総理の提案
第122話です。少し長めですが宜しくお願い致します。
深澤総理たちを東京へ案内することになった俺は、チャン爺と一緒に会議室を出た。
総理大臣。
内閣官房長官。
重要な議員たち。
そして、SP。
普通に考えれば、元大学生だった俺が案内するような相手ではない。
少し前までなら、テレビやネットの向こう側で見るだけの存在だった。
それが今、俺の後ろを歩いている。
そう考えると、どうしても変な緊張感があった。
だが、それ以上に思うこともある。
この人たちに、ちゃんと見てもらいたい。
俺が作った街ではない。
俺だけが守っている街でもない。
ここは、みんなで取り戻した東京だ。
崩壊した世界で、それでも日常を取り戻そうとした人たちの街だ。
だから、そこだけは間違えずに伝えたいと思った。
◇
中央会館を出ると、外の空気が頬に触れた。
今日も東京は動いている。
職員が資料を抱えて歩き、警備員が門の周辺に立ち、住民たちがそれぞれの目的地へ向かっている。
深澤総理たちは、中央会館の外に出てからも、周囲の様子を静かに見ていた。
初めて来た人からすれば、この光景はかなり異様なのだろう。
崩壊後の世界で、ここまで人が秩序を持って動いている場所は、そう多くないはずだ。
俺たちは中央会館から少し歩いた。
すると、すぐに中央駅が見えてくる。
駅舎の周りには人が出入りしていた。
改札口には登録証をかざす機械が設置され、係員が利用者を案内している。
ホームの方からは、電車の到着を知らせる案内音が聞こえた。
線路も、ホームも、車両も、かつての東京と比べれば規模は小さい。
それでも、確かに電車は動いていた。
俺は駅を指し示す。
「こちらは駅になります」
そう言った瞬間、深澤総理が目を見開いた。
「見たら分かるが、電車まで通っているのか?!」
驚くのも無理はない。
俺だって、最初からここまでできると思っていたわけじゃない。
ゲートが出現し、モンスターが溢れ、東京が壊れたあの日。
電車やバスがまた人を乗せて走る日が来るなんて、想像もしていなかった。
「はい、バスも運行しています」
俺はなるべく落ち着いて答えた。
深澤総理だけでなく、曽我官房長官や議員たちも、駅を食い入るように見ている。
SPたちは警戒を解いていないが、それでも視線の端では駅の設備を確認しているようだった。
「こんな事、どうやって……?!」
深澤総理が、思わずといった様子で呟く。
俺は少しだけ考えた。
どこから説明するべきだろうか。
東京の説明をする上で、俺のスキルのことは避けて通れない。
隠しても仕方がない。
深澤総理たちは、桜井に支配されていたとはいえ、国の中枢にいた人たちだ。
これから国と東京が向き合うなら、俺の力についてもある程度は知っておいてもらう必要がある。
「私は、いわゆる超人族の一人ですが、スキル名が《日常生活》と言います」
深澤総理は、少し不思議そうに俺を見た。
「日常生活……?」
「はい……」
俺は頷く。
「最初は、私自身を日常生活に支障がないようにする事が出来るスキルだと思っていました」
思い出す。
あの日、安い一戸建て風のアパートでスキルが発現した時。
壁が壊れても修復される。
室温が保たれる。
電気や水道が使える。
最初は、ただ自分が生きるためのスキルだと思っていた。
「しかし、スキルの本質は違いました」
俺は駅の方へ視線を向ける。
「どんどんスキルは進化していき、日常生活の枠を、私一人ではなく、選んだ全員へ広げることが出来るようになりました」
深澤総理たちは、黙って聞いている。
「テリトリーにした建物を自動修復してくれたり、商品の生成や複製、防衛機能、環境維持、電気や水道の維持など、あらゆる分野で今のこの世界に必要な力ばかりでした」
自分で言っていても、改めておかしなスキルだと思う。
日常生活。
名前だけ聞けば、地味なスキルだ。
だが、崩壊した世界では、その日常こそが最も失われたものだった。
それを維持する力は、結果としてこの世界では異常なほど強力だった。
「そして、今やこの東京は、スキルの上では私のテリトリーと化しています」
深澤総理が、息を呑んだ。
「……なんと?!」
その声には、驚きがはっきり滲んでいた。
「それは、とても凄い能力ですね……」
深澤総理は駅や周囲の街並みを見渡し、それから俺へ視線を戻した。
「まるで、神にでもなったかのようなスキルだ……」
その言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
「自分でも、このスキルが時々怖くなるくらいです……」
それは本心だった。
東京全体をテリトリーにする。
住民登録を行う。
登録証を発行する。
物資を生成する。
建物を修復する。
警備や派遣もできる。
俺の意思一つで、できることが多すぎる。
便利だ。
間違いなく便利だ。
だが、便利すぎる力は、間違えれば人を縛る力にもなる。
桜井の《天上天下唯我独尊》を見た後だからこそ、その怖さは余計に分かる。
◇
深澤総理は少し間を置いてから尋ねた。
「では、この駅も黒瀬さんが作ったのですか?」
俺は首を横に振る。
「勿論、少し手伝いましたが、ほんの少しです」
「ほんの少し……ですか?」
曽我官房長官が、初めて少しだけ前のめりになった。
俺は頷く。
「元駅員さんや鉄道関係者の方々、更に俗にいう鉄オタの人達など、あらゆる人に協力して貰って作りました」
そう。
この駅も、電車も、バスも、俺一人で動かしているわけではない。
元々駅で働いていた人。
線路や車両に詳しい人。
運行管理を知っている人。
ただ鉄道が好きで、詳しすぎる人。
整備士。
電気系統に強い人。
交通整理が得意な人。
そういう人たちが集まって、今の形を作った。
「私がスキルで作るのは、簡単な事かもしれません」
俺はゆっくりと言う。
「ですが、それでは私が居なくなった時や、私が死んでしまった時、ゆくゆくは無くなってしまうのではないかと思ったんです……」
深澤総理は、真剣な顔で聞いていた。
「成る程。人は便利な物ほど頼ってしまいますしね……」
「はい、その通りだと思います」
俺は頷いた。
俺のスキルは便利だ。
だからこそ、みんなが俺だけに頼ってしまえば、この街は危うくなる。
俺が倒れた瞬間に終わる街。
俺がいなければ何もできない街。
そんなものを作りたいわけじゃない。
「それに、自分の日常生活を自分達で取り戻してほしいと思ったからです」
俺は駅を行き交う人々を見る。
改札を通る人。
荷物を運ぶ人。
ホームで電車を待つ人。
案内係として働く人。
それぞれが、当たり前のように役割を持っている。
「誰かに頼って生きるのではなく、それぞれが前のように社会形成の中で、自分もその一部として生きるという事が、この街を作れた大きな要因だと考えています」
深澤総理は、しばらく何も言わなかった。
曽我官房長官も、議員たちも黙っている。
だが、その沈黙は悪いものではなかった。
責めるための沈黙ではない。
俺の言葉を、真剣に受け止めている沈黙だった。
やがて、深澤総理が小さく息を吐いた。
「黒瀬さん」
「はい」
「貴方は、本当にこの街の先まで考えているのですね」
その言葉に、俺は少しだけ困った。
そこまで立派なことを考えていたわけではない。
最初はただ、怖かったのだ。
自分がいなくなったら、みんなが困る。
自分が間違えたら、みんなを巻き込む。
そんな不安があったから、俺だけに依存しない形を作りたかった。
「まだまだ手探りです」
俺は正直に答えた。
「でも、みんなが自分の力で日常を取り戻そうとしているのは、本当にすごいと思っています」
俺はそう言って、中央駅を見上げた。
◇
その後、俺たちは数日かけて東京を案内した。
一日で全てを見ることはできない。
東京は、もうただの避難拠点ではなかった。
人が住み、働き、食べ、学び、休み、笑う。
そういう街として動き始めている。
深澤総理たちには、それをできるだけ見てもらうことにした。
一日目は、農業や畜産業、漁業の見学だった。
電車に乗って、生産区画へ向かう。
深澤総理たちは、電車に乗った時点でまた驚いていた。
車内は満員ではないが、利用者はいる。
椅子に座る者。
吊り革につかまる者。
窓の外を見る子ども。
小さな荷物を抱えた老人。
かつてなら当たり前だった光景。
だが、今ではそれだけで十分に特別だった。
農業区画では、畑が広がっていた。
野菜が育ち、作業員たちが畝の間を歩いている。
水の管理をする者。
収穫した野菜を仕分ける者。
土の状態を確認する者。
農業経験者だけではない。
元会社員。
元学生。
元料理人。
元避難民。
様々な人たちが、教わりながら土に触れていた。
「ここでは、食料を少しずつ自給できるようにしています」
俺が説明すると、深澤総理は畑をじっと見ていた。
「東京で、ここまでの農業を……」
「まだ十分とは言えません」
俺は正直に答える。
「商品生成に頼っている部分も多いです。ただ、全部をスキル任せにはしたくないので、できるだけ生産体制も整えています」
畜産エリアでは、鶏や豚、牛が管理されていた。
もちろん数は多くない。
それでも、卵や肉、乳製品を少しずつ確保するための大事な場所だ。
漁業と養殖の設備も見てもらった。
水槽や管理設備の前で、深澤総理たちは何度も足を止めた。
ただ食料を配るだけではない。
作る。
育てる。
管理する。
それが東京の中に存在している。
そのことが、深澤総理たちに大きな衝撃を与えているのは表情から分かった。
◇
二日目は、銀行や工務店、建築業の見学だった。
銀行では、登録証と口座の仕組みを説明する。
支給金。
給与。
入金。
決済。
登録証を使ってお金の流れを管理することで、住民が買い物をし、働いた分の報酬を受け取り、必要なものを手に入れられるようにしている。
曽我官房長官は、この部分に強く関心を示していた。
「単なる配給ではなく、労働と報酬を結びつけているのですね」
「はい」
俺は頷く。
「働ける人には、なるべく役割を持ってもらっています」
そして、すぐに付け加えた。
「もちろん、働けない人を切り捨てるつもりはありません」
病気の人。
怪我をしている人。
子ども。
高齢者。
心が疲れ切っている人。
そういう人たちに、無理に働けとは言えない。
ただ、働ける人が役割を持つことは、食べ物やお金以上に大事な意味を持つことがある。
自分もこの街の一部なのだと感じられる。
それが、人を前に進ませることもあるのだ。
工務店や建築現場では、住居の修復や増築が進んでいた。
テリトリー修復を使えば、壊れた場所を直すことはできる。
だが、人が住む場所を増やし、用途に合わせて整え、使いやすい形にするには、人の知識と技術が必要だった。
元大工。
元建築士。
元土木作業員。
そういう人たちが中心になり、若い人たちに教えながら作業を進めている。
◇
三日目は、電力会社や水道会社などのインフラ業を案内した。
この日は、深澤総理たちの驚きが特に大きかった。
電気がある。
水が出る。
下水が処理される。
崩壊後の世界では、それだけで奇跡に近い。
「スキルで維持できる部分はあります」
俺は説明した。
「ですが、仕組みを理解して管理できる人がいなければ、いつか必ず限界が来ると思っています」
電力設備の前で、深澤総理は静かに頷いていた。
便利な力があるからこそ、仕組みも人も育てなければならない。
それは、駅で話したことと同じだった。
◇
四日目は、飲食店や娯楽施設の見学だった。
ここは、俺が特に見てもらいたかった場所でもある。
生きるだけなら、食料と水と寝る場所があればいい。
だが、それだけでは日常とは言えない。
美味しいものを食べる。
友達と話す。
子どもが遊ぶ。
疲れた人が少し笑う。
そういうものがあって初めて、人は生活していると言えるのだと思う。
商店街では、いくつもの店が営業していた。
定食屋。
小さなカフェ。
雑貨屋。
服の修繕をする店。
簡易的な本屋。
子ども向けの遊び場。
娯楽施設では、子どもたちの笑い声が聞こえた。
SPたちは警戒を解いていなかったが、それでも子どもたちの声には少しだけ表情を緩めているように見えた。
ある飲食店では、深澤総理たちにも簡単な食事を出してもらった。
店主は、少し緊張しながらも笑顔で言った。
「黒瀬さんが場所を整えてくれて、みんなが手伝ってくれたから、また店を開けたんです」
俺は少し照れくさくなった。
別に俺だけの力じゃない。
何度もそう思う。
だが、そう言ってもらえるのは、素直に嬉しかった。
深澤総理は、その店主の言葉を黙って聞いていた。
そして、食事を一口食べた後、小さく呟いた。
「温かいですね……」
それは料理の温度だけを言ったのではない気がした。
◇
四日間の視察を終え、俺たちは中央会館へ戻った。
会議室に戻った時、深澤総理たちの表情は、最初に来た時とは明らかに違っていた。
最初は驚きと警戒が強かった。
だが今は、深い感心と、少しの悔しさが混じっているように見える。
自分たちができなかったことを、東京はやっていた。
それを目の当たりにしたからだろう。
深澤総理は席に着く前に、俺へ向き直った。
「黒瀬さん、お忙しい中、丁寧に案内して頂きありがとうございます」
「いえいえ」
俺は首を横に振る。
「東京の街はどうでしたか?」
そう尋ねると、深澤総理は少しだけ間を置いた。
言葉を選んでいるようだった。
「正直、想像以上でした……」
その声は本音に聞こえた。
「勿論、黒瀬さんのスキルあってこそだと思うのですが、国民が力を合わせて、日常を取り戻す姿が、とても印象に残りました」
俺は少しだけ笑った。
「それは、良かったです」
深澤総理の言葉は、素直に嬉しかった。
俺が一番見てもらいたかったのは、そこだったからだ。
俺のスキルの凄さではない。
東京の建物の綺麗さでもない。
人々が、自分の手で日常を取り戻そうとしている姿。
そこを見てもらえたなら、案内した意味はあった。
「東京は、私にとって誇りなんです」
俺は自然とそう言っていた。
深澤総理が俺を見る。
「その東京を、これからも守っていきたいと思います」
それは、嘘ではない。
この街には、俺の仲間がいる。
俺を助けてくれた人たちがいる。
守りたい日常がある。
だから、これからも守りたい。
たとえ第3の厄災が来るのか分からなくなったとしても、世界がまだ安定したわけではないのだから。
深澤総理は静かに頷いた。
そして、少し表情を引き締める。
「話は変わるのですが、私は決めました」
俺は首を傾げる。
「何を決められたんですか?」
深澤総理は、真っ直ぐ俺を見た。
その目には迷いがなかった。
「黒瀬さん、総理大臣になって頂けませんか?」
会議室の空気が止まった。
いや、本当に止まったように感じた。
隣にいた議員たちがざわつき始める。
「総理、それは……」
「いきなりすぎるのでは……」
「しかし、確かに……」
SPたちも、一瞬だけ表情を変えた。
曽我官房長官だけは、完全に驚いたというより、どこか予想していたようにも見えた。
俺は、しばらく言葉が出なかった。
総理大臣。
総理大臣になってほしい。
今、そう言われたのか。
俺が?
将来のこともろくに考えていなかった、元大学生の俺が?
この東京だけでも手一杯なのに、日本全体を背負う?
冗談のような話だった。
けれど、深澤総理の顔は真剣だった。
「……今、何て言いました?」
ようやく出た声は、自分でも情けないくらい間の抜けたものだった。
深澤総理は、もう一度はっきりと言う。
「この街、そして貴方を見て決めました」
会議室のざわめきが少し落ち着く。
「私は、日本がこんな事になってから何も出来ていません」
深澤総理の声には、自責があった。
「従って、退こうと考えていました……」
その言葉を聞き、俺はようやく理解する。
深澤総理は、逃げようとしているわけではない。
自分には資格がないと思っているのだ。
桜井に支配され、国民のために動けなかった。
その間に、東京は俺たちの手で復興していた。
だから、深澤総理は自分ではなく俺に託そうとしている。
だが。
それは違う。
俺は深く息を吸った。
「すいません、総理大臣はお断りさせて頂きます……」
会議室がまたざわつく。
深澤総理は少し残念そうに目を伏せた。
「そうですか。それは残念です……」
俺はすぐに続けた。
「それより、私はやはり深澤総理こそ、総理大臣のままで居てほしいと改めて思いました」
深澤総理が顔を上げる。
「私が、ですか……?」
「はい」
俺は真剣に頷いた。
「国民への真摯な対応」
俺は、深澤総理が南門で普通に番号札を取り、受付を待った話を思い出す。
総理だからといって顔パスを求めなかった。
東京にお邪魔している身だと言った。
「国民の為なら、自分が築き上げた地位を捨てようとする心意気」
それは、簡単にできることではない。
総理大臣という地位。
そこに立つまで、どれだけの時間と努力があったのか、俺には想像もできない。
それを、国民のためになるなら手放そうとしている。
「そして、わざわざ危険を省みず東京へと来られました」
神奈川から東京までの道中、安全が保証されていたわけではない。
モンスターが出る可能性もあった。
それでも、深澤総理は来た。
自分の目で東京を見ようとした。
俺は深澤総理を見る。
「こんなに相応しい方は居ないと思います」
深澤総理は、言葉を失ったように俺を見ていた。
その時、曽我官房長官が静かに口を開いた。
「私も総理には、まだ職務を続けていってほしいと思っております」
深澤総理が曽我官房長官を見る。
曽我官房長官は、いつもの冷静な表情のまま続けた。
「誰よりも総理の近くで見てきたからこそ、貴方ほどの適任者は居ないからです……」
議員たちも、隣で頷いていた。
「私も、同じ考えです」
「総理には、まだ退いていただきたくありません」
「我々だけでは、到底ここまで来られませんでした」
深澤総理は、しばらく何も言わなかった。
ただ、静かに目を伏せている。
俺はその姿を見ながら、余計なことは言わなかった。
これは、深澤総理自身が決めることだ。
そして、しばらくして。
深澤総理は顔を上げた。
「君達が、そんな風に思ってくれていたなんて……」
その声は、少し震えていたように聞こえた。
だが、次の瞬間には表情が変わる。
覚悟を決めた顔だった。
「……分かった」
深澤総理は、はっきりと言った。
「次は失敗しない……」
その言葉に、会議室の空気が少しだけ変わった。
深澤隆史は、もう一度総理大臣として立つ。
桜井に支配されていた過去を背負ったまま。
何もできなかった後悔を抱えたまま。
それでも、もう一度進む。
俺は、その覚悟を見た気がした。
「そこで、改めて総理にお願いがあるんですけど……」
俺は口を開いた。
深澤総理が、少し不思議そうに俺を見る。
「どうしたんですか? 改まって……」
俺は少しだけ緊張していた。
総理大臣になるつもりはない。
日本全体を背負うほど、俺はまだできていない。
俺が守りたいのは、まず東京だ。
この街だ。
この街で生きる人たちだ。
だが、今のままでは俺の立場は曖昧すぎる。
スキルの上では東京は俺のテリトリーだ。
実質的にも、俺が中心となって動かしている。
しかし、国から見ればどうなのか。
勝手に東京を支配しているだけの人間。
そう見られてもおかしくない。
だからこそ、必要だ。
正式な立場が。
東京を守る責任を、公に持つための立場が。
俺は深澤総理を真っ直ぐ見た。
「私を東京都知事に推薦して頂けませんか?」




