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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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120/126

総理大臣、東京へ行く(前編)

第120話です。宜しくお願い致します。


 東京南門の前で、二台の車がゆっくりと停車した。

 深澤隆史は、車内から巨大な門を見上げていた。

 高くそびえる防壁。

 左右へ長く伸びる壁。

 門の周囲を行き交う人々。

 警備員らしき者たちの整った配置。

 それは、深澤が想像していた崩壊後の東京とは、まるで違っていた。

 もっと荒れていると思っていた。

 もっと混乱していると思っていた。

 人々が怯えながら集まり、物資を奪い合い、どうにか生き延びているような場所を想像していた。

 だが、目の前にある東京南門には、秩序があった。

 門の前で人々は列を作り、警備員は淡々と案内をしている。

 大声を上げる者も、割り込む者もいない。

 それぞれが何をするべきか理解しているように見えた。

 内閣官房長官の曽我英二も、隣で静かにその光景を見ていた。

「想像以上ですね」

 短い言葉だった。

 しかし、その声には確かな驚きが含まれている。

 深澤は小さく頷いた。

「えぇ……」

 かつて国の中心にいた者たちが、今はその東京の入口で足を止めている。

 その事実に、深澤は不思議な感覚を覚えていた。

 自分たちは、国を動かす側だった。

 東京を含む日本全体を、制度と法律で支える側だった。

 だが今は違う。

 東京は、別の人物の手で立て直されている。

 黒瀬悠真という若者の手で。

 その東京へ、深澤たちは訪問者として入ろうとしていた。



 車から降りると、議員たちはそろってサングラスをかけた。

 深澤も、曽我も、そして同行している3人の議員も、顔を知られている。

 世界が崩壊したとはいえ、かつてテレビや新聞で見た顔を覚えている者は多いだろう。

 無用な騒ぎを避けるための変装だった。

 もっとも、完全に隠し通せるとは誰も思っていない。

 ただ、少しでも目立たないようにするためだ。

 5人のSPは、周囲に鋭く視線を向けている。

 職務として当然の動きだった。

 深澤は彼らに小さく頷き、一同は南門の受付会場へ向かった。

 受付会場の中へ入った瞬間、議員たちは再び驚かされた。

 そこは広い待合室になっていた。

 壁際には案内板があり、中央には多くの椅子が並べられている。

 いくつもの受付カウンターが設けられ、それぞれに受付係が座っていた。

 会場の入口付近には、番号札を発行する機械が置かれている。

 番号札を取り、表示された番号が呼ばれれば受付へ進む。

 まるで役所の窓口のようだった。

 いや、崩壊前の役所よりも分かりやすいかもしれない。

 係員は来訪者に声をかけ、困っている者がいればすぐに案内する。

 荷物を持った者。

 商売目的らしい者。

 家族連れ。

 移住希望者らしき者。

 それぞれが、きちんと分類され、順番に案内されていた。



 深澤たちは知らなかったが、この受付は以前、犬飼が訪れた時より大幅に改善されていた。

 当時は待ち時間が長く、数時間待つことも珍しくなかった。

 だが、東京の住民が増えたことで雇用できる人材も増え、受付係は大幅に増員された。

 さらに、一度登録証を作った者は、二回目以降、入口横にある機械へ登録証をかざすだけで通過できるようになっている。

 新規来訪者と再訪者を分けたことで、待ち時間は大きく短縮された。

 深澤たちは、番号札を発券した。

 機械から出てきた紙を見て、議員の一人が小さく眉をひそめる。

「わざわざ、受付で入門を待つのですか?」

 声は抑えていた。

 だが、不満は隠せていない。

「私達であれば、顔パスで通れるでしょうに……」

 その言葉を聞いた深澤は、静かに議員を見る。

 怒るわけではない。

 ただ、淡々と答えた。

「いや、今はこの東京にお邪魔している身だ」

 議員が口を閉じる。

 深澤は続けた。

「国家が崩壊してから、まともな事を何一つやり遂げていないのだ」

 その声には、自分自身への戒めも含まれていた。

「これくらい待って当たり前だ」

 議員は少し気まずそうに視線を落とした。

「……分かりました」

 納得しきった様子ではない。

 だが、深澤の言葉に逆らうことはなかった。

 一同は待合室の椅子へ腰掛ける。

 周囲には多くの人がいた。

 これだけ人がいるなら、何時間か待つことになるかもしれない。

 深澤はそう覚悟していた。

 しかし、実際には違った。

 受付は想像以上に速く進んでいった。

 番号が次々と呼ばれる。

 受付係が手際よく説明をし、登録証の発行や手続きが進められていく。

 30分ほど経った頃、深澤たちの番号札が順に呼ばれた。

 曽我が静かに呟く。

「早いですね」

 深澤も頷く。

「待ち時間を減らす仕組みができている……」

 それだけでも、深澤には十分驚きだった。

 崩壊した世界で、人が集まる場所を運営するには、混乱を避ける仕組みが必要になる。

 それを理解し、実際に形にしている。

 この東京は、ただ人を囲い込んでいるだけではない。

 都市として動かそうとしている。



 深澤たちは受付カウンターへ進んだ。

 受付係は、深澤の顔に気づいていないのか、あるいは気づいていても表に出さないのか、丁寧に頭を下げた。

「本日は東京まで足を運んで頂きありがとうございます」

 穏やかな声だった。

「新しくなった東京に来るのは、今日が初めてですか?」

 深澤は頷く。

「はい、初めてです」

「では、今日はどのような要件で参りましたか?」

 受付係は手元の端末を確認しながら続ける。

「大きく、観光・訪問、商業、移住のどれに当たりますか?」

 深澤は少しだけ考えた。

 実際の目的は、黒瀬悠真に会うこと。

 東京を見て、今後の日本について考えること。

 だが、分類としては明らかに訪問だった。

「観光・訪問です」

「ありがとうございます」

 受付係はすぐに操作を進める。

「まずは、東京に入るための登録証を発行致します」

 そして、説明を続けた。

「こちらは、東京内で使える本人確認証兼キャッシュレスカードになります」

 深澤が思わず反応する。

「キャッシュレスカード?」

「はい」

 受付係は慣れた様子で頷いた。

「こちらのカードに、ATMで入金する事が出来ます」

 深澤はさらに耳を傾ける。

「東京の中にある支払い方法のほとんどが、こちらの登録証内のお金でのお買い物になります」

 深澤の目がわずかに細くなる。

 本人確認証と決済機能。

 さらに入門管理。

 一枚の登録証に、それらが集約されている。

「手持ちの現金を入れる事も出来るのかね?」

 深澤が問う。

 受付係はすぐに答えた。

「可能でございます」

 そして、次の項目へ進む。

「因みに、滞在日数は何日を予定しておりますか?」

 深澤は曽我と一瞬目を合わせる。

 予定では一週間ほど東京に滞在し、黒瀬悠真と話し、街の様子を確認するつもりだった。

「一週間を予定している」

「かしこまりました」

 受付係は端末へ入力する。

「滞在日数かける二万円の支給額で、最大十万円までの支給になります」

 深澤は思わず聞き返した。

「支給額?」

「はい」

 受付係は笑顔で説明する。

「お客様の場合ですと、一週間の滞在になりますので、最大額の十万円になります」

「お金を貰えるのか?」

 深澤の声には、明らかな驚きがあった。

 同行していた議員たちも、隣で小さく目を見開いている。

 受付係は頷いた。

「はい。最初に東京に来られた方のみ支給させて頂いているお金になります」

 それだけではない。

 注意点も丁寧に説明する。

「ただし、東京内のみでの使用である事、使用期限は滞在日数のみである事が注意点となります」

 なるほど、と深澤は内心で呟いた。

 初回訪問者に対して、最低限の購買力を与える。

 それにより、来訪者は東京内で食事や必要品を購入できる。

 同時に、支給された金は東京内でしか使えないため、東京の経済へ還流する。

 期限付きにすることで、貯め込まれることも避けられる。

 よく考えられている。

 深澤は素直にそう思った。



 その後、指紋登録が行われた。

 登録証には本人の指紋情報が紐づけられる。

 そのため、万が一盗まれたとしても、登録証内のお金は本人以外使用できない。

 深澤は発行された登録証を受け取った。

 手の中に収まる一枚のカード。

 だが、その役割は大きい。

 本人確認。

 滞在許可。

 決済。

 入門記録。

 崩壊後の東京で必要とされる機能が、そこに集約されていた。

 深澤は登録証を見つめながら、静かに思った。

 マイナンバーの最終形態のようだな。

 これ一つで本人確認と支払いが可能になっている。

 しかも、二回目以降は入門手続きも簡略化される。

 待ち時間を短縮するための仕組みも整っている。

 深澤は、深い感心を覚えていた。

 政治家として、行政の仕組みを見てきた者だからこそ分かる。

 これは思いつきだけで作れるものではない。

 実際に人を受け入れ、問題を経験し、それを改善してきた結果だ。

 深澤は小さく息を吐いた。

 私も勉強になるな。

 そう思わずにはいられなかった。



 手続きを終えた一同は、いよいよ南門をくぐった。

 門の内側へ入った瞬間、深澤たちは足を止めそうになった。

 そこに広がっていたのは、約一年前、ゲートが出現する前なら当たり前だった景色だった。

 大きなビルが立ち並んでいる。

 道は整えられ、崩れた瓦礫は見当たらない。

 少ないとはいえ、車やバイクが走っている。

 店もいくつも並んでおり、開いている扉からは人の声が聞こえた。

 そして何より、人がいた。

 多くの人が、普通に歩いている。

 買い物袋を持った者。

 店先で商品を眺める者。

 子どもと手を繋いで歩く親。

 仕事へ向かうらしき者。

 道端では、二人の住民が笑顔で立ち話をしていた。

 それは、本当に何気ない光景だった。

 だが、崩壊後の世界では、その何気ない光景こそが最も失われていた。

 深澤は立ち止まり、しばらく街を見ていた。

 喧騒。

 人の声。

 車の音。

 店の看板。

 笑顔。

 懐かしさが、胸に込み上げる。

 政治家として、首都東京の景色を何度も見てきた。

 人が多すぎると感じたこともある。

 騒がしすぎると思ったこともある。

 もっと効率よく都市を動かせないかと考えたこともある。

 だが、すべてを失った後で見るこの光景は、あまりにも尊かった。

 曽我も、黙って街を見ていた。

 彼の表情は大きく変わらない。

 だが、その目には確かな感情があった。

「これが、今の東京ですか……」

 曽我が呟く。

 深澤は頷いた。

「らしいですね……」

 議員たちも言葉を失っている。

 中には、サングラスの奥で目元を押さえる者もいた。

 それほどまでに、目の前の光景は衝撃的だった。

 崩壊した世界の中で、ここだけが一年前の日常を取り戻しているかのように見える。

 もちろん、完全ではない。

 人の数はかつての東京とは比べものにならない。

 走る車も少ない。

 警備の姿もある。

 モンスターへの警戒も残っている。

 それでも、ここには日常があった。

 黒瀬悠真。

 深澤は、まだ会ったことのない青年の名を心の中で呟いた。

 この街を作った人物。

 この日常を取り戻した人物。

 ますます会ってみたくなった。



 深澤たちは、門の近くに停まっていたタクシーへ向かった。

 10人いるため、3台に分かれて乗り込む。

 運転手は中年の男性だった。

 深澤は後部座席に座り、運転手へ尋ねる。

「すみません。黒瀬悠真さんという方がどこにいるか分かりますか?」

 運転手はバックミラー越しにちらりと深澤を見る。

 サングラスをかけているため、顔には気づいていないようだった。

「あぁ、黒瀬さんですか」

 運転手はすぐに答えた。

「普段は中央会館にいると思いますよ」

「中央会館……」

 深澤が繰り返す。

 運転手は車を発進させながら続ける。

「ただ、中央会館は基本的に一般人は許可がないと立ち入り禁止です」

 その言葉に、SPの一人がわずかに反応する。

 運転手は気にせず言った。

「入れるかどうかは、ちょっと分かりませんね」

「なるほど……」

 深澤は頷いた。

 当然だ。

 これほどの街をまとめる中心施設なら、警備は厳しくて当然。

 むしろ、誰でも簡単に入れる方が問題だった。

 3台のタクシーは、中央会館へ向けて走り出した。

 車窓から見える街並みは、深澤たちに多くの情報を与えた。

 営業している商店。

 食料を運ぶ人々。

 病院らしき建物。

 学校のような施設。

 作業服を着た人々。

 警備隊らしき者たち。

 街は動いている。

 誰か一人の力で飾られた箱庭ではない。

 多くの人間が役割を持ち、それぞれに働き、生活している。

 曽我は、窓の外を見ながら静かに言う。

「これは、単なる避難拠点ではありませんね」

 深澤も同じことを感じていた。

「えぇ」

 東京は、都市として機能し始めている。

 それを実感しながら、タクシーは中央会館へ向かって進んだ。



 やがて、3台のタクシーは中央会館の前で停まった。

 車を降りた深澤たちは、目の前の建物を見上げた。

 そこにそびえ立っていたのは、巨大な建造物だった。

 石造りの重厚な外壁。

 左右対称に広がる構造。

 中央に大きくせり出したドーム状の屋根。

 それは、かつての国会議事堂を思わせる姿だった。

 もちろん、完全に同じではない。

 細部の造りは違う。

 新しい東京の中心施設として、別の形に整えられている。

 だが、そこに漂う威厳と重厚さは、明らかに行政の中心を意識したものだった。

 かつて国会議事堂を仕事場にしていた深澤や議員たちは、言葉を失った。

 懐かしさ。

 そして、驚き。

 まさか、崩壊後の世界で、再びこのような建物を見ることになるとは思っていなかった。

 一人の議員が、ぽつりと呟く。

「国会議事堂を……思い出しますね」

 深澤は静かに頷いた。

「えぇ……」

 だが、ここは国会議事堂ではない。

 黒瀬悠真が治める東京の中心。

 新しい東京の中枢だった。

 深澤は胸の奥に、複雑な感情を覚えた。

 失われた国の中心。

 新しく生まれた東京の中心。

 その二つが、目の前で重なって見えた。



 深澤たちは、中央会館の入口へ向かった。

 そこには警備員が立っていた。

 姿勢は整っており、目つきにも油断がない。

 ただ立っているだけではない。

 この場所を守る者として、きちんと役割を果たしている。

 深澤は警備員の前で足を止めた。

「こちらに黒瀬悠真さんという方はいらっしゃいますか?」

 警備員は、深澤たちを見た。

 10人の集団。

 サングラスをかけた男たち。

 その周囲に立つSPらしき者たち。

 明らかに普通の来訪者ではない。

 それでも、警備員は落ち着いて対応した。

「失礼ですが、アポを取られていますか?」

 深澤は正直に答える。

「いいえ、アポは取っていないです……」

 警備員は表情を変えずに言った。

「アポを取って頂かない限り、仮にここにお探しの人物が居るとしても、ここは関係者以外立ち入り禁止の建物になっております」

 その対応は、正しかった。

 深澤はむしろ感心した。

 相手が誰か分からない状態で、簡単に通すべきではない。

 この中央会館が、本当に重要施設として管理されている証拠だった。

 深澤は一度、曽我を見る。

 曽我は無言で頷いた。

 深澤は、ゆっくりとサングラスを外す。

 それに続き、曽我や議員たちもサングラスを外した。

 警備員の目が見開かれる。

 深澤は静かに問う。

「私でも無理ですか?」

 警備員は、明らかに動揺した。

「あなたは……深澤総理?!」

 そして、隣にいる人物にも気づく。

「それに、曽我官房長官まで……」

 警備員は一瞬言葉を失った。

 だが、すぐに姿勢を正す。

 総理大臣が目の前にいる。

 それでも、独断で通すわけにはいかない。

 警備員は少し考えた後、深く頭を下げた。

「……一度報告しに参りますので、少々お待ち下さい」

 深澤は頷いた。

「お願いします」

 警備員はすぐに建物の中へ入っていく。

 深澤たちは、中央会館の前で待つことになった。

 SPたちは周囲を警戒しながら、深澤たちを囲む。

 深澤は、もう一度中央会館を見上げた。

 この中に、黒瀬悠真がいる。

 東京をここまで復興させた若者。

 桜井の支配を終わらせた者。

 そして、これからの日本にとって、無視できない存在。

 深澤は静かに息を吐いた。

 間もなく、国と新しい東京は、初めて向き合うことになる。




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