表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
115/124

助けてくれる仲間が居る

第115話です。宜しくお願い致します。



警報音が、SPМ本部の中に鳴り響いていた。

 ピーッ、ピーッ、ピーッ。

 耳障りな音が、桜井の自室の壁に反響する。

 桜井は喉元にチャン爺の刃を突きつけられたまま、それでも口元に笑みを浮かべていた。

 この音が鳴れば、必ず来る。

 そう命令してある。

 自分に危険が迫った時は、何よりも最優先で自分を助けること。

 祝勝会の場で、全員にそう命じた。

 SPМの隊長、副隊長たち。

 そして、東京側の主要メンバーたち。

 彼らは自分の命令に逆らえない。

 たとえ悠真の支配が解けたとしても、他の者たちが残っていれば問題ない。

 そう思っていた。

 桜井は、悠真を睨みながら言った。

「すぐに隊長達が助けに来るように命令してある」

 悠真は、桜井の言葉を聞いても慌てなかった。

 むしろ、少しだけ呆れたように息を吐く。

「へぇ……」

 その反応に、桜井の眉がわずかに動いた。

 なぜ慌てない。

 なぜ怯えない。

 警報は鳴っている。

 隊長たちは来る。

 桜井の危機を察知し、自分を助けるために動くはずだ。

 そうでなければおかしい。


 ◇


 その時、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。

 一人ではない。

 複数の足音。

 桜井の口元が、さらに大きく歪む。

「ほら、来たぞ……」

 扉が開いた。

 部屋の中へ入ってきたのは、SPМの隊長、副隊長たちだった。

 凛堂明日香。

 柿原紅蓮。

 門脇誠司。

 犬飼守。

 影山駿。

 影山潤。

 世良芽衣。

 安藤桃香。

 かつて、桜井の命令に従い、東京のメンバーを追い詰めた者たち。

 それぞれが強力なスキルを持ち、まともに戦えば危険極まりない相手たち。

 桜井は勝ち誇ったように笑った。

「ほら来たぞ!」

 喉元に刃があるにも関わらず、桜井の声には余裕が戻っていた。

 彼にとって、この瞬間こそ逆転の合図だった。

 桜井は命令する。

「オイ、先ずは俺の喉元に剣を突き立てているこいつを始末しろ」

 その言葉が、部屋の中に響いた。

 しかし。

 誰も動かなかった。

 チャン爺の刃は、桜井の喉元に突きつけられたまま。

 悠真は椅子に座ったまま。

 隊長たちは、誰一人として桜井の命令に従おうとしない。

 凛堂明日香は、口元に手を当てて大きくあくびをした。

「ふぁ……」

 まるで、退屈な会議に呼ばれたような態度だった。

 柿原紅蓮は、隣にいた犬飼と何やら小声で話している。

「で、結局あの火炎瓶の使い方はどう思う?」

「いや、今それ話す場面じゃないっすよ……と言いたい所なんすけど、まぁ正直、悪くなかったっすね」

「だろ?」

「褒めたら調子乗るから言いたくないんすけどね」

 二人は、桜井の命令などまるで聞こえていないかのように談笑していた。

 門脇誠司は、腕を組みながら桜井を見ていた。

 その目には、かつてのような従順さはない。

 あるのは、はっきりとした軽蔑だった。

「……見苦しいな」

 短い一言。

 だが、その言葉だけで桜井の顔が強張る。

 影山駿は、隣にいる弟の影山潤の肩に手を置いていた。

 影山潤は少し複雑そうな顔をしている。

「兄さん……俺、今回ほとんど何もしていないんだけど……」

「気にするな、潤」

 影山駿は真面目な顔で励ます。

「次は必ず出番がある」

「それ、慰めになってるのか……?」

「なっている」

「本当に?」

「多分な」

 兄弟のやり取りは、緊迫した部屋の空気から少しだけ浮いていた。

 世良芽衣は、頬を膨らませながら自分の髪を触っている。

「もう、昨日から色々ありすぎて本当に嫌……」

 そして、周囲の空気などお構いなしに言った。

「今すぐお風呂に入りたいんだけど」

 安藤桃香がすぐに叱る。

「少しは空気を読んで下さい!」

「だって、気持ち悪いんだもん」

「気持ちは分かりますけど、今それを言う場面ではありません!」

 誰も桜井を助けない。

 誰もチャン爺を止めない。

 誰も桜井の命令に従わない。


 ◇


 桜井の顔が、少しずつ引きつっていく。

「……何故、私を無視する」

 声が低くなる。

 その目が、隊長たちを一人ずつ見た。

 凛堂。

 柿原。

 門脇。

 犬飼。

 影山兄弟。

 世良。

 安藤。

 全員がそこにいる。

 全員が、自分の命令を聞くはずだった。

 しかし、誰も従わない。

 桜井の喉が鳴った。

「まさか……」

 悠真が静かに言う。

「そう、そのまさかだよ……」

 桜井が悠真を見る。

 悠真は椅子から立ち上がった。

 その表情に、もう先ほどまでの笑みはない。

 あるのは、冷静な怒りと、確かな決意だった。

「隊長達も全員、お前の支配下から俺の仲間が解いてくれている」

 桜井の顔が歪んだ。

「クソがっ!!」

 怒号が部屋を震わせる。

 それまで保っていた余裕が、完全に剥がれ落ちた。

「私がどれだけ苦労して、この超人族絶対至上主義計画を進めて来たと思っているんだ!!」

 桜井は叫んだ。

 喉元に刃があることも忘れたように。

「全て、君のせいだ!!」

 その指先が、悠真へ向けられる。

「よくも台無しにしてくれたな!!」

 悠真は、桜井の怒りを受け止めるように立っていた。

 そして、少しだけ苦笑する。

「俺が台無しにしたぜっ! って言いたいのは山々なんだけどさ」

 悠真は首を横に振った。

「俺はまんまとお前の罠に引っかかって負けてたんだ」

 その言葉に、部屋の空気が少し変わる。

 悠真は自分の敗北を誤魔化さなかった。

 犬飼を信じた。

 SPМを助けようとした。

 そして、その善意を利用され、桜井に支配された。

 悠真自身は、一度完全に負けていた。

 それは事実だった。

 だが、だからこそ。

 悠真は桜井を見据える。

「でも、俺が唯一お前に勝っていた事は、命令しなくても助けてくれる仲間が居たことかな……」


 ◇


 その言葉と同時に、また扉が開いた。

 今度入ってきたのは、東京メンバーだった。

 陸斗。

 未来。

 浮田。

 ルドルフ。

 阿川。

 色谷。

 芹沢。

 コン太。

 今井翔太。

 今井恭太。

 さらに、チャン爺は既に桜井の喉元へ刃を突きつけている。

 皆が正気に戻っていた。

 誰一人、桜井の命令で動いていない。

 誰一人、桜井を守ろうとしていない。

 陸斗は悠真の隣に立つ。

 未来も、強い目で桜井を見る。

 浮田は腕を組み、桜井を睨む。

 ルドルフは静かに息を吐き、阿川と色谷は周囲を警戒している。

 芹沢はコン太の肩に手を置いていた。

 コン太は胸を張り、今井兄弟は少し緊張しながらも真っ直ぐ桜井を見ている。

 悠真はその全員を見た。

 そして、桜井へ言う。

「これが、かけがえのない、俺の大切な仲間達だ」

 桜井の表情が、さらに歪む。

 仲間。

 その言葉が、桜井には耐えられなかった。

 命令ではなく、絆で動く者たち。

 支配ではなく、自分の意思で助けに来る者たち。

 桜井が築こうとしたものとは、正反対の関係。

 それを見せつけられた瞬間、桜井の中で何かが壊れた。

「うるさァァァーい!!!」

 それは、今まで聞いたことのない桜井の叫びだった。

 優雅でもない。

 余裕もない。

 理屈もない。

 まるで、欲しいものを奪われた子供のような叫びだった。

 その叫びと共に、桜井の意識は過去へ沈んでいった。


 ◇


 桜井晴彦は、優しい母親と父親のもとに生まれた。

 一人息子だった。

 両親は、桜井をとても大切に育てた。

 少し過保護なくらいだった。

 欲しいものがあれば、できる範囲で買ってくれた。

 勉強を頑張れば、たくさん褒めてくれた。

 何かに失敗しても、母親は優しく慰め、父親は笑いながら背中を叩いてくれた。

 桜井にとって、家は安心できる場所だった。

 自分は愛されている。

 自分は大切にされている。

 幼い頃の桜井は、疑うことなくそう思っていた。

 だが、高校生の時、父親が交通事故で亡くなった。

 突然だった。

 朝、いつものように家を出た父親は、二度と帰ってこなかった。

 その日を境に、家の空気は変わった。

 母親は、父親の死のショックから体調を崩すようになった。

 食事の量が減った。

 笑顔が減った。

 眠れない夜が増えた。

 それでも母親は、桜井の前では笑おうとした。

 けれど、桜井には分かっていた。

 母親は壊れかけている。

 だから、桜井は思った。

 自分が早く立派にならなければならない。

 勉強は得意だった。

 成績も良かった。

 本当なら、大学に行く予定だった。

 だが、父親が亡くなり、母親が体調を崩した家に、大学へ行く余裕はなかった。

 桜井は進学を諦めた。

 高校を卒業し、就職した。


 ◇


 最初は、それでも上手くやっていた。

 桜井は真面目だった。

 仕事覚えも早かった。

 与えられた仕事はきちんとこなし、上司からも一定の評価を受けていた。

 母親を安心させたい。

 もっと給料をもらえるようになりたい。

 早く昇進して、母親に楽をさせたい。

 その一心だった。

 だが、現実は簡単ではなかった。

 同じ会社に入った大卒の社員たちは、自分よりも給料が高かった。

 昇進の話も、彼らの方が先に出る。

 努力しても、差は埋まらない。

 高卒だから。

 大卒だから。

 その言葉が、見えない壁のように桜井の前に立ちはだかった。

 それでも桜井は諦めなかった。

 高卒でも、上へ行ってやる。

 結果を出せばいい。

 誰もが認める成果を出せばいい。

 そう思って、桜井は働き続けた。


 ◇


 そんなある日、桜井は一つの商品アイデアを思いついた。

 自分の中では、ヒット間違いなしだと思えるものだった。

 何度も資料を作り直し、企画として形にした。

 ただ、一人で抱えたまま提出するのが少し怖かった。

 だから、桜井は会社で唯一仲が良かった同僚に相談した。

 その同僚は大卒だった。

 人当たりがよく、周囲にも好かれていた。

 桜井は、その同僚に企画を見せた。

「これ、どう思う?」

 同僚は資料を読み、目を輝かせた。

「すごいじゃないか。これは絶対にいけるよ」

 その言葉に、桜井は嬉しくなった。

 初めて、自分の努力が報われるかもしれないと思った。

 だが、翌日。

 桜井の商品アイデアは、同僚の名前で会社に提出されていた。

 そして、その企画は採用された。

 会社は大きく動いた。

 商品開発チームが作られた。

 そのリーダーには、同僚が指名された。

 桜井は、目の前が真っ暗になった。

 すぐに同僚を問い詰めた。

「何で、私の商品を盗んだんだ……」

 声は震えていた。

 怒りだけではない。

 信じていた相手に裏切られた痛みが、そこにはあった。

 だが、同僚は悪びれなかった。

 むしろ、呆れたように笑った。

「だって、お前は高卒で俺は大卒」

 その言葉は、桜井の胸を刺した。

 同僚は続ける。

「昇進しやすい確率が高いのはどっちかなんて、高卒のお前でも分かるだろ?」

 その瞬間、桜井の中で何かが壊れた。

 努力すれば報われる。

 結果を出せば認められる。

 そんな言葉は嘘だった。

 社会は最初から、立場で人を見ている。

 学歴で人を見ている。

 持っているものと、持っていないものを分けている。

 桜井は会社を憎んだ。

 社会を憎んだ。

 それでも、母親がいた。

 母親のために、踏みとどまろうとした。

 だが、その母親も、体調を崩したまま亡くなった。

 桜井の中に、残るものは少なかった。


 ◇


 もちろん、同僚に企画を話した自分が悪いと言われれば、それまでだった。

 証拠を残さなかった自分が甘かったと言われれば、それまでだった。

 だが、桜井には納得できなかった。

 なぜ、奪う側が笑っている。

 なぜ、奪われた側が泣き寝入りする。

 なぜ、努力しても、立場のある者が上へ行く。

 なぜ、この社会はこんなにも歪んでいる。

 桜井は思った。

 全て壊れてしまえばいい。

 こんな社会など、跡形もなく壊れてしまえばいい。

 そして、本当に世界は壊れた。

 ゲートが現れ、モンスターが溢れ、日常が崩れた。

 その混乱の中で、桜井は力を手に入れた。

 《天上天下唯我独尊》。

 人を従わせる力。

 その時、桜井は思った。

 今度こそ、自分が上に立つ。

 無能な者はいらない。

 力のない者はいらない。

 奪われる側に回る必要はない。

 力のある者が正当に上に立てばいい。

 自分こそが、新しい社会を作る。

 そうして、桜井の中にあった恨みは、超人族絶対至上主義という形へ歪んでいった。

 桜井は、自分を奪った社会を憎んでいた。

 だが、その憎しみの果てに、自分もまた誰かから奪う側へ回っていた。

 それに気づくことはなかった。


 ◇


 桜井は、現実へ戻ってきた。

 目の前には悠真がいる。

 悠真の仲間たちがいる。

 SPМの隊長たちも、自分を見ている。

 誰も、自分の命令を聞かない。

 誰も、自分の理想を見ていない。

 桜井の積み上げてきたものは、崩れていた。

 支配したはずの者たちは戻り、自分の手から離れている。

 桜井は、ぽつりと呟いた。

「もう、何でもいいや……」

 その声には、先ほどまでの余裕も、怒りもなかった。

 ただ、全てを壊された子供のような空っぽさだけがあった。

 悠真の目が細くなる。

「桜井……?」

 チャン爺の刃は、まだ喉元にある。

 だが、桜井はゆっくりと片手を動かした。

 ポケットの中。

 そこに、もう一つのボタンがあった。

 桜井はそれを押した。

 次の瞬間。


 ガコンッ――。


 桜井の自室の床全体が、音を立てて開いた。

「なっ……!」

 悠真が声を上げる間もなく、足元が消える。

 椅子も。

 机も。

 地図も。

 昼食の皿も。

 すべてが一気に下へ落ちていく。

 桜井も、悠真も、仲間たちも。

 その場にいた全員が、暗い地下へと落ちていった。



初めて影山潤が喋りましたね……

本当はもう少し活躍させて上げたかったのですが、

ここまで来てしまいました……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ