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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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113/121

もう、離れないでくれ

第113話です。宜しくお願い致します。


医務室を中心に、解放作戦は一気に動き始めた。

 最初は、コン太、影山駿、今井恭太、今井翔太。

 そして浮田と安藤桃香だけだった。

 しかし、眠らせた隊員たちが《手術室》によって桜井の支配から解放され、目を覚ましていくたびに、協力者は増えていった。

 目を覚ました隊員たちは、最初こそ混乱していた。

 自分がどこにいるのか。

 なぜ眠っていたのか。

 そして、自分が何をしていたのか。

 それらを理解した瞬間、顔色を失う者もいた。

「俺は……住民を……」

 自分の手を見つめ、震える者。

「何で、あんな事を当然だと思っていたんだ……」

 頭を抱える者。

「桜井……あいつ、よくも……」

 怒りに歯を食いしばる者。

 反応はそれぞれだった。


 ◇


 だが、安藤桃香は全員に同じように説明した。

 桜井晴彦のスキルによって支配されていたこと。

 命令されたことに逆らえなかったこと。

 しかし、命令以外では自分のまま行動していたため、自分たちの中に元からあった傲慢さや歪みが利用されたこと。

 その説明は、決して優しいものではなかった。

 操られていたから、全て仕方なかった。

 安藤はそうは言わなかった。

 桜井の支配は確かにあった。

 だが、住民たちを見下す意識。

 自分たちは特別だという思い。

 助けてやっているのだから従えという空気。

 それらがSPМの中にあったことも、安藤は否定しなかった。

 だからこそ、隊員たちは深くうつむいた。

 支配されていた。

 だが、それだけではない。

 自分たちの弱さと傲慢さが、桜井に利用された。

 その事実が、何よりも重かった。

 安藤はそれを責めるために話していたわけではない。

 変わるために話していた。

「今、あなた達に反省の意識があるなら、みんなを解放する為に手伝って」

 命令ではなかった。

 上司として命じることはできた。

 だが、安藤は命じなかった。

 また誰かの命令で動くのではなく、自分の意思で動いてほしい。

 今度こそ、自分たちの意思で人を助けてほしい。

 その思いが、言葉に滲んでいた。

 隊員たちは顔を上げる。

「分かりました」

「必ず、みんなを助けて住民達に謝ります……」

「俺達にも、やらせて下さい」

 そして、動き始めた。

 眠った隊員を運ぶ者。

 廊下の安全を確認する者。

 医務室の中で場所を空ける者。

 新しく目覚めた者へ説明を手伝う者。

 作戦は、雪だるま式に広がっていった。


 ◇


 影山駿は影から現れ、隊員に麻酔薬を打つ。

 コン太は桜井晴彦の姿で堂々と近づき、注意を引く。

 今井恭太は透明化したまま別ルートを進み、見張りを眠らせる。

 今井翔太と解放された隊員たちは、眠った者を医務室へ運ぶ。

 浮田は中心で《手術室》を展開し続けた。

 一人ずつではない。

 複数人。

 10人。

 20人。

 人数が増えるたび、浮田は額に汗を浮かべた。

 だが、手を止めない。

 最大で80人まで同時に入れられる手術空間。

 その力を使い、桜井の支配を次々に切っていく。

「次だ!」

 浮田の声が医務室に響く。

「寝かせる位置を空けろ!」

 安藤もすぐに動く。

「この人達はこっちへ。目を覚ました人は壁際で待機して。混乱している人には説明を続けて」

 支援隊副隊長としての判断力が戻っていた。

 医務室は人で溢れかけていたが、混乱は少しずつ秩序へ変わっていく。

 解放された隊員たちも、必死に働いた。

 それは罪滅ぼしだった。

 しかし、それだけではない。

 今度こそ、自分たちの手でSPМを取り戻す。

 そんな意思も、そこにはあった。


 ◇


 解放は、一般隊員だけでは終わらなかった。

 途中で、SPМの隊長や副隊長たちも見つかっていった。

 凛堂明日香。

 柿原紅蓮。

 世良芽衣。

 影山潤。

 門脇誠司。

 犬飼守。

 佐々木金次郎。

 それぞれが別々の場所にいた。

 ある者は見張りとして。

 ある者は部屋で待機して。

 ある者は桜井の命令を受けるために、いつでも動ける状態で。

 彼らを眠らせるのは、一般隊員よりもずっと難しかった。

 正面から戦えば危険だった。

 だから、解放された隊員たちの協力が必要だった。

 桜井に変身したコン太が呼び出す。

 影山が影から隙を作る。

 透明化した恭太が背後に回る。

 解放された隊員たちが周囲を封鎖する。

 一つ一つ、慎重に進めていく。

 門脇は最後まで警戒が必要だった。

 《ガチャカプセル》を投げられれば、一瞬で閉じ込められる。

 犬飼も危険だった。

 動物の身体に変化されれば、反応速度も攻撃力も高い。


 ◇


 東京メンバーも、少しずつ医務室へ運ばれていった。

 ルドルフ。

 阿川。

 色谷。

 芹沢。

 目覚めた時、ルドルフは深く息を吐き、額に手を当てた。

「これはChe schifo(最悪)……」

 阿川は、自分の手を見て顔をしかめた。

「俺は……配管を利用されてたのか……」

 色谷は悔しそうに拳を握った。

「みんなを罠にかける側に回ったってことかよ……」

 芹沢は、目を覚ました瞬間にコン太を抱きしめた。

「コン太ちゃん……よく頑張ったわね……」

 桜井の姿をしたコン太は、少し困った顔をした。

「今はその顔で抱きしめられると変な感じだ……」

 芹沢はすぐに離れ、コン太の顔を見て苦笑した。

「確かに、桜井の顔で言われると嫌ね♡」

 そんなやり取りをしながらも、全員がすぐに状況を理解し、作戦に加わった。


 ◇


 チャン爺も合流した。

 彼は桜井に操られていたわけではない。

 だが、悠真の命令には逆らえない。

 そのため、これまで自分から作戦の核心に関わることはできなかった。

 しかし、解放作戦が進み、状況が変わり始めたことを知ると、チャン爺は静かに頭を下げた。

「皆様、ご無事で何よりでございます」

 コン太は、その姿を見て胸を張る。

「チャン爺が助けてくれたからだコン!」

 チャン爺は、いつものように穏やかに微笑んだ。

「わたくしは、ほんの少し手を貸しただけでございます」

「ほんの少しじゃないコン!」

 コン太の言葉に、周囲の空気が少しだけ和らいだ。


 ◇


 そして、最後に大きく動いたのは未来だった。

 未来と陸斗も、麻酔が切れる前に《手術室》で解放されていた。

 目を覚ました未来は、すぐに状況を理解した。

 そして、まだ解放されていない最後の存在を探すために立ち上がる。

「悠真、どこにいるの?!」

 未来は両手を広げた。

「スキル、動植物図鑑」

 小さなヤモリが次々と現れる。

 20体。

 床を這い、壁を登り、隙間へ入り込む。

 さらに未来は空へ意識を伸ばした。

 カラスが15羽。

 黒い羽を広げ、SPМ本部の上空へ飛び立つ。

 ヤモリ20体。

 カラス15羽。

 未来が同時に操作できる最大数。

 全てを使って、悠真を探す。

 陸斗はその隣で、祈るように拳を握っていた。

「悠真さん……」

 医務室にいた者たちも、息を潜める。

 悠真だけが、まだ見つかっていない。

 桜井に一番利用されているはずの悠真。

 東京の中心。

 みんなの主。

 その悠真を取り戻さなければ、本当の意味で救出作戦は終わらない。

 未来の表情が、ふっと変わった。

 カラスの一体が、悠真を見つけたのだ。

「悠真が見つかったわ!」

 陸斗がすぐに顔を上げる。

「本当ですか?!」

「えぇ」

 未来は頷く。

「裏の中庭にいる」

 その言葉に、全員が動き出した。

 浮田。

 未来。

 陸斗。

 ルドルフ。

 阿川。

 芹沢。

 色谷。

 コン太。

 今井翔太。

 今井恭太。

 チャン爺。

 皆で悠真を迎えに行く。

 誰か一人ではなく。

 皆で。


 ◇


 悠真は、SPМ本部の裏にある中庭にいた。

 そこは大広間や医務室の喧騒から離れた、静かな場所だった。

 荒れた地面。

 手入れされなくなった植え込み。

 崩れかけた柵。

 その向こうに、遠くの空が見える。

 悠真は、一人で立っていた。

 ぼうっと景色を見ている。

 その視線の先にあるのは、東京の方角だった。

 支配されているはずなのに。

 桜井の命令を正しいものとして受け入れているはずなのに。

 悠真は、どこか哀しそうだった。

 まるで、自分でも分からない何かを探しているように。

 未来が息を呑む。

 陸斗も、浮田も、ルドルフも、誰もすぐには声をかけられなかった。

 その背中が、あまりにも寂しそうだったから。

 やがて、悠真が振り返る。

 そこには、仲間たちがいた。

 悠真は不思議そうに首を傾げる。

「皆でどうしたんだ……?」

 声は、いつもの悠真に近かった。

 だからこそ、胸が痛む。

 浮田が一歩前へ出た。

「お前を助けに来たんだ……」

 悠真は眉をひそめる。

「助け……?」

 その言葉の意味が分からない。

 今の悠真にとって、桜井に従うことは正しい。

 だから、助けられる必要などない。

 そう思っている。

 だが、浮田はもう迷わなかった。

 右手を上げる。

「スキル、手術室」

 白い空間が広がった。

 医務室で何度も展開した、浮田の手術空間。

 それが、悠真を囲むように現れる。

 悠真は周囲を見回した。

「一体何を……」

 その言葉は、途中で止まった。

 悠真の目が見開かれる。

 桜井への忠誠。

 桜井総督府様という呼び名。

 仲間を罠にかけた記憶。

 住民の苦しみに目を向けなかった自分。

 それらが、一気に意識の中へ戻ってくる。

 悠真は小さく息を呑んだ。

「俺は……桜井の支配下にあった……」


 ◇


 その瞬間、悠真の中で何かが崩れた。

 支配されていた間の記憶だけではない。

 もっと深いところにあったものが、堰を切ったように溢れ出す。

 最初は、一人だった。

 世界が崩壊した日。

 悠真はただ一人で、自分のアパートにいた。

 元々、友達が多い方ではなかった。

 家族とも仲が良いとは言えなかった。

 心を許せる相手も、ほとんどいなかった。

 それでも、世界が壊れる前は、それでいいと思っていた。

 一人でも、日常生活は送れていた。

 何不自由なく暮らせているつもりだった。

 だが、世界が崩壊して、本当に一人になった時。

 その静けさは、ただの自由ではなかった。

 空っぽだった。

 そんな悠真の人生は、陸斗と美咲を助けたことで変わった。

 妹を守るために必死だった少年。

 怖くても兄を信じていた小さな少女。

 人と関わることを避けていた悠真が、二人を家族のように思うようになった。

 そこから、少しずつ増えていった。

 未来と出会った。

 浮田と出会った。

 ルドルフと出会った。

 阿川と出会った。

 色谷と出会った。

 芹沢と出会った。

 コン太と出会った。

 チャン爺、一葉、二葉、三葉。

 アル、ソックス、セイコ。

 騒がしくなった。

 毎日、誰かが何かを言っていた。

 アルはうるさく、セイコは妙なことを言い、ソックスは冷静にツッコミを入れる。

 芹沢はやたらと距離が近く、コン太はすぐに調子に乗る。

 浮田はぼやきながらも人を助ける。

 陸斗は真面目で、未来は強く優しい。

 阿川も色谷もルドルフも、それぞれの形で東京を支えてくれた。

 面倒だった。

 大変だった。

 責任も増えた。

 それでも、世界崩壊前よりも、悠真の日常はずっと満たされていた。

 うるさくて。

 忙しくて。

 騒がしくて。

 でも、充実していた。

 なのに、桜井に支配された瞬間、その全てが遮断された。

 桜井の命令だけが正しい。

 桜井総督府様のために動く。

 それ以外の思考が、鈍くなっていた。

 仲間の顔を見ても、仲間として見られなかった。

 住民の苦しみも、心に届かなかった。

 悠真は、再び一人になっていたのだ。

 桜井という存在以外から切り離されて。

 それに気づいた瞬間、悠真の目から涙が溢れた。

 悠真らしくない涙だった。

 だが、止められなかった。

「みんな……」

 声が震える。

 悠真は、目の前にいる仲間たちを見た。

 誰もいなくなっていない。

 皆、そこにいる。

 自分を助けに来てくれた。

「もう、離れないでくれ……」

 その言葉に、浮田はすぐに答えた。

「誰も離れねぇよ」

 未来も一歩前に出る。

「もう心配いらないよ!」

 ルドルフが優しく笑う。

「みんな付いてます!」

 陸斗も、涙を堪えながら頷く。

「悠真さん、戻ってきてくれて良かったです……!」

 芹沢は目元を押さえながら微笑んだ。

「悠ちん、やっと戻ってきたわね……」

 コン太も胸を張る。

「オイラ達が助けたコン!」

 今度は語尾が戻っていた。

 コン太はもう桜井の姿ではない。

 悠真を助ける前に変身を解いていた。

 悠真は涙を拭いながら、皆を見た。

「ありがとう……」

 心からの言葉だった。


 ◇


 その時だった。

 空間が揺れた。

 悠真は何もしていない。

 《派遣》を発動していない。

 それなのに、三つの気配が現れた。

 アル。

 ソックス。

 セイコ。

 三人が勝手に召喚された。

 最初に飛び出したのは、もちろんアルだった。

「ご主人様ァァァー!!」

 アルは勢いよく悠真へ抱きついた。

 いや、抱きつくというより突撃に近かった。

「ぐっ……!」

 悠真は少しよろける。

 そして、照れくさそうに眉をひそめた。

「熱いからやめろ、ひっつくな」

 アルはまったく離れない。

「だってだって、やっと正気のご主人様になったんですも〜ん!」

 悠真は苦笑しながら、アルの頭を軽く押し返す。

「というか、お前等、スキル発動してないだろ……」

 ソックスが静かに答える。

「今回ばかりはヒヤヒヤしました」

 いつもの冷静な声だった。

 だが、その表情には安堵が滲んでいた。

 セイコは胸に手を当て、誇らしげに言う。

「わたくしの主は、素晴らしい紳士でないと駄目なんですもの!!」

 悠真は少しだけ笑った。

 やっと、いつもの空気が戻ってきた。

 騒がしくて。

 少し面倒で。

 でも、温かい。

 悠真は、改めて仲間たちを見る。

 皆がいる。

 自分は一人ではない。

 もう、桜井に奪われたままではない。

 悠真は深く息を吸った。

 涙はまだ完全には乾いていない。

 それでも、その目にはいつもの光が戻っていた。

「改めて、俺を助けてくれてありがとう!」

 そして、悠真は表情を引き締める。

 桜井晴彦。

 自分たちを操り、住民を苦しめ、SPМを狂わせた男。

 まだ終わっていない。

 むしろ、ここからだ。

 悠真は仲間たちを見渡し、力強く言った。

「さあ、桜井を驚かせに行くか!!」



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