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【150万PV感謝です!】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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126/141

東京都知事、黒瀬悠真

第126話です。宜しくお願い致します。



 中央会館前に設置された大きなモニターが、ゆっくりと点灯した。

 その瞬間、会場に集まっていた人達の視線が一斉にモニターへ向いた。

 俺も、思わず息を呑む。

 ここまで来るのに、本当に色々な事があった。

 最初は、都知事なんて肩書きに興味はなかった。

 そもそも、俺は政治家になりたかった訳ではない。

 ただ、生き延びるために拠点を守った。

 仲間を守った。

 助けを求める人達を受け入れた。

 そうして気付いた時には、東京という街の一部を背負う立場になっていた。

 そして今、その結果が出ようとしている。

 壇上の横に立っていた司会進行者が、マイクを握った。

「今回の投票結果の前に、まず投票率から見てみます」

 その声に合わせるように、モニターの画面が切り替わる。

 会場が静まり返った。

 次の瞬間、そこに大きな数字が映し出された。

 投票率、95%。

「……95%?」

 俺は思わず、心の中でその数字を繰り返した。

 高い。

 高すぎる。

 最近の都知事選の投票率を考えれば、驚異的な数字だ。

 もちろん、今は普通の選挙とは状況が違う。

 世界は崩壊し、東京の未来そのものを決める投票だった。

 それでも、95%という数字は簡単に出るものではない。

 会場のあちこちからも、驚きの声が漏れていた。

「95%って、ほとんど全員じゃないか……」

「そんなに投票してたのか」

「すごいな……」

 俺はモニターを見上げたまま、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

 投票率を上げるために、色々な準備はしてきた。

 賛成でも反対でもいい。

 とにかく、自分の意思を示してほしい。

 そう住民に伝えてきた。

 その結果が、95%だった。

 これは、ただ俺を都知事にするかどうかの数字ではない。

 東京に住む人達が、自分達の未来を自分達で選ぼうとした証だ。

 まずは、これ以上ないほど幸先のいい数字だった。

 だが、問題はここからだ。

 投票率がどれだけ高くても、賛成票が足りなければ意味がない。

 俺は無意識に拳を握っていた。

 心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

 司会進行者が、再びマイクを口元へ近づけた。

「続いて、投票結果を発表します!」

 会場の空気が、さらに張り詰める。

「こちらです!」

 モニターの表示が切り替わった。

 そこに映し出された数字を見た瞬間、俺は呼吸を忘れた。

 賛成、86%。

 反対、14%。

 一瞬、会場が静まり返った。

 そして次の瞬間、大きなどよめきが起こる。

「86%……!」

「圧倒的じゃないか!」

「黒瀬さんが都知事か!」

「やったぞ!」

 声が広がっていく。

 俺は、ただその数字を見つめていた。

 賛成86%。

 反対14%。

 投票率が95%だったため、全体で見ると賛成票は約81%になる。

 秘書が提示していた条件を、ぎりぎり超えていた。

 全体の8割以上。

 その数字に届かなければ、深澤総理も正式な任命には慎重になったはずだ。

 だが、超えた。

 俺は内心、思いきり大きな声で叫びたかった。

 よしっ。

 本当なら、両拳を握ってそう叫びたいくらいだった。

 だが、ここは中央会館前。

 多くの住民が見ている。

 深澤総理もいる。

 今から東京都知事になるかもしれない人間が、子どもみたいに叫ぶ訳にはいかない。

 俺は何とか感情を抑え、小さく呟いた。

「……よし」

 それでも、声には安堵が滲んでいたと思う。

 俺は心の中で、すぐに秘書へ語りかけた。

「秘書のお陰だ、ありがとう!」

 すると、いつも通りの冷静な声が返ってくる。

『お役に立てて良かったです』

 その声は、普段とほとんど変わらない。

 だけど、俺にはどこか少しだけ嬉しそうなトーンに聞こえた。

 気のせいかもしれない。

 そもそも秘書に感情があるのかどうかも分からない。

 それでも、今の俺にはそう聞こえた。

 この結果は、俺1人の力で掴んだものではない。

 仲間達がいてくれた。

 住民達が動いてくれた。

 秘書が冷静に助言してくれた。

 その全部が積み重なって、ようやくここまで届いたのだ。


 ◇


 投票結果の表示が続く中、深澤総理が再び壇上へ上がった。

 会場の空気は、先ほどとは明らかに違っていた。

 深澤総理に対する怒りや不信感は、完全に消えた訳ではない。

 だが、少なくとも今は、彼の言葉を聞こうという空気になっている。

 深澤総理はマイクの前に立つと、静かに会場を見渡した。

「今回、本来であれば都知事選を行うのが普通だとは思います」

 その言葉に、会場が静かになる。

「しかし、日本が危機的状況であるため、こういった形で都知事を決めさせて頂きました」

 深澤総理は、今回の投票が通常の選挙ではないことを隠さなかった。

 今の日本には、崩壊前と同じ制度をそのまま動かすだけの余裕がない。

 役所の機能も、人員も、通信も、地域ごとの安全も、何もかも不安定だ。

 だからこそ、東京で生活している人達の意思を確認し、その結果を国が受け止める。

 今回は、そういう形になった。

 深澤総理は、そこで俺の方へ視線を向けた。

「改めて、黒瀬君はこの数日で、何よりも仲間を、家族を、そしてこの東京の事を思っていると感じました」

 俺は少しだけ目を見開いた。

 そんな立派な人間だと思われると、正直かなり困る。

 俺はいつだって、自分にできることを必死にやってきただけだ。

 最初から大きな理想があった訳ではない。

 だけど、そう見えていたのなら、それはきっと、俺の周りにいる人達のお陰だ。

 仲間がいたから、俺は前に進めた。

 守りたい人達がいたから、ここまで来られた。

 深澤総理は、はっきりとした声で宣言した。

「私は自信を持って、黒瀬悠真君を東京都知事に任命致します!」

 その瞬間、会場から大きな拍手が起こった。

 最初は一部からだった。

 だが、すぐにその拍手は広がっていく。

 東京の住民。

 SPМ本部から受け入れられた避難民。

 元SPМ隊員。

 商店で働く人。

 農業区画の人達。

 学校に通う子ども達。

 それぞれの手が叩かれ、その音が中央会館前を包んでいく。

 俺はその拍手を聞きながら、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。

 嬉しい。

 それは間違いない。

 だが、それ以上に重い。

 この拍手には、期待が乗っている。

 この人達の生活を守れという願いが乗っている。

 俺は、もうただの黒瀬悠真ではいられないのだ。

 深澤総理がこちらを見る。

「では、新しい東京都知事である黒瀬悠真都知事、前に……」

 呼ばれた。

 俺は一瞬、足が止まりそうになった。

 だが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 俺は緊張を押し殺しながら、壇上へ上がった。

 階段を一段上がるだけなのに、やけに足元が重く感じる。

 壇上に立つと、会場中の視線が自分に向いているのが分かった。

 思わず、深澤総理を見る。

 今から、やはり何か話さないといけないのか。

 そんな目で助けを求めたつもりだった。

 しかし、深澤総理は穏やかに微笑んでいるだけだった。

 助けてくれそうにはない。

 いや、これは完全に話せということだ。

 俺は内心でため息をついた。

 みんなの前で話すのは得意じゃないんだよなぁ……。

 戦闘の方がまだ分かりやすい。

 敵がいて、守る相手がいて、やるべきことがある。

 だが、こういう場は違う。

 言葉を間違えれば、多くの人に届いてしまう。

 それでも、今は逃げられない。

 俺はマイクの前に立ち、軽く息を吸った。

「えー……皆さん、こんにちは」

 自分でも少しぎこちないと思った。

 だが、会場の人達は静かに聞いてくれている。

「この度、東京都知事に任命されました、黒瀬悠真です」

 自分で言っていて、まだ現実味がなかった。

 東京都知事。

 大学生だった俺が、そんな肩書きを名乗っている。

 世界が崩壊していなければ、絶対にあり得なかった。

「こういった場で話す機会に慣れていないので、少しだけ話させて頂きます」

 俺は会場を見渡した。

 見覚えのある顔がいくつもある。

 他にも、名前を知っている人、知らない人。

 たくさんの人達が俺を見ていた。

「私の地元は東京ではありません」

 俺は、できるだけ自分の言葉で話すことにした。

「東京には、大学に通い始めてから住むようになりました」

 崩壊前の俺にとって、東京は大学生活の場所だった。

 地元を出て、1人で暮らし、授業を受け、バイトをして、将来をぼんやり考える場所。

 特別な使命なんて、何もなかった。

「東京では、崩壊後も含めて約5年住んできましたが、地元よりもここが自分の家だと感じるようになりました」

 言葉にしてから、自分でも少し驚いた。

 だが、それは本心だった。

「正直、それは崩壊後のこの1年で感じた事です」

 崩壊前よりも、崩壊後の方が東京を家だと思うようになった。

 普通に考えれば、おかしな話かもしれない。

 だが、俺にとってはそうだった。

「はじめは自分の事で精一杯でした」

 あの日のことを思い出す。

 ゲート。

 モンスター。

 壊れた街。

 自分のアパートに閉じこもり、スキルを確認し、生き残る方法だけを考えていた俺。

「ですが、段々と信じられる仲間が出来て、自分達のテリトリーが出来てきました」

 陸斗と美咲を助けた。

 仲間が増えた。

 拠点が広がった。

 街が少しずつ形を取り戻していった。

 最初は、自分達だけが生き残れればいいと思っていたのかもしれない。

 だが、ある時、それではいけないと思わされた。

「そして、ある人に言われました」

 俺は少しだけ間を置いた。

「自分の力を、自分達にだけ使っていいのか? と……」

 その言葉は、今でも胸に残っている。

 痛いところを突かれた言葉だった。

 だけど、必要な言葉だった。

「その人の言葉は、今でも忘れられません」

 俺はゆっくりと言葉を続けた。

「その人が私に言葉をかけてくださらなければ、私はこの場には立っていなかったでしょう」

 本当にそうだ。

 あの言葉がなければ、俺はもっと狭い範囲だけを守っていたかもしれない。

 自分と仲間だけの安全を優先し、東京全体のことなど考えなかったかもしれない。

「そして、そこからは嵐のように一瞬に感じました」

 実際には、一瞬などではない。

 何度も死にかけた。

 何度も迷った。

 何度も、自分には無理だと思った。

「ここまで来るのに一朝一夕では行かず、多くの困難が行く手を阻みました」

 モンスター。

 物資不足。

 人間同士の争い。

 SPМ。

 桜井晴彦。

 思い出すだけで、胸が重くなる出来事ばかりだった。

「そして、私だけではなく、ここにいる皆さんのお陰で、東京の街をここまで復興させる事が出来ました」

 これは絶対に言いたかった。

 東京を復興させたのは、俺だけではない。

 食べ物を作った人。

 店を開いた人。

 病院で働いた人。

 子ども達を見守った人。

 建物を直した人。

 警備に立った人。

 不安の中でも、毎日を続けてくれた人。

 その全員がいたから、今の東京がある。

「勿論、票が示している通り、私が都知事になる事に対して反対の方も居るとは思います」

 俺は、反対14%という数字から目を逸らすつもりはなかった。

 賛成多数だった。

 それは嬉しい。

 だが、反対票を入れた人達も、同じ東京に住む人達だ。

 その人達の不安や疑問を無視していい訳がない。

「ですので、反対票を入れた方に対しては、都知事がいないよりはマシだなと思って貰えるように」

 会場は静かだった。

「賛成票を入れた方に対しては、入れて良かったと思って貰えるように」

 俺はマイクを握る手に力を込めた。

「身命を賭してやっていく所存です!」

 言い切った瞬間、自分の心も少し決まった気がした。

 もう後戻りはできない。

 俺は東京都知事になった。

 この街を背負う立場になった。

 なら、逃げる訳にはいかない。

「これから皆さんで、あの日の東京都を……」

 そこまで言って、俺は言葉を止めた。

 あの日の東京都。

 崩壊前の東京。

 それを取り戻す。

 そう言おうとして、少し違うと思った。

 俺達が作るべきものは、ただ過去に戻ることではない。

 崩壊前と同じ東京に戻すだけなら、きっとまた同じ弱さも抱える。

 今の俺達だからこそ作れる街があるはずだ。

 俺は顔を上げ、会場を見渡した。

「いえ、新しい東京を作り上げていきましょう」

 その瞬間、会場は一度静まり返った。

 長い沈黙ではない。

 だが、俺にはやけに長く感じた。

 そして次の瞬間、大きな拍手が巻き起こった。

 先ほどよりも、ずっと大きい。

 声も混じっている。

「頼んだぞー!」

「黒瀬都知事ー!」

「新しい東京、作ろう!」

 胸の奥が熱くなる。

 俺は頭を下げた。

 上手く話せたかは分からない。

 政治家らしい演説だったかも分からない。

 だが、自分の言葉では話せたと思う。

 スピーチを終えると、深澤総理が俺の隣へ歩いてきた。

 そして、右手を差し出す。

 俺もその手を握った。

 内閣総理大臣、深澤隆史。

 東京都知事、黒瀬悠真。

 その握手に、会場から再び拍手が起こった。

 国と東京が、正式に手を取り合った瞬間だった。


 ◇


 こうして、開票と任命の場は終了となった。

 後で聞いた話だが、深澤総理のスピーチ中に最初に声を上げた人物。

「次はしっかりやってくれよー!」

 そう言っていたあの人物は、実は仕込みだったらしい。

 1人が声を出すことで、他の人達も声を上げやすくする。

 重すぎる空気を動かすために、深澤総理側が用意していた一手だった。

 そういえば、SPは5人いるはずだった。

 だが、会場で深澤総理の近くにいたSPは4人しかいなかった。

 残りの1人が、群衆の中に紛れていたのだろう。

 流石は政治家というか、何というか。

 小さい事かもしれない。

 だが、それが政治の世界なのだと見せつけられた気がした。

 正直、少し複雑だった。

 だが、あの一声がなければ、会場の空気は変わらなかったかもしれない。

 人の心は、正論だけでは動かない。

 空気を作る者がいて、その空気に乗る者がいる。

 それもまた、政治なのだろう。

 今は、俺もその世界に完全に足を突っ込んだのだ。

 覚悟しなければならない。


 ◇


 開票が終了した後は、祝勝パーティが開かれる事になった。

 中央会館の中には、料理や飲み物が並べられ、多くの人達が集まっていた。

 東京メンバーは、それぞれ大いに祝ってくれた。

 未来は、まるで自分のことのように笑っていた。

 陸斗は少し誇らしそうに、何度もおめでとうございますと言ってくれた。

 美咲は、俺のことを都知事さんと呼んで、すぐに照れたように笑っていた。

 チャン爺は、流石です坊ちゃまと讃えてくれた。

 浮田は、無理しすぎて倒れたら診察料を高く取るぞ、と冗談めかして言った。

 ルドルフは大げさなくらいに祝福してくれた。

 阿川や色谷、芹沢やコン太、今井兄弟も、それぞれの言葉で祝ってくれた。

 SPМの元隊長達も祝福してくれた。

 正直、少し照れくさかった。

 だが、悪い気分ではない。

 むしろ、こうして皆が笑っている光景を見られることが、何より嬉しかった。

 俺は、この光景を守りたい。

 改めてそう思った。

 そんな祝勝ムードの中、深澤総理が俺のもとへやって来た。

「改めて、都知事就任おめでとう!」

 深澤総理は、穏やかな笑みを浮かべていた。

「ありがとうございます」

 俺は軽く頭を下げる。

 そして、こちらからも言葉を返した。

「総理も、総理大臣に復任おめでとうございます!」

 深澤総理は少し驚いたように目を開き、それから笑った。

「ありがとう!」

 その言葉には、先ほど壇上で見せていた重さとは違う、少しだけ柔らかい響きがあった。

 だが、次の瞬間、深澤総理の表情がわずかに真剣なものへ変わる。

「こんな祝勝パーティ中だが、少し頼み事があるんだが大丈夫か?」

 俺はその言葉に、少し身構えた。

 この流れで頼み事。

 嫌な予感がしない訳ではない。

「はい……何でしょう?」

 深澤総理は周囲を軽く確認してから、声を落とした。

「東京や関東以外の、北海道、東北、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄の調査を頼ませてほしいんだ……」

 俺は一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

 北海道。

 東北。

 中部。

 近畿。

 中国。

 四国。

 九州・沖縄。

 それはつまり、日本全国の調査ということだ。

 東京の都知事になったばかりだというのに、いきなり話の規模が大きすぎる。

 俺は思わず聞き返した。

「え、他の地域のですか?」



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