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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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131/146

フォック族のコン助(前編)

第131話です。宜しくお願い致します。


「コン太さんって、フォック族ですよね?」

 春日日春のその一言で、場の空気が変わった。

 悠真は思わず、春日の顔を見つめた。

 コン太が普通の存在ではないことは、悠真達も知っている。

 翡翠球という別の世界から来た、フォック族。

 モンスターが現れるゲートと、たまたま翡翠球が繋がったことで、コン太はこの地球へ現れた。

 つまり、本来なら地球の人間がフォック族の存在を知っているはずがない。

 少なくとも、悠真はそう考えていた。

「何故、それを……?」

 悠真が低い声で問いかけると、春日は少しだけ真面目な表情になった。

「やはり、そうなんですね……」

 春日は一度、視線を落とす。

「私の友に、同じくフォック族が居たんです……」

「どういう事だ……?」

 悠真の声には、警戒と疑問が混じっていた。

 コン太以外にも、この地球へ来たフォック族がいる。

 それが本当なら、コン太にとっても重要な話になる。

 そして、春日がフォック族という言葉を知っている理由にもなる。

 春日は、しばらく黙った。

 いつものような騒がしさはない。

 少しだけ遠い過去を思い出すように、ゆっくりと口を開く。

「あれは、まだ世界が崩壊して間もなかった時でした」

 春日の言葉に合わせるように、悠真達は静かに耳を傾けた。

 話は、世界が崩壊した直後へと遡る。


 ◇


 その頃、春日日春は研究所にいた。

 研究者として、白衣を着て、机に向かい、目の前の研究に没頭していた。

「今日こそは研究を完成させてやるのです!」

 研究室に、春日の声が響く。

 机の上には、書類や器具、薬品の瓶が所狭しと並べられていた。

 春日は目を輝かせながら、実験器具を覗き込んでいる。

 そんな春日を見て、近くにいた同僚達が笑った。

「毎日、そう言ってるじゃないか!」

「また、失敗して爆発させるなよ」

 同僚達は一斉に笑い出した。

 馬鹿にしているというより、いつものやり取りだった。

 春日が研究にのめり込み、周囲が呆れながらも見守る。

 それが、この研究所の日常だった。

「今度こそ、本当に完成しそうなんです!!」

 春日はぷくっと頬を膨らませる。

 それを見て、同僚達はまた笑った。

 春日はむくれながらも、すぐに机の上へ視線を戻す。

 からかわれることに慣れているのだろう。

 何を言われても、研究への熱意が揺らぐことはなかった。

 外では、すでに世界が変わり始めていた。

 だが、研究所の中にいる春日達は、まだその異変をはっきりとは理解していなかった。

 小さな騒ぎはあった。

 遠くで何かが壊れるような音も聞こえた。

 しかし、それが自分達の日常を終わらせるほどのものだとは、誰も思っていなかった。

 昼になり、同僚達は揃って昼ご飯を食べに研究所を出ることになった。

「春日、行くぞ」

 同僚の1人が声をかける。

 だが、春日は机の上から目を離さなかった。

「すみません。私はもう少しだけ続けます」

「またかよ」

 同僚は呆れたように肩をすくめる。

「あんまり根を詰めすぎるなよ」

「分かってるけど、後少しだから……」

 春日はそう言って、実験器具へ視線を戻した。

 同僚達は苦笑しながら研究室を出ていく。

 その背中を、春日はきちんと見送らなかった。

 手元の研究に夢中だったからだ。

 それが、春日と同僚達の最後の会話になった。


 ◇


 外は次第に騒がしくなっていた。

 悲鳴に走る音、何かが倒れる音、そして誰かが叫ぶ声。

 だが、春日にはほとんど届いていなかった。

 彼は研究に没頭している。

 あと少し、もう少しで、何かを掴める。

 その感覚だけが、春日の意識を支配していた。

 だから、研究所の外で何が起きているのか気付くのが遅れた。

 次の瞬間、研究所の壁を何かがぶち破るような音が響いた。

 轟音と振動。

 棚に置いてあった器具が揺れ、いくつかの瓶が床に落ちて割れる。

 さすがの春日も、その音には反応した。

「……何だ?」

 春日は顔を上げる。

 胸の奥に嫌な予感が広がった。

 先ほどまで遠くに聞こえていた騒ぎが、急に近くなった気がした。

 春日は恐る恐る研究室のドアへ向かう。

 そして、少しだけ扉を開けた。

 廊下の先にいたのは、見たことのない存在だった。

 小柄な体に歪んだ顔、それに鋭い歯。

 ゲームや漫画で見るゴブリンのような姿。

 それが3体、廊下の先で何かを探すようにキョロキョロしていた。

 Dランクモンスター、ゴブゴブリン。

 当時の春日は、当然そんな名前を知らない。

 ただ、本能的に危険な存在だと理解した。

「何だ、あれは……ゴブリン?!」

 思わず声が出てしまった。

 その声に、ゴブゴブリン達が一斉に反応する。

 3体の顔が、春日の方へ向いた。

 次の瞬間、ゴブゴブリン達は廊下を蹴って走り出す。

 春日へ向かって一直線に迫ってきた。

「まずい……!」

 春日は慌てて扉を閉める。

 そして、急いで研究室の奥へ戻った。

 何か武器になるものはないか。

 逃げ道はないか。

 頭の中で必死に考える。

 だが、研究室に戦うための道具などない。

 あるのは実験器具と薬品ばかりだ。

 すぐに、扉の向こうから激しい音がした。

 ゴブゴブリン達がドアを叩いている。

 次の瞬間、ドアが蹴破られた。

 木片が飛び散り、3体のゴブゴブリンが研究室へ入り込んでくる。

「そんな……」

 春日は後ずさった。

 目の前の光景が、現実のものだとは思えなかった。

 朝まで普通に研究していた。

 同僚達と話していた。

 昼になれば、いつものようにご飯を食べ、戻ってきて、また研究を続けるはずだった。

 それなのに、今は見たこともない化け物が目の前にいる。

「こんな所で、自分は何一つ完成させる事が出来ずに死んでしまうのか……?」

 春日の声は震えていた。

 死ぬのが怖い。

 それは当然だった。

 だが、それ以上に春日の中にあったのは、何も完成させられないまま終わる恐怖だった。

 まだ研究したい。

 まだ知りたい。

 まだ作りたい。

 まだ、自分の頭の中にあるものを形にしたい。

「いやだ、そんなの嫌だ……!」

 ゴブゴブリン達が春日へ襲いかかる。

 春日は反射的に、手元にあった薬品の瓶を掴んだ。

 中身を確認している余裕などない。

 手当たり次第に、ゴブゴブリン達へ投げつけた。

 瓶が割れる。

 液体が飛び散る。

 ゴブゴブリンの1体に、いくつかの薬品が直撃した。

 次の瞬間、そのゴブゴブリンが悲鳴を上げる。

 皮膚が溶け始めていた。

 薬品の中に、硫酸が混ざっていたのだ。

 ゴブゴブリンは身体を押さえながら暴れ、床を転がる。

 春日はその光景を見て、はっとした。

「そうか……硫酸……」

 春日はすぐに、手元にあった硫酸の瓶を探した。

 震える手で掴み、もう1体のゴブゴブリンへ向かって投げる。

 瓶はゴブゴブリンの肩口に当たり、割れた。

 飛び散った硫酸が皮膚を溶かす。

 ゴブゴブリンが悲鳴を上げ、後退する。

 最初に硫酸を浴びた個体と、次に浴びた個体。

 2体は春日を恐れるように、研究室から逃げ出していった。

「よし……!!」

 春日は思わず声を上げた。

 助かった。

 そう思いかけた。

 だが、まだ1体残っていた。

 最後のゴブゴブリンは、逃げなかった。

 春日を睨みつけたまま、じりじりと距離を詰めてくる。

 春日は慌てて、もう一度硫酸を投げようとした。

 だが、ゴブゴブリンは横へ跳んでそれを避けた。

 瓶は壁に当たり、割れる。

 床に液体が広がっただけだった。

 いくら頭が悪そうに見えるゴブゴブリンでも、仲間が同じ攻撃で傷ついたのを見て学習していた。

 もう、同じ手は通じない。

「そんな、もう硫酸が……」

 春日は机の上を見る。

 手元の硫酸は無くなっていた。

 他の薬品も、投げられそうなものはほとんど使い切っている。

 研究室の奥に薬品倉庫はある。

 だが、その場所はゴブゴブリンがいる方向に近い。

 近づけば、先に襲われる。

「薬品倉庫まで行かないともうない……」

 春日の声は小さかった。

 ゴブゴブリンは、春日がもう何も投げてこないことを理解したのだろう。

 ニチャッと笑みを浮かべた。

 その表情が、春日の背筋を凍らせる。

「駄目だ、終わりだ……」

 ゴブゴブリンが床を蹴る。

 春日へ向かって飛びかかった。

 春日は逃げようとした。

 だが、足が動かなかった。

 恐怖で身体が固まっていた。

「今度こそ、死ぬ……」

 春日がそう呟いた瞬間だった。


 ◇


 春日の目の前に、突然ゲートが開いた。

 空間が裂けるように、黒く歪んだ穴が現れる。

 ゴブゴブリンは勢いよく春日へ飛びかかっていた。

 そのため、止まることができなかった。

 ゴブゴブリンの身体は、そのままゲートの中へ飛び込んでいく。

 そして、姿が消えた。

 春日はしばらく、何が起きたのか理解できなかった。

「助かった……のか?」

 力が抜け、その場に座り込む。

 心臓が激しく鳴っている。

 手は震えていた。

 目の前には、今もゲートが開いている。

 ゴブゴブリンは消えた。

 だが、安心していいのか分からない。

 何しろ、先ほどまで化け物に襲われていたのだ。

 このゲートから、もっと危険なものが出てくる可能性もある。

 春日は床に座り込んだまま、必死に身構えた。

 すると、ゲートの奥から何かが動く気配がした。

「今度は何だ……」

 春日は息を呑む。

 ゲートから出てきたのは、キツネのような存在だった。

 だが、普通のキツネではない。

 二足歩行で立っている。

 頭には巻き毛のような毛がある。

 ぬいぐるみのような、不思議な姿をしていた。

 大きさはそこまで大きくない。

 先ほどのゴブゴブリンに比べれば、恐ろしさはない。

 だが、あまりにも現実離れしていた。

 春日は目を丸くする。

「キツネ……?」

 すると、そのキツネのような存在がぴくりと耳を動かした。

 そして、春日に向かって声を上げる。

「オイラはキツネじゃないコン!」

 春日は固まった。

 目の前の存在が喋った。

 しかも、はっきりと人の言葉で。

 キツネのような存在は、胸を張るようにして言った。

「フォック族のコン助だコン!」

「うわ……キツネが喋った?!」

 春日は思わず叫んだ。

 それが、春日日春と、1人のフォック族であるコン助との出会いだった。



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