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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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119/121

国からの接触

第119話です。宜しくお願い致します。


同じ頃。

 東京から少し離れた神奈川の一角に、まだ人の手によって維持されている建物があった。

 元は県の施設だった場所だ。

 崩壊後も完全には破壊されず、一部の部屋は会議室として使える状態で残っていた。

 その一室に、数人の男たちが集まっていた。

 空気は重い。

 誰もが疲れた顔をしている。

 服は整えられているが、かつてのような威厳や華やかさはない。

 世界が崩壊してから、国家という形は大きく揺らいだ。

 行政機能は途切れ、通信は不安定になり、各地との連絡も満足に取れない。

 法律があっても、それを全国へ届かせる力が失われていた。

 それでも、そこに集まっていた者たちは、かつて国の中心にいた者たちだった。

 桜井晴彦の《天上天下唯我独尊》によって支配されていた、生き残りの議員たち。

 そして、現内閣総理大臣。

 深澤隆史。

 彼もまた、桜井の支配下にあった人物の一人だった。

 本来なら、会議は国会議事堂で行われるべきものだった。

 だが、国会議事堂は東京にある。

 そして今、東京は黒瀬悠真のテリトリーとなっていた。

 東京に入ろうと思えば、悠真側と接触せざるを得ない。

 国会議事堂という象徴的な場所へ戻ることすら、今の彼らには簡単ではなかった。

 そのため、会議は神奈川のこの建物で行われていた。



 深澤は、会議室に集まった面々をゆっくりと見渡した。

 年齢も立場も違う。

 だが、全員に共通しているものがあった。

 後悔。

 自分たちは、桜井に支配されていた。

 命令に逆らえなかった。

 その間に、日本は大きく変わってしまった。

 自分たちは、国を守るどころか、国が壊れていくのを止めることすらできなかった。

 その事実が、重くのしかかっていた。

 深澤は、静かに口を開く。

「私達は、桜井晴彦によって洗脳されていた」

 その言葉に、誰も反論しない。

 反論できる者などいなかった。

 桜井の支配が解けた瞬間、全員が理解した。

 自分たちは、自分の意思で動いているように見えて、肝心なところでは桜井の命令に従わされていた。

 国のため。

 国民のため。

 そう思っていた行動の中に、桜井の意図が入り込んでいた。

 深澤は続ける。

「洗脳されている間に、日本国は大きく変わっている」

 会議室は静まり返っている。

「今更、私達だけで日本国を建て直すのは最早不可能だろう……」

 その言葉は、あまりにも重かった。

 政治家として、簡単に言っていい言葉ではない。

 国を立て直すことを諦めたようにも聞こえる。

 だが、深澤の声には逃げの響きはなかった。

 現実を見つめた上での言葉だった。

「従って、私は最終的には内閣総理大臣の任を降りようと考えている」

 その瞬間、会議室がざわついた。

 椅子が軋む音。

 小さな驚きの声。

 互いに顔を見合わせる議員たち。

 その中の一人が、思わず立ち上がる。

「何故ですか?!」

 声には焦りがあった。

「勿論、日本国自体の緊急事態の最中、私達は何も出来ませんでした」

 議員は拳を握りしめる。

「ですが、何の為に政治を学んできたのですか?!」

 その言葉には、深澤への責めだけではなく、自分自身への怒りも混じっていた。

「桜井の支配下から解放された今こそ、総理の力が必要なのでは……?」

 別の議員も頷く。

 彼らも分かっている。

 自分たちは失敗した。

 何もできなかった。

 しかし、それでも政治家としての役割を捨てていいのか。

 国が壊れた今だからこそ、残った者たちが何かをしなければならないのではないか。

 そんな思いがあった。

 深澤は、怒鳴り返すことも、感情的になることもなかった。

 ただ、静かにその言葉を受け止めた。

 そして、ゆっくりと答える。

「国の機能や法律が失われている今、私達に出来る事は限られている」

 深澤は机の上に置かれた地図を見る。

 道路は寸断されている。

 地方との連絡は途切れている。

 自治体がどれほど残っているのかも分からない。

 かつてのように、総理大臣が指示を出し、各省庁が動き、自治体が対応する。

 そんな仕組みは、もう機能していなかった。

「それに、東京には新しいリーダーが居ると聞く」

 その言葉に、会議室の空気が変わった。

 東京。

 国の中心。

 日本の首都。

 その東京を、今は一人の若者が実質的にまとめている。

 黒瀬悠真。

 噂は聞いていた。

 崩壊した東京を立て直した者。

 人々を受け入れ、街を整えた者。

 そして、桜井晴彦の支配下から、多くの国民を救った者。

「聞く所によると、荒れた東京を立て直し、更に桜井晴彦のスキルの支配下から国民を救ったと聞いている」

 深澤の声には、強い興味が滲んでいた。

「先ずは、現東京のリーダーである黒瀬さんという方に会ってみたい……」

 議員たちは黙り込んだ。

 東京へ行く。

 それは簡単なことではない。

 モンスターがいる。

 道は荒れている。

 そして何より、東京はもはや彼らの知る東京ではない。

 黒瀬悠真という人物が、国をどう見ているのかも分からない。

 彼が協力的なのか。

 それとも、国を不要なものとして切り捨てるのか。

 会ってみなければ分からない。



 沈黙が続く中、一人の男が口を開いた。

「私も総理の意見に賛成です」

 その声は、落ち着いていた。

 会議室の視線が、その人物へ集まる。

 内閣官房長官、曽我英二。

 実質的な国のナンバー2。

 深澤を長く支えてきた男だった。

 曽我は、派手な感情を見せる人物ではない。

 いつも冷静で、状況を整理し、最善の手を探る。

 今も、その目には焦りよりも観察するような静けさがあった。

「東京という日本の中心地を治めた人物は、私も気になります」

 曽我は、机の上に置かれた地図へ視線を落とす。

「我々がここで議論を続けても、現実は変わりません」

 彼は続けた。

「まずは会うべきです」

 その言葉に、何人かの議員が静かに頷いた。

 深澤は曽我を見る。

 曽我も深澤を見る。

 二人の間に、長い説明は必要なかった。

 この国がかつての形を取り戻せるかどうか。

 それはまだ分からない。

 だが、少なくとも今の東京を知らずに何かを決めることはできない。

 会議は、黒瀬悠真に会いに行く方向でまとまった。



 数日後。

 深澤たちは、東京へ向かう準備を整えていた。

 同行するのは、深澤隆史。

 曽我英二。

 三人の議員。

 そして、五人のSP。

 合計十人。

 人数としては少ない。

 しかし、今の状況で大人数を動かすことはできなかった。

 燃料も限られている。

 まともに動く車も少ない。

 道中の安全も保証されていない。

 彼らが使える車は、二台だけだった。

 出発前、深澤はSPたちの前に立った。

 五人のSPは、かつてのようにきっちりとした姿勢で並んでいる。

 だが、彼らもまた疲弊していた。

 世界崩壊後、警護対象を守り続けることは簡単ではなかった。

 モンスターもいる。

 食料も不足する。

 通信も途切れる。

 それでも、彼らは職務を捨てなかった。

 深澤は、そんなSPたちを見て静かに言った。

「私達は最早、人から狙われる事はほとんどないだろう」

 かつてなら、総理大臣という立場には多くの危険があった。

 政治的な敵。

 思想的な敵。

 混乱を狙う者。

 しかし今は違う。

 多くの人々は、自分が生きるだけで精一杯だった。

「今は自分が生きることで精一杯な時代になってしまった……」

 深澤の声には、苦いものが滲んでいる。

「モンスターも沢山居るだろうし、君達は付いてこなくても大丈夫だ」

 SPたちが、わずかに目を動かす。

 深澤は続けた。

「誰も咎めはしない……」

 それは、深澤なりの気遣いだった。

 東京へ向かう道中、何が起こるか分からない。

 モンスターに襲われる可能性もある。

 車が止まれば、徒歩で移動しなければならないかもしれない。

 総理という肩書きに、今どれほどの意味が残っているのかも分からない。

 そのために命を賭けろとは言えなかった。

 しかし、SPの一人がすぐに答えた。

「いえ、これが私達の仕事ですので……」

 別のSPも静かに頷く。

「お気になさらず」

 そこには、迷いがなかった。

 世界が変わっても、彼らの中にはまだ守るべきものが残っている。

 職務。

 誇り。

 そして、守ると決めた相手。

 深澤は少しだけ目を伏せた。

「……ありがとう」

 短い言葉だった。

 だが、その声には深い感謝があった。

 こうして、二台の車は神奈川を出発した。

 目的地は東京。

 黒瀬悠真が治める、新しい東京だった。



 道中は、決して楽ではなかった。

 道路には放置車両が残っている。

 割れたガラス。

 傾いた標識。

 崩れた建物。

 焦げた跡のある道路。

 世界崩壊の爪痕は、いたるところに残っていた。

 車は何度も速度を落とした。

 時には、道を塞ぐ車両を避けるために迂回する必要もあった。

 誰かが住んでいたはずの家。

 開け放たれた店。

 誰もいない交差点。

 深澤は窓の外を見つめていた。

 その景色は、彼が守るべきだった国の現在だった。

 胸が痛む。

 桜井に支配されていたとはいえ、何もできなかった事実は消えない。

 曽我は隣で黙っていた。

 言葉をかけることもできた。

 だが、今は深澤自身がその景色を見て、受け止めるべきだと判断していた。

 幸いなことに、道中でモンスターには遭遇しなかった。

 それが偶然なのか。

 それとも、周辺のモンスターが東京方面へ近づかないようになっているのか。

 深澤たちには分からなかった。

 ただ、車は進んだ。

 荒れた神奈川の道を抜け、東京へ近づいていく。

 その途中から、少しずつ景色が変わり始めた。

 道路の状態が良くなっていく。

 放置車両が減っていく。

 倒れた標識や瓦礫が、端へ寄せられている。

 明らかに、人の手が入っている。

 SPの一人が小さく呟いた。

「……整備されている?」

 深澤も同じことを感じていた。

 崩壊後の世界で、道路が整備されている。

 それだけで異常だった。



 やがて、二台の車は東京と神奈川の境に近づいた。

 そして、全員が息を呑むことになる。

 そこには、巨大な門があった。

 東京南門。

 高く、頑丈な壁が左右へ長く伸びている。

 ただの仮設バリケードではない。

 明らかに計画的に作られた防壁。

 門の周囲には警備が立ち、人の出入りも管理されている。

 外から来る者。

 荷物を運ぶ者。

 作業員らしき者。

 警備担当。

 多くの人間が動いていた。

 しかも、その動きには秩序があった。

 叫び声や混乱はない。

 争いもない。

 皆が自分の役割を理解して動いている。

 門の外観も清潔だった。

 壁には修復された跡がありながらも、崩れたまま放置されている場所は見当たらない。

 周辺の道路も整えられ、瓦礫は片づけられている。

 深澤は車内からその光景を見て、思わず身を乗り出した。

「これは……」

 言葉が途中で止まる。

 東京は、もっと荒れていると思っていた。

 国の中心とはいえ、崩壊後の混乱は避けられない。

 人々は怯え、物資は不足し、治安も悪化している。

 そう考えていた。

 だが、目の前にある東京南門は違った。

 そこには、確かな秩序があった。

 守られている場所。

 管理されている場所。

 そして、人がもう一度生活を取り戻そうとしている場所。

 曽我もまた、静かに目を細めていた。

「想像以上ですね」

 短い言葉だった。

 だが、その声にも驚きがある。

 議員たちは互いに顔を見合わせた。

 SPたちも警戒を解いてはいないが、門の規模と整備状態に驚きを隠せていない。

 深澤は、しばらく東京南門を見つめていた。

 黒瀬悠真。

 荒れた東京を立て直したという若者。

 その噂は、決して誇張ではなかったのかもしれない。

 いや、むしろ聞いていた以上かもしれない。

 深澤の胸の中に、久し振りに小さな期待が灯った。

「これは……凄い」

 彼は静かに呟いた。

 そして、わずかに表情を緩める。

「俄然、楽しみになってきた……」

 二台の車は、東京南門の前でゆっくりと止まった。

 新しい東京。

 そして、その中心にいる黒瀬悠真。

 国の中枢にいた者たちは、ついにその門の前へ辿り着いた。



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