謎の研究者
第129話です。宜しくお願い致します。
俺達はレッドワイバーンに乗り、宮城を目指していた。
東京から宮城までは、普通に考えてもかなり距離がある。
ましてや今の世界では、道路が無事とは限らない。
放置された車。
崩れた建物。
モンスターの徘徊。
車で進めば、どれだけ時間がかかるか分からなかった。
だからこそ、未来の《動植物図鑑》で召喚したレッドワイバーンで空を進むことにした。
ただ、一直線に宮城まで向かう訳ではない。
桜井との戦いで、俺達は痛感した。
移動先で何かあった時、使える戦力が限られるということを。
アルやソックス、セイコ達は派遣スキルのため、俺がその場にいれば召喚できる。
だが、通常の警備隊は違う。
警備隊は、テリトリーの範囲内、もしくはその周辺でなければ召喚できない。
以前は、その範囲がテリトリー外周囲40キロだった。
だが、この数ヶ月の強化によって、今は100キロまで警備隊を召喚できるようになっている。
さらに、テリトリーとして登録できる数も増えた。
つまり、東京から100キロ地点にテリトリーを作る。
さらに、その先の200キロ地点にもテリトリーを作る。
そうして通過地点ごとに拠点を作っていけば、警備隊を召喚できる範囲を少しずつ広げられる。
今後、全国調査を続けるなら、このやり方はかなり重要になるはずだった。
◇
俺達はまず、東京から約100キロ地点で一度降りた。
未来のスキルで周辺を調べ、人がいない建物を確認してから、そこをテリトリーに登録した。
そして、再びレッドワイバーンに乗り込む。
そこからさらに進み、東京から約200キロ地点まで来た頃には、辺りが少しずつ暗くなり始めていた。
無理をして夜に移動する必要はない。
俺達はそこで一度、地上へ降りることにした。
「未来、周辺確認を頼む」
「分かった」
未来は頷き、すぐにスキルを発動する。
「動植物愛護で《動植物図鑑》、カラス、犬召喚」
その言葉と共に、カラスと犬が複数召喚された。
カラスは空へ飛び立ち、周囲の建物を上から確認する。
犬達は地面を走り、匂いや気配を探っていく。
人がいる建物を勝手にテリトリーにする訳にはいかない。
だから、まずは誰もいない場所を見つける必要があった。
しばらくすると、未来が顔を上げた。
「見つけた」
「人はいないか?」
「うん。カラスと犬の反応を見る限り、誰もいなさそう」
「分かった。じゃあそこに行こう」
俺達は未来の案内で、その建物へ向かった。
建物は少し古びていたが、壁や屋根は残っている。
中も荒れてはいるが、少なくとも雨風はしのげそうだった。
俺は中を確認し、人がいないことを確かめる。
そして、その建物をテリトリーとして登録した。
これで東京から200キロ地点にも、中継拠点ができたことになる。
「今日は一旦、ここまでにしてゆっくり休もう」
俺がそう言うと、みんなも頷いた。
長距離移動は、空を飛んでいるだけでも意外と疲れる。
それに、明るいうちに無理なく動く方が安全だ。
俺は阿川の方を見る。
「阿川、頼む」
「了解だ」
阿川はいつものように前へ出た。
「スキル、《配管工》」
すると、空間が歪み、地面から配管が現れた。
何度見ても不思議な光景だ。
だが、このスキルの便利さは本当に凄い。
「一旦、阿川の《配管工》で東京に戻って休もうか」
俺がそう言うと、今井翔太が笑いながら配管を見た。
「相変わらず、このスキル本当に便利ですよね」
今井翔太は少し楽しそうに言う。
「遠出しているのに家で休めるって最高じゃないですか」
「全くだよな」
俺も素直に頷いた。
普通なら、ここで野宿になる。
火を起こし、見張りを立て、モンスターに警戒しながら眠ることになる。
だが、阿川の《配管工》があれば東京に戻れる。
食事も休息も、安全な場所で取ることができる。
そのありがたさは、全国調査が始まった今、改めて実感していた。
当の本人である阿川は、特に得意げになることもなく、何食わぬ顔で配管に入ろうとしている。
俺達も続こうとした。
◇
その時だった。
「助けてぇ゙ーーー!!」
後ろから、喉が潰れそうなほどの叫び声が聞こえた。
俺達は一斉に振り返る。
そこには、大きなハヤブサのような鳥型モンスターがいた。
その足には、1人の男が鷲掴みにされている。
鳥のクチバシは槍のように鋭く伸びていて、まともに刺されればひとたまりもなさそうだった。
視界に情報が表示される。
Cランクモンスター、スピアーファルコン。
男は必死にもがいているが、スピアーファルコンはそのまま空へ運ぼうとしている。
このままではまずい。
「芹沢、行けるか?」
俺が声をかけると、芹沢は片目を細めて笑った。
「悠ちんの頼みなら任せて♡」
芹沢はすぐにスキルを発動する。
「スキル、《ラブレター》」
芹沢の前に紙が現れた。
その紙はひとりでに折り畳まれ、紙飛行機の形になる。
そして、スピアーファルコンへ向かって飛んでいった。
「はい♡ 私の事を愛してちょうだい♡」
紙飛行機がスピアーファルコンに届いた次の瞬間、モンスターの動きが止まった。
さっきまで暴れていた翼が、急にゆっくりとした動きになる。
目つきから敵意が薄れていく。
芹沢は優しく手招きした。
「さぁ、私の所にその男を無事に持ってきてちょうだい♡」
スピアーファルコンはゆっくりと旋回し、大きな身体でこちらへ近づいてきた。
そして、芹沢の前で男をそっと地面に降ろす。
男は地面に転がるように降り、その場で震えていた。
だが、怪我はそこまでひどくなさそうだ。
その直後、門脇が一歩前へ出る。
「スキル、《ガチャカプセル》」
門脇の手元にガチャカプセルが現れた。
門脇はそれをスピアーファルコンへ向かって投げる。
ガチャカプセルが命中した瞬間、スピアーファルコンの身体が吸い込まれるように小さくなり、そのままカプセルの中へ入った。
捕獲完了だ。
芹沢のスキルで救助し、門脇のスキルで捕獲する。
かなり綺麗な流れだった。
◇
「本当にありがとうございました……」
助けられた男は、泣きながら何度も頭を下げていた。
改めて見ると、かなり個性的な姿をしている。
小柄な体に、ヨレヨレの白衣。
白衣の袖は手よりも長く、だらしなく垂れている。
眼鏡は、漫画でしか見たことがないような、レンズがぐるぐるになっているものだった。
髪型は七三分け。
どう見ても、研究者という言葉がそのまま服を着て歩いているような男だった。
「いやいや、急に連れ去られていたからびっくりしたよ……」
俺がそう言うと、男は勢いよく顔を上げた。
「私の名前は春日日春と申します」
男は胸を張る。
「上から読んでも下から読んでも、漢字で書いたら春日日春です」
そして、妙に期待した目でこちらを見てきた。
「ねぇー、ねぇー、驚きました?」
「あっ、あぁ……」
俺は曖昧に頷いた。
助けた直後に、いきなり名前の話をされるとは思わなかった。
何だか、また個性が強そうなやつだった。
春日日春。
名前もそうだが、雰囲気もかなり強い。
「それにしても、こんな所で何をしてたんだ……?」
俺は周囲を見る。
「ここら辺は結構荒れてそうだったが……」
普通なら、こんな場所を1人で歩き回るのは危険すぎる。
スピアーファルコンに襲われていた時点で、それは証明されている。
だが、春日はまったく懲りた様子がなかった。
「いやー、ちょっとした実験をしていたのですよー!」
春日は両手を広げる。
「あ、言い忘れてましたが私、研究者です!」
またこちらを期待した目で見てくる。
「ねぇー、ねぇー、驚きました?」
「その格好で流石に分かったよ……」
俺がそう言うと、他のみんなも頷いた。
白衣。
ぐるぐる眼鏡。
七三分け。
これで研究者ではないと言われる方が驚く。
春日は少し固まった。
そして、今の会話がなかったかのように話し始める。
「私は、丁度モンスターを倒せる光線銃の試作ができたので、実験しようとこちらに来ていたのです……」
「光線銃……?」
思わず聞き返した。
この崩壊した世界で、光線銃。
単語だけ聞くと、かなり現実味がない。
だが、春日は自慢げに白衣の中から何かを取り出した。
それは、片手で撃てそうなくらいの大きさの銃だった。
ただし、見た目はかなりおもちゃっぽい。
丸みのあるフォルムで、色もどこか派手だ。
本当にこれでモンスターを倒せるのか、正直かなり怪しい。
春日はその銃を掲げた。
「この光線銃は、どんなに装甲や皮膚が厚いモンスターも簡単に貫く銃なんです」
「これで、本当にモンスターが倒せるのか……?」
俺は疑うように光線銃を見る。
春日は自信満々に頷いた。
「はい、実験は成功しました!」
そして、くるりと振り返る。
「こちらに来てください」
春日は軽い足取りで歩き始めた。
俺達は顔を見合わせてから、その後についていく。
少し歩いた先に、広めの空き地があった。
そこには、3体ほどのモンスターが倒れていた。
俺は近づいて、その死体を確認する。
どのモンスターにも、体を一直線に貫かれたような穴が開いていた。
切り裂かれた訳ではない。
叩き潰された訳でもない。
まるで高熱の何かが、一瞬で身体を貫通したような跡だった。
周囲の焦げた匂いも、普通の攻撃とは違う。
俺は思わず春日の持つ光線銃を見る。
見た目はおもちゃのようだ。
だが、倒れているモンスターの傷を見る限り、威力は本物だった。
春日はまた、期待した顔でこちらを覗き込む。
「ねぇー、ねぇー、驚きました?」
今度ばかりは、否定できなかった。
ただの変な研究者かと思った。
だが、この男は本当にとんでもないものを作っている。
俺は倒れたモンスターを見下ろしながら、正直に答えた。
「……あぁ、流石にこれは驚いた」
芹沢久しぶりにスキル使いましたね。
前にスキル使ったのっていつでしたっけ……?




