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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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112/121

解放作戦

第112話です。宜しくお願い致します。


医務室の中には、まだ緊張が残っていた。

 浮田。

 安藤桃香。

 コン太。

 今井恭太。

 影山駿。

 つい先ほどまで桜井晴彦の支配下にあった者と、それを解放するために潜り込んできた者たち。

 状況だけを見れば、あまりにも混乱している。

 だが、浮田は自分の頬を軽く叩くと、強引に意識を切り替えた。

 医者として。

 そして、仲間を助ける者として。

 今、立ち止まっている時間はなかった。


 ◇


 コン太たちは、これまでの経緯を浮田と安藤へ説明した。

 悠真たちが桜井の《天上天下唯我独尊》によって支配されたこと。

 コン太だけが、今井翔太へ変身していた影響と、フォック族であることから支配をすり抜けたこと。

 チャン爺や一葉たち召使い組は、桜井には操られていないが、悠真の命令には逆らえないこと。

 一葉から、浮田の《手術室》で支配を解除できる可能性を聞いたこと。

 そして、今井翔太が《水晶玉》で桜井のスキル詳細を確認したこと。

 そのすべてを聞き終えた浮田は、しばらく黙っていた。

 だが、やがて小さく息を吐く。

「そうか……」

 浮田はコン太を見た。

 目の前にいるのは桜井晴彦の姿だ。

 だが、中身がコン太であることはもう分かっている。

 姿が桜井のままなので、どうにも気持ち悪い部分はあったが、浮田はそれを飲み込んだ。

「コン太にしては慎重によく頑張ったな!」

 コン太は、桜井の顔のまま眉をひそめる。

「コン太にしてはってどういう事だよ?!」

 今の声も、桜井に近い。

 本人は「コン」と言っているつもりなのだろうが、《化けぎつね》の効果で語尾まで自然に補正されていた。

 浮田は肩をすくめる。

「だって、前に助けに来た時は車の上に乗ってきたじゃないか……」

 コン太は一瞬、言葉に詰まった。

「あれは若気の至り……」

「つい最近だろ」

 浮田が即座に返す。

 恭太が思わず笑いそうになる。

 こんな状況なのに、ほんの少しだけ空気が和らいだ。

 それは、浮田が戻ってきたからこそ生まれた空気だった。

 浮田はすぐに表情を真面目なものへ戻す。

「まぁ、でも本当にみんなありがとう……」

 その言葉には、深い感謝があった。

 自分が支配されていた。

 それだけでなく、自分の力が悠真たちを取り戻す鍵になる。

 その事実を理解したからこそ、浮田はもう立ち止まれなかった。


 ◇


 すると、安藤桃香が静かに口を開いた。

「私からも言わせて……」

 安藤は胸元をぎゅっと押さえていた。

 支配から解放されたばかりの彼女の顔には、まだ混乱と後悔が残っている。

「こんな酷い事をしていた組織の一員を助けようとしてくれて、本当にありがとう……」

 安藤の声は震えていた。

 支援隊副隊長。

 SPМの幹部の一人。

 直接戦闘に出る立場ではなかったとしても、組織の中にいたことは事実だ。

 住民たちがどう扱われていたか。

 自分たちが何を当然として受け入れていたか。

 その記憶が戻った今、何も感じないはずがなかった。

 コン太は、少しだけ安藤を見た。

 桜井の姿でその表情をするのは奇妙だったが、その中にある思いはコン太のものだった。

「元から悠真がSPМ自体を助けようとしていたんだ……」

 コン太は言った。

「だから、全員助ける」

 短い言葉だった。

 だが、その言葉には、悠真がここへ来た理由が詰まっていた。

 犬飼を信じた。

 SPМを救おうとした。

 操られた者たちまで助けようとした。

 今の悠真は桜井の支配下にある。

 それでも、悠真が本来持っていた思いは、コン太たちの中に残っていた。

 安藤は、少しだけ目を細める。

「何だか、桜井の顔で言うのは変な感じね……」

 浮田も苦笑する。

「そうだな……それに語尾も、コンじゃなくなってるしな」

 コン太は自分の口元に手を当てた。

「スキルレベルが上がって、語尾の自動修正が付いてるんだ」

 そして、少し不満そうに続ける。

「自分の中ではコンって言ってるんだけどな……」

 桜井晴彦の顔でそんなことを言うものだから、違和感がひどい。

 恭太は苦笑し、浮田は軽く頭をかいた。


 ◇


 その時、影山駿が一歩前へ出る。

「とりあえず、そのくらいにして早くみんなを救いに行こう」

 その言葉で、空気が切り替わった。

 冗談を言っている時間は終わり。

 ここからは、救出作戦だ。

 浮田は強く頷く。

「そうだな……みんな待ってる」

 浮田は医務室の薬棚へ向かった。

 慣れた手つきで棚を開け、中から薬品と注射器を次々に取り出していく。

 それらを机の上へ並べる。

 小さな瓶。

 注射器。

 針。

 消毒用具。

 短時間で医療行為を行うために必要なものが、手際よく準備されていった。

 浮田は麻酔薬の瓶を手に取る。

「この麻酔薬をみんなに打つんだ……」

 影山がすぐに理解したように頷く。

「成る程……麻酔薬を注射して眠らせて、ここに連れてきてからお前のスキルで一気に治していくんだな……」

「あぁ、そうだ」

 浮田は短く答える。

 支配下にある者を説得するのは難しい。

 特に桜井の命令が入っている相手は、こちらの言葉を都合よく歪めて受け取る可能性がある。

 ならば、一度眠らせる。

 そして、医務室へ連れて来る。

 《手術室》に入れれば、支配は解除できる。

 乱暴な方法ではあるが、今はそれが一番確実だった。

 恭太が机に並ぶ麻酔薬を見て、真剣な顔になる。

「それに、俺達なら可能だし……」

 透明化できる恭太。

 桜井に変身できるコン太。

 影に潜める影山。

 今の三人なら、支配下の隊員たちに気づかれず接近できる。

 浮田は薬の量を調整しながら言った。

「麻酔薬は調節して、大体30分くらいで起きるようにしてある」

「30分か」

 影山が確認する。

 浮田は頷く。

「長く眠らせすぎると、次々運ぶ時に管理が面倒になる。逆に短すぎても、解除前に起きられると厄介だ」

 浮田は注射器を数本、影山と恭太へ渡す。

「これくらいなら、医務室へ運んで《手術室》に入れるには十分だ」

 安藤もすぐに準備を手伝い始める。

 彼女は医療系スキル持ちだけあって、薬品や器具の扱いに慣れていた。

 まだ顔色は完全には戻っていない。

 だが、手は震えていなかった。

 自分にできることをする。

 その意思が見えた。

 コン太は桜井の姿のまま、拳を握った。

「桜井に目にものを見せてやる!」

 今の声は桜井に似ていた。

 だが、その中にある怒りは間違いなくコン太のものだった。


 ◇


 作戦はすぐに始まった。

 まずは、医務室に近い場所を歩いている見張りの隊員から順番に狙う。

 廊下には、一般隊員が二人立っていた。

 コン太は桜井晴彦の姿のまま、ゆっくりと近づいていく。

 二人の隊員は、こちらに気づくなり姿勢を正した。

「桜井総督府様!」

「おはようございます!」

 コン太は桜井らしい余裕を意識しながら微笑む。

「やぁ、ちゃんと仕事はやっているかね?」

 隊員たちは胸を張る。

「はい! 桜井総督府様!」

「今の所、異常はありません!」

 コン太は、その二人の背後へ視線を向けた。

 そこに影がある。

 影山駿が潜んでいる影。

 コン太は静かに口を開く。

「そうか……君達の目は節穴のようだな……」

 隊員二人が、不思議そうに顔を上げる。

「え?」

 その瞬間、二人の背後の影が揺れた。

 黒い影の中から、影山駿が音もなく姿を現す。

 隊員たちが振り返るより早く、影山は注射器を二本、正確に打ち込んだ。

「なっ……」

 言葉は続かない。

 麻酔薬が効き、二人の隊員はその場で力を失う。

 影山は素早く二人を支え、床に頭を打たないように下ろした。

「さぁ、運ぼう」

 コン太は頷いた。

 二人を医務室まで運ぶ。

 安藤がすぐに扉を開け、浮田が受け入れる。

 浮田は二人を《手術室》の空間に入れた。

 白い空間が展開される。

 手術室の空気が二人を包み込む。

 それだけで、桜井の支配は切れていく。

 まだ麻酔で眠っているため、二人はすぐには目を覚まさない。

 だが、これで起きた時には正気に戻っているはずだった。

 浮田は短く言う。

「次だ」

 その言葉に、コン太と影山は頷いた。

 ここからは時間との勝負だった。


 ◇


 一方、今井恭太は別行動を取っていた。

 恭太の役割は、配管までのルート確保。

 透明になり、音を消した状態で廊下を進む。

 誰にも気づかれない。

 見張りの隊員の背後へ近づき、麻酔薬を打つ。

 一人。

 二人。

 三人。

 隊員たちは何が起きたか分からないまま眠っていく。

 恭太はなるべく頭を打たないように支えたが、全員を抱えて運ぶ余裕はない。

 まずはルートの安全を確保する。

 それが最優先だった。

 配管から医務室までの道。

 この道が安全になれば、中央会館との行き来もしやすくなる。

 今井翔太を呼ぶこともできる。

 解放した隊員たちを運搬に回すこともできる。

 恭太は息を整えながら、さらに進む。

 透明化していても、緊張は消えない。

 自分が今やっていることは、作戦の土台作りだ。

 ここで失敗すれば、浮田たちの救出速度が落ちる。

 兄を呼びに戻る前に、できるだけ道を空けなければならない。

 恭太は十人ほどの一般隊員を眠らせた。

 それで、配管までのルートにいる隊員は全員倒れた。

 恭太は周囲を確認する。

 誰もいない。

 足音も聞こえない。

 安全だ。

 恭太は配管へ向かった。

 そして、そこから東京の中央会館へ戻る。

 配管を抜けた先に、今井翔太が待っていた。

 恭太は透明化を解除する。

「浮田さんを助けたぞ!」

 翔太の表情が明るくなる。

「よし、作戦通りだな!」

 恭太はすぐに続ける。

「今、麻酔薬で隊員達を眠らせていっている」

 少し息を整える。

「その倒れた隊員達を医務室まで運ぶ手伝いをしてくれないか」

 翔太は迷わず頷いた。

「分かった」

 二人はすぐに配管へ向かった。

 翔太はもう透明ではない。

 だが、ルートは恭太が確保している。

 倒れている隊員たちを医務室まで運ぶことが、次の役割だった。

 SPМ本部側へ戻ると、廊下には麻酔で眠った隊員たちが倒れていた。

 翔太と恭太は、一人ずつ抱える。

 体格差があるため楽ではない。

 それでも、二人は歯を食いしばって運んだ。

 医務室へ連れて行くと、浮田がすぐに受け入れる。

「流石だ」

 浮田は手術空間を展開しながら言う。

「どんどん来るな……」

 安藤は眠った隊員たちの状態を確認し、並べる位置を指示する。

 医務室はすぐに人で埋まり始めた。

 それでも、浮田の《手術室》は一度に多くの者を包み込める。

 この作戦の中心は、間違いなく浮田だった。


 ◇


 コン太と影山も、別の廊下で次々と隊員を眠らせていた。

 桜井の姿で近づくコン太。

 背後の影から現れる影山。

 その組み合わせは、あまりにも強力だった。

 隊員たちは、目の前にいる人物を桜井だと信じて疑わない。

 疑う前に、影山が背後から麻酔薬を打つ。

 眠らせる。

 運ぶ。

 解放する。

 その流れが、少しずつ形になっていく。

 だが、作戦が順調に進むほど、コン太の心には別の緊張が生まれていた。

 いつ、仲間に会うか分からない。

 悠真。

 未来。

 陸斗。

 ルドルフ。

 阿川。

 色谷。

 芹沢。

 みんな助けたい。

 だが、目の前に出てきた時、自分はちゃんと桜井を演じきれるのか。

 その不安があった。

 そして、その時は思ったより早く訪れた。


 ◇


 廊下の向こうから、二人の人影が歩いてくる。

 未来。

 そして、陸斗。

 コン太の胸が大きく跳ねた。

 思わず名前を呼びそうになる。

 未来。

 陸斗。

 しかし、叫んではいけない。

 二人はまだ桜井の支配下にいる。

 ここで自分がコン太だとバレれば、作戦が崩れる。

 コン太は必死に表情を作った。

 未来と陸斗は、桜井の姿をしたコン太の前で足を止める。

 未来が静かに頭を下げた。

「桜井総督府様、おはようございます」

 陸斗も続く。

「おはようございます」

 その声に、コン太の胸が痛くなる。

 いつもの二人ではない。

 未来は凛とした優しさを持っている少女だった。

 陸斗は真面目で、悠真を慕う少年だった。

 それが今、桜井へ当然のように頭を下げている。

 コン太は息を整えた。

「おはよう」

 そして、持っていた大量の注射器をわざと床へ落とした。

 カラン、カランと音を立てて、注射器が散らばる。

 コン太はわざとらしく肩をすくめた。

「おっとっと、これはいけない」

 未来と陸斗が床を見る。

 コン太は桜井らしく穏やかに言う。

「二人とも拾ってくれないか……?」

 二人は迷わず答えた。

「分かりました」

 未来と陸斗がかがむ。

 その瞬間だった。

 未来の背後の影が揺れる。

 そこから影山駿が現れた。

 影山は素早く、しかし丁寧に、未来と陸斗へ麻酔薬を打ち込む。

 二人の身体から力が抜けていく。

 未来がわずかに目を見開く。

 陸斗も、何かを言おうとした。

 だが、すぐに眠りへ落ちる。

 影山が二人を支え、床へ倒れないように抱えた。

 コン太は、二人を見下ろして小さく呟く。

「ごめん……」

 声が震えた。

 眠らせただけ。

 助けるため。

 分かっている。

 それでも、仲間を騙して眠らせたことに胸が痛む。

 コン太は拳を握る。

「でも、これで二人を助ける事が出来る!」

 影山が静かに頷いた。

「あぁ。急ごう」

 コン太と影山は、未来と陸斗を抱え、医務室へ向かった。


 ◇


 医務室は、すでに多くの眠った隊員たちで埋まり始めていた。

 だが、浮田はすぐに二人の姿に気づく。

「未来! 陸斗!」

 浮田の表情が一瞬だけ歪む。

 だが、すぐに医者の顔へ戻る。

「こっちに寝かせろ!」

 コン太たちは未来と陸斗をベッドの空いた場所へ寝かせる。

 浮田が《手術室》を展開する。

 白い空間が二人を包み込む。

 桜井の支配が、少しずつ切れていく。

 これでまた、仲間を取り戻せる。

 コン太は静かに息を吐いた。

 その時、近くで眠っていた一般隊員の一人が、ゆっくりと目を覚まし始めた。

「俺は……一体……」

 医務室の中にいた安藤桃香が、その声に反応する。

 いよいよ、解放された者たちが目覚め始めたのだ。

 安藤はその隊員の前へ膝をつく。

 そして、静かに言った。

「落ち着いて聞いて。あなたは桜井晴彦のスキルで支配されていたの」

 隊員の表情が固まる。

 安藤は続けた。

 今、SPМで何が起きているのか。

 住民たちがどう扱われていたのか。

 自分たちが何をしてしまったのか。

 隊員は顔を青ざめさせた。

「……そんな」

 少しずつ、他の隊員たちも目を覚まし始める。

 ある者は頭を抱えた。

 ある者は桜井への怒りに拳を震わせた。

 ある者は、自分が殴った住民の顔を思い出し、唇を噛みしめた。

 SPМの隊員たちの中にも、元から傲慢さはあった。

 自分たちは選ばれた超人族だ。

 住民を守ってやっている。

 自分たちがいなければ、生きていけない者たちだ。

 そんな意識がなかったとは言えない。

 SPМ自体の治安が悪くなっていたのも事実だった。

 だが、それでも、あそこまで人を物のように扱うことを本心で望んでいた者ばかりではなかった。

 支配が解けた今、隊員たちは自分たちの行いを認識し、深く沈んでいた。

 安藤はその全員を見渡す。

 彼女は支援隊副隊長だ。

 上司として命令することはできる。

 だが、安藤は命令しなかった。

 今、彼らに必要なのは、また誰かの命令で動くことではない。

 自分の意思で、間違いを正そうとすることだった。

 安藤は静かに言う。

「今、あなた達に反省の意識があるなら、みんなを解放する為に手伝って」

 隊員たちは顔を上げる。

 考える時間は、ほとんどなかった。

 それでも、答えは決まっていた。

「分かりました」

「必ず、みんなを助けて住民達に謝ります……」

 その声は、一人だけではなかった。

 目を覚ました隊員たちが、次々に頷く。

 その瞬間、医務室の空気が変わった。

 救出する側の人数が増えた。

 眠った隊員を運ぶ者。

 廊下を確認する者。

 医務室の整理を手伝う者。

 安藤の説明を補助する者。

 解放された者たちは、自分たちの意思で動き始めた。

 コン太はその光景を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 取り戻している。

 少しずつ。

 桜井に奪われたものを。

 浮田は、また新たな手術空間を展開する。

「次を運んでこい!」

 その声に、解放された隊員たちが一斉に動き出す。

 ここから、解放作戦は一気に加速していった。



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