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【150万PV感謝です!】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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125/137

総理大臣としての説明責任

第125話です。宜しくお願い致します。


 中央会館前には、多くの人々が集まっていた。

 東京に住む者たち。

 SPМ本部から受け入れられた避難民たち。

 元SPМ隊員たち。

 商店で働く者。

 農業区画から来た者。

 病院で治療を受けていた者。

 学校に通う子どもたち。

 その誰もが、黒瀬悠真が東京都知事になるかどうかの開票結果を見届けるために、この場所へ集まっていた。

 中央会館前には、簡易的な壇上が設けられている。

 その横には、大きなモニターが設置されていた。

 開票結果は、あのモニターに表示される予定だった。

 悠真は壇上の近くで、静かにその様子を見ていた。

 表情は落ち着いているように見える。

 だが、その内心が穏やかでないことは、すぐ近くにいるチャン爺には分かっていた。

 この投票は、悠真にとってただの肩書きを得るためのものではない。

 東京をこれからも守っていくための正当性。

 住民の意思。

 国との関係。

 そのすべてがかかっている。

 だからこそ、悠真は緊張していた。

 そして、その悠真の隣で、もう1人、強い緊張を抱えている人物がいた。

 内閣総理大臣、深澤隆史。

 彼は壇上を見上げ、静かに息を整えていた。

 久し振りだった。

 これほど多くの国民の前に立つのは。

 ゲートが出現し、日本が崩壊し、桜井晴彦に支配されてから、深澤は本当の意味で国民の前に立っていなかった。

 総理大臣という肩書きは持っていた。

 だが、その肩書きは桜井に利用されていた。

 自分の意思で語ることも、自分の判断で国民を導くこともできなかった。

 だから、今日この場は、深澤にとって再出発の場でもあった。

 悠真はそんな深澤を見る。

 深澤の表情は硬い。

 だが、逃げようとしている顔ではなかった。

 責任から目を逸らさず、真正面から受け止めようとしている顔だった。


 ◇


 深澤はゆっくりと壇上へ上がった。

 その姿を見て、群衆がざわつき始める。

「あれ……総理じゃないか?」

「本物か?」

「何でここに……」

「今までどこにいたんだよ……」

「国は何をしてたんだ……?」

 ざわめきはすぐに広がっていった。

 当然だった。

 多くの人々は、この1年、国が何をしていたのか分からなかった。

 家族を失った者がいる。

 家を失った者がいる。

 モンスターに追われ、避難し、飢え、寒さに震えた者がいる。

 そんな中、国の中心にいるはずの総理大臣は姿を見せなかった。

 怒りも、不信感も、失望もあって当然だった。

 深澤は、そのざわめきの中でマイクの前に立つ。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

「内閣総理大臣、深澤隆史です」

 その言葉で、会場のざわめきはさらに大きくなった。

 だが、深澤は声を震わせながらも、言葉を続けた。

「先ずは、黒瀬悠真君の都知事への開票結果の場に集まって頂きありがとうございます」

 群衆の視線が、深澤へ集中する。

「ここは開票の場ではありますが、先ずは私の説明責任を果たさせて下さい」

 その瞬間、会場に一瞬の沈黙が落ちた。

 だが、その沈黙は長く続かなかった。

「今さら何を説明するんだ!」

「国は何をしてたんだよ!」

「俺の家族は助からなかったんだぞ!」

「SPМは国が作ったんじゃなかったのか!」

「ずっと隠れてたのか!」

「ふざけるな!」

 怒号が飛び交った。

 何人かは、その場から離れようとした。

 怒りをぶつける者。

 泣きながら叫ぶ者。

 拳を握りしめる者。

 深澤は、その声を正面から受け止めていた。

 反論はしない。

 怒ることもしない。

 ただ、唇を強く結び、頭を下げるようにして立っている。

 悠真はその様子を見ていた。

 深澤が桜井に支配されていたことを、悠真は知っている。

 だから、すべてを深澤1人の責任にすることはできない。

 だが、群衆の怒りも分かる。

 この世界で苦しんできた人々にとって、国が何もしなかったという事実は重い。

 それが洗脳によるものだったとしても、傷ついた時間が消えるわけではない。


 ◇


 会場の混乱が大きくなりかけた時、少し離れた場所にいた曽我英二がマイクを手に取った。

 内閣官房長官である曽我は、落ち着いた声で会場へ語りかける。

「総理が今から順を追って話しますので、どうかご静聴下さい」

 怒鳴るわけではない。

 威圧するわけでもない。

 ただ、冷静に、確かな声で言った。

 その声に、会場のざわめきは少しずつ小さくなっていく。

 完全に静かになったわけではない。

 それでも、人々は一旦、深澤の話を聞く姿勢を見せた。

 深澤は曽我の方へ小さく頷く。

「ありがとうございます」

 そして、再び正面を向いた。

 その表情には、逃げの色はなかった。

「私は、ゲートでモンスターが出た時、国会の最中でした」

 深澤の声が、中央会館前に響く。

「国会議事堂に複数のゲートが開き、ほとんどの議員は成すすべがなく、襲われてしまいました」

 群衆の中に、息を呑む音が広がった。

 国会議事堂。

 日本の政治の中心。

 そこが、最初から安全ではなかった。

「ちょうど国会中継を見ていた方は、その一部を目撃された方もいらっしゃると思います」

 何人かが、はっとしたように顔を上げる。

 あの日、テレビやネットで国会中継を見ていた者たちはいた。

 突然映像が乱れ、悲鳴が響き、画面が途切れた。

 それが何だったのか、分からないまま今まで生き延びてきた者もいる。

「私や何人かの議員は、SPに守られながら、そのまま避難を余儀なくされました」

 深澤の声が少しだけ低くなる。

「途中で、こんな私を守ってくれたSPの何人かが殉職されました」

 壇上の近くに立つSPたちが、わずかに表情を固くする。

 彼らにとっても、それは他人事ではなかった。

「こんな時に私は何も出来ないと、やるせなさだけが残りました」

 深澤は拳を握る。

 当時の無力感が、言葉の端から滲んでいた。

 総理大臣でありながら、モンスターを前にすれば何もできない。

 国を守るどころか、自分が守られる側だった。

 その現実が、深澤を深く傷つけていた。

「そんな時、人間に変化が起きました」

 深澤は続ける。

「スキルというものを扱う、超人族という存在が現れました」

 会場の多くの者が、無言で聞いている。

 超人族。

 今では誰もが知っている存在だった。

 だが、崩壊当初は違った。

 突然発現した、人知を超えた能力。

 希望でもあり、恐怖でもあった。

「多種多様のスキルがあり、それは人知を超えた能力でした」

「私は、自衛隊や警察に所属している中で超人族に覚醒した人達を募り、対モンスター用のチームを結成する計画を立てていました」

 深澤は、少しだけ間を置く。

「それが、SPМです」

 SPМ。

 その名前が出た瞬間、会場の空気が変わった。

 避難民たちの中には、SPМ本部で奴隷のように扱われていた者もいる。

 元SPМ隊員たちは、顔を伏せる者もいた。

 深澤は、その反応を見ても逃げなかった。

「しかし、チームを作っている最中、1人異物が混入しました」

 深澤の表情が険しくなる。

「桜井晴彦という人物でした」

 その名に、悠真も静かに目を細めた。

 桜井晴彦。

 第二の厄災、内部崩壊の元凶。

 多くの人を支配し、SPМを歪め、最後は自ら死を選んだ男。

「彼は、自衛隊や警察経験がある訳ではありません」

 深澤は説明を続ける。

「ですが、チームの隊長候補の1人に接触しました」

「彼も超人族の1人で、簡単に言うと、触れた相手を洗脳に近い状態にする能力を持っていました」

 会場がざわつく。

 桜井の能力を実際に受けた者もいる。

 だが、知らなかった者にとっては、改めて恐ろしい話だった。

「どうやって自衛隊の隊長候補に接触したかは正確には分かりません」

 深澤は悔しそうに言う。

「ですが、彼なら1人に近づき、数珠つなぎに支配していくことも容易だったと思われます」

 1人を支配し、その者を使って次の者へ近づく。

 そして、さらに上へ。

 そうして桜井は、国の中枢へ手を伸ばした。

「そして、自衛隊の隊長候補は私にこう言いました」

 深澤は、その時のことを思い出すように目を伏せた。

「1人、自衛隊で優秀な隊長が居るので、1つのチームのリーダーに任せたいと考えている、と……」

「是非、総理に会ってほしいと……」

 深澤は静かに息を吸う。

「私はその隊長候補を信頼していました」

「それに、今は人手があればある程ありがたいと思い、何の躊躇もなく会うことにしました」

 そして、深澤は苦々しく言った。

「しかし、それが悪手でした」

 会場は静まり返っている。

 誰も口を挟まない。

 深澤の語る過去に、全員が耳を傾けていた。

「最初は好印象でした」

「沢山の避難民を自分の手で助けたい、と」

「国民のために力を使いたい、と」

 それは、桜井が表向きに見せていた顔だった。

 優秀で、熱意があり、国民のために動こうとする超人族。

 当時の深澤がそれを信じたとしても、不思議ではなかった。

「そして、握手をした時でした」

 深澤の声が、ほんの少し震える。

「スキルを唱えられ、ワッペンのようなものを埋め込まれて、私は桜井の支配下に落ちました」

 会場に重い沈黙が広がった。

 総理大臣が、握手1つで支配された。

 それは、あまりにも恐ろしい事実だった。

「それからは、桜井に言われるがままに動くしかありませんでした」

 深澤は言う。

「総理大臣という肩書きだけ乗っ取られた、最悪な状態でした」

 深澤の声には、怒りが滲んでいる。

 桜井への怒り。

 そして、自分自身への怒り。

「命令を受けて許可を出したり、動いている時も、しっかり記憶があります」

「しかし、その命令に対して何の疑問も抱かなくなるのです」

 その説明に、群衆は息を呑んだ。

 記憶がないわけではない。

 何をしたか分からないわけでもない。

 命令に従っている間も、記憶は残る。

 だが、その命令がおかしいとは思えない。

 それは、ある意味で記憶がないよりも残酷だった。


 ◇


「そしてそれから約1年後、黒瀬悠真君達が桜井を追い込み、桜井は自ら死を選んで亡くなったそうです」

 群衆の視線が、悠真にも向けられる。

 悠真は何も言わなかった。

 ただ、静かに深澤の言葉を聞いていた。

 桜井の最期を思い出す。

 レッドワイバーンの背から、自ら飛び降りた桜井。

 巨大なポイズンフロッグに呑み込まれ、あっけなく消えた男。

 許せない相手だった。

 だが、それでも、その最期は悠真の胸に今も残っている。

「桜井が亡くなった事で、スキルの支配下から解けた私は全てを理解しました」

 深澤は言う。

「今まで何の疑問もなくやっていた事に、強烈な恐怖と不安、そして桜井と自分への怒りが込み上げてきました」

 深澤は、自分の胸元に手を当てる。

「私は国民を守る義務があります」

 その言葉は、総理大臣としての言葉だった。

「ですが、無様にも1人の若者に支配されていました」

 深澤は、自分の無力さを隠さなかった。

「そして、私は総理をやめる決断をしました」

 会場が少しざわつく。

「1年もの間、公の場に姿を見せず、混乱の最中、それを助長するような行動を取っていた私に資格がないと思ったからです」

 それは、深澤の本心だった。

 支配されていた。

 だから自分に責任はない。

 そう言い切ることもできたかもしれない。

 だが、深澤はそうしなかった。

 守れなかった事実。

 利用された事実。

 国民に不安を与えた事実。

 それらを背負った上で、自分には資格がないと考えたのだ。

「しかし、本当にそれで良いのかとも思いました」

 深澤は、ゆっくりと顔を上げる。

「私は4日間ほど、この東京をお忍びで視察していました」

 会場がまた少しざわつく。

「この東京に来て、私は多くのものを見ました」

 深澤の声に、少しずつ力が戻っていく。

「どこを見ても崩壊している最中、東京では人々は崩壊以前の生活をしているように見えました」

 悠真は、深澤の横顔を見ていた。

 あの4日間、深澤は本当に多くのものを見ていた。

 農業区画。

 畜産。

 漁業。

 銀行。

 工務店。

 建築現場。

 電力会社。

 水道会社。

 飲食店。

 娯楽施設。

 東京の人々が、自分の役割を持ち、日常を取り戻そうとしている姿。

 深澤は、それを真正面から見ていた。

「私は学びました」

 深澤は、会場に向かって言う。

「人は強い。どこからでも、きっかけさえあればやり直す力はあると」

 その言葉に、東京の住民たちの中には、少し表情を変える者もいた。

 自分たちの生活が、総理にそう見えた。

 自分たちの努力が、国の中心にいた人物を動かした。

 そう感じた者もいたのかもしれない。

「私はそれを見て決心しました」

 深澤の声が、はっきりと響く。

「辞めるという事は逃げる事である」

 その言葉は、深澤自身へ向けられたものでもあった。

「もう1度、今度こそ国の為に行動しようと」

 会場は静かだった。

 深澤はマイクの前で、深く頭を下げる。

「私にもう1度だけチャンスを下さい」

 さらに深く。

「宜しくお願い致します」

 深澤は、深く深く頭を下げた。

 その姿に、会場はすぐには反応できなかった。

 怒り。

 戸惑い。

 納得できなさ。

 同情。

 期待。

 様々な感情が混ざり合っていた。

 総理が頭を下げたからといって、失われたものが戻るわけではない。

 家族が帰ってくるわけではない。

 壊れた家が元に戻るわけでもない。

 だが、深澤が逃げずに自分の言葉で話したことは、確かにその場の空気を変えていた。


 ◇


 沈黙の中。

 1人の男が、声を上げた。

「次はしっかりやってくれよー!」

 それは、許したという言葉ではなかった。

 だが、拒絶でもなかった。

 もう1度見てやる。

 そういう声だった。

 すると、それに呼応するように、別の声が上がる。

「日本を復興させてくれー!」

「深澤総理、東京以外もお願いー!」

「モンスターの対策頼んだぞー!」

「頑張れー!!」

 次々に声が飛ぶ。

 中には、まだ怒りの混じった声もあった。

 だが、それは先ほどの怒号とは違っていた。

 どの声も、深澤に対する要望だった。

 つまり、総理として働けという声だった。

 深澤隆史を、もう1度総理として認める声だった。

 深澤はゆっくりと頭を上げた。

 その目には、涙が浮かんでいた。

 彼は何度か言葉を詰まらせる。

 それでも、マイクを握り直し、会場へ向けて声を出した。

「ありがとう……ございます!!」

 その声は震えていた。

 だが、次の言葉は力強かった。

「死ぬ気でやって参ります!!」

 その瞬間、会場のどこかから拍手が起きた。

 最初は、まばらだった。

 しかし、すぐにその拍手は広がっていく。

 1人。

 また1人。

 やがて、中央会館前全体を包むような拍手になった。

 悠真も、静かに手を叩いた。

 深澤がもう1度立った。

 それは、悠真にとっても大きな意味を持っていた。

 東京だけではない。

 これから、日本全体が少しずつ動き出すかもしれない。

 もちろん、簡単ではない。

 深澤がどれほど覚悟を示しても、外にはモンスターがいる。

 各地は荒れている。

 国の機能は失われている。

 人々の不信感も残っている。

 それでも、最初の一歩は踏み出された。


 ◇


 深澤はしばらく拍手を受け止めていた。

 そして、静かに壇上の横へ下がる。

 会場の視線は、自然と大きなモニターへ向かっていった。

 深澤総理の説明責任は終わった。

 次はいよいよ、黒瀬悠真の都知事への都民投票。

 その開票結果だった。

 悠真は、思わず拳を握った。

 やれることはやった。

 支持率は91%。

 投票率を上げるための施策も行った。

 住民には、賛成でも反対でも意思を示してほしいと伝えた。

 それでも、結果はまだ分からない。

 モニターが点灯する。

 中央会館前に集まった人々が、一斉に息を呑んだ。

 画面が切り替わり、開票結果を示す表示が映し出された。



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