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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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116/119

第2の厄災の終結

第116話です。宜しくお願い致します。


足元が消えた。

 桜井の自室の床が開き、その場にいた全員の身体が、暗い地下へと投げ出された。

 椅子も、机も、食器も、広げられていた地図も、何もかもが一緒になって落ちていく。

「うわっ……!」

 誰かの叫び声が、暗闇の中に響いた。

 重力に引っ張られる感覚。

 腹の底が浮くような感覚。

 耳元を風が裂いていく音。

 悠真は咄嗟に周囲を見た。

 未来。

 陸斗。

 浮田。

 ルドルフ。

 阿川。

 色谷。

 芹沢。

 コン太。

 今井兄弟。

 チャン爺。

 SPМの隊長、副隊長たち。

 そして、桜井。

 全員が落ちていた。

 このまま底に叩きつけられれば、無事では済まない。

 悠真は反射的にスキルを発動しようとした。

 だが、空中では足場がない。

 落下の恐怖と風圧で、一瞬だけ思考が乱れる。


 ◇


 そんな中、誰よりも早く反応したのは未来だった。

 未来は落下しながらも、必死に手を伸ばした。

「スキル、動植物愛護!」

 その声が、暗闇の中で響く。

「動植物図鑑でレッドワイバーンを召喚!!」

 次の瞬間、暗い空間に赤い光がいくつも弾けた。

 落下する悠真たちの周囲に、巨大な影が次々と現れる。

 赤い鱗。

 鋭い爪。

 大きく広がる翼。

 レッドワイバーン。

 それも一体ではない。

 複数体のレッドワイバーンが、未来の声に応えるように召喚されていた。

 未来はさらに叫ぶ。

「私達を助けて!!」

 その命令に、レッドワイバーンたちは即座に動いた。

 羽ばたきが地下の空気を叩く。

 悠真の身体が落ちていく先に、一体のレッドワイバーンが滑り込んだ。

「ぐっ……!」

 悠真は背中から受け止められた。

 硬い鱗の感触。

 強い衝撃。

 それでも、地面に叩きつけられるよりは遥かにましだった。

 悠真は必死にレッドワイバーンの背にしがみつく。

「助かった……!」


 ◇


 周囲を見ると、他の仲間たちも次々に助けられていた。

 陸斗は別のレッドワイバーンの背に落ち、未来自身も翼に包まれるようにして受け止められている。

 浮田は派手に転がりながらも何とか背に乗り、ルドルフはレッドワイバーンの首元にしがみついていた。

 阿川と色谷は同じ個体に受け止められ、芹沢は悲鳴を上げながらも無事だった。

 コン太はというと、なぜかレッドワイバーンの脚に尻尾を引っかけられるような形でぶら下がっていた。

「ちょっ、ちょっと待つコン! 助かってるけど助かり方が怖いコン!!」

 こんな状況でも、コン太はコン太だった。

 チャン爺は空中で体勢を整え、まるで最初からそこに着地する予定だったかのように、優雅にレッドワイバーンの背へ降り立つ。

 凛堂、柿原、門脇、犬飼、影山兄弟、世良、安藤たちも、それぞれ別のレッドワイバーンに助けられていた。

 そして、桜井も。

 一体のレッドワイバーンが、落下する桜井を背に受け止めていた。

 未来は、桜井だけを見捨てなかった。

 悠真たちは、桜井を殺すために来たわけではない。

 捕らえて、罪を償わせるために来た。

 だから、未来のレッドワイバーンは、桜井も助けたのだ。


 ◇


 だが、レッドワイバーンの背の上にいる桜井は、もう抵抗する気配すら見せなかった。

 虚ろな目で、悠真たちを見ている。

 いや、本当に見ているのかどうかさえ分からなかった。

 ただ、空っぽの目だった。

 全てを失った目。

 支配が崩れた。

 命令はもう届かない。

 築こうとしていた超人族絶対至上主義も、目の前で砕かれた。

 桜井は、悠真たちを見た。

 そして、ほんの少しだけ笑った。

 勝ち誇った笑みではない。

 悠真を見下していた時のような、あの薄気味悪い余裕でもない。

 どこか物悲しい、空っぽな笑みだった。


「桜井――」


 悠真が声をかけようとした、その瞬間。

 桜井は、レッドワイバーンの背から飛び降りた。

「なっ……!」

 悠真は思わず身を乗り出す。

 だが、間に合わない。

 桜井の身体は、再び暗い地下へと落ちていく。

 未来もすぐにレッドワイバーンへ指示を出そうとした。

 しかし、桜井は落ちる直前、こちらを見ていた。

 まるで、もう助けなくていいと言っているように。

 そして、地下のさらに下。

 そこには、蠢くものたちがいた。

 ポイズンフロッグ。

 アイスイエティー。

 以前、未来がこの地下で倒していたモンスターと同じ種の群れ。

 地下には、まだ大量のモンスターが残っていた。

 特に巨大なポイズンフロッグが、ぬめった大きな口を開けていた。

 桜井の身体は、その口の中へ落ちた。

 一瞬だった。

 ポイズンフロッグの口が閉じる。

 桜井晴彦は、そのまま丸呑みにされた。

 声もなかった。

 叫びもなかった。

 まるで、最初からそこへ落ちることが決まっていたかのように、あっけなく消えた。


 ◇


 レッドワイバーンの背の上で、悠真は言葉を失っていた。

 倒したわけではない。

 捕らえたわけでもない。

 桜井は、自分から落ちた。

 そして、死んだ。

 最後に見せた笑顔が、悠真の頭から離れなかった。

 桜井は、落ちる瞬間、確かに笑っていた。

 だが、その笑顔は妙に物悲しかった。

 悠真は、桜井を許すつもりなどなかった。

 桜井は多くの人を傷つけた。

 SPМを歪めた。

 避難民を奴隷のように扱った。

 犬飼や門脇たちを利用した。

 未来や陸斗、浮田、ルドルフたちを支配した。

 悠真自身も、桜井の命令で仲間を裏切る側に回った。

 だから、本当ならちゃんと捕らえるべきだった。

 生きて罪を償わせるべきだった。

 だが、桜井は死んだ。

 もう問いただすこともできない。

 何がここまで桜井を歪ませたのか。

 どんな人生を送れば、あれほど多くの人を支配し、踏みにじるような人間になるのか。

 それを知る術は、もう悠真にはなかった。

 悠真は地下の底を見下ろしながら、ぽつりと呟いた。

「……これで終わってしまったのか」

 その声は、思ったよりも低く響いた。

「何だか終わりはあっけなかったな……」

 未来が、悠真の近くまでレッドワイバーンを寄せる。

 未来も地下の底を見下ろしていた。

 その表情は複雑だった。

「でも、これでみんな支配から完全に解放されたわ……」

 悠真はしばらく黙っていた。

 そして、ゆっくり頷く。

「そうだな……」

 桜井が死んだ。

 それにより、まだ支配下にあったわずかな隊員たちも、全員解放されたはずだ。

 第二の厄災。

 内部崩壊。

 その原因だった桜井晴彦は、もういない。

 だが、すっきりした勝利とは言えなかった。

 助かった。

 終わった。

 それは事実だ。

 けれど、地下の底に消えた桜井の笑みは、どうしても悠真の胸の奥に引っかかっていた。


 ◇


 その一連の出来事を、誰にも気づかれない場所から見ていた人物がいた。

 特殊隊副隊長、佐々木金次郎。

 佐々木は《幽体離脱》で霊体化した状態のまま、離れた場所から桜井の最期を眺めていた。

 悠真たちがレッドワイバーンに助けられ、桜井が落ち、ポイズンフロッグに呑み込まれるところまで。

 すべてを見届けていた。

 そして、佐々木は笑っていた。

「ククククッ、桜井も死んだし、ここには用はないんだなぁ」

 声は、誰にも届かない。

 佐々木は霊体化した身体のまま、宙を漂う。

「先ずは真面目に報告でもしに行くとしますか……ククククッ」

 佐々木はそのまま、自分の身体がある場所へ戻っていった。

 そして、霊体化を解き、肉体へ戻る。

 その後、佐々木金次郎は静かにその場を後にした。

 桜井が死んだ後も、佐々木金次郎だけは完全には終わっていなかった。

 だが、この時の悠真たちはまだ知らない。

 第二の厄災が終わったと思っていた彼らは、佐々木の存在に気づくことなく、地上へ戻っていった。

 そして、実際。

 この時点で、第二の厄災である内部崩壊は幕を閉じたのだった。


 ◇


 地上へ戻った後、SPМ本部の空気は完全に変わっていた。

 桜井が死んだことで、支配下に残っていた者たちも全員解放された。

 突然正気に戻った者たちは混乱していたが、すでに事情を理解している隊員たちが説明して回った。

 しかし、問題はそれで終わりではない。

 むしろ、本当に向き合わなければならないのはここからだった。

 SPМが何をしたのか。

 避難民たちに何をしてしまったのか。

 たとえ桜井に操られていたとはいえ、消えるものではない。

 大広間には、避難民たちが集まっていた。

 いや、今はもう集められたというより、自由にそこにいた。

 鎖は外されている。

 無理やり膝をつかされている者はいない。

 殴られている者もいない。

 だが、だからといって恐怖が消えるわけではなかった。

 避難民たちは、SPМ隊員たちを見ていた。

 怯える者。

 怒りを露わにする者。

 涙を流す者。

 何も言えず震えている者。

 その感情は一つではなかった。

 恐怖。

 不安。

 怒り。

 憎しみ。

 困惑。

 場は、今にも崩れそうなほど張り詰めていた。


 ◇


 そこに、SPМの隊長、副隊長、一般隊員たちが全員並んだ。

 最前列に立ったのは門脇だった。

 門脇誠司。

 戦術隊隊長。

 犬飼の上司でもあり、SPМの中でも発言力のある人物だ。

 門脇は避難民たちの前へ進み出ると、深く息を吸った。

 そして、頭を下げた。

「この度は、桜井に操られていたとはいえ、こんな仕打ちをしてしまい本当に申し訳ありませんでした」

 その言葉と同時に、SPМ隊員全員が深く頭を下げた。

 誰一人、顔を上げない。

 15秒ほどだった。

 だが、その時間はとても長く感じられた。

 避難民たちは黙っていた。

 怒鳴る者はいなかった。

 だが、それは許したからではない。

 あまりにも感情が複雑すぎて、すぐに言葉が出なかったのだ。

 門脇はゆっくりと頭を上げた。

 その表情に、いつもの厳しさはあった。

 だが、それ以上に深い後悔が見えた。

「償いきれないことは百も承知です」

 門脇は続ける。

「これをもって、SPМは解散します」

 大広間がざわついた。

 避難民だけではない。

 SPМ隊員の中にも、小さく息を呑む者がいた。

 だが、誰も異議を唱えなかった。

 門脇はさらに言う。

「しかし、これからは一人の人間として、皆さんに少しでも罪を償えるよう、行動で示していこうと思います」

 その声は、はっきりしていた。

「力を持った者の責任を、当初掲げていた避難民を救うという理念のもと、もう一度果たしていきます」

 SPМは、本来、避難民を救うための組織だった。

 モンスターから人を守る。

 逃げ場のない人を助ける。

 崩壊した世界で、生きる場所を作る。

 その理念が、桜井によって歪められた。

 いや、桜井だけではない。

 隊員たちの中にあった傲慢さ。

 自分たちは特別だという意識。

 救ってやっているという思い。

 それらも、歪みに拍車をかけた。

 だから門脇は、SPМという名前を捨てると言った。

 組織として続けるのではなく、一人の人間として償う。

 その言葉を、避難民たちは複雑な顔で聞いていた。



 許せるわけがない。

 それは当然だった。

 鎖に繋がれた。

 殴られた。

 罵られた。

 椅子のように扱われた。

 人として扱われなかった。

 頭を下げられたからといって、それが消えるはずがない。

 だが同時に、避難民たちの中には、洗脳という話が本当だったのかもしれないと思い始めている者もいた。

 実際、隊員たちの様子は変わっていた。

 昨日までとは目が違う。

 住民を見下すような空気も消えている。

 それが演技なのか、本心なのか。

 すぐには分からない。

 では、この怒りは誰に向ければいいのか。

 桜井は死んだ。

 しかし、傷つけられた事実は残っている。

 操られていたと言われても、殴った手は隊員たちのものだった。

 苦しんだ時間は、本物だった。

 大広間には、行き場のない感情が渦巻いていた。

 その時、一人の避難民が口を開いた。

「俺達はずっとお前等を見てるからな……」

 低い声だった。

 怒りを押し殺したような声。

 一見すれば、それはただの恨み言に聞こえた。

 だが、別の意味もあるように感じられた。

 行動で示すと言ったな。

 なら、本当に示してみろ。

 今度はしっかりやれよ。

 許したわけではない。

 納得したわけでもない。

 それでも、完全に拒絶するのではなく、見続ける。

 それは、今の避難民たちにできる最大限の譲歩だったのかもしれない。

 門脇は、静かに頭を下げた。

 それに続き、SPМ全隊員がもう一度深く頭を下げる。

 悠真は、その光景を黙って見ていた。

 これで全てが解決するわけではない。

 傷ついた人たちがすぐに笑えるわけでもない。

 SPМ隊員たちの罪が消えるわけでもない。

 だが、ここから始めるしかない。

 償うなら、言葉ではなく行動で。

 避難民たちが見ている前で、ずっと。


 ◇


 その後、悠真たちは避難民たちを東京で受け入れることにした。

 多くの人が、治療と休養を必要としていた。

 身体に傷を負っている人。

 栄養状態が悪い人。

 眠れていない人。

 心が限界に近い人。

 このままSPМ本部に残しておくわけにはいかない。

 東京には、浮田を中心とした医療体制がある。

 環境維持もある。

 食事も用意できる。

 清潔な場所で眠ることもできる。

 少なくとも今は、東京で休ませるべきだった。

 悠真は門脇たちにも手伝わせた。

 償いというなら、まずは目の前の人を運ぶところからだ。

 怪我人の搬送。

 荷物の整理。

 子どもたちの誘導。

 怯えている人への説明。

 SPМ隊員たちは、避難民たちに睨まれながらも黙って動いた。

 それでいい。

 すぐに信頼される必要はない。

 むしろ、信頼されないところから始めるべきだった。

 悠真たちは、避難民たちを東京へ移送した。

 東京の病院では、浮田と安藤がすぐに受け入れ態勢を整えた。

 チャン爺や一葉たちも動いてくれた。

 温かい食事。

 清潔な布団。

 安心して眠れる部屋。

 それらを用意していく中で、少しだけ表情を緩める避難民もいた。

 もちろん、まだ全員が安心できるわけではない。

 あれだけのことがあった直後だ。

 簡単に笑顔になれるはずがない。

 それでも、一歩だけ前へ進んだ。

 第二の厄災は終わった。

 だが、残された傷と向き合う日々は、ここから始まるのだった。



遂に第2の厄災編終わりましたね……。

当初は15話くらいになるかなぁ〜と何となく思っていたのですが、あら不思議。

30話以上費しました。

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