゴブリンが悲鳴を上げた。

 硫酸を浴びた個体は皮膚を押さえ、地面を転がる。

 だが、数が多かった。

 倒れたのは数体だけ。

 まだ複数のゴブゴブリンが残っている。

 春日は息を荒くしながら、次の瓶を探した。

 だが、手持ちは少ない。

 このままでは押し切られる。

 前方のゴブゴブリンに意識を向けていた春日は、背後の気配に気付くのが遅れた。

 1体のゴブゴブリンが、いつの間にか後ろへ回り込んでいた。

 そのゴブゴブリンは、春日へ向かって飛びかかる。

 鋭い爪が、春日の背中を狙っていた。

 春日が振り返った時には、もう遅かった。

 避けられない。

 そう思った瞬間、コン助が動いた。

 コン助は小さな身体で、春日とゴブゴブリンの間へ飛び込んだ。

「コン助……!」

 春日が叫ぶより早く、ゴブゴブリンの爪が振り下ろされた。

 無情にも、その鋭い爪はコン助の胸を貫いていた。

 時間が止まったようだった。

 コン助の身体が小さく震える。

 赤い血が、ふわふわとした毛を濡らしていく。

 ゴブゴブリンは、ニチャァっと嘲笑うような笑みを浮かべた。

 春日は目を見開いた。

 自分を庇った友が、目の前で傷ついている。

 半年間、ずっと一緒にいた友。

 故郷へ帰すと約束した友。

 春日は喉が裂けるほどの声で叫んだ。

「コン助ーー!!!」



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