東京を守る者達
第128話です。宜しくお願い致します。
数日後、俺はSPМの元隊長である門脇に会いに行った。
元SPМ隊員達は今、東京の中で様々な仕事をしている。
物資の運搬。
復興作業の手伝い。
住民達の雑用。
警備の補助。
桜井の支配下にあったとはいえ、彼らがしてしまった事は決して軽いものではない。
本人達も、それは十分に分かっているのだろう。
だからこそ、せめてもの償いとして、東京の中で働いている。
許された訳ではない。
それでも、少しずつ信頼を取り戻そうとしている。
そんな印象だった。
俺が作業場の近くに行くと、門脇は隊員達に指示を出しているところだった。
以前のような威圧感はある。
だが、どこか柔らかくなったようにも見えた。
「久しぶりだな」
俺が声をかけると、門脇はこちらを振り返った。
「あぁ、悠真か……」
門脇は少し驚いたような顔をした後、静かに言った。
「ここに私含めて隊員達を置いてもらっているのを感謝しているよ……」
「いやいや、お前には借りがある」
「借り?」
「あぁ……」
俺は少しだけ昔を思い出す。
まだ東京全体をどうにかしようなんて考えていなかった頃。
自分達の拠点を守ることだけで精一杯だった頃。
そんな俺に、門脇は言った。
その力を、自分達だけに使っていいのか。
あの言葉がなければ、俺は今ここにいなかったかもしれない。
「俺に避難民を助けるように助言してくれたのはお前だったからな……」
門脇は一瞬、目を細めた。
それから、どこか遠いものを見るように呟く。
「何だか、凄く前の出来事に感じるよ……」
「本当にな」
俺もそう思う。
実際には、そこまで何年も経った訳ではない。
だが、この世界では数ヶ月でもあまりにも濃い。
桜井との戦い。
SPМ本部の解放。
東京の復興。
都知事就任。
振り返れば、よくここまで来たと思う。
だが、感傷に浸るために来た訳ではない。
「それでお前達に頼みがあるんだ」
門脇の表情が少し引き締まる。
「お前達?」
「あぁ、全員だ」
俺は門脇をまっすぐ見た。
「お前達に、東京の自衛隊になってほしいんだ」
門脇は言葉を失ったように、しばらく黙った。
無理もない。
元SPМ隊員達は、今は償いのために働いている立場だ。
そんな彼らに、東京を守る役割を任せると言っている。
普通なら、すぐに頷ける話ではない。
俺は深澤総理から全国調査を依頼されたことを伝えた。
東京や関東以外の地域を調査する必要があること。
そのために、俺達が一時的に東京を離れる可能性があること。
そして、その間に東京を守る戦力が必要なこと。
全部、順を追って説明した。
門脇は黙って聞いていた。
そして、話が終わると静かに頷く。
「なるほどな……」
門脇は少しだけ目を伏せた。
「私達にそんな重要な役割を与えてくれるのか……?」
「あぁ」
俺は即答した。
「ここに住んでいる時に、既に全隊員ルドルフの《真実の口》を受けてもらっているし、ここで働いてくれていた事を俺は色んな人から聞いてるんだ」
門脇が顔を上げる。
「お前達の評判は凄くいいよ!」
「そう……だったのか」
門脇の声が、少しだけ揺れた。
自分達の行動を誰かが見ていた。
償いのつもりでやっていたことが、少しずつでも評価されていた。
それを知って、何か込み上げるものがあったのかもしれない。
俺は続けた。
「強さは申し分ないし、お前達に任せたいんだ!」
元SPМ隊員達は、戦闘経験がある。
統率も取れる。
桜井に歪められていたとはいえ、本来はモンスターと戦うために集められた者達だ。
東京を守る戦力としては、これ以上ない。
もちろん、過去のことが消える訳ではない。
だが、だからといって、ずっと下を向いているだけでいいとも思わない。
償い続けるなら、東京を守るという形で償ってほしい。
俺はそう思った。
門脇はしばらく黙った後、深く息を吐いた。
「私達を信じてくれてありがとう」
その声は、いつもより少し重かった。
「もう、何かの組織の一員になる事は二度とないとは思ったが、入るからには恩に報いる為にも全力で東京を守ると誓う……」
「頼んだぞ!」
俺がそう言うと、門脇は強く頷いた。
こうして、正式に元SPМ隊員達は東京を守る自衛隊となった。
もちろん、すぐに全てが変わる訳ではない。
住民の中には、まだ彼らを許せない人もいる。
それは当然だ。
だが、彼らは逃げなかった。
自分達が背負っているものを理解した上で、それでも東京を守る側に立つことを選んだ。
俺は、その選択を信じることにした。
◇
それから数ヶ月が経った。
その数ヶ月の間、俺達は全国調査に向けて準備を進めた。
東京自衛隊の体制を整えた。
警察署や各施設との連携も進めた。
モンスター襲撃時の避難経路や防衛ラインも確認した。
そして、俺達自身も強くなるために、外へ出てモンスターを倒しまくった。
桜井との戦いは、本当にギリギリだった。
だからこそ、次も同じように何とかなるとは思えなかった。
スキルレベルを上げる。
戦闘経験を積む。
それぞれの役割を確認する。
そうして、俺達は以前よりかなり強くなった。
そして、いよいよ全国調査へ向かう時が来た。
◇
その日、俺はいつもの主要メンバーと、自衛隊の中心メンバーに集まってもらった。
「自衛隊も出来たし、この数ヶ月みんなスキルレベルも上がって強くなったから、そろそろ調査に行こうと思う」
俺は会議室に集まった全員を見渡す。
「まずはどこから調査するかだな……」
北海道。
東北。
中部。
近畿。
中国。
四国。
九州・沖縄。
調査しなければならない場所は多い。
どこから行くべきか。
それを考えていると、門脇が口を開いた。
「その事だが、東北からとかどうだ?」
「東北?」
「あそこはあそこで、東北全体を守っているボスみたいなやつが居るんだが、一度こちらと接触したことがある」
門脇の言葉に、俺は少し興味を持った。
東京以外にも、やはり独自に地域をまとめている者がいるらしい。
「組織の名前は確か、世紀末漢隊……」
「何だ、そのふざけた名前は……」
思わず本音が出た。
世紀末漢隊。
名前だけ聞くと、真面目な組織とは思えない。
むしろ、危ない集団を想像してしまう。
だが、門脇は真面目な顔で続けた。
「あそこのボスの名前が、近藤剛だったと思う」
「近藤剛……」
「かなり個性が強くて変わってるが、悪い奴ではなさそうな感じだったな……」
変わっているが、悪い奴ではなさそう。
門脇がそう言うなら、完全な危険人物という訳ではないのだろう。
少なくとも、話し合いの余地はありそうだ。
「なるほど。じゃあまずは東北から行くか……」
最初の調査先としては悪くない。
まったく情報のない地域へ行くより、少しでも接触経験のある相手のところへ向かう方がいい。
俺は門脇に確認する。
「因みに、その世紀末漢隊というのはどこにあるんだ?」
「宮城県にある」
「宮城……か……」
その地名を聞いた瞬間、俺は少しだけ言葉に詰まった。
自分でも、表情が固くなったのが分かった。
宮城。
まさか、最初の調査先がそこになるとは思っていなかった。
陸斗が俺の様子に気付いたのか、心配そうに声をかけてくる。
「どうしました……?」
「いや、何でもないよ……」
俺は首を横に振った。
ここで話すことではない。
少なくとも、今は。
「じゃあ、宮城から行こう」
そう言って、俺は話を進めた。
宮城に行くメンバーは、すぐに決まった。
俺。
未来。
陸斗。
一葉。
二葉。
三葉。
阿川。
芹沢。
今井翔太。
そして、近藤剛を知っている門脇。
合計10人。
門脇は東京自衛隊の一員ではあるが、相手を知っている以上、同行してもらうのが一番いい。
残りのメンバーは東京で留守番だ。
東京自衛隊もある。
チャン爺達もいる。
だから、以前よりは安心して東京を任せられる。
とはいえ、都知事として東京を離れるのは初めてだ。
不安がない訳ではない。
だが、進まなければ何も分からない。
◇
東京から宮城まで、荒れた道を車で進むのはさすがに厳しい。
道路は壊れている場所も多い。
放置された車もある。
モンスターに襲われる可能性もある。
そこで、移動には未来のスキルを使うことになった。
未来が前に出る。
「動植物愛護スキル、《動植物図鑑》でレッドワイバーンを召喚」
その言葉と共に、巨大なレッドワイバーンが姿を現した。
赤い鱗。
大きな翼。
鋭い爪。
何度見ても迫力がある。
これなら、宮城まで一気に移動できる。
俺達は順番にレッドワイバーンへ乗り込んだ。
俺は最後に、東京の街を振り返る。
ここは俺達の街だ。
俺が守ると決めた場所だ。
だからこそ、外を知らなければならない。
東京だけではなく、日本全体がどうなっているのか。
それを知るために、俺達は行く。
「じゃあ、行こうか」
俺の言葉に合わせるように、レッドワイバーンが大きく翼を広げた。
次の瞬間、俺達は宮城へ向けて飛び立った。
次回から全国調査〜宮城編〜始まりますね。




