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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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111/120

助けた者に助けられる

第111話です。宜しくお願い致します。



作戦は、すぐに始まった。

 まず、今井恭太が一歩前に出る。

 兄である翔太とは違い、今度は恭太自身が潜入する番だった。

 恭太は深く息を吸う。

 そして、自分の胸元に手を当てるようにして唱えた。

「スキル、透明人間」

 その瞬間、恭太の身体が薄れていく。

 輪郭が消える。

 髪も、顔も、服も、手足も。

 空気に溶けていくように、姿が見えなくなった。

 完全に透明になった恭太は、その場に立っているはずなのに、誰の目にも映らない。

 さらに音も遮断される。

 足音。

 衣擦れ。

 息遣い。

 それら全てが、外からは聞こえなくなる。


 ◇


 次に、コン太が前へ出た。

 小さな手に木の葉を乗せる。

 その顔には、いつものような軽さは少なかった。

 これから自分が変身する相手は、桜井晴彦。

 悠真たちを支配した男。

 住民を奴隷のように扱う男。

 コン太が今、一番許せない相手。

 その姿にならなければならない。

 考えただけで嫌だった。

 だが、浮田を助けるためには、それが一番確実だった。

 コン太は木の葉を頭に乗せる。

「スキル、化けぎつねだコン!」

 木の葉が淡く光った。

 次の瞬間、コン太の姿が変わり始める。

 小さなフォック族の身体が伸びる。

 耳と尻尾が消える。

 顔立ちが変わり、声も変わる。

 そこに立っていたのは、桜井晴彦だった。

 穏やかな笑みを浮かべれば、本物と見分けがつかないほどだった。

 今井翔太は、その姿を見て少し顔をしかめる。

「……分かってはいたけど、やっぱり嫌な感じだな」

 コン太は桜井の姿のまま胸を張った。

「これで、潜り込む」

 浮田に治療された足は、完全ではないにせよ、動くには十分だった。

 影山はコン太の足元へ視線を向ける。

「俺は、お前の影に入る」

「頼む」

 コン太が頷く。

 影山の身体が黒い影に沈んでいく。

 床に伸びた、桜井の姿をしたコン太の影。

 その中へ、影山駿の姿が溶けるように消えた。

 これで、見た目には桜井晴彦が一人で歩いているようにしか見えない。

 実際には、桜井の姿に変身したコン太。

 その影の中に潜む影山駿。

 そして透明化した今井恭太。

 三人での潜入だった。


 ◇


 今井翔太は中央会館に残る。

 一度桜井の情報を確認した翔太は、今回の作戦では待機役だった。

 翔太は三人を見た。

「みんな、俺は行けないが宜しく頼む……」

 その声には不安が混じっていた。

 自分だけ残ることに、もどかしさがないわけではない。

 だが、役割はそれぞれ違う。

 今回は、変身と透明化と影移動が必要だった。

 コン太は勢いよく胸を叩いた。

「任せろ!」

 しかし、叩いた勢いが強すぎた。

「ゲホゲホッ……!」

 桜井の姿のまま、コン太がむせる。

 今井翔太は思わず眉をひそめた。

「本当に大丈夫かよ……」

 透明の恭太の声が、すぐ近くから聞こえた。

「じゃあ、行ってくる」

 その声は落ち着いていた。

 だが、わずかに緊張もある。

 コン太は桜井の姿のまま頷き、阿川の配管へ向かった。

 中央会館とSPМ本部を繋ぐ配管。

 桜井が東京を利用するために維持させていた道。

 その道を、今度は東京側が利用する。

 三人は配管の中へ入った。


 ◇


 SPМ本部へ出た時、コン太はすぐに表情を整えた。

 今の自分はコン太ではない。

 桜井晴彦。

 桜井総督府様。

 ここにいる者たちにとって、絶対の存在でなければならない。

 コン太は背筋を伸ばし、桜井らしい余裕のある歩き方を意識した。

 実際には心臓が激しく鳴っている。

 だが、顔には出さない。

 周囲には一般隊員がいる。

 鎖に繋がれた住民もいる。

 廊下を歩くだけで、何人もの者がコン太へ頭を下げた。

「桜井総督府様、おはようございます!」

 コン太は軽く頷くだけにした。

 余計なことは言わない。

 声を出せば、口調で違和感を持たれるかもしれない。

 だから、必要最低限。

 影の中では、影山駿が静かに気配を潜めている。

 透明化した恭太も、少し離れすぎないようについてきているはずだった。


 ◇


 医務室へ向かう途中、コン太は嫌な光景を見た。

 廊下の端で、一般SPМ隊員が住民を殴っていた。

 住民は鎖に繋がれ、逃げることもできない。

 身体は痩せ、顔は腫れている。

 腕で顔を庇おうとしても、その腕ごと殴られる。

 隊員は苛立ちをぶつけるように、何度も拳を振り下ろしていた。

 コン太は足を止める。

 その瞬間、隊員がこちらに気づいた。

「あっ、桜井総督府様、おはようございます!」

 隊員は慌てて背筋を伸ばす。

 住民は床に倒れたまま、怯えた目でコン太を見上げていた。

 コン太は、その視線を見てしまった。

 助けてほしい。

 声には出していない。

 だが、その目はそう訴えていた。

 コン太の胸に、熱い怒りが込み上げる。

 今すぐ止めたい。

 今すぐこの隊員を殴り飛ばしたい。

 だが、今の自分は桜井の姿だ。

 ここで本心を出せば、全てが壊れる。

 分かっている。

 分かっているのに、言葉が先に出た。

「……何をやっている?」

 桜井の声で問いかける。

 隊員は悪びれもせず答えた。

「はい、個人的にかなりイライラしておりましたので、サンドバッグとしていました」

 その言葉に、コン太の中で何かが切れそうになる。

 サンドバッグ。

 人間を。

 住民を。

 助けを求める誰かを。

 そんなふうに言った。

 コン太は、桜井の姿のまま低く言った。

「……やめろ」

 隊員が一瞬、きょとんとする。

「……はい?」

 まずい。

 その空気を、コン太自身もすぐに感じた。

 桜井なら、こんな言い方はしない。

 住民を庇うようなことは言わない。


 ◇


 その時、影の中から何かが動いた。

 影山の手だけが、コン太の足元の影から伸びる。

 そして、コン太のズボンの裾を小さく引っ張った。

 コン太は、それで我に返った。

 今は怒る時ではない。

 助けるために、騙し通さなければならない。

 コン太は一瞬目を閉じ、すぐに表情を作り直した。

 桜井のように、余裕のある笑みを浮かべる。

「いや、素晴らしい……」

 その言葉を口にするだけで、喉の奥が苦くなった。

 だが、続けるしかない。

「だが、奴隷が使い物になってはどうしようもないからな……」

 コン太は倒れている住民を一瞥した。

 本当は謝りたかった。

 でも、桜井として言わなければならない。

「ほどほどにしておけよ……」

 隊員は安心したように頭を下げる。

「はい、分かりました」

 コン太はそれ以上何も言わず、その場を離れた。

 歩きながら、拳を握りしめる。

 悔しい。

 悔しくてたまらない。

 目の前で殴られている住民を、今は助けられなかった。

 影山が止めてくれなければ、作戦を壊していたかもしれない。

 それでも、怒りは消えない。

 何度見ても慣れない。

 住民が鎖に繋がれている光景。

 隊員が当たり前のように人を殴る光景。

 それを誰もおかしいと思っていない光景。

 コン太は心の中で誓った。

 必ず助ける。

 浮田を戻して、悠真たちを戻して、この場所を必ず変える。

 そのために、今は堪える。

 桜井の姿をしたコン太は、医務室へ向かって進んだ。


 ◇


 やがて、三人は医務室の前へ着いた。

 窓から中を覗く。

 そこには、今井翔太が確認した通り、浮田がいた。

 白衣姿の浮田。

 いつも通りの姿。

 だが、目の奥にあるものは違う。

 桜井の支配下にある。

 そして、もう一人。

 白衣を着た女性。

 支援隊副隊長、安藤桃香。

 彼女もまた、医務室の中にいた。

 透明化している恭太が、思わず小さく呟いた。

「浮田さん……」

 音は周囲には聞こえない。

 だが、コン太にはその気配だけで、恭太がどれだけ浮田を助けたいと思っているか分かった。

 コン太も同じだった。

 今すぐ「浮田」と呼びたい。

 だが、今は違う。

 今の自分は桜井だ。

 コン太は息を整え、医務室の扉を開けた。

 中にいた安藤桃香が顔を上げる。

 浮田も手を止めた。

 安藤は少し驚いたように目を瞬かせる。

「ここに総督府が来られるなんて珍しいですね……」

 総督府。

 その呼び方に、コン太の胸がざわつく。

 だが、桜井らしく見えるように微笑む。

「あぁ、まだ浮田君の手術室のスキルを直接見たことがなかったから興味が湧いてね……」

 浮田がコン太を見る。

 その目には疑いはない。

 目の前にいる相手を、桜井晴彦だと認識している。

 コン太は続けた。

「一度、私達に手術室のスキルを見せてもらえないかね?」

 浮田は少し考え、いつもの調子に近い声で答えた。

「それは構いませんが、怪我をしていない相手に使っても何も起こりませんよ?」

 その言い方が、あまりにもいつもの浮田に近かった。

 だからこそ、コン太は胸が痛くなる。

 命令以外は普段通り。

 翔太が見た桜井のスキル情報通りだった。

 浮田は浮田のまま。

 でも、桜井の命令には逆らえない。

 コン太は桜井の声で答える。

「勿論、大丈夫だ」

 そして、少しだけ医務室を見回すような仕草をする。

「手術空間も見てみたいんだ……」

 安藤桃香もこちらを見ている。

 彼女も支配されている。

 なら、同時に解放できるなら、その方がいい。

 コン太は、最初から決めていた通りに言った。

「安藤君と私と浮田君の三人を、手術空間に入れて見せてくれないか?」

 浮田はわずかに首を傾げた。

 本物の桜井ならば、スキル命令によって命じることができる。

 しかし、目の前にいるのはコン太だ。

 もちろん、桜井の支配スキルなど使えない。

 ただの頼みでしかない。

 それでも、浮田は目の前の人物を桜井晴彦だと認識していた。

 桜井晴彦の言葉には従わなければならない。

 支配下にある浮田の中で、その認識が働いた。

 やがて、浮田は頷いた。

「分かりました」

 コン太は内心で大きく息を吐く。

 成功した。

 浮田は右手を上げる。

「スキル、手術室」

 その瞬間、医務室の空気が変わった。

 白い壁。

 清潔な床。

 手術台。

 無影灯。

 現実の医務室とは違う、浮田のスキルによって作られた手術空間が展開される。

 浮田。

 安藤桃香。

 そして、桜井の姿をしたコン太。

 三人を囲むように、空間が作られた。

 外から見れば、三人が半透明の手術室のような空間に包まれたように見えただろう。

 浮田はいつもの調子で説明しようとする。

「どうですか? これが私の……」

 だが、そこで言葉が止まった。


 ◇


 浮田の目が見開かれる。

 表情が一瞬で変わった。

 困惑。

 理解。

 恐怖。

 後悔。

 それらが一気に浮かび上がる。

 桜井の支配下にあった時の景色。

 自分が何をしたのか。

 誰に従っていたのか。

 それまで「当然」として処理されていたものが、浮田自身の意識に戻ってくる。

 浮田は、かすれた声で呟いた。

「俺は……桜井のスキルの支配下にあった……」

 コン太は思わず顔を明るくした。

「ようやく、戻ったか!」

 だが、浮田は目の前の人物を見て混乱する。

 そこにいるのは桜井晴彦の姿。

 自分を支配していた張本人に見える。

「桜井……が、何故俺を正気に戻したんだ……」

 その時、透明化していた今井恭太が姿を現した。

 空間の外側で透明化を解除し、浮田へ駆け寄る。

「安心して下さい!」

 恭太は必死に言った。

「あいつは桜井に変身したコン太です!」

 浮田の目が、さらに大きく見開かれる。

「お前は、今井恭太?!」

 そして、すぐに桜井の姿をしたコン太を見る。

「何でここに……」

 さらに混乱したように言う。

「てか、コン太なのか……?!」

 コン太は桜井の姿のまま胸を張った。

「浮田を助ける為に自動車の上に乗った事があるコン太さ!」

 浮田は一瞬固まった。

 そして、妙に納得したように頷く。

「確かに、それは桜井が知らなそうな内容だな……」

 桜井が知るはずのない、妙にどうでもいい過去の出来事。

 だが、本人確認としては十分だった。

 次の瞬間、コン太の影が揺れた。

 そこから、影山駿が姿を現す。

 浮田は影山を見て、言葉を失った。

 影山は少しだけ笑って言った。

「助けた者に助けられるんだろう……?」

 浮田は、その言葉に目を細める。

 それは、かつて自分が影山に言った言葉だった。

 助けられる者が、助けなくてはならない者を助ける。

 そうしたら次は、助けた者に助けられるかもしれない。

 あの時は、影山を治療する理由として言った。

 敵でも治療する理由として言った。

 そして今、その言葉が現実になっている。

 浮田は苦笑した。

「あぁ、そうだったな……」

 自分が助けた影山が、今度は自分を助けに来た。

 こんな状況でなければ、もう少し笑えたかもしれない。

 だが、今は喜んでばかりもいられない。


 ◇


 手術空間の中では、安藤桃香もまた目を見開いていた。

 彼女も、桜井の支配から解放されていた。

 安藤は自分の両手を見下ろし、震える声で呟く。

「最悪の夢を見ていた感覚だわ……」

 その顔には、深い嫌悪と後悔が浮かんでいる。

 影山は静かに頷いた。

「あぁ、俺も経験した……」

 浮田は安藤を見る。

 彼女も、支配されていた。

 自分と同じように。

 命令を当然のものとして受け入れ、自分の意思を奪われていた。

 浮田はゆっくりと息を吐いた。

 そして、自分の両手を見下ろす。

 この《手術室》なら、桜井の支配を切れる。

 影山を戻した。

 今、自分自身も戻った。

 安藤も戻った。

 ならば、やるべきことは決まっている。

 一人ずつ、取り戻す。

 悠真も。

 陸斗も。

 未来も。

 ルドルフも。

 芹沢も。

 阿川も。

 色谷も。

 桜井に奪われた仲間を、全員取り戻す。

 浮田は顔を上げた。

 コン太。

 今井恭太。

 影山駿。

 安藤桃香。

 この場にいる全員が、同じ思いを抱いていた。

 まだ、終わっていない。

 むしろここからだ。

 そしてこれから、東京メンバーの逆襲が始まっていく。



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