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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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天界の賭け

第117話です。宜しくお願い致します。


第二の厄災は終わった。

 桜井晴彦は死に、SPМの内部崩壊は幕を閉じた。

 避難民たちは東京へ移され、SPМの隊員たちは、自分たちがしてしまったことと向き合い始めた。

 東京には、再び慌ただしい日常が戻りつつあった。

 怪我人の治療。

 避難民の受け入れ。

 住居の確保。

 食料の準備。

 子どもたちのケア。

 SPМ隊員たちの扱い。

 やるべきことは、山のようにあった。

 それでも、悠真たちは前へ進んでいた。

 第二の厄災を乗り越えた。

 そう思っていた。

 だが、この世界を見ている者たちは、悠真たちだけではなかった。



 そこは、同じ世界ではなかった。

 悠真たちが生きる崩壊した世界の、遥か上。

 人間の常識では、到底たどり着けない場所。

 天界。

 そう呼ぶしかない空間だった。

 雲の上に浮かぶような白亜の宮殿。

 金色の柱が並ぶ巨大な会場。

 天井は見えないほど高く、そこには星々のような光が瞬いている。

 会場の中央には、巨大な円形の舞台があった。

 その周囲を取り囲むように、無数の席が並んでいる。

 だが、そこに座っている者たちは、人間ではなかった。

 神のように荘厳な姿をした者。

 天使のような白い翼を持つ者。

 反対に、黒い翼と角を持つ悪魔のような存在。

 道化師の格好をした者。

 獣の頭を持つ者。

 水のように姿を変える者。

 ありとあらゆる異形が、その会場に集っていた。

 彼らはそれぞれ、手元にチップのようなものを持っている。

 それを投げ、積み上げ、笑い、叫ぶ。

 その様子は、神聖というよりも、賭場に近かった。



 高い席の上に、天使のような羽を生やした男が立っていた。

 男は両手を広げ、会場全体へ声を張り上げる。

「さぁ、まだ間に合いますよ!」

 その声は、妙に明るかった。

「皆さん、賭けた賭けた!!」

 会場がどっと沸く。

 観客たちは、舞台の上に浮かぶ巨大なモニターを見ながら、それぞれにチップを動かしていた。

「俺はあっちの世界に賭けるぜ」

「えー、もう崩壊寸前じゃない……」

「でも、大穴狙いなら悪くないだろ?」

「私はあの世界が大本命かしらね!」

「どうして?」

「だって、あのフトゥーロが出場している世界なんだもの……」

 その言葉に、会場の一部がざわついた。

 フトゥーロ。

 その名を聞いた者たちが、舞台上のモニターへ視線を向ける。

 そこには、いくつもの世界が映し出されていた。

 崩壊していく世界。

 戦争に飲み込まれる世界。

 神に見放されたような世界。

 それでも必死に生き延びようとする者たちがいる世界。

 その中の一つ。

 悠真たちの世界も、そこに映っていた。

 そして、出場者として表示されている者たちの中に、一人の道化師がいた。

 派手な衣装。

 人を食ったような笑み。

 芝居がかった仕草。

 悠真たちに、三つの厄災を告げた存在。

 フトゥーロ。

 フトゥーロは、観客たちの視線に気づいているのか、モニター越しに手を振っていた。



 その隣には、別の出場者がいた。

 黒と紫を基調にした服装。

 長い髪。

 薄く笑う口元。

 その雰囲気は、神でも天使でもない。

 どこか悪魔に近い。

 その男は、不満そうにフトゥーロを見た。

「フトゥーロはズルいじゃないか……」

 男は肩をすくめる。

「お前は未来が見えるんだから、勝ったも同然だろう……」

 フトゥーロは、楽しそうに目を細めた。

「いやいや、未来は確定じゃないし、毎回見える訳ではない……」

 軽い口調だった。

「私の能力も、そんなに使い勝手に良いものではないよ」

 その言葉を、どこまで信じていいのか。

 少なくとも、隣の男はまったく信じていないようだった。

 男は鼻で笑う。

「よく言う。こっちは定期的に助けには行っているが、俺の世界もそろそろヤバそうだしなぁ……」

 フトゥーロは、男を横目で見る。

「それに、アルゴラは私の世界にちょっかいを出していたじゃないかね?」

 アルゴラと呼ばれた男は、少しだけ笑った。

「いや、ちょっとシャドウウルフで遊んでいただけじゃないか」

 フトゥーロの笑みが、わずかに深くなる。

「いや、未来ちゃんが可哀想だったよ」

 その言葉だけを聞けば、同情しているようにも聞こえる。

 だが、フトゥーロの表情には、温かさよりも観察者としての愉快さが滲んでいた。

「自分の信じていた家族のような存在がお金で動いていて、しかも裏切っていたんだから……」

 アルゴラは、呆れたようにフトゥーロを見る。

「可哀想だなんて、お前にそんな感情はないだろ」

 そして、口元を歪めた。

「一番、胸糞悪いちょっかいを色んな世界にしているのはお前なんだから……」

 フトゥーロは否定しなかった。

 ただ、静かな笑みを浮かべている。



 会場の騒ぎは続いていた。

 チップが積まれていく。

 歓声が飛び交う。

 誰かが世界の終わりに賭け、誰かが奇跡の逆転に賭ける。

 悠真たちが必死に乗り越えてきた厄災も、ここでは賭けの対象でしかない。

 それでもフトゥーロだけは、どこか楽しそうに悠真たちの世界を見ていた。

「そろそろ第二の厄災も終わった事だし」

 フトゥーロは軽く帽子を整える。

「悠真君達の元に行ってくるかなぁ……」

 その声は、誰に向けたものでもない。

 だが、アルゴラはその言葉を聞き、つまらなさそうに息を吐いた。

「また余計なことをする気か?」

 フトゥーロは振り返り、にこりと笑った。

「余計なことかどうかは、彼ら次第だよ」

 そのまま、フトゥーロの姿はふっと薄れていった。

 会場の喧騒だけが、天界に残る。

 悠真たちの知らない場所で、悠真たちの世界はまだ見られていた。

 そして、賭けられていた。



 第二の厄災が終わってから、二週間が経った。

 東京には、少しずつ日常が戻り始めていた。

 もちろん、すべてが元通りになったわけではない。

 SPМ本部から受け入れた避難民たちの傷は深かった。

 身体の傷は、浮田や安藤たちの治療で少しずつ癒えていく。

 栄養状態の悪かった者たちには、消化にいい食事が用意された。

 眠れない者には、安全な部屋と、そばに付き添う人員が用意された。

 子どもたちには、なるべく怖い記憶を刺激しないように、静かな場所が与えられた。

 だが、心の傷は簡単には治らない。

 SPМ隊員の姿を見るだけで震える者もいる。

 夜中にうなされる者もいる。

 突然泣き出す者もいる。

 それでも、東京は彼らを受け入れた。

 働き始める者がいた。

 まだ体力は戻っていなくても、少しでも何かをしたいと言って、軽作業を手伝う者がいた。

 学校に通い始める子どももいた。

 最初は教室の隅で黙っているだけだった子どもが、少しずつ他の子どもと話すようになった。

 夢に向かって勉強する者もいた。

 崩壊した世界でも、医療を学びたいと言う者。

 料理を覚えたいと言う者。

 建築や農業に関わりたいと言う者。

 すぐには立ち直れない者もいる。

 むしろ、そちらの方が多かった。

 だが、それでも東京の日常は、ゆっくりと彼らを包み込んでいった。

 朝になれば食事が出る。

 夜になれば眠れる場所がある。

 怪我をすれば治療を受けられる。

 誰かに怯えながら膝をつく必要はない。

 そんな当たり前のことが、彼らにとっては救いだった。



 悠真は、その様子を見ていた。

 忙しさは相変わらずだった。

 いや、むしろ以前より忙しくなっている。

 避難民の受け入れ。

 SPМの元隊員たちの扱い。

 東京の防衛体制の見直し。

 第三の厄災への備え。

 やるべきことはいくらでもある。

 だが、あの頃のような孤独感はなかった。

 周囲には仲間がいる。

 陸斗も、未来も、浮田も、ルドルフも、阿川も、色谷も、芹沢も、コン太も。

 チャン爺も、一葉たちも、アルたちも。

 全員が、それぞれの場所で動いている。

 そんな中、東京へ戻ってきた直後、悠真たちを驚かせる報告があった。

 それを告げたのは、陸斗だった。



 中央会館の一室。

 悠真、陸斗、美咲が向かい合っていた。

 陸斗は珍しく、少し言いにくそうな顔をしている。

「悠真さん、実は……」

 悠真は、嫌な予感を覚えた。

 陸斗がこんな顔をする時は、だいたい何か大きなことが起きている。

「どうした?」

 陸斗は隣にいる美咲を見る。

 美咲は少し緊張した様子で、両手を胸の前で握っていた。

 そして、陸斗は言った。

「美咲が、超人族になったみたいなんです……」

 悠真は、一瞬言葉を失った。

「え?!」

 思わず声が大きくなる。

「何故、超人族に?!」

 美咲はびくりと肩を揺らした。

 悠真はすぐに表情を緩める。

 責めたわけではない。

 ただ、本当に驚いたのだ。

 美咲はまだ幼い。

 これまで悠真たちは、なるべく美咲を危険から遠ざけようとしてきた。

 それなのに、美咲まで超人族になった。

 美咲は少しだけ俯いた後、顔を上げる。

「いつもわたしだけお留守番で何も出来ないし……」

 その声は小さい。

 だが、はっきりしていた。

「みんなのピンチって聞いてたから、助けたかったの!」

 悠真は言葉に詰まった。

 美咲なりに、ずっと思っていたのだ。

 陸斗は戦える。

 悠真たちは外へ出る。

 未来も、浮田も、皆それぞれできることがある。

 けれど、美咲はいつも待つ側だった。

 それが寂しかったのかもしれない。

 悔しかったのかもしれない。

 怖かったのかもしれない。

 そして、今回のように悠真たちが危険に陥ったと知って、美咲も助けたいと強く願った。

 その思いが、超人族への変化に繋がったのか。

 悠真には分からない。

 だが、美咲の目は真剣だった。

 悠真は深く息を吐いた。

「そんな、美咲まで超人族になるなんて……」

 驚きと不安が混じった声だった。

 だが、もう起きてしまったことをなかったことにはできない。

 悠真は美咲を見る。

「ステータス、開けるか?」

 美咲はこくりと頷いた。

「うん!」

 美咲は小さな手を前に出した。

 そして、ステータスを開く。

 半透明の画面が、美咲の前に浮かび上がった。

 悠真と陸斗は、それを覗き込む。

 そこに表示されていたスキル名を見て、二人は同時に固まった。

 スキル名。

《システム》

 ただ、それだけだった。

 それ以外の項目は、すべて文字化けしていた。

 説明。

 レベル。

 効果。

 条件。

 本来なら表示されるはずの情報が、崩れた記号と読めない文字で埋め尽くされている。

 悠真は眉をひそめた。

「何だ、このスキル……」

 今まで、いろいろなスキルを見てきた。

 自分の《日常生活》も大概おかしなスキルだった。

 未来の《動植物愛護》も、陸斗の《手遊び》も、浮田の《手術室》も、かなり特殊だ。

 だが、少なくとも説明は読めた。

 何ができるのか、ある程度は分かった。

 しかし、美咲のスキルは違う。

 名前以外、何も分からない。

 悠真は画面を見つめたまま呟く。

「どんなスキルなのか、全く分からない……」

 そして、美咲へ視線を向ける。

「美咲は、このスキル使えないのか?」

 美咲は少し考えるように首を傾げた。

 そして、不思議そうに答える。

「何か、今は使う時じゃないの!」

 悠真は目を細める。

「使う時じゃない……?」

 美咲はこくこくと頷いた。

「何となく、そう思うんだよね!」

 美咲自身にも、詳しいことは分かっていないようだった。

 だが、ただ使えないのではない。

 使えないというより、使うべきではないと感じている。

 美咲の言葉からは、そんな印象を受けた。

 悠真は考え込む。

《システム》。

 あまりにも抽象的な名前だ。

 世界の仕組みに関わるようにも聞こえる。

 ステータスそのものに関わるようにも聞こえる。

 あるいは、スキルという概念そのものに繋がっているのかもしれない。

 だが、今の段階では何も分からない。



 後日、悠真は今井翔太にも確認を頼んだ。

 翔太の《水晶玉》なら、対象の情報を詳しく見ることができる。

 桜井の《天上天下唯我独尊》の詳細を見抜いたスキルだ。

 美咲の《システム》についても、何か分かるかもしれない。

 しかし、結果は同じだった。

 今井翔太は、美咲のステータスを見た後、困ったように首を横へ振った。

「スキル名以外、見えない……」

 翔太の声にも戸惑いがあった。

「こんなの、初めてだ」

 水晶玉に映った情報も、文字化けしていた。

 分かったのは、スキル名が《システム》であることだけ。

 効果も条件も、発動方法も分からない。

 悠真は、改めて美咲を見る。

 美咲は不安そうにしているわけではなかった。

 むしろ、本人はよく分からないながらも、どこか落ち着いている。

 それが逆に、不気味だった。

 美咲が何かに選ばれたのか。

 それとも、世界が何かを始めようとしているのか。

 悠真には分からない。

 ただ、胸の奥に小さな不安が残った。

 今まで、こんなスキルは見たことがなかった。

《システム》とはどういう意味なのか。

 文字化けしているのは、なぜなのか。

 美咲が言った「今は使う時じゃない」とは、何を意味しているのか。

 第二の厄災は終わった。

 だが、すべてが終わったわけではない。

 悠真は、美咲に何も起こらなければいいと願いながら、読めないステータス画面を見つめていた。




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